ソリダオン   作:真将

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38.王と勇

 クラリスたちが人質(ウィオラ)の元に辿り着き、グライドと邂逅している頃、右の通路を進んだ単于たちは、トロッコの採掘中継地点である拓けた空間に辿り着いていた。

 

 「…………」

 「ぜ、単于さん……」

 

 単于、リーに抱えられたアリス達三人は漆黒のフードコートを着た、一人の青年と対峙している。

 若い姿ながらも、1000年以上は生きている『黒龍族』であり、中でもその頂点としても申し分ない雰囲気を身に纏っており、『人間』とは生物としてあまりにも格が違い過ぎた。

 【黒龍王】の伝説は、古くからおとぎ話のようなモノが多く、大陸を創ったなど言われている程の、有象無象な事柄が多い。

 しかし、実際に対峙すれば、その手の話も信じる程の存在であると理解できるだろう。対峙して生き残っていればだが。

 

 「……リーか? 途中でグライドと会わなかったか?」

 「グライドのおばさんとはあわなかったよー! こくりゅうおうさま! みてみて、よーせいさん!」

 

 人形の様にアリスを掲げるリーを【黒龍王】は一目見ただけで視線を逸らす。それよりも単于から危険な気配を感じ取っていた為、自然と意識の先がそちらへ向いていた。

 

 「歓迎しよう。よく、オイラの前に立つ事を選んだ。『人間』の戦士――」

 

 【黒龍王】が一歩踏み出すだけで、当りのエーテルが同じように流動する。この坑道全体を覆うほどの“絶域”を創り出しているのは、間違いなく目の前の若い【黒龍王】だった。

 

 「けど、オイラが求めてるのは【勇者】だ。アンタじゃない」

 「…………」

 

 暗闇で互いに視認しているのはエーテルでの気配察知だけである。

 【黒龍王】の意志に単于は一言も発しなかった。それどころか観察する様に注意深く様子を探っている様子だ。

 

 「どうやってリーを退けたのか解らないが……今背を向けて坑道を出るなら、ここには来なかった事にして、帰っても良い」

 「――――」

 

 単于としては、左へ進んだ二人がどうなったのかが気がかりだった。この場にウィオラは居ない。なら、左の方が正解なのだろう。だが、ある名前が気になっていた。

 

 グライド。この名前が、自分の知っている『黒龍族』のものであるのなら、左の通路へは『王』の片腕が向かったと言う事だ。

 まぁ、手を出さなければ戦う事は無いだろうし、クラリスが居るので、最悪の事態は避けるだろう。だが、ウィオラを連れて帰る場面に鉢合わせたのなら最悪だ。

 

 「……そうか、忠告に従わないって事は、一戦交えるつもりだね。悪いけど、手心は加えるつもりはない」

 

 空間の景色が歪むほどにエーテルが濃度を強めていく。それが全て【黒龍王】のモノであり、無意識に放出する程度の量なのだ。

 

 「リー、アリスを連れて向こう側へ行け」

 

 単于は被害を受ける可能性を考慮して【黒龍王】側へ向かう様に告げた。

 

 「はーい!」

 「ど、どうするつもりですか?」

 「……間違いなく一撃は来るからな。リーはともかく、お前は消滅するかもしれん」

 「そんな……それじゃ単于さんは――」

 

 周囲のエーテル反応が消えた。全て【黒龍王】が取り込んだ証拠であり、今だけ“絶域”が解除されている。

 

 「あついのやー!」

 

 と、リーが走りだしアリスが単于を心配して叫ぶ間も無く――

 

 「獄炎(ブレス)

 

 本来の姿ではなく、人型のまま、ふーと息を吐く様に放たれたのは『熱のエーテル』。眼には見えない不可視の死は、空間そのものに高強度のマイクロ波を当て、炎を生み出す魔法だ。

 坑道全体が震え始めると、随所の資材から炎が一瞬で劫火となって吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 “絶域”が解除された瞬間にクラリスは、嫌な予感を肌で感じていた。

 現れた【黒龍王】の側近、以上の命の危機は、かつて単于との旅で培われた経験が無ければ絶対に気が付かなかっただろう。

 

 咄嗟に自分とウィオラとリーガルを範囲に入れた『光の雨(ルーチェ)』を展開。現れた光の壁は、四角形に三人を発生した熱のエーテルから保護していた。

 

 「…………無事ですか? お二方――」

 「はい。助かりましたわ、クラリス」

 「流石ですね。私では防げなかった……命を助けられました」

 

