狩人が斬り裂く   作:雑穀

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雷光の狂信者

 檻之宮の山中にある深い谷。ここは向かい合った断崖の内側が極端にくぼんでおり、大人数でスポーツができるほどの空間ができていた。光源といえば、谷の一番上から差し込む太陽・月・星々の輝きと、それに照らされた一匹の蛇ほどしか幅がないような小さな、しかし枝分かれした小川が反射する小さな光くらいしかない。

 そして、その小川の流れに逆らっていけば、光の影になっている部分のほとんどにはおぞましい狗神憑たちが潜んでいることがわかるだろう。

 しかし、その狗神憑たちは普通の個体とはかなり毛色が違っていた。通常の狗神憑は絶えず飢えに苦しんでいるが、そこにいたモノたちは更に別の何かに苦しんでいた。それは、痛みだったり、暗黒だったり、無音だったりする。

 

 そして、そんな狗神憑たちを気にする素振りも見せずに、水を踏みしめながら歩く者がいた。

 その人物は男であった。手入れの行き届いたシルクハットをかぶっているため目元はわからないが、面長で、筋の通った高い鼻、その下には切りそろえられた短めの口ひげが目立つ。ひょろりと背が高く、燕尾服と、その上に腰までの丈のマントを羽織っていた。

 一見ひ弱そうに見えるこの男だが、周りの狗神憑たちがその男に襲いかかることは決してない。むしろ、彼を恐れているような素振りさえ見せていた。少しでも彼の邪魔にならないよう、身体を壁に押しつけ、押しつけ、押しつけ。徹底した恐怖を持って彼の存在を感じていた。

 

 彼がある地点で立ち止る。そこには、銅線を隙間なく巻き付けた筒、大きな真空管、針とそれを当てた長い紙、血混じりの水銀のため込まれたタンク、他にも形容しがたい何か、そういった物が付いた装置が乱雑にも見えるような配置で、そしてすべてが配線によってある一か所につながれていた。

 その一か所にあるのは、一つの椅子で、そこには一人の女性が座らされていた。頭、首、腕、手首、太もも、膝、足首、さらに指の一本に至るまで動かないように拘束され、口には猿轡を噛まされていた。そして、その腹は大きく膨らんでいた。

 さらに、彼女の腕には透明なチューブが通じている注射針が刺さっており、それは彼女の背後にある無数の点滴棒と繋がっていた。点滴棒には、一つの例外もなく特別な血液が満タンになったガラス管が四つずつ釣り下がっている。

 

 男は装置の一つに近寄る。それは他のものとは違い、スイッチやダイヤルやレバーがついた、所謂制御装置のようだった。

 

「ぅ……ぅぅ……!」

 

 女性は怯えた目で、男に助けを乞おうとする。だが猿轡が助けを求める声を消え入りそうな唸り声に変えてしまう。首を振ろうにも、頭と共に固定されているため微動だにできない。できることとは精々、身体を少し揺らすことくらいだ。

 

「「「ふむ……、身長162センチメートル、体重51キログラム、健康状態は母子ともに良好、輸血液の投与を開始してから251日目……」」」

 

 男は日本語ではない異国の言葉をつぶやきながら女性を観察し、手元のフリップに挟み込まれたコピー用紙に記載された情報を確認する。女性はそれを死刑執行までの秒読みのような心情で聞き、身体を大きく揺さぶって助かろうとする。男はまるで気にしていない素振りだ。

 

「「「では、治験体6号を用いた実験を開始する」」」

 

 男は装置の横並びのスイッチを順番にパチンパチンと入れていき、レバーをゆっくりと倒すと、ダイヤルを捻る。それに反応して、設置された装置が動き出し、女性の座っている椅子に電気を流した。

 

「ブブブグゴブブッ!……ゴググギグググゴゴゴゴゴゴ……!」

 

