デレマスss 僕の可愛さは不滅ですね!   作:紅のとんかつ

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今回は村上巴さん視点です!








その4.5 極道なうちと、家族の絆

 

 

 

 

 組の外ではうちは一人じゃった。

 

 幼稚園の頃はそうでも無かったがどんどんと周りが物心ついて行くにつれ、それが現れてきた。うちの事を本当の意味で理解をし始めたのだろう。そしてうちはうちの事を本当の意味で理解をしていなかった。

 

 受け入れられるはずの無い生まれという事実を。

 

 

 

「じゃけぇ、うちの家でやったらええ!」

 

 小学生の頃の学校の放課後、午前だけで授業の終わる日。

 天候も良くて友と過ごし語らうには良い日和。

 

 クラスで皆で勉強会やるっちゅう話になった時、名前は忘れたが、クラスの人気者がうとの隣で大声で参加を募っとった。

 だが、どうやら想定していた以上に人が集まったのじゃろう。人数過多で誰の家でも入れない。そう困っていたクラスメイト達に良かれと思って声をかけた。

 

「うちの家なら、何人でも簡単に入れるけん、くればええよ! だからうちも勉強会、入れてくれや!」

 

 うちは今まで、学校が終わると迎えが来てすぐに離れ離れ、放課後誰かと遊ぶという経験が無かった。だから、こんなチャンスは無かったし、それに良かれと思って声をかけた。

 

「巴ちゃん家、か~……」

 

「そ、それはちょっとな~……」

 

 

 しかし、返って来た反応は想像とは違った。クラスメイト達は表情を暗くし、困ったように身を震わせる。うちは笑顔のまま表情を固まらせる。

 喜んでもらえるはずのその提案には誰もが笑顔では無く、明らかに困った顔で目を反らしていたからだ。

 

 

「お、俺は、いいや」

 

 一人がそう言って集まりから離れる。すると、私も、俺も、と次々離れていった。ウチは皆が途端に強張り、どんどん離れていく様子にただ戸惑って皆の背中に手を伸ばすくらいしか出来なくて、そして幼稚園の頃一番仲の良かった子も最後に逃げるように離れて行くのに1分とかからなかった。

 

 蜘蛛の子を散らすようにうちを置いて逃げていく彼女等の後ろ姿には、かつての友達とは明らかに違う物になっていた。

 

 

 違和感を感じたんはその時から。

 

 

 

 それから、学校で遊具の取り合いがあればなんでも譲られた。そしてうちだけ残して遊具から離れて行く。

 

 学校の先公も、宿題忘れた奴等の中にうちがいたらひきつった顔で何も怒らず解散した。

 

 

 遠巻きに聞こえてきた。

 

 ”あの子はヤクザの子供だから関わるな”

 

 

 

 

 ……まあ、しゃあないやろ。

 

 怖いモンは怖い。今となったら仕方ない事やと理解は出来る。住む世界が違う。奴等には非は無い。

 

 うちは”ヤクザの子”なんじゃから。

 

 

 

 じゃが小学生のうちは、それが堪えた。

 毎日、泣きそうな気持ちで学校に通っとった。休み時間になる度悪い事は何もしとらんのに悪者を見るかのように扱われる。

教室で並ぶ机が皆から少し離れている。そんな小さな出来事で弱いうちは心に小さな傷を作っていく。なんでうちは普通の家じゃないの? と大切な家族を恨みそうにすらなった。

 

こんな悩み、親父らに聞かせる訳もいかんかった。だから、家でも強がって”毎日学校は楽しい。けど家族といる方が楽しいから家にいる”と言って回っていた。じゃが、うちには一つだけ、心の傷を話せる場所があった。

 

 

 

 

 

 

 ”私のお父さん”

 

 小学生低学年のうちは、学校で出された課題を手に、学校から帰る車の中で俯く。

 

 

 車で無いと行けない距離に学校がある。

 その意味をうちは気付いていなかったんやな。

 

 前は特別扱いされとるんが嫌で、隠れて降ろしてくれと運転手に我が儘も言っとったが、今となってはどうでもええ。

 

 課題は白紙、その紙に溜め息をついた。

 

 

「……何か、お悩みっすか?」

 

 

 運転手の若いのに声をかけられる。

 コイツは親父がうちに付けた世話係。

 

 朝から晩までうちの我が儘を聞く外れくじを引かされた奴。

 そして、学校で起こった事の愚痴を毎日聞かされるはめになった奴。

 うちが幼稚園ときから忙しい親父やお袋に変わり、ずっと世話しとってくれとる奴。

 

 立場的に他では言えない悩みも、家族ではない、うちの世話役で頼りない半端物のコイツといる送り迎えの車の中だけは言える事が出来た。なんの強がりも必要無い、ただ味方でいるだけの頼りないコイツの前だけは。

 

 

 今では、なんでも話せるんはコイツだけになってしまった。ウチはため息の原因の紙をミラー越しに開いて見せた。

 

