八神家の養父切嗣   作:トマトルテ

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十四話:サードコンタクト

 

 魔法少女と騎士達が戦いを繰り広げている中、二匹の守護の獣もまた、争っていた。

 幾度交わしたかも分らぬほどにぶつけあった拳。

 お互いの攻撃の威力により軋みを上げる肉体。

 アルフとザフィーラの戦いは非常に無骨なものであった。

 

「デカブツ! なんであんたは主の間違いを正してやらないんだよ! あんただって主の幸せを祈ってるんだろ!?」

「無論、我らの願いは一つ。主が幸せになることだけだ」

「じゃあ、何で―――」

「道は一つしか残されていないのだ」

 

 闇の書の蒐集を止めさせるように語り掛けるアルフだったがザフィーラの余りにも真摯な目に黙り込む。

 ザフィーラとて分かっている。自分達の行いが間違いだと。

 主の命を破って行う活動が正しいはずもないのだと、分かり切っている。

 

 だが、間違っているからと言って何も行動を起こさないのが正しいのか?

 それもまた、間違っているのではないか。

 何が正しくて、何が間違っているかなど本来誰にも決められるものではない。

 だからこそ、自分自身が正しいと信じた選択を人は選ぶのだ。

 

「主の幸せの為にはこうする以外に道は残されていない」

「なぁ、話してくれないかい? あんた達がどうしてそうまでして闇の書の完成を目指すのか」

「……言ったはずだ、主の幸せの為だと」

「そういう意味じゃないよ!」

 

 必死に訴えかけるアルフにザフィーラは何とも言えぬ気持になる。

 相手は間違いなく敵。しかし、彼女は本心からこちらを助けたいと願っている。

 相手もまた良き主に恵まれたのだろうとその不器用な優しさに主の影を垣間見る。

 もしも、敵として見えていないのであれば同じ守護獣同士気があったかもしれない。

 だが、そんなものは叶うはずのない夢物語だ。

 すでに固まっていた覚悟をさらに堅くするように手を握りしめる。

 

「私は闇の書の主に仕える盾の守護獣、ザフィーラ」

「……フェイト・テスタロッサの使い魔、アルフ」

「私を止めたければその手を私の血で染める覚悟を持て、アルフ」

「あたしは何もあんたを殺したいわけじゃないんだよ、ザフィーラ!」

「くどい。それにお前も守護獣ならば主の為に血に染まる覚悟はできているはずだ」

 

 もはや聞く耳などないとばかりに襲い掛かって来るザフィーラの攻撃を苦悶の表情で躱す。

 彼女の心は何故同じく主を愛する使い魔が争わなければならないのかという感情で覆われる。

 しかし、いつまでも感傷に浸っていられるほど相手の攻撃は温くない。

 嫌な音が鳴る程に歯軋りをしてザフィーラを殴り返す。

 

「こんの、分からずやーッ!」

「分からずやで結構だ」

 

 お互いの思いの丈を籠めた拳がぶつかり合い魔力の火花が散っていく。

 それはまるで分かり合えないことに流す涙のように。

 虚しく散り、消え去っていくのだった。

 

 

 

 

 

「アクセルシューター、シュート!」

『Accel Shooter.』

 

「グラーフアイゼン!」

『Explosion.』

 

 砂漠での戦局の一つ、砲撃魔導師なのはと、鉄槌の騎士ヴィータによる遠距離戦。

 間合いの有利さで考えれば、圧倒的になのはが有利である。

 ベルカ式は強大な個人戦闘力を有する代わりに、射撃砲撃など遠距離攻撃などを苦手とするのだ。故に一定の距離を保ち遠距離からの攻撃に徹することができればミッドチルダ式の優位は揺らがない、はずであった。

 

「おらぁっ!」

「アクセルシューターを全部撃ち落としていってる……やっぱり強いね」

『Yes,master.』

 

