八神家の養父切嗣   作:トマトルテ

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十話:セカンドコンタクト

 ビルの屋上を跳んでいきヴィータとザフィーラに近づく二人。

 正規の管理局員のようにまずは降伏を呼びかけるのかとも思われたが二人の言葉は微妙に違っていた。

 

「ねぇ、私達とお話ししない?」

「はぁ?」

 

 なのはのお話という言葉に何を言っているのかと一瞬呆けるヴィータ。

 ザフィーラに至っては罠か何かと疑い鋭くあたりを見回す。

 だが、なのはとフェイトにはそんな打算などない。

 

「よかったら、闇の書の完成を目指している理由を聞かせて欲しいな」

「教えてと言われて答えるわけねーだろ」

「そんなこと言わずに……ね?」

 

 取り付く島もないヴィータになのはは困ったように笑う。

 そんな姿に思わず毒気を抜かれてしまうが相手は敵だと認識をし直す。

 そこへ、結界を貫き紫電が舞い降りてくる。

 

「どうやら無事なようだな」

「あの人…ッ!」

 

 やすやすと結界を突破してきたシグナムの姿にフェイトが反応する。

 以前その姿を視認すると同時に斬り伏せられたのは記憶に新しい。

 今度こそは無様な姿は見せないと誓い新しくなったバルディッシュを握りしめる。

 

「とにかく、話を聞きてえなら勝ってからにしな」

「本当! なら、絶対に勝って話を聞かせて貰うんだから!」

「……相手の士気を上げてどうする」

「うるせーよ。勝てばいいんだよ。勝てば!」

 

 勝てば話を聞かせてもらえると分かり俄然やる気になるなのは。

 その姿にザフィーラが溜息交じりに呟くのを聞きつけてヴィータが吠える。

 そんな中クロノは戦場を俯瞰する。

 

 こちらはなのはとフェイトにユーノとアルフ、そして自分の五人だ。

 相手は三人。過去の情報から守護騎士が四人いるのは分かっているため油断はできないがそれでも人数的にはこちらが有利だ。

 焦らずに連携戦で追い詰めていこうと考えたところで―――

 

「ユーノ君、クロノ君、手を出さないでね! 私あの子と一対一だから!」

「……マジか」

「なのはだからね。仕方ないよ」

 

 なのはのタイマン宣言に思わず本音が零れ落ちる。

 ユーノの方はなのはがこういった行動に出るのは予想の範囲内だったのか冷静に返すだけだ。

 さらにそこからトントン拍子でフェイトが雪辱を晴らすためにシグナムと。

 アルフがこの前の続きとばかりにザフィーラと一対一を望む。

 思わず頭を抱えたくなってしまうが並列思考で既に別の戦略を組み立てていた。

 

(ユーノ、それならちょうどいい。なのは達が騎士達を止めている間に僕達は闇の書を探すんだ)

(闇の書?)

(恐らく、まだ確認されていない騎士か主が持っているはずだ。君は結界内部を、僕は外を探して捕獲する)

(わかった)

 

 短く言葉を交わし合い迅速に行動に移す。

 正規の局員ではないユーノであるが理解力は高い。

 故に自身が内部を担当しクロノが外部を担当する理由を的確に判断していた。

 内部に敵が居たとしても凌いていればAAAクラスの魔導士の援護が見込める。

 

 しかし、外部には武装局員がいるだけだ。弱いという表現はおかしいが残念ながら騎士を相手取って戦力になる人物はいない。

 つまりは外部に騎士か主、もしくは両方が居た場合は単独で相手どらなければならないのだ。

 

 ユーノは優秀な魔導士ではあるが本来の適正的には戦闘には向かない。

 そうなるとクロノが危険な外部に行くしかないのだ。

 本人は執務官として当然のことをしたまでだと言うだろうが送り出す方からすれば複雑な気持ちになる。

 

「武器を強化してきたか……気を抜くな」

「分かってるよ」

 

 二人の少年が動き出したその横では騎士達と魔導士達の戦いが始まろうとしていた。

 騎士達としては有利な条件でもあり、騎士として挑まれた以上は無下にはできない一騎打ち。

 しかし、今の騎士達にはそれ以上に大切なものが存在していた。

 

(主とそのご友人と鍋を共にする誓い。何に代えても守らねばな)

(もし、遅れたらはやてが悲しむかんな)

(形としては受けるが、機を見て主の元へ帰還するぞ)

 