 電気は女性の細胞・内臓・脳を焼き、破壊しながら彼女の全身を駆け巡る。彼女は痙攣し、目玉をガクガクと揺らしながら血の涙を流す。

 通常、この電流では女性は一分と持たずに命を失い、苦しみから解放されるであろうが、彼女の身体は破壊されてすぐに再生を始める。そして彼女の身体が破壊されるたびに、そのの腕に繋がれた血液が失ったモノを埋めるように彼女の血中に流れ込む。

 

「「「クックックック……出力を上げるか……」」」

 

 男は抑え込むような笑いをこぼしながら装置のダイヤルを更にひねり、電気の出力を上げる。女性は声がかすれるほどの叫び声を上げようとするが、それは叶わず息が詰まるばかりだ。

 男は、女性の苦しむ様を観察しながら、フリップに付けたコピー用紙に、桃色の花柄のボールペンでメモを記載していく。

 

 谷に響くのは、無機質な機械の駆動音のみ。それは一晩中続いた。

 

 ◆

 

 少女は夢を見ていた。舞台となっているのは、見慣れた自分の屋敷、家の中のように見えて、だが何かが違う奇妙な場所だった。本来は鍛錬のために花などの無駄な装飾がないはずの中庭は彼岸花に似た、でも違う花の花畑になっていた。でも所々に墓石が不規則に乱立する不気味な場所でもあった。また、空も、手が届くほどに近いように感じる大きな月と星々があるため夜のはずなのだが、周囲はまるで昼間のように明るい。どこを見ても奇妙な空間だった。

 少女は花畑を歩く。何も考えずに真っ直ぐに歩きたかったのだが、そうするとどこの方向に歩いても墓石のぶつかってしまうので、気を付けて歩く必要があった。そうやってふらふらと歩きまわる様は、まるで幽鬼のようだった。

 少女はふと立ち止り、その場に座り込んだ。所謂、体育座りという体勢だ。

 このような奇妙な夢なんか見たくなかった。大好きな友達と遊んだり、気になる男の子と稽古をしたりするような楽しい夢が見たかった。

 そう思い、顔を伏せようとしたときに目に入ってくる者がいた。少女はそれに驚いて後ろにひっくり返る。その衝撃で花びらが舞った。

 

 少女は怯えたように後退りをしながらその者をもう一度見た。

 それは、不気味としか言いようのない存在だった。骨と皮ばかりにやせ細った人間のような姿で、顔は規則性や均等性といった概念が存在しないかのように歪み、屍人の顔のように青白い肌にはただの一本たりとも毛と呼べるものがなかった。そんな存在が、少女の手の平に乗るほどの大きさしかない不気味な小人が、地面から上半身だけを出してそこにいた。

 

「「「も、もしかして、こだまさま…なのサ?」」」

 

 少女はその姿から昔、母親から聞かされた数少ない昔話の中からその名前を出した。

 昔々、森に人間の手が加わるよりも昔、『穢れ』がこの地に根付くよりもずっと昔、森には『こだまさま』と呼ばれる小さな神様たちがいた。彼らは『穢れ』と人の手によって汚された空気に追い立てられ、森から姿を消した。その後は、人の夢の中に住み着くようになったと言われている。

 そして、こだまさまの夢を見るということは、善かれ悪しかれ何かしらの大きな変化が近々訪れるという暗示であるとされている。

 

「「「こだまさまは、もっと可愛い姿をしていると思っていたのサ」」」

 

 少女は恐る恐る、こだまさまに人差し指をさしだしてみる。するとこだまさまはそれに応えるように、彼女の指をその小さな手で優しく握る。握手だ。

 その後、どこからともなく現れた毬を使って一緒に遊んでいる内に、その不気味な姿に少しずつ愛嬌があるように見えてきた。

 気が付けば、空は墨汁を満たしたように暗くなっており、それは朝の到来の前兆であることが分かる。

 

