八神家の養父切嗣   作:トマトルテ

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三十七話:襲撃開始

 公開意見陳述会当日。多くの報道陣の注目を集める中、会議は予定通り14時に開始された。会議室でお互いの腹の内の探り合いが続いている中、外は物々しい警備が行われており蟻一匹たりとも通さない防御網が敷かれていた。

 

 六課のフォワード陣とヴィータとツヴァイもその例に漏れず地上本部の周りを警護していた。そして本部の中にはなのはとフェイトの隊長二人。さらに会議室にははやてとシグナムが構える鉄壁の陣営。もっとも本部内には一切の武器の持ち込みが許可されていないので中に居る者達は皆素手なのだが。

 

「陳述会が始まってから四時間か……今のところ何も起きていないけど」

「このまま何も無いといいんですけどね」

 

 チラリと時間を確認して呟くティアナにエリオが何もないことを祈るように返す。中では未だに白熱した議論が行われているのだろうが外は風の音と人の動く音以外には何も聞こえない程に静かだ。

 

 そもそも管理局に喧嘩を売って得になることなど一つもない。それにこれだけの警備を抜けられるはずがない。何かが起こるなど万が一にもあり得ない。ないない尽くしである。誰もがそう確信していた。そう信じていた。だが、希望的観測などいつの時代も役に立たない。

 

「おい、なんだあれ!?」

「ガジェットだ! でも、管制室からは何も報告はなかったぞ!」

「いいから後回しだ! 早く動け!!」

 

 突如として慌ただしくなる現場。フォワード陣もその声の方へ振り返ると大量のガジェットが地上本部を囲むようにルーテシアにより召喚されていた。それ自体はそこまでおかしいことではない。守っている場所に敵が責めてきたそれだけのことなのだから。

 

 しかし、おかしな点が一つある。それはいち早くこのことを察知するはずの管制室からの連絡が何一つないことだ。敵に裏をかかれたまでは理解できる。だが、今も何一つとして連絡が無いのはあまりにおかしいではないか。

 

「もしかして……もう中は制圧されているの?」

 

 信じられないとばかりに零すティアナ。しかし残念なことにその想像は当たっていた。機器すら騙す幻影でクアットロがクラッキングを行いセンサーを停止させ、無機物の中を移動できるディープダイバーの持ち主であるセインが天井から麻痺性のガス弾を落とし一瞬で敵のバックアップを封じ込み、さらに防壁に使われるエネルギーの供給源をチンクが破壊したので混乱が起こり何の連絡もないのだ。

 

「とにかく、ガジェットを破壊しないと!」

 

 連絡が無く中の様子は分からない。しかしこのガジェットを放っておくわけにはいかない。そう瞬時に判断したスバルが残りのフォワード陣に声をかける。その声が届いたのか六課以外の局員達も戦闘態勢を整え始める。これならばガジェットはすぐにでも駆除されるだろう。そう誰もが考えたが敵はそのような甘いことはさせない。

 

「伏せろ、お前ら! 狙撃が来るぞ!」

 

 四人の耳にヴィータの叫び声が届き反射的に地面に伏せる。次の瞬間には高密度のエネルギー砲、端的に言えば極太のレーザーが自分達のすぐ近く、地上本部上部に撃ち込まれた。その一撃の威力を見た者達は皆一様に動きを止めてしまう。

 

 何も攻撃に恐れたからではない。単純に簡単に動くことが出来ないのだ。相手はいつでもこちらを狙える位置に居るというメッセージ。それはこの上なく効果的な牽制だ。下手な動きを見せればお前たちの命は一撃の下に消え去ると無言で語りかけているのだ。

 

 そして誰もが動けなくなったことを見計らい、ガジェットは一斉に本部全体を取り囲みAMFの展開を始める。その行動の真意に気づきヴィータは大きく舌打ちをする。敵はこちらの主戦力を封じ込めに来たのだ。

 

 魔法を使える人間でストライカー級の者達は一様に階級が高い傾向がある。これは強い人間ほど手柄を立てやすいからである。階級が高いということは面倒な会議などに出なければならなくなる。つまり、中に居る人間の方が強いのだ。それらが一手に固まったところを封じ込めればこちらの戦力を一気に削ることができる。

 

「ちくしょう、はやてもシグナムもなのはもフェイトも出れねえんじゃキツイな」

「ヴィータ副隊長、すぐになのはさん達を助けに行きましょう!」

「そういや、もしもの時は地下で落ち合うように言ってたな。デバイスも持ってってやらねーとな」

 

