鬼脚   作:algn

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prologue

 第三次世界大戦―――

 またの名を、人類終末戦争。

 文字通り世界中を巻き込んだ大戦争で、多くの人間が、国家が、この戦争に巻き込まれ消滅していった。

 世界の総人口はピーク時のおよそ3分の2まで減少、実に40億以上の人間が犠牲となったこの戦争に終止符を打ったのは、奇しくも第二次大戦のときと同じ大量殺戮兵器の投入だった。

 なんということはない。都市区画を吹き飛ばす巨大な弾頭ミサイルでユーラシア大陸に大穴(クレーター)を作った、それだけの話だ。

 表の世界では、そういうことになっている。一般人が知りえる範囲では、それが限度だった。

 では、裏の世界ではどうなっているのか。

 お察しの通り、表の世界で語られているのは大衆を納得させる、説得力のある言い訳に過ぎない。まったくの偽りではないが、様々な専門用語と曖昧なデータを駆使し、真相は隠匿され続けた。

 では、肝心の真相とはいったい何なのか。それを語るには、この出来事の過去から合わせて語らねばなるまい。

 あの時いったい何があったのか、真相とは何なのか、なぜ隠匿されなければならないのか……

 ここに、その始終を記すことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その話だったら今終わらせました、それよりも次はまだ勘弁してください、流石に休憩をですね」

 黒長のズボン、白のワイシャツに身を包んだ青年が、手に持った小型のデバイスに何か話しかけている。

 そこは廃墟だった。否、廃墟というにはまだ真新しさの残る建物だったが、その破壊具合を見る限り、やはり廃墟と言わざるを得なかった。

 何かの事務所だったのだろうか、事務机が薙ぎ払われたかのように転がっている。蛍光灯もついていないためか昼間だというのに薄暗い。壁紙も焦げ付き、中のコンクリートがむき出しになっている。そこかしこに建物のものだと思われる破片が転がっている。

 だが、それ以上に死が充満していた。あるものは焼け焦げ、あるものは大穴が空き、あるものは原形すらとどめない。端的に言えば、死屍累々、地獄絵図、どうしようもないほど死体が転がっている。

 異臭が漂い、その真ん中に佇む青年はしかし、涼しい顔をして立っている。

「消火ですか?あぁはい、もう済んでます。何らかの薬品に引火して爆発したとでもいえばなんとでもなるでしょう」

 青年の外見について詳しく描写するとしよう。黒ずんだ髪、体つきは平均的な成人男性のものに近い。白のポロシャツも、ところどころ煤汚れている。

 が、中でも一際目を引くのは、その右足である。長ズボンの右脚部分は布がなく、根元部分からバッサリと切り落とされている。そこから覗く真黒な脚部には、血管のようにも見える、朱色のような線が走っている。朱色というよりもむしろ燃え滾る炎のそれに近い色だ。

 生物的な外見でありながら、どこか機械を思わせる外見でもある。相反した感覚を抱かせるそれは、彼の生涯を共にしてきたともいえる義足だった。

「わかりました、一度戻りますね。はい……あ、そうですか。じゃあ続きは戻ってからでいいですかね?」

 デバイスの電源を落とす。ため息を一つ。そのあと彼は壁を蹴り抜いて外に出た。

 彼の名は朱挫 啓(あかざ けい)、裏世界の何でも屋、『ギルド』のメンバーである。いわゆる裏の人間、という括りになるだろう。

 啓の仕事はギルドに舞い込む依頼、その中でも破壊・壊滅系統の仕事を受け持っている。力任せの仕事は啓の得意分野だ。

 なにせ啓の手にかかれば―――というよりは足にかかれば、と言えるが―――ビル一つを一人で壊滅させることすらも容易なことだ。

 啓の義足から繰り出される蹴りは、鉄を貫き地面を割る。四肢はその物質によって強化され、蹴りによって生じる反動に耐えられる強度を持っている。この義足を持ちうるのは啓のみ、まさに人間兵器といえよう。

 細かい注意も躊躇もいらない、そんな力づくの仕事にもっとも向いている。

 その足は、他人のあらゆる苦労を、功績を、嘲笑うように蹂躙する。故に啓は、この義足のもう一つの力と合わせ、こう呼ぶことにした。

 灼熱鬼≪しゃくねつき≫と。

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