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買ってきた食材を食糧庫に置いて、とりあえずお茶を淹れて一服。神社から人里へ続く階段は結構な距離が有るので、歩いて往復するとなると結構足に来るのだ。いつもは玄爺が乗せて行ってくれたから気にはならなかったのだけれど、いざ自分の脚で歩くとなるとその距離の長さを実感させられる。玄爺に会ったら感謝しておかないと。
人里に出ても、朝からの違和感が晴れることはあまりなかった。途中で意識の外に出る事はあっても、その場を離れるとじわじわと戻ってくる。だけどあまりにも違和感が突出して来て、もう慣れたみたいなところもある。本当になんなのだろう、この違和感と言う奴は。
考えても結果が出ないことは分かっていたので、午後の日課である札作りに努めることにした。
お札はいくつあっても足りない。銃弾で言えば弾薬に当たるものだし、私(というか私が携わる異変)の戦術は弾幕をありったけばらまく戦法なので、暇な時に造れるだけ作っておいた方が良いのだ。一回の異変でかなり消費するし、札にもいろいろ種類が有るし。
居間に置いてある箪笥の一番下、専用の小道具がしまってある棚から筆と硯を取り出して机の上に。それからまた札の束と墨、水の入った小瓶を取り出して、机の上に一通り並べる。右に札の束、左に墨を敷いた硯を置くと、肩を一回回してふぅ、と息を吐いた。肩が凝るんだよなぁ、この作業は。
まぁ今更言って変わる訳でもなし、筆にちょんちょんと墨をつけて札にさらさらと書いていく。このとき、微妙な加減で紙に力を染み込ませるのがコツだ。あまり強すぎると使う時に爆ぜたり焼けたりするし、逆に弱すぎても使えない時がある。その加減も札を使う人それぞれだし、その加減は本当に慣れでしか分からないだろう。まぁ他の人のをあまり見た事は無いんだけど。
一定の力を染み込ませながら書く、と中々集中力のいる作業だが、もはや慣れてきた私にとっては簡単な事だった。それよりも力を上手く染み込ませるためにきちんとした姿勢でいなくてはならないため、体の色んな所が痛くなって来る方がつらい。七、八枚目の札を書き終えて首を動かすと、小気味の良い音がした。
「毎回毎回面倒なのよねぇ……誰か雇おうかしら」
冗談で言ってみたけど、良いかもしれない。ただ力を染み込ませながら書くだけだし、私より力が濃い人ならさらさらっと書くだけで何とかなりそうだし。あ、でも私が書かないと馴染まないから駄目か。と言うかこれ博麗秘伝の術だし他人に勝手に教えちゃいけなかった気がする。駄目だこりゃ。
「だからと言ってねぇ……毎回少しずつ生産が追い付いてないのよねぇ……」
「――おーい霊夢! いるのかー?」
そんな愚痴を吐いていると、境内の方からそんな声がした。私と同じくらいの女性だろうか。そんな声の主に心当たりはないが、もしかしたら忘れているのかもしれない。さっきも慧音さんと言う例があったし、少し息抜きになるだろうと思い応答することにした。
「霊夢ー? ……いねぇのか……?」
「はいはい、呼んだかしら?」
二回目の呼びかけに答えながら、境内に顔を出す。どうやら相手はせっかちな性格らしい。私とおんなじくらいの年齢で、こんな声で、せっかちな人間……駄目だ、心当たりがない。そんな知り合い本当にいたっけ……?
