ソリダオン   作:真将

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エピローグ

 誰かの視点だった。

 目の前に単于さんが座っていて、こちらに対して、驚いたり恥ずかしがったり、微笑んだりしている。

 こんなに、表情が豊かな単于さんを見るのは初めてだった。話しているのは、“わたし”。

 だけど、“わたし”じゃない。この視点は誰なのだろう?

 

 「これがそうか?」

 

 ふと、単于さんと会話している目の前の視点とは、別の“声”が横から響いた。

 

 「意外にも『天王』が几帳面で助かったな。これで、我々の悲願が叶う」

 

 誰だろう? 単于さんの声じゃない。同時に、とても気分が悪くなった。

 

 「『天使』と『白竜族』の血が流れる遺体か。動かすには手間がかかりそうだ」

 「だが、それだけの価値はある。二代目を止めるには、これ程、有力な駒はない」

 

 目の前の、単于さんを見ている視点にノイズがかかり始める。まるで強制的に何かが割り込んできたような、嫌な感覚だった。

 

 「ん?」

 「どうした?」

 「アハハ。いいねぇ。なる程……解ったぞ『妖精』の正体が! これは……『死霊術』に対する、アイツ等の抑止力だ。やっぱり『アビオン』回収は最優先だな。俺達の【魔王】は、まだ“こちら”に来るにはタイミングと時間が必要だからよぉ」

 「それ故だ。全てはお前にかかっているぞ? ビジル――」

 

 その瞬間、まるで気を失う様に、目の前が暗転した。

 

 

 

 

 

 「――――ハッ!?」

 

 アリスは、リズムよく揺れていた事で自然と覚醒した。場所は自分用に単于さんが拵えてくれた道具袋である。

 今のは……一体何だったのか? 不可解な映像だが、不思議と心に残り“懐かしい”と感じた映像だった。同時に、何か嫌な事が起こってしまったのかと心にしこりが残っていた。

 

 「…………」

 

 一人で考えても仕方ないと判断し、屋根――上カバーを開けると彼の姿が目に入る。

 

 「単于さん―――」

 「起きたか」

 

 単于さんは、目を向けずに歩み続けていた。ノワールさんには乗っていない。それどころか――

 

 「ん? おっす。オイラはクロア・テイラー。よろしくお嬢ちゃん」

 

 改めて自己紹介をしてきたのは、単于の後ろからついて来る現【黒龍王】――クロア・テイラーだった。

 

 「あ、あわわ。こ、こんにちは! 【黒龍王】様!」

 「あはは、クロで良いって」

 

 親身に話しかけてくるクロ。アリスは自分が気を失っている間に、何がどうなっているのか説明を求めた。

 

 

 

 

 

 「旦那! オイラを旅に連れて行ってくれ!」

 

 単于は、クラリスに『匈奴』の皆の事を頼むと、ノワールに送らせる様に告げて、その背に乗せていた。同時に、ライザーハンも『匈奴』へ行こうと思っていたらしく、早く辿り着けると同行する事にしている。

 彼が居れば、ある程度は吹雪から保護してくれるだろう。それを条件に単于は彼の同行を承諾した。

 そんな時である。クロアが単于の旅に同行したいと言い出したのだ。

 

 「オイラは今回の件で身に染みた。【黒龍王】として一族を引っ張っていくには、まだまだ視野が狭い。でも、だからってやみくもに旅をしても、足りないモノが得られるには時間がかかりすぎる!」

 「別にオレと一緒に旅をするからって、お前の足りないモノが埋められるとは限らんぞ?」

 「いいや、オイラは旦那から学びたいんだ。旦那の意志や、その歩いた先に何が起こるのか、そして、その全てを『王』として誇れる“力”としたい」

 

 実力的には、クロアは間違いなく【黒龍王】にふさわしいだろう。だが、ソレは『王』の在り方ではない。

 『王』が“力”に頼る時は本当に最後の手段なのだ。それ以外は、自らの手腕で物事を納めなければならない。ソレが出来なければ、国や一族は絶えず血を浴びる事になる。

 その辺りは先代(ライザーハン)の方が、よく解っていた。

 

 「おい」

 

 単于はグライドを見る。お前がちゃんと補佐しろ、と視線を送るが、ぜひ旅にお加えください、と視線で返される。

 