 遠距離魔法が不得手なだけでベルカ式は魔力によって自身の身体と武器を強化することは得意分野である。

 故に相手に攻撃が届かなくとも、迫りくる誘導弾を叩き落とすことなど造作でもない。

 そして、間合いを離されると不利というのは逆に言えば近づけば有利だという事だ。

 お互いの実力は総合的に見ればほぼ互角。ならば、この戦いは間合いを制した者が勝者となる。

 

「来るっ!」

 

 誘導弾による攻撃がなくなるや否や己の間合いを手に入れるためになのはの元に高速で向かってくるヴィータ。

 避けることは容易ではないと悟り、すぐさま障壁を張り、備える。

 

「今度はこっちからだぁッ!」

Tödlichschlag(テートリヒ・シュラーク)

 

 カートリッジを使用することのない一撃をレイジングハートの防御に打ち込む。

 だが、やはりというべきか進化したレイジングハートの防壁は壊れない。

 それはヴィータも理解しているために焦る事は無い。

 とにかく、今は近接戦で砲撃を撃たせないように徹して有利な状況を作り出すのが先決である。

 

「距離をとって!」

Accel Fin.(アクセルフィン)

 

 しかしながら、なのはもまたそれは理解している。

 靴から翼を伸ばして急加速をもってヴィータとの距離を取ろうとする。

 彼女方からすれば遠くから砲撃を放ち、当てることができれば一撃で落とすことも不可能ではないのだ。まさに一撃必殺とも呼べる長所を引き出すべく間合いの維持を図る。

 

「逃がすかよ!」

Raketenform.(ラケーテンフォルム)

 

 鉄の伯爵が弾薬を吐き出し、姿を変える。

 第二形態、最も攻撃に適した姿。ロケット推進による大威力突撃攻撃を行うための強襲形態。

 遠ざかるなのはを追うためにロケット推進を用い突進していく。

 さらに、カートリッジを使用し加速時間とパワーを上げて必殺の威力を籠める。

 

「ラケーテン・ハンマーッ!」

「レイジングハート、お願い!」

Protection Powered.(プロテクション・パワード)

 

 ヴィータ渾身の一撃が横薙ぎに振るわれる。

 それに応えるようになのはは自身最大の防御を繰り出して迎え撃つ。

 以前と同様の結果であればレイジングハートが防ぎきるだろう。

 

 しかし、ヴィータも同じ過ちを繰り返すほど愚かではない。

 ここが勝負どころだと見極めカートリッジをさらに使用し、下がっていた出力を引き上げる。

 これにより押され始めるなのはだったがここで下がれば話を聞くことはできないと思い、押し返すために削れていた魔力を注入し直す。

 

「気張れ、グラーフアイゼンッ!」

「頑張って、レイジングハートッ!」

 

『Jawohl.』

『All right.』

 

 主の想いに応えるべく二機のデバイスは互いに全力を出し合う。

 そして、空間が捻じ曲がるかのような力のぶつかり合いの果てに―――相殺する。

 爆炎が舞い上がる中で二人の少女はどちらの土俵とも言えぬ中間地点で視線を交じり合わせる。

 

 ―――やるじゃねえか。

 

 ―――そっちこそ。

 

 お互いに目で称賛し合うと共に再び両者は動き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 砂漠でのもう一つの戦い、時空管理局魔導士フェイトと烈火の将シグナムの近接戦。

 お互いに得意とする間合いはほぼ同じ。しかし、その戦い方は同じではない。

 高速移動で相手を翻弄し必殺の一撃を決めるフェイト。

 卓越した剣技でクロスレンジ、ミドルレンジの敵を薙ぎ倒すシグナム。

 スピードのフェイトに、パワーとテクニックのシグナム。その戦いは激戦であった。

 

Schlangeform(シュランゲフォルム)

 

 炎の魔剣レヴァンティンが刃の連結刃へと姿を変え、フェイトに刃の鞭となり襲いかかる。

 フェイトはそれを転がるように飛んで避け、巻き起こされた砂煙に紛れる。

 ミドルレンジ用の武器でこの威力なのだ。まともに当たれば装甲の薄い自分は一溜まりもないだろう。

 

『Load cartridge, Haken form.』

 

