(…糸を使う鬼って…何でジュエルシードの思念体が魔人シリーズの鬼になってるんだ?)
付け加えるならばファンディスクに出てくる前日談の第零話《龍之刻》の中で、初めて主人公の戦った異形の物が目の前の鬼だ。
前日談の中で戦った相手は、『不良→暗殺者→変生して誕生した鬼』、と戦う相手のランクが無茶苦茶なレベルで跳ね上がったのは突っ込み所なのだろうかと現実に直面して疑問に思う。
悪い事に戦っている総麻の年齢は高校生だった緋勇龍麻よりも遥かに幼く、不良や暗殺者との戦いで実戦経験も………ない方が普通だが。
「ふっ!」
そんな事を考えつつ鬼の懐に飛び込み相手よりも小柄な体格を利用して、真下から顎に向かって掌打を打ち上げる。
(…今のオレが使えるのは二つ…掌打と龍星脚の二つだけか…)
自由に扱えるのはその二つだけ。最も、打撃技ではダメージは与えられても倒せる等とはとても思えないが。内心、発剄が使えればとも思うが、魔力とは関係ない氣による攻撃が有効か否かは定かでは無い。
(ったく、何でこうなる?)
ジュエルシードの思念体が魔人学園伝奇の敵に変わっているのは、自分に原因があるとしか総麻は考えられない。……そもそも、考えられる原因がそれ以外には存在していないのだから。ならば、一応の責任として最低限の対処はする必要が有るだろう……。
(痛っ! 流石に素手だときついな…)
連続で打撃を叩き込みながらそんな事を思う。実際、総麻の手は鬼の体へと打撃を加えている掌が傷付き出血が出始めている。
(…手甲なんて贅沢は言わないけど、せめて“メリケンサック”位は欲しい…)
何気に物騒な凶器を欲してしまっているが、どうしてそれを装備して掌での打撃である掌打の破壊力が上がるのかは本当に疑問だ。
「これで…どうだ!」
最後に龍星脚で鬼の頭を蹴り上げて後ろにある壁まで吹飛ばすが、鬼は何事も無かったかのように立ち上がってくる。
「ゲッ」
「あのっ! どなたか存じませんが、あれはジュエルシードと呼ばれるロストロギアの思念体です。攻撃するだけでは倒せません! 早く封印を!」
なのはと一緒に居るフェレット、ユーノが叫ぶがその事に対して総麻には最大級の問題が有った。
「封印ってどうするんだよ?」
「え?」
総麻の言葉にユーノは唖然としてしまう。…………そもそも総麻の使っている力は魔力では無く氣であり、封印の方法は有るには有るがそれが相手に効くかどうかは分からない。第一発動させるのに時間も掛かるし。
「えええええええっ!? 確かに魔力もデバイスもバリアジャケットも無いけど……って、それじゃあどうやって戦ってたんですか!?」
「オレの力は『氣』だ。…魔力だけが力じゃない…って事なんだろ?」
「……『気』って
総麻の言葉にブツブツと呟きながら落ちたレイジングハートを拾って、総麻に差し出してくる。
「……悪いけど、使ってる暇は無い!」
総麻が横に跳ぶと彼の後ろに有ったコンクリートの壁が鬼の手から伸びる糸によって切断される。一瞬でも止まれば確実にそれは総麻の体を切断する。氣によって体は強化されているとは言え小学生の子供の脆い体、そんな物にとても耐えられる訳が無い。
「じゃ、じゃあ……」
「そっちにいるだろう、オレより先に使わせようとした相手が」
一瞬だけ向ける総麻の視線の先にはなのはの姿が有った。
「わ、私っ!?」
本来ならば、レイジングハートと言うデバイスは彼女の手に渡るのが正しい運命だ。ならば…。
「そ、そうだった」
「……忘れるなよ……」
まあ、素手でデバイス所か魔力も使わずに凶暴な思念体と戦っている人間を見れば仕方ないと言えば仕方ないが、すっかり忘れていたユーノに対して突っ込みを入れる。
「私、やるよ!」
ユーノから受け取った赤い宝石……レイジングハートを手にとって、なのはは決意を込めてそう言った。が、
『ガァァァァァァァァァ!!!』
「うっ……」
子供一人に良い様にやられている現状に苛立つように咆哮する鬼の姿に震えている。無理も無いだろう、相手は漫画や絵本の中の何処か親しみのある物ではない。かと言って作り物の様に悪戯に恐怖を煽る物ではない。現実に存在しているリアルな鬼だ。そんな物を見て恐怖を感じない方が不思議だろう。
「高町……オレは他人を信じない、人は何時か必ず裏切るモノだ。友情? そんな物は単なる
「そ、そんな事…」
“誰も信じない”、そんな悲しすぎる考えを否定しようとするなのはだが、総麻はそれよりも早く次の言葉を告げる。
「……だけどな……。“今、この瞬間”だけはオレを信じろ……」
総麻の体から浮かび上がる蒼い《陽》の氣。
「信じるよ!」
『だから自分の事も信じて欲しい』と言う様に戸惑う事無く言い切る。
「ハァァァァァァァァァァァァアア!!!」
龍星脚を交えての掌打での連続攻撃。後ろから発生する桜色の光の柱を見る事無く、一瞬たりとも手を休ませる事無く連打を続ける。
続け様に繰り出される打撃によって生まれる全身の疲労が総麻の体から余計な力を奪い、その一瞬の動きが…………総麻に与えられた《技》と《力》が総麻に一足跳びにその技を与える。
「円ッ、空ゥ、破ァ!!!」
