この男、只今修行中   作:misuta

7 / 8
第七話「この男、只今能力を開花」

 

能力…幻想郷では神や妖怪、一部の人間なども持っている力。

時に使い方を誤れば取り返しの付かない事にもなり得る。

危険すぎる故に封印、最悪…滅されることもあると言う。

力は抜き身の刃…鞘は己の理性と考えておこう。

 

「また気絶したか…」

 

朝、目覚めると昨日の事を思い出して呟く。

確か昨日は神奈子さんと弾幕ごっこの修行していたよな。

んで、最後に全部避けて喜んでたら御柱から落ちそうになって…。

やっぱり修行不足…恥ずかしいな。とにかく走りこむか。

のっそりと起き上がって布団を畳もうとした時、

右腕の手首に何かあった。

 

「注連縄?」

 

まるで左手の鉄の輪に相対するようにある右手の注連縄。

神奈子さんがつけてくれたお守りだろうか?

とりあえず走りこんで、朝飯の後に尋ねてみるかな。

 

「健、おはよ~」

 

「おはようございます」

 

道着のまま外へ出ると諏訪子さんがいた。

珍しいな…いつもならまだ寝ているはずなのに。

どうやら走りこみに付き合ってくれるらしい。

と言っても飛んでいるんだけどな、この神は。

 

「神奈子にだいぶ扱(しご)かれたみたいだね~」

 

「修行が足りないから厳しいほうがいいですよ」

 

「早苗が心配のあまり怒っていたからね~。

 

 飛べない健にいきなりスペルカードを使うなんて~って」

 

「確かに飛べないですけどね…でも」

 

俺は蛙の構えをして一気にジャンプすると

守矢神社の屋根くらいまでの高さまで跳んだ。

そして着地する…何故かこの時の衝撃は全く感じない。

すると諏訪子さんは笑顔で見ていた。

気のせいだろう…帽子まで笑っているように見えるのは。

 

「おぉ~修行の成果が出てきたね」

 

「諏訪子さんのお陰ですよ」

 

「よしよし、じゃあ今日も修行を頑張ろう!」

 

「はい!」

 

いつものように御柱を担いで走り出す。

でも諏訪子さん…確かに頑張りますけど、

御柱の上に座られるとバランスも考えないといけないんですよ?

 

 

 

「そういえば神奈子さん、これは何なんですか?」

 

朝飯も終えて掃除をしようと思ったら注連縄の事を思い出し、

お茶を飲んでいる神奈子さんに尋ねてみた。

すると今思い出したかのような顔で俺を見て。

 

「昨日の修行の褒美よ。面白いものを見せてもらったし」

 

「褒美ですか…ではありがたく頂戴します。でもこれはお守りですか?」

 

「あら、私がそんなものをあげると思う? いつかはそれの意味がわかるわ」

 

意味深な言葉を神奈子さんが言うも俺には理解できなかった。

…まぁいいか、修行でもするか。

今日は新しい修行らしいし…頑張ろう!

 

「む~…」

 

「そんな睨めっこしても相手は笑うどころか泣いちゃうよ?」

 

「昔からそうでしたよ…って何言わせるんですか!?」

 

相変わらず目つきについて弄る諏訪子さんに思わず突っ込んでしまう。

別に俺は睨めっこをしているわけではない。

諏訪子さんから【能力の発生】を言われているから集中している。

ただ俺は黙想や座禅など【静】の姿勢は好きではない。

昔からひたすら体を動かしているほうが多い所為か、運動しているほうが集中できる。

 

だがこれはそうもいかないらしい。

能力といっても…さっぱりわからん。

ただの人間だった俺ができる事といったら

格闘と家事とガンプラ作り(趣味)くらいだぞ?

 

「埒が明かないな~。少し散歩して気分転換でもしてきたら?」

 

「そうですね、じゃあ少しだけ」

 

ずっと見ていて飽きたのか諏訪子さんに言われて、

俺は立ち上がって近くまで散歩する。

この山は本当にいい所だ。

空気は美味いし、自然の豊かさが溢れている。

そういえば諏訪子さんがこの先に滝があるって言っていたな。

行ってみようかな…大瀑布の美しさも好きなんだよ。

 

 

奥へ歩くと美しくも壮大なる滝が俺を待っていた。

カメラがあったら撮りたい所だが…今度文さんに風景写真でも頼もうかな。

近くの大きい石に座って滝を見ているとふと独り言を呟く。

 

「自然はいいな、外にいた頃は自然のありがたみが薄れていたが…ん?」

 

何となく呟いた独り言に何かを感じたその時、

上から何か来るのを感じた。

そのまま右へ転がると先程立っていた場所に巨大な刃が刺さっている。

危なかった!? ぼんやりしていたら刺さっていたぞ!?

 

「この山は妖怪の領地、人間なんぞが入っていい場所ではない!」

 

上を見上げると白い服に赤いスカート、白髪の少女がいた。

文さんと同じ帽子を被っていることから天狗の一人か。

どうやら俺を敵と見なしている。

守矢神社の物だと言わなければならないな。

 

「待て、俺は「問答無用だ!!」クソッ!!」

 

そう叫ぶと刺さっている剣を回収しながら低空飛行のまま切り掛かってくる。

さすがにまずいと俺は岩の拳を手刀の形にして剣を防いで鍔迫り合いみたいになる。

しかし何て力だ…! 修行していなかったら間違いなく斬られていた。

だが! 売られた喧嘩なら買ってやる…覚悟しろよ?