「「「楽しかったのサ。甲斐名(かいな)と稽古する方が楽しいけど、こだまさまと遊ぶのは別のはまた別に楽しかったのサ」」」

 

 こだまさまに少女の言葉が通じているのかは不明だが、気持ちは何となく伝わったらしく、その醜い顔が綻んだような気がした。

 朝が来れば夢は覚め、こだまさまとは別れることになる。同じ夢をまた見られるとも限らないし、少女はお別れの握手をするために手を差し出した。

 

「「「え?」」」

 

 するとこだまさまは少女の手の中に何かを握らせた。それを見ると、小さな鐘だった。ただ普通の感性をしているならば他者にプレゼントしようとは考えつかない、さび付いた古い鐘だった。

 少女はこだまさまを見る。彼はうれしそうに手もみをしながら、沈むように地面の中に消えていった。

 

 こだまさまに関してはまた別の言い伝えがある。彼らと仲良くなると、何かしらの贈り物があるらしい。それは、持つ者が窮地に立った時のお守りとなってくれるという。

 

「「「アハハ……夢だけど、こだまさまに贈り物をもらえるなんて感激なのサ」」」

 

 少女はおそらく東であろう方角を見る。そこからは、太陽が顔を覗かせていた。

 

 ◆

 

「ン……」

 

 目を覚ました少女は身体を起こして、軽く伸びをする。昨夜も『お勤め』により、遅くまで起きていたにも関わらず快眠することができた。不思議な事に、身体も調子がいいように感じる。今の状態ならどれだけ暴れても疲れることはなさそうだ。

 

「え?」

 

 暴れる。そんな物騒な言葉が一番に思い浮かんでくるというのは、普段の彼女の性格からしてあり得ないと言ってもいいことだった。

 もしかしたら、自分の気が付かないところで自分の心は『お役目』のために染まってきているのではないだろうか、

 

「あれ?」

 

 少女をネガティブに導きかけていた思案を追い立てたのは、彼女が右手を握りしめたときに手の中にあったものだった。

 自分は寝相の悪い方ではないはずだから寝ながら物を掴むだろうか、と思いながら確認のために右手を広げたときに目に入ってきた物に彼女は驚いた。

 

「鐘……?」

 

 それは、夢の中でこだまさまが少女、犬上サクヤにくれた、小さな、錆びついた、古い鐘だった。

 

 ◆

 

 夜。犬上サクヤ、犬中マキ、犬尾ユズリの三人は夜の山の中を歩いていた。普通の女性が同じことをすれば狗神憑でなくとも野獣の餌食になるであろうが、彼女たちは強いが故にその点は問題なかった。

 それよりも、この三人がそろって歩くというのはかなり珍しいことだった。マキとユズリの巫女としての力量はすでにプロの域に達しており、過去の巫女たちの中でもこれほど早く成長した者はいなかったとされている。一方のサクヤは低俗な狗神憑、わかりやすく言うなら大旧杜の一層から三層に封印されているような弱いモノしか倒せず、未だに大狗神の力が覚醒していなかった。

 だからこの三人が一緒に『お勤め』に出るのはまずありえないことなのだが、サクヤを速く一人前の巫女にするために犬護家当主の犬護重衛の提案により、一晩の間スリーマンセルを組むこととなった運びだ。

 百聞は一見にしかず、百見は一触にしかずというように、サクヤとしても先輩の戦いから多くを学べるはずだ。

 しかし、この組み合わせには問題もあった。

 

「オラもたもたするんじゃあねェ!」

 

 先頭を歩くマキはユズリと同じ速度で歩いているサクヤだけに怒鳴り声を上げる。それは半ば八つ当たりにも近かった。

 サクヤは反論も反発もせず、ただ「ごめん…なさい」と呟くだけだ。

 