 そうと決まれば一刻も早く向かわねばならないところなのだが戦場とは不測の事態ばかりが起きるものだ。

 

「ヴィータちゃん、十二時の方向から推定オーバーSの未確認が近づいて来てますです!」

「空戦か? 今ここに居んので戦えんのはあたしだけか……フォワード陣、よく聞け!」

『はい!』

 

 ツヴァイから与えられた情報をもとに素早く作戦を組み立てるヴィータ。一体相手が何の目的をもってここに向かってきているかは分からない。だが、黙って素通りさせるわけにいかない。その為には止めることができる者が止めに行かなくてはならない。

 

「今からお前らは隊長達のデバイスを届けに行け。あたしは未確認を叩き行く、分かったな」

『了解です』

「よし、じゃあ急げよ」

 

 お互いに振り返ることもなく駆け出す。それは信頼の証である。フォワード陣は自らの副隊長の強さへの絶対的な信頼。ヴィータは今までの訓練を耐え抜いてきた新人達の成長への信頼。

 

 それぞれが大丈夫だと信じていた。だが、どれだけ強くとも必ず生きて帰れるとは限らないのが戦場だ。ましてや全員が無傷で帰ってこられるなど―――どれだけの確率であろうか。

 

 

 

 

 

 地下通路のロータリングホールにてなのは達隊長陣と落ち合うために地下通路を進むフォワード陣。一刻も早くデバイスを渡さなければと焦る四人の前へ突如として敵は現れる。突如として空中から現れた赤髪の戦闘機人に蹴り飛ばされるスバル。そして残りの三人は桃色の魔力弾に四方を囲まれ身動きが取れなくなる。

 

「さあ、後は生きたまま捕獲するだけっス。というか、ノーヴェそのこと忘れてないスか?」

「うるせーな。あの程度じゃタイプゼロは死なねえ、見ろよ」

 

 同じく赤髪の語尾が特徴的な戦闘機人、ウェンディに注意されるがノーヴェと呼ばれた少女はイライラとした様子で返す。だが、言っていることは正しく吹き飛ばされたスバルは姿こそ傷ついたように見えるがさしてダメージを受けていないように起き上がる。

 

 そうでなければこのイライラが収まらないとばかりに指の関節を大きく鳴らし威嚇するノーヴェ。ウェンディの方はまたかといった感じで相棒を見るが自分達の方が有利なのは間違いがないので大丈夫だろうという顔をする。しかし、二人は相手の力量を完全に測り間違えていた。

 

「全員散開!」

「あたしの作った囲いを全部弾いたんスか!?」

 

 ティアナの掛け声とともに囲いに使われていた魔力弾を一瞬で吹き飛ばすエリオ。それと同時に三人とも別方向に駆け出していく。慌てて追おうとするウェンディとノーヴェであるが敵は三人だけではない。スバルの存在を完全に忘れたことで相手にさらなる一手を与えるきっかけを与えてしまった。

 

 強烈な拳を地面に打ち込むことで辺りに砂煙と瓦礫を巻き上げるスバル。思わず目を瞑ってしまい四人を完全に見失ってしまうノーヴェとウェンディ。だが、それでも彼女達の優位は揺らがない。

 

「いくら目隠ししたってあたしたちの目は騙せないっスよ」

 

 彼女達戦闘機人の目はそれそのものが熱感知センサーやエネルギー感知能力を兼ね備えている。砂煙ができたところで見えなくなるということはない。その為すぐに目を開きティアナ達の姿を探す。

 

「見ーつけた! ほいさ!」

 

 少し探しただけで簡単に相手を見つけ再び魔力弾を手にした盾から撃ち出すウェンディ。桃色の弾丸は何の障害に阻まれることもなく小さな人影を射抜く。それが―――幻影だということに気づくこともなく。

 

「へ?」

「なにやってんだよ、あたしがやる!」

 

 あっさりと弾丸が貫通したことに間抜けな声を上げるウェンディに代わりノーヴェが前に出てスバルの姿をした幻影を蹴りつける。しかしながら幻影を蹴ったところで何が起こるわけでもない。常人に放てば必殺になりえる一撃も虚しく空気を切るのみである。

 

「ノーヴェ、これ幻術っスよ!」

「幻術? 関係ねえ、こいつら全部ぶっ潰せば―――」

 

 問題はないだろう、と言いかけた所でノーヴェの言葉は止まる。確かに幻影も本体も全て壊せば何の問題もないだろう。だが―――目の前にひしめく何十体もの敵全てを倒していく余裕などあるのだろうか?