 

「な!?」

 

俺は鍔迫り合いの状態のまま体を左側に捻りながら右足を上げ、

相手の腹を目掛けて前蹴りを喰らわそうとする。

だが向こうの反応も早く咄嗟に左手の盾で蹴りを防ぐ。

弾幕は甘いと思ったが接近戦は強いな…!

このままでは埒が明かない…互いにそう思ったか。

後ろへ下がりつつ距離を離すと構えたまま相対する。

 

「てやぁぁぁっ!」

 

向こうが剣を下段から振り上げると俺の足元を狙うかのように弾幕を放つ。

俺は蛙の構えをして一気に跳んで避けた。

【八艘蛙跳び(はっそうかわずとび)】

諏訪子さん命名だ、牛若丸みたいで俺も気に入っている。

 

「隙あり!」

 

「!?」

 

この滞空時間を狙ったのか、真っ直ぐ俺に斬りかかる。

やばい!…俺は咄嗟に左正拳突きを構えながら集中する。

地に着かないと不安になるものだ…大地に感謝したいな。

感謝? そういえば儀式の時の言葉を思い返せば…

 

『大地を讃え、崇め、畏れ、敬わん!』

 

初心忘れるべからずだな…やはり俺は未熟だ。

この拳は大地があるからこそ手に入ることが出来た。

なら俺はどうするかは簡単なことだ。

 

「大いなる地よ…その力をこの拳に宿れ…」

 

俺達は大地に生かされている。

それに感謝し、讃えればいいんだ。

次の瞬間には剣が俺の体を斬ろうとして迫ってくる。

 

「はぁぁぁっ!」

 

「この気持ちを拳に込めて…ハァッ!」

 

すると岩の拳が瞬時に巨大化し、相手の剣を叩き折る。

だが向こうは零距離で弾幕を放とうとし、

俺も右の拳で勝負をつけようとした。

互いに譲る気もなく相討ちを覚悟したその時だった。

 

「健、そこまでだよ!」

 

「椛、やめなさい!」

 

「「!?」」

 

いきなり投げかけられた言葉に俺も相手もピタリと止まってしまい、

俺はそのまま着地して声の主を探す。

すると諏訪子さんと文さんがいた。

どうやら相手…椛は文の姿を見ると何故という顔で見ている。

あれ? 諏訪子さんそんな怒ったような顔してどうしt―

 

「健の馬鹿! 悪人面!」

 

「え?」

 

「何で私が見ていない時にこんな危ないことをするの!」

 

「も、申し訳ないです…」

 

突然怒り出す諏訪子さんに俺は思わず正座してしまう。

初めて怒られたな…帽子まで怒っているし。

やっぱりアレは生きているのか?

 

「健、聞いているの!?」

 

「は、はい!」

 

「これは早苗達にも言うからね! 一回早苗に怒られろ!」

 

「本当にすいませんでした! ですからそれだけは勘弁してください!!」

 

諏訪子さんの言葉に俺は土下座して懇願する。

心配してくれるのはありがたいけど早苗さんに言うのはやめてほしい!

あの人は静かに怒るから怒鳴られるよりも数倍怖いんだよ!!

 

「文さん、もしかしてあれが?」

 

「やっと気づいたのね、彼が今修行している現人神よ」

 

「とても神とは思えないですね、修行不足なのでは?」

 

「でも椛、あなたも剣を折られて動揺して動きが一瞬止まっていた。

 

 結果としては相討ちになっていたのだから修行不足はお互い様よ」

 

「…はい」

 

 

 

「………」

 

「………」

 

俺も諏訪子さんも黙って守矢神社に向かって歩く。

しかし空気が重いな…迂闊な事を言って火に油を注ぎたくないし…。

さてこの場をどうするかと考えていると、

 

「健、最後の攻撃…あれは何なの?」

 

「はっはい。 え~と、大地への感謝を拳に込めたら拳が巨大化して…」

 

突然な質問に俺はしどろもどろ答える。

正直俺も咄嗟に思いついてやった事だからな…。

すると諏訪子さんが振り向くといつもの笑顔で、

 

「じゃあ…今日の修行は成功かな」

 

「え?」

 

その言葉に思わず俺は唖然としてしまう。

確か修行は能力の発生だった…能力?

いまいち自覚が無いな。

 

「諏訪子さん、俺の能力って一体?」

 

「岩を操る程度の能力…それが大地を司る現人神の能力だよ」

 

岩…か、名前通りシンプルでいいかもしれない。

今はこれだけしか出来ないだろうが…これもまた修行すれば幅が広がるだろう。

やるしかない、明日からまた修行だ!

 

「今日の事は…夕飯で私の好物を出してくれたら許してあげる」

 

「ありがとうございます! 何でも作らせていただきます!」

 

こうして俺は諏訪子さんと和解し、能力も定まり、

早苗さんのお説教も回避した…よかった。

今日の晩飯は…けんちん汁と焼き魚と厚焼き玉子(諏訪子さんの好物)だな。

腕を振るって作らせて頂こう!

 

しかし、悪い事は隠せないもんだと悟った。

後日文さんが取材と題してその事を早苗さんに言ってしまい、

当事者の俺と師匠兼保護者の諏訪子さんは正座して約2時間以上、

お怒りになられた早苗さんからお説教を受けたのだった…。

人外になっても長時間の正座で足が痺れて動けなかった。

 

あ の 鴉 天 狗 め ぇ ! !

 




閲覧ありがとうございました。

健が能力で操れるのは「岩の拳」のみです。
成長すれば何かしら応用できると思いますがとにかく修行積むしかありません。
因みに、この作品内の早苗さんは静かに淡々と無表情でお説教するので怖いです←

また次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。