 はやてから下された命、夕飯に間に合うように家に帰る。

 騎士としての名誉よりも大切な何でもないような些細なお願い。

 そんな願いだからこそ―――守る価値がある。

 

「悪いがこちらに長引かせるつもりはない。覚悟してもらおう」

「前みたいに簡単にやられない…ッ」

 

 移動する時間すら勿体ないとばかりに動くことなく剣を構えるシグナム。

 呼応するように進化した相棒を構えるフェイト。

 一呼吸の間の後に両者の刃はぶつかり合う。

 金属が擦れ合う耳障りな甲高い音が響き二人の鼓膜を揺らす。

 

「負けない!」

「言ったはずだ。覚悟してもらうとな」

 

 金と赤紫が目にも留まらぬ速さで空を駆ける。

 幻想的な光景を創り出しながら二人は夜空に火花を散らしていく。

 一太刀、二太刀と交わすごとに相手の力量がデバイスを通して伝わって来る。

 思わず戦いの誘惑に流されそうになるがシグナムは己が今すべきことを見失わない。

 

「残念だ。もっと斬り結びたいがそうもいかない」

「逃がさない。プラズマランサー―――ファイア!」

 

 結界脱出の糸口を探すために距離を取るシグナムにフェイトは複数の雷撃の槍を撃ち出す。

 それをただの一振りで全て弾き返す。

 しかし、その槍は消えない限りは追尾機能が働き続ける代物だ。

 すぐさま軌道を修正し再び襲い掛かる槍にシグナムは好戦的な笑みを浮かべる。

 

「レヴァンティン」

『Sturmwinde.』

 

 炎の魔剣がその形状を変える。刀身が何重にも分かれていき鎖で連結した蛇のような状態になる。

 彼女はわざと槍とフェイトが一直線になる角度に移動する。

 そして蛇剣を勢いよく振るい炎の疾風(はやて)を巻き起こし己に襲い来る槍をご丁寧にフェイトの元へ打ち返す。

 だが、その行為を黙って見る程フェイトも甘くはない。相手の視界が炎で覆われた隙に接近を図り背後から閃光の戦斧でもって斬りかかる。

 しかし、シグナムとその騎士の魂もまたそれを予想できない程未熟ではない。

 

『Haken Form.』

『Schlangeform.』

 

 右手で蛇剣を振るうと同時に左手で鞘を抜きバルディッシュの一撃を防ぐ。

 驚くフェイトに向け容赦なく蛇剣を鞭のように振るう。

 だとしても生まれ変わったバルディッシュ・アサルトは揺らがない。

 瞬時に高速移動魔法を用い距離を置き、主が体勢を立て直す時間を生み出す。

 

 その貢献を無駄にすることなくフェイトは蛇剣に鋭い斬撃をお見舞いする。

 両者の攻撃がぶつかり、爆炎が舞い上がる。

 どちらも顔色を変えることなく飛び下がるがその体には微かながらも隠せない傷が刻まれていた。

 そしてもう一つ、まるで本物の蛇の様にバルディッシュにレヴァンティンが絡みついている。

 だが、フェイトは左手でフォトン・ランサーをいつでも撃ち出せるようにしてシグナムに狙いを済ませているのだ。

 

「ふ、強いな。私はベルカの騎士、シグナム。そして我が魂レヴァンティンだ」

「時空管理局、魔導士、フェイト・テスタロッサ。この子はバルディッシュ」

「そうか、その名しかと覚えておこう」

 

 どちらも一歩も引かない状況に好戦的な笑みを浮かべながらシグナムはレヴァンティンを通常状態に戻す。

 フェイトも撃ちだした瞬間に斬り込まれると予感し左手を下げバルディシュを握りしめる。

 敵であることが惜しい程に両者は戦いを楽しんでいた。

 

(シャマル、どうだ、結界は破れそうか?)

 

 但し、烈火の将は密かに仲間と連絡を取り合いながらだが。

 如何に楽しい戦いであろうと主の願いに変えられるはずもない。

 主の為なら汚名を被ることも辞さないのだ。

 

 

 

「大体、話合いをしたいって言ってるくせに武器持ってるなんておかしいだろ」

「いきなり襲い掛かって来た子には言われたくないよ!」

「うるせー、バーカ!」

 

 まるで子どもの喧嘩のように、と言っても本当に子供なのだが、口喧嘩を始めるなのはとヴィータ。

 しかし、その体は既に高速で動いており大人でも追いつけるものが何人いるかという状況だ。

 若干仲間から遠ざかるように移動しているのはどちらも高火力の技が得意なため、近くで戦いすぎるとフレンドリーファイアの恐れがあるのだ。

 

