第1弾-変わらぬ朝の一時-
とある寮の一室ーーまだ朝日が登り始めたばかりの時間帯に、元気良く目覚まし時計が起床を訴えていた。
ピリリリリリ!ピリリリリリ!ピリリリリリ!
「うるっせえええええ!!!」
その目覚まし時計の音に反応して、起きてしまったのであろう、少年の表情はこれ以上ない位眠そうだった。
少年の名前は冬月夜一(ふゆつきよいち)。東京武偵高の探偵科に所属する2年生であるーーー
「あー…目覚ましの設定時間変えるの忘れたのか…」
眠い目を擦りながら、ベッドから出て時間を確認すると、午前5時。後1時間は眠れたのにと内心思いながら、洗面所へと向かう。2度寝はしない。絶対に遅刻すると経験上わかっているからである。顔を洗ってまた寝室に戻ると、同居人てある遠山キンジは隣の2段ベッドの下で気持ち良さそうにイビキをかいて眠っていた。
「……ふんっ!」
「げぼぁ⁈」
「……しまった、またやっちまった!」
あまりにムカついたので、つい鳩尾を殴りつけてしまった。やってしまったことは仕方が無いので、キンジを放置して寝室から出てトイレに隠れると、そう時間も経たないうちにキンジの怒鳴り声が聞こえてきた。
「おいこら、夜一!俺の安眠妨害これで何度目だぁ!」
どうやらキンジは大変ご立腹のようだ。トイレを出て声のする方に向かうと、おおよそ人には見せられないほどの表情をした人と対面した。ヤバイ、なんか人を2、3人殺っ
てそうな人が目の前にいるぞ。取り敢えず朝の挨拶をしてみるか。
「おはよう、顔の怖い人。よく眠れたか?」
「お前がそれを言うのか、お ま え が!あと誰が顔の怖い人だ!」
「そうカリカリすんなって、いつものことだろ。そんな事より顔洗ってこい顔。人様には見せられないような凶悪な顔になってんぞ」
「いらんお世話だ、それと自覚があるなら直す努力しろよ…」
怒鳴ったおかげで少しは落ち着いたのか、諦めたような声音で俺に注意した後、キンジは部屋をでて行く。それを見た俺は寝室にそのまま戻り、寝間着からトレーニングウェアに着替え、玄関に向かう。未だ洗面所から出てこないキンジに、2度寝しないよう一声かけた後、ランニングへと向かったのだった。
「なんか今日は黒猫をよく見かけたな…」
ランニングを終えて、タオルで汗を拭きながら戻ってくると、黒い髪の女子生徒が重箱を持って部屋の前に立っていた。あれは…
「おはよう、星伽さん」
「あ、おはよう夜一くん」
「今来たところ?」
「ううん、少し前に来たんだけど、インターホンを押してもキンちゃんも夜一くんも出てこないし、寝てるのかなって…」
「…ちょっと待っててくれる?あ、入っててもらって大丈夫だよ」
星伽さんを部屋に入れた後、俺は寝室へと向かう。そこには予想通り2度寝に興じているキンジがいた。
「起 き ろ、2度寝ヤロー‼︎」
「がぼぉ⁉︎」
朝と同じように、いや朝よりも強めに鳩尾に拳を叩き込む。2度寝をするなと言っておいたのに…!
「何しやがる夜一!」
「それはこっちのセリフだキンジ、2度寝したら起きられないお前の事を慮って忠告していったのに2度寝しやがって!もう星伽さん来る時間だろうが、てかもう来てるけどなぁ!」
「なっ、もうそんな時間かよ!すまん、起こしてくれて助かった」
「おう、感謝しろ」
ついでに朝の事もなかったことにしてくれると嬉しいんだが、
「朝のことは許してないがな」
「……チッ」
「毎度の事ながらほんとに反省してんのかお前は……」
ひとまず、キンジが部屋着に着替えるのを待って部屋から出ると、星伽さんがちょうど食事の準備を始めたところだった。
「あ、キンちゃん!」
「その呼び方、やめろって言ったろ」
「あっ…ごっ、ごめんね。でも私…キンちゃんのこと考えていたから、キンちゃんを見たらつい、あっ、私またキンちゃんって…ごっ、ごめんね。ごめんねキンちゃん、あっ」
おいおいキンちゃんがゲシュタルト崩壊しそうになってんぞ星伽さん。キンジもつきあい長いんだから呼び方ぐらい好きにさせりゃいいのに。
…実は毎朝繰り返されるこのやりとりも楽しみの一つなので、いつもならもう少し放っておくのだが、今日はキンジのせいで時間が無いのだ。よって早々に星伽さんに助け舟を出すことにした。
「まあまあ星伽さん、キンちゃんのこれは照れ隠しだって。恥ずかしがってるだけだよ」
「誰がキンちゃんだ。あと後半はともかく前半はあってないぞ」
「そ、そうなの?」
「いや、白雪。夜一の言うことを真に受けるな」
助け舟を出したつもりが、また別の会話が展開されていた。…時間無いの分かってんのかね二人とも。
ちなみにこの部屋に今お弁当を持って尋ねて来ているのは星伽白雪(ほとぎしらゆき)さん。キンジの幼馴染で、よくこうして朝食を作って来てくれるのだ。最初はキンジの為に作って来ているのだろうから、俺は遠慮しようとしたんだが、それは申し訳ないと言われて、結局今はご相伴に預かっている。その代わりと言ってはなんだが、星伽さんにはキンジの写真を進呈することにしている。もちろん、盗撮だがキンジには秘密だ。
