ソリダオン   作:真将

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7.命の捉え方

 この世界『オーラガルド』には数多くの“対”が存在していた。

 

 『人間』と『魔族』。

 『人の大陸』と『魔の大陸』。

 『勇者』と『魔王』。

 

 代表的な“対”はこの三つである。

 『人間』という一種族に対して、『魔族』は多種を統合した名称とされていた。

 

 これは、人が『オーラガルド』を支配していた頃の伝承に起因しており、『魔族』はその後に現れた種族であると言われているからである。

 『魔族』は技術に統一が無く、種族ごとに技術と文化を確立している事も要因であると考えられていた。

 

 竜古族の故郷【霊峰】。

 吸血鬼の文明【ミトロジア】。

 多種族連合国家【ナトゥーラ】。

 

 これが『魔族』の中で伝えられる主な文明社会であり、三大文明と呼ばれている。そして、その統率者は神に近い力を持つと言われていた。

 強大な力を持つ『魔族』に対して、人もエーテルを使う事で何とか対抗することが出来ている。

 

 そして、人の滅びに拍車をかける様に、『魔族』の中に強大な統一者である【魔王】が現れたのだ。

 今まで『魔族』は、『人間』との確執に対して直接的な方法はとらず大規模な交戦は殆ど無かった。在ったとしても一種族との交戦のみであると歴史は記録している。

 

 しかし、ここ数百年は『人間』と戦ったりしても、小競り合い程度であり、中には共存したりと良好な関係を築いた『魔族』もいる。

 だが、そこへ現れた【魔王】は、『人間』と『魔族』の対立に、大きな影響を与えたのだ。

 

 表れた初代【魔王】と二代目【魔王】は二人とも『人の大陸』へ侵攻した。

 長所を生かした『魔族』たちに『人の大陸』は少しずつ侵食されて行ったが、彼らの中にも現れたのだ。

 

 【魔王】と対になる存在――【勇者】の出現である。

 世界を創ったとされる、エーテル発生の祖―――『精霊王』によって伝え残された四つの武器。

 

 ソレに選ばれた者を『人の大陸』は【勇者】と呼んだ。

 

 【勇者】は【魔王】を討ち滅ぼす存在と言われ、『人の大陸』の希望として崇め奉られる事となる。そして、その功績は生涯語り継がれていく事が約束されていた。

 

 初代【勇者】が初代【魔王】を倒した事によって、世界は常に【勇者】を求める様になり、誰もが“伝説”に縋ったのだ。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「オレの知らない奴だろう? 何代目だ?」

 

 単于によって『匈奴』には月一毎に世界の情報が入って来るように手配してあった。だが、アリスからの情報で即日に、最近の世界情勢を知りたかったのである。

 

 「三代目よ。『精霊王』の気まぐれもいい所ですわ」

 

 ウィオラも彼に伝える事を理解している。

 そして、この多種の『魔族』が集まる場所と、単于にとっては絶対に無視できない事であると彼女は判断したのだ。

 

 「『人の大陸』に住む『魔族』を、【勇者】が本格的に討伐を始めましたわ。そして、我が祖国――『アウローラ』にも【勇者】に賛同する様に要請が来てますの」

 

 【勇者】と言う、世界救済者の言葉は、『魔族』に対して良く思わない国や組織が賛同したのだ。その正しいとされる【勇者】の声は、次々と賛同者を集め、現在では『魔族』狩りと呼ばれる所業が世界各地で行われている。

 

 ウィオラの祖母が王となり統率している国――『アウローラ』は『魔族』とは良好な関係を築いている。

 単于たちも三ヶ月に一度くらいの割合で、『アウローラ』の市場に参入させてもらい、現地との交流を行っていた。関係は極めて良好である。

 

 「受けるのか?」

 「そんなわけ無いでしょう、と、即答できないのが本音ですわ」

 

 【勇者】の目的は【魔王】を倒す事である。先代、先々代の【勇者】が【魔王】を討ったように、それは今の【勇者】も変わらなかった。

 変わったのは、そのやり方なのだ。

 『人の大陸』に居る『魔族』は、【魔王】側に就く可能性があると断言し、全て排除すると宣言したのである。

 