「とっとと決めるぜ! ラケーテンハンマーッ!」

「レイジングハート!」

『Protection Powered.』

 

 さらなる力を得た魔導士の杖があの時守りきれなかった再戦を願うかのように障壁を生み出す。

 あの時から変わらない。否、変わる必要などないと自負する鉄の伯爵は主の願いに沿うべく全身全霊を持ってその盾を打ち砕きに行くのだった。

 

「前よりも硬くなってやがる…ッ!」

「これがレイジングハートの新しい力……」

「だとしても、あたしとグラーフアイゼンに砕けねえものは―――ねえッ!」

『Jawohl.』

 

 出力が上がりただの防御ですら手強くなったレイジングハート。

 だが、ヴィータは鉄槌の騎士の誇りにかけてそのまま打ち砕きに行く。

 それに気づいたレイジングハートはこのまま守勢になるのは危険と判断し自らバリアを爆破させる。

 爆発は相手にさほどダメージは与えなかったが重要なのは相手と距離を開いたことにある。

 中遠距離からの射撃砲撃こそがレイジングハートの主の最も得意とする間合いなのだから。

 

「アクセルシューター……シュート!」

「何だ、あの量!?」

 

 レイジングハートから放たれる桃色の誘導弾の数に思わず声を上げるヴィータ。

 かくいう本人もまた以前よりも遥かに多くの数が出たことに驚きを隠せない。

 しかし、彼女の愛機は冷静に制御を促す。

 目を閉じ誘導弾を徐々に制御していく彼女にヴィータは己の鉄球を差し向けるが完璧に制御された誘導弾により全て撃ち落とされてしまう。

 

(マジかよ……本当に全部コントロールするなんて普通じゃねえ)

 

 その才に流石のヴィータも括目せざるを得ない。

 恐らくはこのまま相手の得意な距離で戦っていれば負けると僅かにでも考えさせられるほどになのはは強い。

 だが、しかし―――己が負けることなど許さない。

 

「この距離じゃジリ貧だ……アイゼン、行くぞ!」

『Ja』

 

 四方八方を誘導弾に囲まれた状況を打破するためにあえて防御ではなく前に進むことを選ぶヴィータ。

 なのはの誘導弾はネズミ一匹逃がさぬ程の精度で取り囲んでいるが関係はない。

 肉を切って骨を断つ。この間合いでは不利になるだけである。

 ならば、少々のダメージを負ってでも自分の間合いに持ち込んだ方が有利だ。

 何より―――

 

(こんな奴に時間かけてたらはやての鍋に遅れちまう!)

 

 主の命を守る為に前へと進み出る。

 当たってもさほど問題ない部分を見極め歯を食い縛って当たり、残りは簡易の障壁で防ぎヴィータはロケットのようになのはの元へ飛んでいく。

 それに驚いたのはなのはである。まさかあの囲いを強引に突破してくるとは思わなかったためにほんの僅かではあるが初動が遅れてしまう。

 しかし、レイジングハートは機械であるが故の冷静さで加速魔法を発動させ遠のく。

 計算されるヴィータのスピードなら追いつけるはずはなかった、が―――

 

Pferde(フェアーテ)

 

 グラーフアイゼンの声と共にヴィータの脚が魔力の渦に包まれる。

 高速移動魔法による加速により一気に詰め寄ることに成功するヴィータ。

 最初から使っていなかったのは相手にこちらの移動速度を誤認させるためだ。

 これ以上加速ができないと思われるところから更なる加速を行えば相手は意表を突かれる。

 

 もし、なのはとレイジングハートがクロノの様に経験が豊富であればそういったことも想定して動いていたであろうがいかんせん経験不足である。

 反対にヴィータは見た目こそ同じような年に見えるが騎士として戦場で戦い抜いてきた経験がある。

 カッとし易い性格ではあるがその実冷静な判断も兼ね備えている。

 そうでなければベルカの騎士は名乗れない。

 

「おらぁッ!」

「アクセルシューターが…コントロールできない…ッ!」

 

 お互いのデバイスをぶつけ合う両者だが先程の様に真正面からというわけではない。

 ヴィータは横、下、斜めと縦横無尽になのはの周りを旋回しながら細かい攻撃を加えていく。

 そのためなのはも不規則な飛び方を強いられ残っていたアクセルシューターの制御まではできない。

 飛行に関しては天賦の才があるといっても過言ではないなのはであるが試運転に等しい状態のレイジングハート・エクセリオンを十全に使いこなしながらリスキーな飛行はできない。

