グライドは、90℃前後まで熱の下がった空間で、『
「―――はい。どうしました?」
その時、同族間で使われる通信(テレパシー)を受ける。相手はもちろん【黒龍王】である。
「……撤収? 殿下は……了解です」
そして、一度だけフッと息を吐く。途端に周囲の温度は瞬時に20℃前後まで低下した。
「もう出てきても大丈夫ですよ。こちらの都合で撤収させてもらいます。それでは、ウィオラ殿下、ごきげんよう」
と、グライドは何事も無かったかのように立ち上がると、光の届かない坑道の奥へ歩いて行った。
「…………」
彼女の姿が完全に消えてから、クラリスは『
「どういうつもりなのかしら?」
素朴な疑問をウィオラは感じたが、即座に答えが出そうにはなかった。
6日間に渡り、留置し、国の精鋭を退け続けたにも関わらず、なんともあっさりした幕引きである。
「いやはや、人の限界を垣間見た瞬間でした」
リーガルは全く自分が役に立てなかった事実をありのまま受け止めていた。クラリスが居なければ……王女も護れず自分も死んでいただろう。
「……リーガル司教。ウィオラ様を連れて先に坑道を脱出してください」
「貴女は?」
「私は奥へ向かった“彼”の元へ向かいます。“絶域”も解除されているので魔法も使えますので」
本来の目的は
「後はお願いします」
引き留める間もなく、クラリスは坑道の奥へ走って行った。
坑道を出ると、そこには、負傷者の回収に馬車を何台も引っ張ってきた正規軍――『疾駆騎士団』と、
「ウィオラ様!」
その一団と共に訪れていたイグナートは馬から降りて、ウィオラの前まで走り寄ると片膝を着いて跪く。
「もうしわけありません! ウィオラ様の親衛隊を名乗らせていただいたと言うのに……その身をお護りする事が出来ませんでした! 今回の刑罰は……私が一身にて部下のものまで引き受けいたします!」
他人の眼があっても構わなかった。彼女は忠義を誓った主人を護りきれず、そして助け出すことが出来なかった事を自身の罪として深く咎めているのだ。
「イグナート。仕方がない……とは言いませんわ。それでは貴女の心は晴れないでしょうから――」
「ハッ! この愚かな身に刑罰をお与えください」
「では、今後も心身として
「今後とも……この命を賭けて、お護りいたします!」
再び、親衛の決意を確かめた所で、ウィオラはラディウスへ視線を向ける。
「無事か? 妹よ」
「はい。お兄様も、ご足労をお掛けしました」
「ああ。流石と言った所だろう。それで、彼は?」
ラディウスはウィオラを連れて出てきたリーガルの事を尋ねた。彼は一礼すると、前まで歩いて来る。
「発言をお許しください、ラディウス殿下。私の名前はリーガル・デュケーンと申します。三代目【勇者】殿の『従者』です」
リーガルは敬意を払うように、ラディウスの前で片膝を着いて発言する。
三代目【勇者】。その言葉に、統率された兵たちはざわめく。同時に、いつでも攻撃に移れるように何気なく剣に手が触れていた。
「リーガル殿。貴殿の目的は、我が国の賛同かな?」
兵士たちが武器を持つ意味は、数日前にウィオラが【賢者】を討つと決め、国全体がソレと同じ意志だったからだ。アウローラの民にとって『魔族』は身近な友であり、共に国を発展させてきた家族でもある。
決して、『魔族殲滅宣言』など聞き入れるつもりはない。
「はい。元々は、そう言うつもりで訪れました。しかし、少ない出会いの中で、私は年甲斐もなく学んだのです」
兵士たちの動向はリーガルには映っていない。いざとなれば命令を待たずに剣を抜く事も辞さない兵士たちにラディウスは手をかざして静止する。
「誰から学んだ?」
「恐らくは、貴方でも心当たりのある方です。ここで名を出すことを、彼は望まないでしょう」
功績などにまるで興味の無い彼は、名を出すことを好まないだろう。ただ、自分の歩いた後に“救い”が生まれる。彼は、そう言う生き方をしているのだ。
「ふむ。なら、君も含めてこの場に居る者達全てに告げよう。知った者は国中に知らせ、そして次の事態に備えよ」
と、ラディウスは『アウローラ』だけが知り得る情報を、この場で宣言した。
「二代目【勇者】――
その発言に押し黙り、驚きを隠せない、その場には静寂の空気が流れる。そして、数秒の後に割れんばかりの歓声が上がった。
その中でノワールは、主が目の前の出口から出てこないと察すると、空間に乗せられて来る『風のエーテル』を辿り、走って行った。