 

「今のうちに撤退するわよ!」

『了解!』

「あ、待つッス!」

 

 相手の数の多さにノーヴェ達が固まってしまった隙を突き離脱を計るフォワード陣。軍団の中から四人だけが通路の闇に消えようと走り出す。慌ててそれを追いかけようとするノーヴェとウェンディ。もしもこの二人が初陣ではなくある程度経験を積んだ状態であれば気づけただろう。ワザと分かりやすいように四人だけ(・・・・)を動かした理由を。

 

「隙あり!」

「ぐあっ! タイプゼロがなんで残って…!?」

「なっ!? 本物は残ってたんスか!」

「残念だけどそういうことよ」

 

 突如として何もない空間から現れたスバルにより先ほどのお返しとばかりに蹴り飛ばされるノーヴェ。その様子を見て自分達が追っていたのは囮で本物は自分達の隙を突くために残っていたのだと悟るウェンディだがもう遅い。目の前に迫っていたキャロの援助を受けたストラーダの一撃からは逃れられない。

 

 なすすべなく渾身の一撃を受けてノーヴェと同様に吹き飛んでいくウェンディを確認するとティアナは今度こそ本当の撤退の合図を送る。さらに今度は幻影を四方向全てに分断させる形で相手に場所を悟らせないように。

 

「くそっ! あいつらやりやがったな!」

「どうするっスか。今から追っても追いつけるか微妙っスよ」

 

 身体の頑丈さから大したダメージは受けていないため、すぐに起き上がり悪態をつくノーヴェ。逆に今からどちらに向かったのかを割り出して追っても間に合わないと分かっているのかゆっくりと起き上がるウェンディ。どちらの様子もまだまだ戦うことは可能なことを示しておりあのまま戦っていれば持久戦になりフォワード陣は大幅に時間をロスしていたことを思わせる。

 

【ノーヴェ、ウェンディ、少しこちらに来てくれないか? 今タイプゼロファーストと交戦中だ】

「チンク姉? 分かったすぐに行く」

「でも、こっちの方はどうするんスか?」

 

 分かれて行動中だった姉であるチンクからの通信が入り、彼女を慕うノーヴェは考えることもなく彼女の命に従う。ウェンディの方はいくらか冷静であるために取り逃がしたフォワード陣をどうするかを問う。

 

 二人はスカリエッティから彼らを捕獲して研究所に招くように頼まれている。もっとも、スカリエッティならば失敗したのならばそれはそれで仕方がないとさほど気にしないであろう。それが分かっているためかチンクは問題はないと返す。

 

【逃げられたのならひとまずこちらを優先したい。それに―――そちらには彼が居る】

 

 

 

 

 

 見事な作戦によりノーヴェとウェンディの手から逃れることに成功したフォワード陣。彼らはその勢いに乗るがごとく合流場所であるロータリングホールに向かっていた。

 

「後どれぐらいで到着ですか?」

「もうすぐで到着するはずよ」

 

 全員があと少しで目的地だということで気を緩めていた。もちろん、本人たちに聞けばそんなことはないと言い張れるレベルでの僅かなものだ。しかし、僅かでも注意力が落ちれば気づけないものもある。例えば、敵を切り抜けた先に周到な罠が仕掛けられていることなど。

 

「隊長達が待っているかもしれないので急ぎましょ―――」

 

 ―――炸裂音。

 

 キャロの言葉は激しい炸裂音によってさえぎられる。クレイモア地雷、鼓膜を破るような鋭い音の訪れの後に爆発によって打ち出された無数の鉄球が襲い掛かる。何が起きたのかもわからぬままに四人は足を止め防御の体勢を取る。

 

 幸いにもバリアジャケットの防護のおかげで傷を負うことはなかったが不意を突かれた動揺は残る。中々動き出すことが出来ずにどこかにいる敵の姿を探して辺りを見渡す四人の目の前に一人の男が姿を現す。

 

「どうやらここで張っていたかいがあったようだ」

「あ、あなたは!」

「理想を捨てる覚悟はできたかい? スバル・ナカジマ」

 

 見覚えのある、否、忘れたくても忘れられないトラウマを植え付けられた男の登場にスバルは声を裏返してしまう。顔は黒い布のようなもので隠されておりスバルからは瞳しか見えないがその死んだ瞳と黒いコートがあればあの男だと断定できた。僅かに震え始めるスバルの様子を心配して残る三人が庇うように前に出て男を睨み付ける。その仲間想いの様子に男は皮肉気に笑う。