 「旦那! お願いだよ! オイラはどうしても護りたい奴が居るんだ! けど……そいつは掟の所為で【霊峰】には帰れない。だから、彼女が【霊峰】に帰れる掟を受理させる為に、一日でも早く、『竜古族』全体に認められる【黒龍王】になりたいんだ! お願いします!」

 

 どこで覚えたのか……遂には土下座までする始末である。ここまでして、何かを変えたいと言う決意は中途半端ではないと単于も感じ取った。

 最初に顔を合わせた時、彼は力だけを持ち合わせて、絶対に頭を下げる様な事をしなかった。しかし、今は、『黒龍族』を率いて行く為に、必死で多くを学ぼうとしている。

 

 「わかった、わかった。顔を上げろ……ったく、つれてくよ」

 

 ため息を吐きつつも、クロアの同行を許可した。

 

 「これで、心配事が消えました」

 

 クラリスは、これからの世界では流石に単于とアリスだけでは不安だと考えていた。しかし、他に仲間――特に『黒龍族』が居るのなら、と少しだけ心配事が軽減される。

 

 「それで、【黒龍王】が不在の間、誰が『黒龍族』をまとめる?」

 「ふむ。吾輩だなぁ。まぁ、代理くらいは引き受けるわい。どうせ一年もかからんのだろ?」

 「そんなにかかるなら、死んだと思ってくれていい」

 「では、私は代理の【黒龍王】へ付添いとしましょう。『匈奴』に寄ったら、【霊峰】に帰りますよ」

 「嫌じゃのぅ……」

 

 再び書類と同族間のもめごと処理をやらされる毎日を思い浮かべ、ライザーハンはため息を吐いた。

 

 「クラリス、『匈奴』の皆を頼んだ。リーの部屋はシーザーに聞いて用意させてもらってくれ」

 「はい。単于さんもお気をつけて」

 「ああ。お前もな。それと、雪原に気をつけろ」

 「? はい」

 

 その言葉にクラリスは今更? と疑問詞を浮かべるが、単于はソレだけを言い残して、踵を返すと歩き始めた。その後に、祖父に一礼したクロアが続く。

 

 

 

 

 

 「そんなことが……」

 「おう。だからオイラは、今はただの『黒龍族』だから、よろしく!」

 

 嬉しそうに語りかけてくる若い『王』に未だ慣れず、引きつった笑みしか返せなかった。

 

 「それで、これからどこを目指すんだ? 旦那――」

 「お前には歩きながら説明するが、次に向かう先はもう決めてる」

 

 ユーリを戻す可能性はいくつか心当たりがあるが、最も的中する可能性の高い場所へ行く事を既に決めていた。

 

 「砂漠の大陸『サンドラ』へ向かう。そこの砂上都市『デルタス』に存在する“シロバコ”を目指すぞ」

 

 それは、この世界に存在する伝説の一つ――“開けられない箱”の事であった。




 第二部が終了しました。
 短い様な、長い様な。今回はアウローラでの出来事を処理し、世界的にもいかに【勇者】が重要であるかを世界会議にて描写させていただきました。
 作中に説明がある通り、オーラガルドでは『人間』と言う種族は本当に脆いモノで、精神的にも肉体的にも、『魔族』には圧倒的に劣ります。だからこそ、『人の大陸』は【勇者】の存在で右往左往する訳ですね。依存していると言ってもいいかもしれません。
 匈奴を出た事で、登場キャラが減ると思ったけれど、無茶苦茶出てきましたね。近い内に1部と2部の登場人物紹介と用語紹介でも載せようと思っているので、それで許してください。
 正直、制限の無い単于は作中でもトップクラスの実力者です。ていうか、【勇者】は基本的にかなり能力が高いと思っていてください。
 そういう方式で行きますと、リオルも強い事になります。実際強いです。そう言う設定なのです。
 まだ、色々と謎が残っているので、作中では全て回収するつもりです。そして、だいたいのプロットを練ったので、部構成を発表したいと思います。
 1部『ソリダオン』
 2部『黒龍王降臨』
 3部『砂礫の技術』
 4部『????』
 5部『????』
 6部『????』
 全6部で構成する事にしました。今後とも『ソリダオン』をよろしくお願いします。
 それでは、第3部『砂礫の技術』で会いましょう!
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