 この案の問題とはすなわち、マキがサクヤに良い印象を持っていないということだった。

 狗神憑を鎮めるという共通の目的がある本家犬上家と分家犬中家犬尾家だが、その間には溝がある。と言うのも、犬上筋の者たちはこの地に巣食う怪異を鎮めることにより国から報酬を受け取り、それで財を成しているのだが、分家は立ち位置的には本家の従属一族という扱いのため、報酬は本家が国から受け取った金を分配して渡すという形で受け取っている。更にその分配に辺り分家の意志の介入は認められていない。

 つまるところ、分家は冷遇されており、その不満は子供であるマキにまで伝染しているのだ。

 更に言うと、マキは弱い人間というものが嫌いだった。今のマキの目にはサクヤは尻に殻がついたひな鳥にしか見えておらず、それが自分の上にいる存在だということに不満を持っている。そしてそんな存在のお守をしなくてはならないのだから、彼女が不機嫌なのも無理はないだろう。

 もう一つ、サクヤとは関係ないところに理由があった。

 

「ごめんなさいね。マキ、この間の件が原因だと思うのだけれど、ここ最近ずっと不機嫌なの」

 

「『この間の件』…? それって……」

 

 最近の事だとすると、サクヤに思い当たることは一つだけだった。

 一週間ほど前、マキとユズリは件の下手人と戦闘に入ったのだが、マキは深手を負わされた上、あと一歩というところで逃げられた。幸いなことに、刻まれた傷のほとんどは大狗神の力と犬護たちの術によって治癒できたのだが、胸元のバツ印の傷はよほど深く刻まれたようで、大狗神と犬護の治療を持ってしても完全に消えなかった。

 マキ自身、彼女の才能も相まっていままで狗神憑に怪我を負わせられることなどなかったため、彼女の身体にはそのバツ印の傷がよく目立つ。

 

「帰った時、二人ともタキお婆様に叱られたわ……勝手な行動した上に賊を逃がすバカがいるか、ってね」

 

 話ながらユズリはタキに落とされたゲンコツの痛みを思い出したのだろうか、片手は無意識の内に自信の頭を撫でていた。

 

「まあ、そんな訳だから、納得できないかもしれないけど、マキを許してあげて」

 

 ユズリは少しだけ困ったような微笑をサクヤに向ける。

 サクヤはとりあえず頷いておいたが、そもそも未熟もいいところである自分が先輩であるマキに逆らえる訳がない。それを知っていてそのような事を言ってくるユズリはすこし意地悪だ。

 

「待て」

 

 ふと、マキが立ち止り、木の影に隠れる。ユズリとヤクサも同様にそれぞれが手近な木の影に隠れた。

 

「あそこだな」

 

 マキの指さす先には谷の入り口と、その辺りを徘徊する狗神憑が数匹見て取れた。奇妙なことに、服など着ないはずの狗神憑だが、ここにいる個体はいずれも身体を覆い隠せるほどの布を頭からかぶっていた。

 

「ふむ……あたいが飛び出して注意を引く。サクヤ、お前はまわりこんで連中の後ろから攻撃しろ。ユズリはサクヤのフォローだ」

 

 そう言うやいなや、マキは薙刀を持つ手に力をこめて木の影から飛び出した。狗神憑たちはマキの立てる音と巫女独特の香りに反応する。

 

「オラ! ウスラボケども! ポコチンついてる奴はあたいを捕まえてみな!」

 

 マキは近くにいた狗神憑を真っ二つにする。狗神憑の断面が発火し、瞬く間に二つの火だるまとなった。

 他の狗神憑たちは鼻をひくつかせてマキの居場所を特定し、その身体を穢し、喰らおうと襲いかかる。マキは軽快な足取りをもって襲いかかる狗神憑たちをいなし続ける。

 

―――ぎゃひんッ!?

 

 そして隙を晒した狗神憑をサクヤから太刀で斬りつける。現状未熟な彼女の腕では狗神憑の身体を切断することはできないが、鎮音の効果を引き出す程度のダメージは負わせられる。

 

―――ぐるるるぁあ!