「おう霊夢、死んだかと思ったぜ」
最初に目についたのは、流れるような金髪だった。
竹箒を肩に担ぎながらこちらに向けた顔は、まだ幼さが残っていて、にかりと残る笑みは元気さを感じさせる。それに反して服装は黒い複に白エプロンと、どこか西洋の魔法使いを思わせるような服だった。その少女はコチラに気が付くと左手を振りながらこちらに寄って来た。
「そんな訳ないでしょ。どんな貧乏よ」
誰だお前。
思わず本音が出そうになったが、なんとか穏便に返すことが出来た。
頭の中を見返してみるも、こんな派手な子に心当たりは全くない。いや似たような人はいるのだが目の前にいるこいつとは百八十度性格が違う人物だ。そもそもあいつは気軽に私を呼ぶような人じゃない。
ではこの子は誰か。分かる筈もない。一人でうんうんうなっていると、目の前の彼女はこちらを心配そうにのぞき込んできた。光るような金の瞳と目が合う。
「大丈夫かお前。顔色悪いみたいだけど」
「心配ないわ。いつもの事よ」
半ば自嘲するように言うと、ンなこと言うなよ、と彼女は言い方を強めていった。
「何なら今からなんか飯でも作ってやろうか? 腕を振るってやるぜ?」
「いや、いいから。さっき買ってきたばかりだから貯めとかないと」
「そういうところが貧乏くさいんだぜ」
なにおう、と言い返しそうになったが返したら返したで面倒な事になりそうだ。特にこういった相手の事を忘れてしまった状況だとバレることになりかねない。ここで彼女の事を忘れたなんてうっかりばれてしまえば、勝気な彼女の性格だとなんだとこの野郎と詰め寄られるだろう。そんな事は面倒くさい。
彼女の話にはいはい、と適当に返していると、ふと彼女の肩にかかっている竹箒に目がついた。それと同時に、何かの違和感が体をめぐる。
箒。金髪。口調こそ似通ってはいないものの、恐らく魔法使い。
「……魔理沙?」
「おう、どうした?」
思い当たる人物の名前を口に出すと、案の定彼女はこちらに振り向いた。流れるような金髪が、舞った。
「い、いや、何でもないの。呼んでみただけ」
「……そうか」
イメチェンでもしたのだろうか。それにしてはかなり変わりすぎだろう。
いつもの魔理沙というと、紫のローブを身にまとって変なステッキみたいなのを握っている印象で、うふふうふふと薄気味悪く笑うような語尾を付けていた。今考えるとかなり気持ち悪かったなアレ。
何よりも嫌だったのが魅魔の弟子という事で、たまに魅魔が呼んで私と強制的に戦わされるという事だ。一度負けてしまったせいか順位的に彼女の方が上で、いつも高圧的な視線を送られたものだ。
そう考えると彼女はいい傾向に変化したかもしれない。あのままうふうふうふふと笑い続けるような口調では大人になったとき何かと苦労しそうだ。いやそもそも魔法使いだからあまり大人にならないか。変な事を考えていると彼女――いや、魔理沙は困ったような顔をしてこちらをじっと見つめていた。
「なぁ、やっぱお前熱でもあるんじゃないか? 少し休んだ方がいいぜ」
そんな事はない。
「まぁ今日は出直すよ。弾幕ごっこはまた明日にでも回そうぜ」
弾幕ごっこ……?
不思議な言葉を残すと、魔理沙は肩に担いだ箒にまたがって、西の方へと飛んで行った。確か前までの魔梨沙もああやって箒に乗って飛んで行ったから、最悪の予想である「別人」と言う訳では無いそうだ。
魔理沙が飛んで行ったのを見送って、母屋の方に戻る。今日は疲れているみたいだし、早めに寝ようかなと考えながら夕食の準備を始めることにした。
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「さすがに変よねぇ……」
今日の夕食である秋刀魚を箸でつつきながらそんな言葉を漏らす。
今日は変なことが多すぎなんだ。朝から変な感じはするし、家にる~ことと魅魔はいない。人里に顔を出せば見知らぬ人に声を掛けられて、家に来る魔理沙はかなり変なイメチェンをしたと思えば変な言葉を残していく。これでおかしい、と思わない方がおかしいだろう。
これが別々に起こったと言うのならまだわかる。時代とともに移りゆくのがこの世の定理だし、変わることは別におかしい事ではない。しかし、こうも一気に全てがまるっと変わると違和感が湧いてくる。自分の部屋が勝手に模様替えされたみたいな、変な感じだ。
はたと気づく。
「並行世界」
数か月前の話になるだろうか。
神社の裏山辺りに、変な遺跡がある日突然現れたのだ。簡単に言ってしまえば異変で、私と魔理沙はいつも通りに異変を解決するべくその遺跡へと向かって行ったのだ。
結果を行ってしまえばその変な遺跡は並行世界からやってきた未来人、岡崎夢見と北白河ちゆりの時空を移動するための船だったと言う落ちだ。
「同じ、ってわけじゃないし。第一そんな機械なんてうちにある覚えがないけれど」
感覚としては、それに近いだろうか。彼女たちも最初は驚いていたようだし。
だけど、いかんせん確証が持てない。朝からそういった違和感――おそらく、並行世界に介入したことによる副作用?――みたいなものも感じられる。事の始終は見えているのに、物事の本質が見えてこないような、不思議な感覚を覚えてしまう。
「……まぁ、また明日になれば分かるか」
この違和感が明日になっても続くようだったら、もう別の世界へ来てしまった、と割り切って行くしかない。元に戻る方法とか、ここはどういった世界なのだろうかとか気になる事は多々あるものの、一回今は別の世界に来てしまった事だけを理解しなくては。
とりあえず夕食の秋刀魚をつつきながら、明日の予定はどうしようかしら、と考えた。
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夢。
白い空間。
紫色の人影。
「ここは貴女と違う世界。別の物語の世界」
赤い唇が動く。
視線を上へ動かすと、金の瞳と目があった。
魔理沙とは違う、妖絶な感覚。
思わず見とれてしまう。
「貴女は代役。
視界がどんどん崩れていく。
白だった世界が、どんどん黒に塗りつぶされる。
崩れていく世界の中で、紫の彼女はこう言った。
「彼女の物語を、進めなさい」
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