叫ぶのは最も力が抜け、自然体の動きで放たれた技。円の動きと共に放たれた氣が、至近距離で弾けた氣が鬼の姿を崩壊させ、その姿を黒いスライム状の物体へと変える。
鬼の姿が消えた瞬間、
「リリカル・マジカル。封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシード! ジュエルシード、封印!」
『SEALING MODE SET UP』
なのはの声でレイジングハートの形が変形すると桜色の光の帯が鬼の姿を失った思念体を拘束する。
『STAND BY READY』
「ジュエルシード、シリアルⅩⅩⅠ! 封印!」
『SEALING』
光の帯が思念体を貫くと、その姿を消滅させ、後には青い宝石『ジュエルシード』だけが残った。
「これが、ジュエルシードです。レイジングハートで触れてみてください」
「う、うん」
なのはがユーノの言うとおりにレイジングハートで触れると、それは先端の赤い宝石の様なパーツに入っていった。それによって、封印作業が終わったのか、彼女の服装も元に戻り、レイジングハートも元の宝石に戻った。
「お、終わったの?」
「はい、ありがとう……貴方達のお蔭で大きな被害は……」
それだけ言い残してユーノは再び気絶してしまった。
「はぁ……」
そんな一人と一匹(?)のやり取りを横目で眺めながら総麻は一人溜息を吐く。溜息を吐く度に幸せが一つ逃げていくと言うが、どうしても出てしまう時は出てしまう物だ。
(……状況が最悪過ぎたとは言え、ユーノにオレの《力》を見せてしまった。……最悪だ……)
《氣》を一種の
(……ユーノの無差別念話が聞こえたって事はオレは間違いなく魔力持ち、しかも魔力を一切使わずにジュエルシードのモンスターを素手で圧倒できる戦闘力の持ち主……って、あのフェレットモドキのせいで厄介事が降りかかってくる危険性が大きいじゃねぇか……)
主に管理局からの接触とか。まあ、一年もせずに守護騎士辺りのせいで巻き込まれるだろうから、ユーノから知られたとしても僅かな時間差の問題でしかない。運が悪ければ売星奴のグレアムとか言う元地球人経由で。故にそれもどうでも良い。
まあ、総麻としては不完全な未来予知について、グレアムに事情については理解しても、それを地球で行った点が最大級の許されざる一点だ。……この世界を害する悪鬼として討ってもいい位に。
(いかん、考えが危険な方向に向かってる。……どっちにしても憂鬱だ……。……父さん達に気付かれる前に帰って寝よう……)
「あ、あれ!? 大丈夫!? って、総麻くん何処行くの!?」
『明日考えれば良いや』と投げ遣りな気持ちで結論付けてなのはとユーノを放置して立ち去ろうとすると、何故かがっしりとなのはに服を掴まれて逃走を阻止されてしまう。
「……何処って今何時だと思ってるんだよ? 帰って寝るに決まってるだろ」
「で、でも、フェレットさんが!?」
「……気絶してるだけだろ、それ?」
慌ててるなのはを他所に彼女の手の中に居るユーノを一瞥してそう判断する。念の為に癒しの力で回復させてやっても良いのだが、それをして追求されても面倒なので敢えてしない。ユーノを害する理由は無いが、助ける義理もないのだ。
「良かった……」
「そうだな、無事で良かったな。それで、この手を離してもらえるか? 帰れないんだが……」
「あ。ま、まだダメなの!? 総麻くんには他にも聞きたい事が……」
どうやら、なのはは総麻の力について聞きたいらしい。総麻にとって《力》は他人になるべく話したくない物に分類される。下手に情報を流して対策をされても面白くないのだから。だが、なのはは総麻が話すまで開放してくれる様子は無い。
そんななのはをどう対処すべきかと悩んでいると、サイレンの音が聞こえる。なのはは思わず回りを見てみる。周りは電柱が倒れた上に壁も含めてコンクリートが滑らかに切り裂かれている。
「も、もしかしたら、私達が此処に居ると大変な事になるんじゃ……」
「ああ。間違いないだろうな。少なくとも、普通の小学生が居て良い場所でも時間でもないだろ? 間違いなく捕まるな……警察に」
「ど、どうしよう」
「……いや、速やかに此処を離れるそれ一択だろ」
そう言って総麻は服を掴んでいるなのはの手を指差す。
「そう言う訳で話してくれるか?」
「あ、うん」
総麻の冷静な指摘に手を離すなのは総麻は離した手を逆に掴み、
「そうだな……取り合えず、警察に見付からない様に家まで送って行ってやる」
「あ!? ありがとう」
総麻の言葉に嬉しそうに言葉を返す。少しでも自分の事を信じてくれたのかと思ったなのはだが、甘かった。
「ただし、今日の事は詮索するなよ」
「う、うう~……でも……」
「じゃあ、一人で帰るか?」
言外に『警察に捕まっても知らないぞ』と言う総麻の言葉に今度は思わず唸ってしまうなのはだった。
「……分かったの」
「オッケ、交渉成立。行くぞ、高町」
「う、うう……。なのはだよ」
何度も名前で呼んでくれと言っているのに未だに名前で呼んでくれない相手にそう言うが、当の総麻はなのはの手を引いて警察の居ないルートを選択し、高町家へと歩を進めていくのだった。
そんな総麻を眺めながら、なのはは総麻と友達になって人を信用させる事と、総麻の力の事を聞くと強く決意するのだった。