 現地の人間と良好な関係を築いていようと、『魔族』である事は、粛清の絶対的な対象として、その意志を世界に進言しているのだ。

 

 賛同する国も、組織も、人も、己が正義であると公言し【勇者】という絶対的な後ろ盾を持ったことで、歯止めは効かなくなっていた。

 元より、【勇者】の意志に賛同する事は、世界共通の絶対意志であり、よほどの事が無ければ協力を惜しむことは出来ないのだ。

 

 「今までの【勇者】は、最短距離で【魔王】を目指し、その軍勢だけと戦ったけれど、今回の【勇者】の行動は少し『魔族』に対して過激すぎますわ」

 

 足場を固めると言えば聞こえはいいが、『魔族』全てが敵と言うのは、いささか過激すぎる行動である。

 今までの【勇者】は『魔族』に助けられて【魔王】を討伐した事もある。故に『魔族』は全てが決定的な敵とは言い難いのだ。

 

 「それで、お前の来た理由はなんだ? 回りくどい事はお前らで治めておけ」

 

 だが、その程度なら態々次期女王が来るべき事柄ではない。単于はその事を指摘して本題を切り出す様に告げた。

 

 「『アウローラ』の主都と、その近郊に暮らす『魔族』達を一時的に、『匈奴』に住まわせてほしいのですわ」

 

 【勇者】は、『人の大陸』に居る『魔族』を根絶やしにするつもりで世界の各方面に信頼できる配下を派遣している。

 近い内に、アウローラにもその使者が来ることになっており、後一週間ほどで着くと、今朝連絡があったのである。

 

 「本国の『魔族』の方々は、とり急ぎで移動の準備を始めさせます。もちろん『匈奴』の環境を承知の上ですわ。その辺りは気にする必要はありません」

 

 そして、『匈奴』は過酷な極寒の地として、よほどの事が無ければ足を踏み入れる事は避けられていた。十全な装備をしたとしても、異常とも言える吹雪は、『赤沙』の屋敷の者達でも危険な土地なのだ。

 故に、【勇者】でも易々と踏み込めない地でもある。

 

 「死人が出るぞ。昔ならともかく……今の『匈奴』には、18人が生きていくだけで精一杯だ。例え、少しずつ滞在者が増えるにしても、寝る場所が無い」

 

 本国の『魔族』の数は、単于の目測でも1000人は下らない。

 それが一気に今の『匈奴』へ来たとしても、寝る所も無ければ、食べる物も確保できない。歳を取った者や、女子供どころか、男でも生き残るには厳しい環境なのである。

 

 「遅いか早いかの違いだ。女王は民を殺す選択をしたのか?」

 「いえ。この件は……わたくしの案ですわ」

 「なら、勉強不足だな。この地は、『救われない土地』だ。この土地以上に、みじめな場所は無い。民を救うつもりが在るのなら、別の方法を考えるのだな」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 鎧を着た兵士が死体を運んでいた。

 至る所で黒い煙が上がり、完全に制圧されている村は、ヴォーグ村と呼ばれていた。

 

 「ふっはっは。この村も馬鹿な真似をしたものだ。だから、こうして地図から消えたんだよ?」

 

 捕えた村の生き残りに掘らせた大穴からは、鼻を塞ぎたくなりそうな異臭が村全体に立ち込めていた。

 生け捕りにされた村人たちは、抵抗できない様に縛られ大穴の前に跪いていた。彼らは、不意に襲撃してきた兵士たちに抵抗したため、一方的に蹂躙されたのだ。

 

 「はぁい、諸君! 君たちの罪状を読み上げまーす。ズバリ! 【勇者】様に対する反逆でーす」

 

 村人たちへ見下すような眼を向けるのは、複雑な紋章を組み合わせた模様を描かれたコートを身に纏った男だった。額にもエーテルを潤滑化する“陣式”を刺青として彫られている。