 

「課題じゃ。何がお父さんの話じゃ。クラスにうちがいるのにこんな課題出す事なかろうに」

 

 

 どうせ聞くのは嫌な癖に。

 

 うちは家の事を隠すようになっていた。

 自分の家がヤクザな事が、恥ずかしくて仕方なかった。

 親父の事が、恥ずかしくて仕方なくなってしまった。大事な家族が、仲間が、恥ずかしくなってしまったんだ。

 

 

「親父さんの事、書きたく無いんすか?」

 

 

「当たり前の事聞くなや。親がヤクザなんて、言える訳なかろうが」

 

 

 泣きそうな声で、アイツの席に紙を丸めてぶん投げた。

 

「……うちがヤクザの子だって、皆で遠巻きに悪口言うんじゃ。近くに言ったら優しく媚びへつらった顔でヘラヘラするのに、影で悪口言うんや! そんなん、されるなら組の事知られるんは、嫌やろ……!」

 

 

 大きな声で怒鳴り付けるとアイツは黙りこんだ。ウチの癇癪に、何も言える事が無いのを悟ったのか、ただ黙って車を運転する。

 

 いつもは五月蠅いコイツが黙り、静かな時間が出来る。何か言って欲しかった訳じゃ無いのに零れそうな涙を堪えながら、手を膝の上で握り締めた。なんで、なんでウチは、ウチの大切な人は、嫌われきゃあかんねん。

 

 

 

 

 

 

 ふと、窓の外を見ると、車が帰り道からそれて走り出した。

 

 知らない道に入る。いつもの帰り道じゃない、普段通る事のない狭い道。不思議に思い、アイツの顔を見るとニコッと笑い、そのまま車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く進むと車が止まり、そしてアイツは黒塗りの車を降りて扉を開き、うちを外に誘った。

 

 

 夕暮れのオレンジ色に変わった外に出て辺りを見渡すと、そこは前に一度来た事のある遊園地だった。

 

 

 

「覚えてるっすか? 昔親父さんに連れて来て貰った遊園地っすよ?」

 

 

 そう言うとうちの手を引き、中に連れていく。

 

 中は平日やっちゅうに、楽しそうな家族連れが溢れていた。ニコニコと親に笑いかける子供がいる。アイツは、うちの手を優しくつなぎながら指を指す。

 

 

「覚えてるっすか? あのメリーゴーランド、お嬢はしゃぎながら乗ってましたよね」

 

 

 親父に連れてこられた遊園地、うちは馬に股がりながら、暴れん坊将軍や! とはしゃいだ事を思い出した。

 あん時、親父は馬鹿みたいに笑いながら若いのにカメラを回させてたな。

 

 

「覚えてるっすか? あのコーヒーカップ、お嬢も親父も、二人して回しすぎて目を回しちゃってましたよね」

 

 

 ……そうじゃったな。

 親父も一緒になって回して、そんで降りたらフラフラになっとった。

 

 馬鹿みたいな、でも、凄く、楽しかった。

 

 

 

「作文、別にヤクザの事は書かなくていいんじゃないすかね? ただ、親父の事を書くのが課題なんすから。親父さんは、ヤクザである事が全てじゃないっしょ?」

 

 

 そう言ってアイツはうちの目線に合わせて屈み、さっきうちが丸めて投げた課題の紙を伸ばして渡してきた。

 

 

「そして、お嬢も、巴さんもヤクザの娘ってだけじゃないんすよ。貴女には、他にも沢山魅力がある。少なくとも俺は、家族には解ってるすから」

 

 

 そう言うと、うちの頭を撫でて微笑んだ。うちに課題を握らせて。

 

 

「いつか、いつか必ずそれを証明出来る日が来るっす。だから、前向きにいきましょう」

 

 

 

 そして、アイツは再びうちを引き、歩き出す。

 

 

 

 ……うちは、涙を拭いた。

 

 不思議と、もう涙は出てこんかった。

 

 

 うちは、折角来たんだから観覧車に乗せろと我が儘を言って、そして笑った。アイツはうちの我が儘に、困ったふりしながら嬉しそうに笑う。その日を、なんとなくウチは思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

 

 庭に面した縁側に座り、ただ目を閉じている。

 

 あれから、繰り返される人との違う現実に打ちのめされ、沢山悔しい思いをしとった。

 

 だが、あの日から周りに何を言われても組を恥ずかしいなんて思う事は無くなった。

 

 

 

 

 目を開ける。

 今までずっと生きてきた綺麗な家。誇りのある、大切な家族がいる家。

 

 部屋ではあいつが、プロデューサーになる男が親父と話をしている。

 そして庭には、さっきうちにタンカきった奴等がたむろしていた。

 

 

「……あ、幸子ちゃん。大きな、鯉がいるよ。可愛いね……」

 

 

「あ、本当ですね! でも星さん、ボクの方が可愛いですよ♪」

 