星伽さんが持ってきた重箱入りの朝食を食べ終えると、キンジが、
「あ〜、その…いつもありがとな、白雪」
と、言う。おお、今日はいつもと違ってしっかり礼を言えたなキンジと思ったところ、今度は星伽さんが
「えっ。あ、キンちゃんもありがとう…ありがとうございますっ」
と、言い、三つ指をついて深々と頭を下げた。
…これが土下座に見える俺はきっと何処かおかしいんだ、そうに違いない。そんなことを考えていると、隣にいたキンジが星伽さんから目を背け、必死に何かを我慢していた。どうした、キンジと言いかけてやめる。恐らくいつものアレだろう、と。毎度のことながら、キンジも難儀なことだよな…
なんとか耐えられたのか、キンジはホッと胸をなでおろしていた。大方原因は星伽さんの胸やら下着が見えたとかそんなところだろう。…俺は見てないのかって?記憶に無いな。
俺とキンジが着替えていると…
「はい、キンちゃん、防弾制服」
と言いつつ、星伽さんが防弾制服と拳銃を持ってきた。
「始業式ぐらい、銃は持っていかなくてもいいだろ」
「ダメだよキンちゃん、校則で決まってるんだから」
そう、俺やキンジ、星伽さんらが通っている武偵高は校則で、『学内での拳銃と刀剣の携帯を義務付ける』と定めている。
キンジの銃はベレッタM92F。FPSゲームとかにも登場する割と有名な銃だ。ちなみに俺の銃はベレッタPx4Storm。名前は似ているがキンジのと違って、この銃はカスタマイズによって全部で3種類の弾丸が撃てる。普段は金銭的な理由で9mmが撃てるようにカスタマイズしてあるんだけどな。他に近接戦闘用のサバイバルナイフと牽制用の投げナイフを数本持って、太刀は…まあ特別な任務が入ってるわけでもないし、いらないか。
「それにまた、《武偵殺し》みたいなのが出るかもしれないし…」
「また…って《武偵殺し》は、捕まったんじゃなかったか?そんなに心配するようなことでも…」
星伽さんの懸念に対して疑問を述べる俺。キンジもそれに同意するかのように頷いている。
「正確には出てきてないんだけど、模倣犯がでるかもしれないし…もしキンちゃんに何かあったら、私…ぐすっ…私っ」
あーキンジが星伽さん泣かした。キンジは多分何も悪いことしてないけど。
「あー、分かった、分かったから‼︎」
そう言いながらキンジは、机の引き出しからバタフライ・ナイフを取り出すと、調子を確かめるように開閉した。持ってくのめんどくさそうにする割に、妙に様になってんだよなー。
「キンちゃん、凄い!!やっぱり先祖代々、正義の味方って感じだよ」
「…止めてくれよ白雪。ガキじゃあるま……いや、なんでもない」
お、キンジよく言い留まったな。なんとなく否定しづらいよな、知り合いにマジで正義の味方目指してるやついると。
「…夜一」
「どうした」
「アイツには言うなよ」
「別にいいけど、気にしないと思うぞ?」
「…俺が気にするんだよ」
そう言いながら、キンジは共用PCの電源を入れた。
「白雪、先に学校に行っててくれ。俺はメールを確認してからいく。」
「あっ、ならお掃除とかお洗濯とか…」
「心配いらないよ、星伽さん。昨日のうちに全部終わらせちゃったからさ。それに今日は始業式だし、生徒会の方も忙しくなると思うよ。先に行って準備した方がいいんじゃないかな」
俺がそう言うと、図星だったのか星伽さんは渋々頷き、
「じゃあ、キンちゃん、後でメールくれると嬉しいです」
「わかった」
キンジの言葉を聞いた星伽さんは笑顔を見せて出て行った。
「どうだキンジ、メール来てたか」
「ちょっと待ってろ……あ、弓士さんから来てるぞ」
「あの人から?」
「……今年から桜と美遊が高1になる、お祝いのパーティするから放課後空けとけ、だとさ」
「……一月前にも卒業祝いという名のパーティをした気がするんだが」
「したな。まあ夕飯代浮くし、俺は嬉しいけど」
今日は始業式だから放課後どう暇を潰そうかと思ってたけど、いらぬ心配だったわけか。
「キンジ、俺も先に学校行ってるぞ。遅れんなよ」
「……バスに乗ってきゃ早いのに」
「馬鹿言え、あんな窮屈なとこにいられるか」
キンジにそう言って家から出る。
腕時計を見ると7時20分、充分間に合う時間だ。俺は走って家を後にした。
このすぐ後、俺は朝見かけた大量の黒猫の意味を知ることになるのだがそれはまた別の話であるーーー
いかがだったでしょうか1話。普段別に書いている物よりは少し短めにしてみました。続くといいですね(願望)
アニメAA始まりましたね。なぜ原作の2期の方をやってくれなかったのかと、未だに残念に思っています。
まあAAも好きなので見ることに変わりはありませんが。
大きな出番は後の方になるとは思いますが、取り敢えずFateキャラ達はすぐ出します。もう名前がちらほら出ているキャラもいますけどね。
感想・評価・お気に入り・アドバイス等していただけると幸いです。よろしくお願いします!