 

 斬り損じた狗神憑がサクヤを取り囲み、一斉に襲いかかる。

 だが次の瞬間、狗神憑たちの爪サクヤに達する前に、それぞれの腕・足・胴体・頭が吹き飛んだ。ユズリの放った獲物を切断する豪矢だ。

 

「いくぞオラ!」

 

 マキは囮の役目は果たしたとして転身し、迫る狗神憑をばったばったと薙ぎ払う。

 息が合っているとは言い難いが、三人の猛攻はたちまち二十数匹いた狗神憑をバラバラにした。

 

 そして、サクヤが刀の切っ先を鞘の口に、マキは薙刀を垂直に振り上げ、ユズリは鎮矢を弓につがえる。

 

「「「鎮!」」」

 

 刀の鍔を鞘に叩きつける音が、地面に振り下ろされた薙刀の柄頭についた輪が、鎮矢の先端の鈴が、三つの武器の鳴らす鎮魂の音が、狗神憑たちの身体を破裂四散させた。

 そして、狗神憑たちを包んでいた布がしぼんでいく。彼らが人間に戻ることを示しているのだ。

 

「ハァッ…ハァッ……」

 

「んー……ま、良い準備運動にはなったんじゃね?」

 

「そうかしら? 私はもうちょっと歯ごたえのある獲物もほしかったわ」

 

「おめーはほとんど動いてねーだろーが」

 

 息を散らすサクヤとは対照的に、マキとユズリは軽口を叩く余裕があった。マキはサクヤを横目で見ながら内心「ぜんぜんダメだな」と毒づいた。

 マキはサクヤから目を外し、地面に散らばっている布を見る。別に何か調べようと思っているわけではないが、布で身体を隠した狗神憑の姿がどんなものかと、ちょっとした好奇心が湧いた。薙刀の峰で布を切り裂かないようにめくり上げ、放り捨てる。

 

 そして、三人は絶句した。

 

「なっ!」

 

「……!」

 

「なんだ……こりゃ……」

 

 布の下から現れたのは、当然のこととして狗神憑から人間に戻った男性の亡骸。しかし、その様はあまりにも異様だった。

 金属製の半球状のヘルメットのような物が釘で頭に強引に固定されていた。それの後頭部付近から伸びる配線コードのようなものは、背中にネジで固定されたバッテリーのようなものと、装着者の顔に向かって伸びていた。その先にあるは電極、しかし、それは本来眼球があるべき場所に突き刺してある。否、突き刺しているのではない。眼球を引き抜いて代わりに電極を挿入したのだ。

 このおぞましい改造が、被験者が狗神憑になる前に行われたのか、それともなった後なのかを判断するには彼らの身体の構造に関する知識が必要であろうが、何にせよ、これを行った人物は生命を冒涜することを何とも思っていない、まさしく狂人であろう。

 

「……これをやった人が…この谷の奥に……いるの……サ?」

 

「さあな……だけど気張っていかねーと、そうとうヤバイってのはわかるぜ」

 

 サクヤ、マキ、ユズリは、谷の奥の暗黒を戦慄の目で見つめながら、尚足を踏み入れた。

 

 ◆

 

 マキを先頭にして、ユズリ、サクヤの並びで三人は谷間に流れる蛇のような細い小さな川、というよりは水の流れに逆らって進む。

 

 そして上流の方へ足を進める度に、彼女たちは異常な世界に入りこんでいく。

 そこで見たのは、幾人もの女性の死体。彼女たちは狗神憑に中途半端に食い荒らされたらしく、とても形容しがたい有様であった。

 しかし、いずれの死体にもある共通点が存在する。どの死体も、皆残っている手足の手首足首に骨にヒビが入るほどきつく締めつけられた痕があり、さらに腹部には大きな穴があるのだ。そして、死体から流れ出る血には羊水が混ざっていた。

 