 

 さらに言えばヴィータが普段の戦い方を捨てて細々とした戦いに徹しているのも要因にある。

 本来であればその名に恥じぬ一直線な戦い方を好む彼女だが今回は主の命がある。

 自分の出来得る最良の手段を用いて帰還を優先させているのだ。

 もっとも、それでもなお凌ぎながら反撃の機会を狙い目を輝かせているなのはにやはり油断ならない敵だと警戒を続けながらではあるが。

 

(もうちょいで、ザフィーラとシグナムの傍に行ける。シャマルも近くに居んだな?)

 

 鉄槌の騎士は、心は熱く、頭は冷静に仲間達と連絡を取り合うのだった。

 

 

 

「あの時は見逃して貰って悪かったね」

「優先すべきことがあったまでだ」

「とにかく、あの時の続きに付き合ってもらうよ!」

「悪いがこの身には為さねばならぬことがあるのだ」

 

 線は細くとも鍛え上げられた野生の獣のように柔軟かつ力強い肉体と闘気がにじみ出る鋭い目。

 実質剛健を体現するが如き鍛え抜かれた肉体と清廉な心を思せる冷静な目。

 正反対のようでいてその本質は主の願いを叶えるという点で同じアルフとザフィーラ。

 

 二人の主に仕える誇り高き獣達は地上に降り立ち拳をぶつけ合わせている。

 格闘戦を得意とする者がもっともその力を発揮することができるのは大地に足をついた状態だ。

 如何に宙を自在に飛び回れようとも人体とは元々地上で活動するために生み出されたものである以上はその真価を発揮するのは大地の上だ。

 

「どりゃぁああッ!」

「はあッ!」

 

 踏み込みの一歩でアスファルトの大地を砕き、拳はビルを抉り取る。

 しかし、両者ともダメージらしきものはほぼない。

 例え、ダメージを受けたとしても倒れる事は無いだろう。

 全ては己が信ずる主の為に。

 

「これだからデカブツは嫌いなんだよ」

「ふん、鍛え方が足りんだけではないのか?」

「言ったね、あんた…ッ」

 

 お互いに挑発をし合いながらも頭は冷静である。

 アルフがしなやかな身のこなしから通常の格闘戦ではあり得ない角度での攻撃を仕掛けてくるがザフィーラは山のごとく構え動かない。

 彼が動くときは防御からの高速のカウンターの時だけである。

 まさに静と動。このまま硬直状態が続くかと思われたがアルフのかけた言葉から変化を見せる。

 

「あんたも使い魔じゃないのかよ!」

「ベルカでは主に仕える獣の事を使い魔とは呼ばぬ…ッ」

 

 アルフの拳がザフィーラを襲うがその鉄壁の守りは何人たりとも通さない。

 初めてとも言える程に感情をあらわにする姿にアルフは目を見開く。

 彼は己と主の誇りをかけてあらん限りの声で叫ぶ。

 

「主の牙ッ! そして盾! ―――守護獣だッ!!」

「同じ様なもんじゃんかよッ!」

「同じでは―――ないッ!」

 

 同じであるというのならば私を押し返してみせろとでも言わんばかりにザフィーラが強力無比なカウンターを繰り出す。

 それをアルフも迎え撃つが押し返すには至らず拮抗する。

 互いの魔力がぶつかり、限界を越え、爆発を引き起こす。

 しかし、やはりというべきかどちらも何事も無い様に立ち続けているのだった。

 変わったと言えるのは二人の立ち位置と―――ザフィーラと他の騎士達の距離だけだろう。

 

(相手には悪いがそろそろ仕掛けさせてもらうぞ)

(了解。そろそろそっちに着く)

(みんな、サポートは任せてね)

(この結界―――破らせてもらう)

 

((((主はやての願いを叶えるために))))

 

 騎士達の策が発動するときは近い。

 

 

 

 

 

 騎士達と魔導士が激しい戦いを繰り広げている結界の外部。

 闇の書の主もしくは騎士を捜索していたクロノはその足を止めていた。

 つまりは、主もしくは騎士と考えられる人物と遭遇したのである。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンです。少し話を聞かせていただきたい。あなたが無関係ならすぐに解放します」

 

 クロノは凛とした声で全身黒づくめにヨレヨレのコートを着た、白髪に浅黒い肌の男に話しかけるのだった。

 


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