 

「いい覚悟だ。愛する者を守るために自らが盾となる。何度も見てきた素晴らしい光景だ。

 そして―――何度もその後ろの人間を殺してきた」

 

 瞬間にスバルの後方で再びクレイモア地雷が炸裂する。リモコン操作での地雷の発動は自らが見つかる恐れもあるが誤爆の心配はない。明確に狙った対象を傷つけることが出来る。もっとも、元々敵を殺すほどの威力は持たない地雷では硬いバリアジャケットを貫いてもかすり傷程度の効果なのだが。しかし、完全に死角からの攻撃は相手の恐怖心と動揺を煽るには十分すぎる効果を持つ。隠された顔の隙間から覗く死んだ瞳が冷徹に四人を見つめ圧力をかける。

 

「悪いが君達はここで足止めさせてもらう。安心してくれ、殺しはしない。クレイモア地雷(・・・・・・・)も今ので最後だ」

「悪いですがこちらも止まる気はありません。それに四対一で、ここは地下。両方が生き埋めになりかねない高火力の攻撃をできない以上は数の多いこちらの有利は揺るぎません。大人しく投降してください」

 

 足止めをすると語る男にいくらか冷静さを取り戻したティアナが毅然とした態度で告げる。それを聞いた男はまるで出来の良い生徒を見る教師の黒い布のしたで笑って頷き手を上げる。一瞬手を挙げて降参するのかと思うフォワード陣だったがその手にはリモコンが握られていた。慌てて爆発に備えて今度はバリアを張ろうとする四人。だが、何故かバリアは作り出されることはなかった。

 

「これ……もしかしてAMF!?」

「ご名答。今のリモコンはしかけておいたAMFを張るためのものだよ。これを出した瞬間に撃ち抜いておけば止められたかもしれないが、とにかくこれで半径100メートル以内で君達は魔法を使えなくなった。」

「でも、それはそっちも同じことじゃ?」

 

 先程の地雷は敵にこちらが地雷を使うと思わせるためのブラフの役割もある。その為に相手は反射的に攻撃ではなく防御を取ってしまったのだ。しかし、AMFを張ったということは相手も魔法を使えないということに他ならないとスバルが声を出す。

 

 実際問題、男が顔を隠しているのは変身魔法が使えなくなるからであろう。だが、そのようなことは何の障害にもならない。どこまでも自然な仕草で男は懐から黒光りするキャリコを取り出す。それを見た瞬間にスバルは理解する。相手ははなから魔法を捨てた状態で戦うことを前提とし、質量兵器を揃えていたのだと。

 

「生憎、質量兵器の扱いには慣れていてね。さらに言えば今の君達は猟師の前のうさぎ同然だ。四人居たところで大した脅威じゃない」

 

 補助タイプのキャロは論外。ティアナも魔法が使えなければ近接用のダガーを出せない。エリオが直接デバイスで攻撃できるが魔法が無ければただの子ども。頼みの綱はスバルであろうが彼女が戦闘機人にならなければその力は使えない。武器のない人間は武器のある人間には勝てない。それが人類史での絶対の理だ。

 

 舞台は整った、後は機械的に処理を行うだけである。そんな自分が嫌なのか、男は布の隙間から覗く死んだような瞳に憂いをおびさせてキャリコを構える。そして照準を四人に合わせたところでどこまでも無機質で冷たい声で言い放つ。

 

 

「悪いが、君達が足を踏み入れた瞬間からここは僕の―――狩場だ」

 

 




レジアス「地上本部の守りは鉄壁だ。結界の数は二十四層、魔力炉三基と地上きってのストライカー級の魔導士と気に食わんが本局のエース級数十人。トラップにも抜かりなし通路の一部は虚数空間化までさせている。まさに完璧な防御網だ。さあ、どこからでもかかってこい!」
切嗣「セインに運び込ませた大量の爆薬で一気に爆発させた。まともに戦う方が馬鹿らしい」
レジアス「 」

スカさんが生かして捕らえることを目的にしていなかったら多分こうなってました(白目)
というかセインさんが便利すぎる。後、チンク姉も限界がどれぐらいか知らないけどビルの鉄骨を爆弾に代えれば半壊ぐらいはできるよね。この二人テロするだけなら絶対最強だよ。
舞弥ポジ獲得も夢じゃない(冗談)

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