 

 「ボクはですねぇ。【賢者】なんですよ? 【勇者】様の従者の一人でして、直接指示を受けているんです」

 

 【賢者】と名乗るの男は跪く者の一人の頭を踏みつける。ゴミでも見るかのような視線で残りも見回す。

 

 「そのボクに逆らうなんて! 君たちは本当に狂っています! 残念ですが……狂っている人間は排除しなければ、他の狂ってしまいます。伝染するのです!」

 

 そして、足を退けて呆れながら離れると、“兵士”たちにアイコンタクトで命令する。

 その意志を体現するように“兵士”たちは、村人を無理やり立たせると、異臭を放つ大穴の前に立たせた。

 

 「いいですか? 狂った者達を始末する為に、ボクの神聖なエーテルを使うなんてもってのほかです。と、言う事で、これからこの穴に一人ずつ身を投じてもらいます」

 

 大穴の中は、他の村人の死体が放られ火をつけて焼いていたのだ。その人の焼ける臭いが異臭となって煙と共に吹き出しているのである。

 

 「ああ、やっぱり面倒くさいや。はい、新世界へレッツゴー」

 

 そう命令すると、兵士たちは残りの村人を蹴り落とす。穴に落ちて生きながら焼かれる悲鳴は、滅びた村全体に響き渡った。

 

 「…………」

 

 その様子を、腕を組んでみている『魔道機人(アンドロイド)』が居た。

 二メートルを越える身体を隠すほどのコートを着ている。少しだけ降る雪が、フードの上に薄く積もっていた。

 

 「ソルガ? 君は何をしているのかい?」

 「ファーナー様。貴方は人を護るために戦っているのでしょう? この行動は矛盾していると思――」

 「君は馬鹿かい?」

 

 ソルガと呼ばれた『魔道機人(アンドロイド)』は威圧的で、喋る事さえ嫌悪するようなファーナーの口調を向けられた。

 

 「まぁ、『魔族』の中でも更に造られた種族である、君には解らないか。人の世界では【勇者】が絶対なんだ。君は、そこら辺の情報が欠落しているよ?」

 「以後気をつけます」

 「頼むから、ボクの手間をかける様な言動は慎みたまえ。君が、我が主――【勇者】様に見逃されているのは、他には無い能力があるからだ。『魔族』を感知する能力がね」

 「…………」

 「ボクの一存で、君は消え去る。くれぐれも、間違える事が無いようにね。面倒くさいから」

 

 ファーナーは“兵士”たちに指示を出し、出発の準備を始めさせた。彼は、この先に在る大国――『アウローラ』への使者として向かっている最中だったのだ。

 捕えた『妖精』は全て【勇者】様へ送った。素晴らしい寄り道だった。これで、【勇者】が【魔王】を倒す為に一歩進んだのである。

 

 「ちゃんと掃除しないとねぇ。『魔族(ゴミ)』は放っておくといつ、悪臭をまき散らすか解ったものじゃない」

 

 『アウローラ』の返事も決まっているハズだ。『魔族』など、どれだけ取り繕っていようとも、【魔王】の配下に違いない。寝首をかかれる前に、殲滅しておくに限る。

 そして、それを阻む人間も『魔族』に毒された反逆者なのだ。

 

 「二日も寄り道しちゃったなぁ……ま、いっか。それじゃ、『アウローラ』に向かおうか」

 「ファーナー様」

 

 再びソルガに声をかけられ、不快感を露わにしつつも、ファーナーは振り向く。

 

 「なんだい? くだらない事だったら――」

 「反応を捉えました。場所は地図上の『匈奴』と呼ばれる雪原地帯。数は10以上。近づけばより明確に解ります」

 

 その言葉にファーナーの表情は途端に歓喜へと変わった。これで、また一つ我が主が【魔王】討伐へと近づくからだ。

 

 「寄り道しよう。素晴らしき【勇者】様の為に―――」




賢者のファーナーさん。名前はあみだくじで決めたと親友は言ってましたw
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