 『光の雨(ルーチェ)』は対象を拘束する効果を持った高位の『光魔法』である。外側と内側を完全に隔離し、外部からの作用を遮断する事で拘束抜けを防ぐ効果があるのだ。

 

 【黒龍王】の『獄炎(ブレス)』に対して、あえて自分の周囲を囚える事で何とかしのぐことが出来たのだ。しかし、魔力の消耗が激しく、長時間の持続は向かない魔法でもある。

 

 「あら、我が『王』の元へ、誰か行ったのかしら? けれど、もう手遅れだと思うけれど」

 

 肌を焼かれる温度が充満する坑道内で、涼しい顔をしているグライドは、その装いも焦げ痕一つ着いていない。

 

 「…………」

 

 まだ外の温度は、人の活動できるモノじゃない。『光の雨(ルーチェ)』を解除すれば即座に肌と肺を焼かれてしまうだろう。

 

 「さて、どうしましょうか? このまま『光の雨(ソレ)』を破るのは簡単だけど……ウィオラ殿下が死んでしまうわね。せめて外気が50℃以下に落ちるまで待ちましょうか♪」

 

 グライドは、近くで燃えている手ごろな鉄材に、フー、と息を吹きかけて消火すると腰を下ろして、身動きの取れない三人を眺めはじめた。

 

 

 

 

 

 「ふしゅぅぅぅぅ――」

 

 【黒龍王】は単于に対して、決して逃れられぬ『獄炎』を放った。

 それでも、かなり威力は弱めたので同族には少し暑い程度にしか感じなかっただろう。ウィオラ姫の方は、グライドがその地点へたどり着いたのが解っていたので、上手く保護した筈だ。

 

 「あっついー!!」

 

 リーはアリスを保護しながら、最も『獄炎』の被害が少ない【黒龍王】の背後でそんな声を上げた。

 

 「――――」

 

 燃える前方の景色をアリスは見て驚愕している。人が生き残るには不可能な環境が出来上がっており、当然単于は――

 

 「ぜ―――」

 「いちいち叫ぶな」

 

 その瞬間、一度突風が吹き荒れ、四人の居るこの空間の熱が全て、別方向へ作られた流れに乗って広間から逃がされていく。

 

 即座に安全になった地点で、単于は『無月』を抜いて、その場でコントロールできる『風のエーテル』を全て制御下に置いていた。

 口周りに『空のエーテル』の塊を停滞させ、簡易な酸素呼吸を行い、自らのまわりは薄皮一枚分の『風のエーテル』で流れを作り、熱波を停滞させない様に周囲に流す。

 『無月』を持っていたからこそ出来た芸当だ。最も、『伝説の剣』ならば、『獄炎』をエーテルごと消滅させる事が出来たのだが。

 

 「クラリス達も無事だと良いが……」

 

 あちらは、共に戦った旅の仲間を信用するしかない。

 アリスは、単于の様子が、多少服は焦げているが大した傷もなく、無事である事に安堵する。

 

 「『人間』ごときが……凌いだのか? 『獄炎(ブレス)』を――」

 「…………」

 「なら、この手で粉々にするまでだ――」

 

 【黒龍王】の身体から黒い鱗が現れ皮膚を覆い始め、眼も獣目の様に変化していく。その様子は、『擬人』の術を半分だけ解き、『黒龍』の防御力と攻撃力を人形に集中している状態であるのだ。

 

 「……クロア」

 

 その言葉に、飛びかかる寸前だった【黒龍王】はピタッと動きを止める。

 

 「い、いま……なんて?」

 「クロア。クロア・テイラー」

 

 再び単于から放たれた言葉に、今度はダラダラと汗が流れていく。

 そのフルネームを知る者は同族以外に存在しない。ましてや、『人間』に教えた者は……過去に一人しかいない。……一人――

 

 「まさか……単于の旦那?」

 

 【黒龍王】――クロア・テイラーは恐る恐る目の前に立つ人物が見える様に、火の玉を浮かべ、そして姿を確認した。

 昔、唯一敗北した『人間』であり、自分が『人間』の中で最も敬意を払う人物であったのだ。

 

 「お前が【黒龍王】とは……時代が変わるのは早いな。ジジイのライザーハンはどうした? 死んだか?」

 「おにーちゃん、おにーちゃんとしりあい?」

 「え? 単于さん……ええー!?」

 

 リーは首を傾げ、アリスは驚きを隠せなかった。

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