博麗靈夢は語り継ぐ   作:宇宮 祐樹

6 / 15
02

 

 暗闇の中から次々と現れる色とりどりの弾幕を回避しながら、彼女が放ってきた蹴りを寸前のところで躱す。赤い瞳が不機嫌そうに歪むと、彼女は舌打ちをしながら闇へと消えていった。彼女の瞳に残る赤い残像を警戒しながら、帰ってきた陰陽玉を左足で受け止める。なるほど、こいつは面倒な。

 

 どうやら彼女、周囲に闇を展開しながら、それと同化する能力を持っているらしい。闇の展開も瞬時に行えてなおかつ、消えるように同化してしまうので、目で追うことすらできないのだ。それに加えて多数にばら蒔くタイプの弾幕を展開し、それを囮とした闇からの近接攻撃。うーん、これは厄介。非常に厄介だ。

 

 再び私の周囲を闇が取り囲み、今度は後ろの方から弾幕が展開される。弾の密度はそれほどでもなく、集中すれば回避自体は楽なのだ。体を捻らせながら近接攻撃を警戒していると、今度は上から弾幕が降ってきた。

 上からはマズい、あんまり慣れてないんだ。焦りながらもなんとか回避していると、突然足を掴まれる感覚。

 

「つかまえた」

 

 彼女はそうにやりと笑った瞬間、腕を振り抜いて私を思いきり地面へと投げ飛ばした。なんとか姿勢を直して着地するも、右肩に痛みが走る。どうやら、投げ飛ばす瞬間に爪で一本入れられたらしい。痛む肩を押さえていると、三回目の暗闇が私を包み込んだ。

 ワンパターンではあるが、中々手ごわい。さて、どうするか……

 

「闇……」

 

 そう呟いた瞬間、さっきまで頭が有った所を紅い爪が横切った。首を横に振ることで回避し、そのまま攻撃が向けられた位置へと闇雲に蹴りを出す。まぁ当然当たるはずも無く、思いっきり振り抜いた足は、虚空を貫いただけだった。

 

「闇なら、コレが使えるかしら」

 

 そうひとりごちながら、左側でふよふよと浮いている陰陽玉に力を込める。

 

「何をしたって無駄よ。博麗の巫女はここで倒されて終わりなの」

 

 急に私の動きが停止したのに機を掴んだのか、彼女はここぞとばかりに弾幕を展開してきた。なんとか力を込めながら、右に左にと体をひねって躱す。そろそろマズいかもしれない、などと思っているとそろそろ陰陽玉に込める力が限界になりそうなのを感じ取り、最後に陰陽玉により一層ぐっと力を込める。すると、陰陽玉は溜まった力を逃がすかのように、表面の模様に沿ってバカリと割れた。

 

 その瞬間、周りの闇を陰陽玉が急激に呑み込んだ。

 まるで流れる川の如く闇は陰陽玉の中心に収束し、私の周りの視界が自然と外の景色を映し出す。未だにあたりには紅い霧が立ち込めており、やはり気温は肌寒い。

 その間にも陰陽玉は留まることを知らず、ついには私の周りの闇だけではなく、彼女が展開している闇までもを剥がし、闇に隠れていた彼女が姿を現した

 

「な……!?」

 

 彼女の驚愕した声が聞こえる。

 手元にある陰陽玉は彼女に纏わり付いた闇を全て剥がし終えると、しゅるしゅると回転しながら闇を全て中に取り込み、そのまま蓋を閉じる様にバコンと閉じた。そうすると何事も無かったように元の位置に戻り、再び私の周りを回転し始める。うん、やっぱり通用したらしい。 

 

「陰陽玉の本当の意味を知ってるかしら」

 

 自分の能力が封じられ、身構える彼女に問いかける。

 

「陰陽玉は陰と陽を司り、均衡を保つ道具なの。だから、貴女が放つ闇であろうと、たとえ魔界の破滅の光でも、この陰陽玉は自らの力と変えてしまう」

 

 こんなのを博麗秘伝の術としているのだから、博麗の起源となった人物は物凄い人間なのだろう。私の元いた世界では私が知らないうちに博麗の巫女だったからあんまり知らないけど。

 手の内で遊ばせていた陰陽玉を上に飛ばすと、右足の上で弾ませる。ぽん、ぽん、と一定のリズムを取りながら、スペルカードが尽きたのか何もできない彼女へと照準を合わせ、思いっきり足を振り抜いた。

 

「ケンカを売ったのが間違いだったようね」

 

 ゴン、と鈍い音がして、彼女はそのまま落ちてしまった。

 まぁ、妖怪だし。大丈夫でしょ。たぶん。

 

 

 闇雲にも見える様にばらまかれる氷の礫を回避しながら、魔理沙は口元に笑みを浮かべた。視界の端では、チルノが先程とは全く違うタイプの弾幕で魔理沙を圧している。状況的にはチルノが優勢であったが、それ故に魔理沙は自分の中に湧き上がる昂ぶりを感じていた。

 

 魔理沙はトンガリ帽子の中からとある液体が入った瓶を取り出すと、レーザーを牽制として展開させながら、チルノへと驚異的なスピードで突っ込んでいく。何とかしてチルノが弾幕を張ろうとするが、魔理沙はそれよりも早くチルノの真正面へと到達し、手にした魔法の瓶を投げつけてそのまま離脱していく。

