てかこれは三人称なのかなぁ
翌日、再び集まった5人は一つの食堂の机を囲んでいた。中心には多くの記号が記された地図のようなものが数枚。付箋のついた日本地図、それぞれの地点の拡大図には侵入、逃走などの文字とともにいくつもの色を使い分けて矢印が所狭しと並んでいる。一時間前に撮られたという航空写真もあるが、そちらには何も書かれていないようだ。
「どうも拠点らしきものがいくつかに分散しているらしいです。まぁ攪乱とかが目的でしょうし、一つずつ潰していきます。西日本に固まってますし、そこまでの期間も必要ないでしょう」
啓は日本地図の付箋部分を指さす。
「中国に2つ、四国に1つ、九州に1つ。どうも瀬戸内に偏っているようですな」
示がその指先、地図に記された地点を見ながらぽつりと漏らす。傍らには彼の愛用のカバンがあった。黒く塗装されたそれは部屋の光を反射し、鈍く光っている。
一方、グレッグはそれぞれの拡大図と航空写真を手に取り、それらを見比べて眉間にしわを寄せていた。
「どの地点もどこからどう見ても廃墟じゃねぇか……そんなところを本拠地だのなんだの言ってるんじゃァ悪役としちゃ三流だろうに」
「確かにどこも廃墟のようですがね。おそらくは地下施設か、もしくは本当に本拠地……アジトとでも言いましょうか。その、アジトにしているのか」
グレッグの意見に同意らしい啓。彼はどちらにせよ、と言葉を続ける。
「彼らが何を考えてようが仕事は変わりません。組織ごとつぶさなきゃいけないんですから」
この言葉にほかのメンバーもそれもそうだ、と納得し、細かい作戦を立て始めた。
「……あの」
その中で唯一、何も話していなかった奏が口を開いた。
「はい、何ですか東上寺さん?何か思い当たることでも?」
啓が続きを促す。奏は頷き話を続けた。
「その、廃墟、というのはわかりました。今回は偵察なんですよね?もしただの廃墟だったら潜り込むんですか?」
「と、いうと?」
「ですから、その……」
言いにくい、というよりも言葉が見つからない様子の奏。少し間が空いて横から環季が口を挟む。
「あー、分かりました!つまりですね!ただの廃墟だけ……先輩が言ってたような地下施設とかもない場合、私らが入っていって、隠れるとかより前に狭すぎてすぐ見つかるんじゃないか!とおもうんですよ私!」
そう。廃墟といっても、ファンタジーの中に出てくる西洋の城のようなものではない。航空写真を見る限り、それらは平屋、それも一階しかない小屋のようなものだ。さらに台風や大雨などで崩れた部分も多く、本来ならば人が3人入ればいいような、そんな狭さが見て取れる。もしその中に相手が2人いたとしたら、いくら気配を消そうと何をしているのか、様子を探る前にたちまち発見されてしまうだろうことは容易に想像できる。
「そうですね……見た感じ周囲も畑ばかりでほとんど更地、相手の警戒度合いによっては偵察、というか探りを入れる前にこちらを発見、なんて事態になりかねませんね」
ふむ、と考え込む啓。もし言ったとおりに発見されれば、他のアジトに連絡を回すだろう。わざわざ拠点をばらけさせているのだ、そのあたりの連絡網もしっかりしているはずだと啓は踏んでいた。万が一そうなれば、そのあと行動に移す際に面倒なことになることは予想できるだろう。
「あ~あ、いっそのこと廃墟ごと焼き払えねぇかなァ」
拡大図や写真を机に放り、盛大にため息をつくグレッグ。啓も同調したかのようにため息をもらす。
「殲滅だからそれでもいいんですがね。彼らの資料から人身売買のバイヤーを一網打尽にできるかもしれない、それを考えてしまうと……」
「一息に焼き払うこともできねぇってか?そうなんだけど、そうなんだけどなぁ……」
環季もうんうんうなりながら、何とか解決策を考えようとしている。だがもともと考えるのに向いていない性格をしているため、すぐに机に伏せてしまった。
それを横目に見ながら、示が提案する。
「囮というのはどうですかの?その拠点に潜む輩の気をひきつけ、その間に誰か他の者が中を探るのは」
なるほどそれもありかもしれない、と啓はつぶやく。しかしその案にも問題があることに気づいたのか、またため息をこぼす。代わりにグレッグがそれを指摘した。
「相手さんだって人身売買なんて危ない商売してるんだ、陽動なんぞに引っかかるほどアホじゃねぇだろうよ。もし引っかかったとして、そいつらが定期連絡とかやってたら、こっちのことを他に勘付かれるだろうなァ」
問題は2つ、1つはそもそも陽動に引っかかるかどうか。人身売買はギルドや他の裏に在住するような者にとっても大きなタブーである。あえてそのタブーに手を出すような組織が陽動なんて初歩的なものにかかることはほとんどないだろう。
もう1つは、万が一引っかかったとして、そのとき彼らの横のつながりによって、他の拠点に存在が露呈する危険性があることだ。もし定期連絡などをその組織が行っていたとしたら、引っかかった相手をどうしようとこちらの存在を知らせることになるだろう。
「手詰まりィ……だめだなこりゃ。偵察をあきらめるか資料をあきらめるかの2択っぽいぜリーダー」
グレッグが手を投げ出して椅子に座る。薄々気づいていた啓は、仕方ない、と結論を出した。
「偵察はあきらめましょう。それぞれの拠点を強襲、その時に情報を手に入れる流れで」
「意外ッスね、てっきり偵察の方をとると思ってました」
「偵察にかける時間とリスクと、拠点強襲の危険性。それらを天秤にかけた結果です。強襲に際しての作戦はまた後で決めましょう。とりあえず休憩です」
奏はへぇ、と気の抜けた返事をして席を立った。続けざまに示、グレッグが席を立つ。
「影志岐さん、起きてくださいよ。いつまでも席を占拠するわけにもいかないでしょ」
軽く体を揺らす。環季は眠っていたわけではないらしく、すぐに起き上がってどこかに行ってしまった。
啓はやれやれ、と息を吐き、机の上を片付ける。
「どうにも前途多難だ。ここまで悩むことも最近では珍しい気もする……」
啓はいわゆるソロ、という立ち位置だった。彼の義足が集団で動くには派手に壊しすぎる、という理由がある、とされている。
「さて、次の会議まで休みましょう」
すっかり片付けも終わり、資料をファイルにはさんで啓は歩き出した。