 故に対抗手段は一つ、やられる前にやる。攻撃こそが最大の防御。

 閃光の戦斧バルディッシュもハーケンフォルムを取り、迫りくる刃を迎え撃つ。

 

「ハーケンセイバー!」

Blitz rush.(ブリッツラッシュ)

 

 黄金の魔力刃を放ち、シグナムを襲うと同時に、加速魔法ブリッツラッシュを用いて高速機動を展開。ほぼ同時にシグナムの連結刃が逃げ場を無くすように迫って来るが彼女には当たらない。

 まるで噴火のように舞い上がる大量の砂の中から再び魔力刃を飛ばし、シグナムの注意をそちらに向けさせる。その隙に自らは高速機動によって相手の背後へと回り込む。

 

「はあああ!」

『Haken slash.』

 

 黄金の鎌が連結刃を伸ばし切り、無防備なシグナムを狙う。

 しかし、この時フェイトは失念していた。

 歴戦の騎士は鞘ですら武器として扱うことを可能とすることを。

 

「まだ、甘い!」

「そうだった、鞘があったんだ…っ」

 

 シグナムが魔力を流し込むことで、バルディッシュの刃すら受け止めることが可能な硬度を鞘に与える。そしてあろうことか、そのまま鞘でバルディッシュを弾き上げ間髪入れずに蹴りを放つ。

 

「おおおッ!」

「当たりません!」

 

 フェイトは以前の戦闘で鞘に防がれたことを思い出し、攻撃が防がれたことにさほど動揺せずに済んだ。そのため、何とか紙一重で回避に成功する。

 逆にシグナムはこのままでは分が悪いと判断し、距離を離すと共に連結刃を刃の状態に戻す。

 その隙を閃光の主従は決して逃さない。

 

Plasma lancer.(プラズマランサー)

「レヴァンティン、私の甲冑を!」

Panzergeist.(パンツァーガイスト)

 

 閃光の戦斧が射撃魔法を放ち烈火の将に追い打ちをかける。直撃は免れない一撃。

 されど、炎の魔剣とて主をむざむざと傷つけさせるわけにはいかぬ。

 命を受け、すぐさま彼女の魔力で編まれた見えざる鎧を身に着ける。

 その一瞬後に電光の槍がシグナムへと直撃し爆発を起こす。

 しかしながらその体には傷一つついていない。

 

Assault form.(アサルトフォルム)

 

 大地に降り立ったフェイトは、バルディッシュを基本形態のアサルトフォルムへと戻し黄金の魔法陣を展開する。

 シグナムもまた、それに応えるべくレヴァンティン振り上げ赤紫色の魔法陣を展開する。

 己の技と技、想いと想いをぶつけ合うに相応しい一撃の名を両者が上げる。

 

「プラズマ―――スマッシャー!」

 

「飛竜―――一閃!」

 

 バルディッシュが紡ぎ出す魔力を込め、最大射程を犠牲に威力と発射速度に重点を置いた、純粋魔力砲撃、雷鳴の一撃、プラズマスマッシャー。

 鞘にレヴァンティンを収めた状態で魔力を圧縮、シュランゲフォルムの鞭状連結刃に己が魔力を乗せ抜き放つ、砲撃クラスの射程とサイズを誇る異色の斬撃、竜の咆哮、飛竜一閃。

 

「はああッ!」

「おおおッ!」

 

 その激突の結果を見届けることもなく、両者共に飛び上がり激しく斬り結ぶ。

 高レベルの戦闘スキルを持つミッドチルダ魔導師と古代ベルカの騎士の戦い。

 それが生温いはずもなく彼女達の体には無数の切り傷が現れ、滴る血が砂に落ちて吸われて消えていく。

 

「バルディッシュ!」

『Yes, sir.』

 

「レヴァンティン!」

『Jawohl.』

 

 それでも二人はその手に持つ相棒達と共に戦い続ける。

 その心に譲れぬ想いを持つが故に。

 どれほど交わしたかも分からぬ攻撃を再びぶつけ合わせ、二人同時に地上に降り立つ。

 