 魔法の瓶の中身は、爆破性の手榴弾の様な物だった。ぽん、とコミカルな音を出しながらも非常に威力は強烈で、チルノの小さな体が数メートル後ろに吹き飛んだほど。巻き上がる虹色と白い煙を左腕で払いながら、チルノは躍起になって魔理沙へと弾幕を展開。しかし当の本人は既に射程圏外へと離脱してしまい、チルノの弾幕はあまり効力を与えられずに終わった。

 

「やりやがったわね……なら、これでどうよ」

 

 そう恨むような、はたまた楽しむような表情でチルノは魔理沙に言うと、右手に光るカードを構える。魔理沙も警戒して距離を取り、チルノの傾向をうかがった。

 

「凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 

 チルノの高らかな詠昌と共に、虹色に彩られた弾幕が魔理沙を襲う。どうやら狙いをつけている訳ではなく、闇雲にばらまいているようだったが、チルノの顔からそういった焦りの表情は見えなかった。

 飛んでくる赤青黄色の弾幕を回避しながら、チルノへレーザーを打ち込む。魔理沙の主な弾幕であるイリュージョンレーザーは、弾幕を張る、というよりも一点に集中させて突破するといったものだ。

 

 向けられたレーザーを危なげながらも避け、チルノは手に力を込めて魔理沙へと向ける。氷精であるゆえの強力な冷気は、魔理沙の体の表面を舐めるように這い、思わず魔理沙は鳥肌を立てた。

 

 その次の瞬間、展開されていた弾幕が一瞬にして停止――氷結する。

 

「うおっとっとっとぉ!?」

 

 間近にある弾が当たりそうになり、魔理沙があられもない声をあげるが、チルノはすかさずに次の弾幕を展開。逃げる場所が限られ、魔理沙は追い詰められながらもチルノの成長に感心していた。

 

(弾幕を無作為に凍らせて、上下左右の動きを制限した上で二つ目の弾幕を展開……なるほど、そうやって逃げる場所を潰したのか)

 

 先程の教授からとっさにこれを思い付いたとなると、このチルノという妖精、中々のやり手かもしれない。さてどうするか、と魔理沙が腰にしまっておいた八卦炉に手をかけた瞬間、チルノの後ろで何かが飛んでいるのが見えた。

 氷のように白い弾幕の隙間から見えたのは、見覚えのある()()()()()()の女性。やけに焦ったような表情を見せるその女性は、紛れもなく魔理沙の知っている博麗霊夢の姿だった。

 

「悪いなチルノ、もっと遊びたかったんだが」

 

 弾幕を避けながら腰の八卦炉をチルノに構え、魔理沙が聞こえるか否かの声量でチルノに呟く。その声はチルノには届かず、チルノは依然として弾幕を展開し続けている。だがそろそろスペルカードの使用限界が近づいているのか、張られている弾幕は少しずつ薄くなる。

 

「こっちにも用事があるんでな、さっさと終わらせてもらうぜ」

 

 魔理沙の八卦炉が、火を噴いた。

 

 

 闇の妖怪を退けた後は、紅い霧の発生源に向かう。あの闇の妖怪は今回の騒動とは全く関係が無かったので無駄骨を食ったが、これで今回の異変は全てスペルカードルールによる決闘方式をとる事が分かった。それにしても、あの自分勝手な妖怪どもがちゃんとルールに沿って戦っているのは、私からしたらとても驚きだった。元の世界があんなんだからかもしれないが、それはそれで戦いやすくなったのでいい傾向にある。

 

 というか私、さっきの戦闘でスぺカ使ってなかったけど大丈夫だろうか。なんか一試合ごとに一枚使え、とかいうルールは無かった気がするが、これではどうも妖怪達より私の方がルール違反をしている気がする……のは、気のせいという事にしておこう。だって使う前に相手が倒れちゃうんだもん。仕方ないし。

 

 スペルカード自体は用意してあるのだが、いかんせん使うタイミングが見当たらない。貧乏性が災いしてもったいぶって使いすぎなのかもしれない。そもそもそんなに使えるほどのバリエーションを用意してないのが問題なのかも。みんな独創性ありすぎなのよ。センスの問題だわこれ。

 

「おーい、霊夢ー!」

 

 なんてことを考えていると、後ろの方からセンスの塊が飛んできた。

 

「一人で抜け駆けしようたって、そうはいかないぜ。私だって異変を解決してやるさ」

 

 私の前に来て、そう言う魔理沙はどこか誇っているような、威張っているような態度だった。別に私は抜け駆けとかそういう訳じゃないし。魔理沙がどんな気かは知らないが、私にとってはあまり関係の無い事だろう。

 こちらの世界でも魔理沙が異変解決に関わってくるのは同じらしい。むしろ敵側に回らないだけマシだろうけど。そうなると、ここから先は一緒に行動することになるのだろうか。そうだとしたら、近くでスペルカードとか見せて貰おう。何かヒントが得られるかもしれないし。

 

「言っておくけどなー、霊夢は毎回毎回一人で背負いこみすぎなんだよ」

 

 何時の間にか隣で飛んでいる魔理沙が言う。

 

「たまには私でも良いから頼りなって。いつも心配してるんだからな?」

 

 どこか恥ずかしそうに視線を泳がせる魔理沙。どうやらこちらの私は何をするにも自分一人だったらしい。言ってて恥ずかしくなるなら言わなければいいのに。というか私からしたら中身が違うからさっぱりなんだけど。でもまぁ、魔理沙が私の事をちゃんと想ってくれているのは分かった。それだけで十分だ。

 

 

 紅い霧の発生源は湖を越えた先にある紅い色の館だった。ずいぶん殺風景なその館の門の前には、中華風の、一人の女性が門を守るようにして立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。