 おぞましいことだが、狗神憑によっては捕食する人間に好みあり、美人を好む者、子供を好む者、長い髪を持つ女を好む者、そして妊婦を好む者。

 

 仮に、これらの死体が狗神憑によって腹を引き裂かれ、胎児を食われたというのなら幾ばくかの納得はできるのだが、その穴は内側から・・・・破裂したように見える。それにすこし焦げ臭い。

 どれほど狗神憑の力が強かろうと、人間を内側から破壊などできるはずがない。できるとしたら、それは古狗で何かしらの『月の力』を用いた、それしか考えられない。

 

 小川を上るたびに、肌にピリピリとした不快感を覚える。常に静電気が顔を走り回っているような感覚だ。

 それと、何やら大きな音がする。空気を伝い、地面を揺らし、だが自然現象ではありえないような安定断続している。この先には何かがある。狗神憑だけではない何かが。

 三人は、マキですら冷や汗を流しながら前へ、前へと進む。

 

 そして、広い場所に出た。

 その場所の奥には、謎の大型機械とコードを通してそれに接続された椅子、そこに拘束され猿轡を噛まされる裸の女性がいた。その腹部は大きく膨らんでいる。

 女性から少し離れたところには操作盤のついた機械と、それを操る男性が三人に背を向けていた。ひょろ長で、シルクハットに燕尾服と腰までのマント、まるでヴィクトリア朝時代からタイムスリップしてきたような恰好だ。

 

 ユズリは弓に矢をつがえ、サクヤは刀に手をかける。そしてマキが一歩前に出て叫んだ。

 

「おいテメー! 何やってんのか知ったことじゃあねーけどその女の人を解放しやがれ!」

 

 するとマキに気が付いた女性が「ヴー! ヴー!」と涙を流しながら助けを訴える。男の方も三人に気付き、ゆっくりとした動作で後方に振り向く。

 しかし、その時不注意していたのか、マントの端がレバーに引っかかり、出力を最大にしてしまった。

 

「ブブブグググゴッゴゴゴォ―――――ッ! オゴグギギギガガガガグゴオオオオッ! …………」

 

 突発的な最大出力の電流に、輸血液の供給が間に合わず、女性の腹部は爆裂して絶命し、血がそこら中に散らばった。さらに機械も出力限界を超えて尚も動き続け、最終的には停止し、煙を噴き上げた。

 三人はその光景に顔をしかめるが、男は横目に後ろを見て、頬に付いた血を指で拭い、臭いを嗅ぐと、その指をペロペロと舐めて血を拭き取った。

 

「「「最後の治験体が……死んだ……」」」

 

 三人には理解できない異国の言葉。英語と似ているかもしれないが、若干違うかもしれない。

 だがそれはどうでもいい。問題なのは、言葉がわかったところでこの男の出す殺気はどうにもできないだろうということだ。

 

「「「新しい……治験体が必要だ…………今度のは…簡単に壊れたり…しないような……な」」」

 

 男はどこからともなく武器を取りだす。奇妙な武器だ。

 右手に持つのは棍棒のような武器。三個のコイルと柄の部分になる棒、先端には鉄球のような物がついた武器。

 左手に持つのは、横向きにした英単語の「A」のような見た目の武器。どんな攻撃をしてくるのか全く想像できないが、素材は木と鉄の混成、上の部分の両側面には複数のコイルが二列に並んでいる。

 

「「「あぁ……ちょうどいい………良い治験体が……向こうの方からやってきた………!」」」

 

 帽子の下の崩れた瞳孔をギラつかせながら男、アーチボルドは三人に襲いかかる。

 




 本当は夢の後にサクヤの学校での日常を書こうと思ったんですけど、自分日常系とか書けないのでやめました。
 可愛いサクヤちゃんが見たい人は決断的に原作を購入しましょう。尚、このあとがきにマーケティング的な意図は一切なく、私は幻冬舎コミックスとは一切関係ありません。
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