(不味いな……。ここに来て捉えられない速度を出してきた。負ける気はないが短時間で決められるとも思えん)

 

 シグナムは少しばかりの焦りを感じ始めていた。

 戦況自体は五分、もしくはこちらが若干押している。

 しかし、戦略的には時間をかければかける程こちらが不利になる。

 今はまだ結界担当の局員が居ないために結界は張られていないが直にこちらに来るはずだ。

 

 そうなるとフェイトを倒したうえで結界の破壊をしなければならない。

 カートリッジの残り数的にも体力的にも難しいと言わざるを得ない。

 さらに以前結界を破られた経験を踏まえて何らかの対策を取ってくる可能性も考えられる。

 早く戦いを決めてここから撤退するのが上策だ。しかし―――

 

(テスタロッサ相手に高火力の技が当てられるか? 下手をすれば溜めの隙を突かれて負けてしまう)

 

 そう簡単にいく相手ではない。

 だが、自分はやらなければならない。否、やらなければ未来などない。

 倒すしかないと雑念を振り払い、剣と鞘を再び構える。

 

(やっぱりシグナムは強い。クロスレンジもミドルレンジも圧倒されっぱなしだ。今は速さでごまかしているけど……当たったらやられる)

 

 一方のフェイトも焦りを感じていた。

 こちらは純粋に相手の方が格上だと改めて理解した上の焦りである。

 フェイトは高速機動の為に装甲を薄くしてある。

 それ故に直撃しようものなら二度と立ち上がることはできないだろう。

 相手は格上。こちらが勝っているものは速さ以外にない。

 どうするかしばし悩んだ後にフェイトは覚悟を決める。

 

(私にはスピードしかないんだ。だから、ソニックフォームを使うしか道がない)

 

 フェイトの奥の手ソニックフォーム。

 極限まで装甲を削ることで常軌を逸した速度を手に入れることが可能。

 だが、それは同時に更なる防御力の低下を意味する。

 まさに諸刃の剣を抜く決意をし、バルディッシュを硬く握りしめる。

 そして、両者共に動き出そうとした瞬間―――

 

 

「―――え」

「…な…に?」

 

 

 ―――フェイトの体は衝撃を受け、後ろから撥ね上げられた。

 乱れ舞う金色の髪、崩れ落ちていく細い肢体。

 突然のことに唖然として声を上げるシグナムの耳にそこでようやく銃声が届く。

 彼女は狙撃されたのだと気づいた時にはもう遅い。

 静かに倒れ、うつ伏せのままピクリとも動かない姿に激高し犯人を捜す。

 

「何者だ! 出て来いッ!」

 

 天にまで轟く様な咆哮を上げ狙撃手が居ると思われる方角を睨みつける。

 この世界に遮蔽物は無い。狙撃手にとっては狙いやすいと同時に見つかりやすいという空間だ。

 魔法で隠れない限りは簡単に見つかる。

 シグナムの咆哮に、事態に気づいたなのはとヴィータも何事かと目を向ける中、その男は静かに姿を現す。

 

(やれやれ、折角助けたというのにその言い方は無いだろう、シグナム)

 

 届いてきた念話の声にシグナムは事情を理解し、目を見開く。

 ヴィータの方は事情が把握できずに信じられないという顔のまま固まる。

 しかし、男はそんな様子など気にすることなくヨレヨレの黒いコートをはためかせる。

 

「フェイトちゃんをあの人が…っ!」

 

 なのはの方は今回の事件の鍵だと言われていた人物の登場に声を上げる。

 そして司令部でその様子を見ていたエイミィも驚きの声を上げる。

 浅黒い肌に白髪、さらに黒づく目の服装。間違いなくその人物は―――

 

 

「闇の書の主!」

 

 

 その言葉に男は口の端を僅かに吊り上げるのだった。

 




普通のワルサーで射程は1000mだからスカさん監修のこれはそれよりも遥かに上の射程です。
故に砂漠でも気づかれずに撃つことができました。
後、ここだけの話、砂の中でスタンばってました(信じるかどうかはあなた次第)

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