 

「あんた、何に対抗してんのよ……」

 

 

 

 輿水幸子、小関麗奈、星輝子。そして庭にうずくまっとるんが森久保乃々。

 

 奴等がこれからなるアイドルの仲間だ。アイドル言うだけあって、皆容姿が良い。

 

 

「鯉なんて所詮魚ですよ! ボクの可愛さの前には鮮やかな色の模様なんて無力です!」

 

「まあ、近付いただけで餌だと思って集まるあたり、確かに愚かで面白いわね。浅ましさが愚民に近く感じるし」

 

 

 鯉に餌をばら撒きながら笑う幸子と麗奈。そんな奴らに森久保から衝撃の一言が告げられた。

 

 

「……因みにこの鯉、一匹○○○万円らしいんですけど」

 

 

「……それは幸子、あんた負けたわよ」

 

 

「ちょ!?」

 

 

「餌の値段ですら、一回○千円、か。ふひ、私より、いい物、食べてるな……」

 

 しっかし何処か、残念な感じがする奴等じゃのう。いきなり心配になってきた。

 

 

 だが……。

 

 

 ”貴女の家なんて関係ありません。貴女がどうかでしょう?”

 

 

 先程言われた言葉に、胸の何かが温かくなるのを感じた。

 

 ずっと、ずっと誰かに言われたかった言葉。

 

 あの日、あいつに貰った言葉。

 

 それが合わさり、何か、心がフワフワしたような感覚だった。

 

 

 

「巴、話ついたぞ」

 

 

 部屋から親父が出てきた。

 手には書類、後はサインするだけの状態だ。

 

 

「一応お前も目ぇ通しとけ。内容はワシが見たかぎり問題はなか。後はお前が納得するかじゃが……」

 

 

 うちは書類を受け取り、そのままサインした。拇印の為に親指にナイフを当てる。

 

 

「いいんか? 中ぁ読まんで……」

 

 

「あいつが出した契約じゃ。疑う必要は無か」

 

 

 そして指を切り、そして判を押す。この瞬間、うちはアイドルになった。

 

 立ち上がり、そして部屋の中に入る。

 

「お久し振りっすね、お嬢」

 

「久しぶりじゃな。今は、プロデューサー呼ぶべきか?」

 

 

 昔、うちの世話係として一緒にいてくれたあいつ。一番辛かった時期に一緒にいてくれたあいつ。あいつがこうして再びウチの前に帰ってきた。またウチを迎えに来た。

 

 

「驚いたわ。本当に、アイドルのプロデューサーに成ったんやな」

 

 

「成りました。色々な物乗り越えて、素晴らしい仲間を得て」

 

 

 そう言って、懐かしい薄っぺらい笑顔を向けてくる。

 成し遂げたい事がある。あの日コイツは同じような笑顔浮かべて親父に組を抜けると言った。

 

 あん時はまさかアイドルのプロデューサーじゃとは思わんかったが、コイツはそれなりの筋を組に通し、そしてカタギになった。

 

 

 そして今度は親父によって、うちがコイツの所でアイドルになる事になる。

 

 

「……いいんか? うちは組の娘じゃぞ。その事実は変える気は無いし、隠す気も無い」

 

 

 答えは解ってる。

 だが、その答えが聞きたくてたずねた。

 

 

「勿論です。お嬢、いや巴さん。貴女の魅力が組だけじゃない事を証明しましょう! 微力ながら、御手伝いをさせていただきます」

 

 

 そしてプロデューサーはあの時と同じように屈み、手を差しのべてきた。

 

 ……相変わらずギザな男じゃのぉ。じゃが、悪い誘い文句じゃない。

 

 

「……いいんですか? 巴さん。アイドルになって」

 

 

 コイツもコイツで解りきった事を。

 もう決めた。決めた事を後から変えたら女が廃る。

 

 組を見ず、うちを見たアイツらの発破を受け、誰にも負けないアイドルになる事を。

 

 

 

「よろしく頼むぞ、P」

 

 

 手を差し出した。するとPは童話の中のお姫様のように手を受け止める。

 

 

 

 

 この日、うちは変わる。

 

 アイドルに、成るために。

 誰にも”恥じない”アイドルに。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 組の出口で荷物を積み込む。

 

 家族総出で門の前に並び、そして頭を下げた。

 

 

「「行ってらっしゃいませ、お嬢!」」

 

 

「おう、行ってくる」

 

 若いのに手を上げて車に乗り込んだ。

 

 

「……巴に何かあったら、地獄見せたるからな。この世の何処までも追いかけて地獄見せたるからな」

 

 自分でPに応募した癖に、今更Pに脅しをかけている。ヘラヘラと大丈夫ですと笑うPに、親父にゴクリと喉を鳴らす幸子と麗奈。

 

 

 車の中で幸子らが話を始めた。

 

 

「しかし、Pさんがここで育ったなんて知りませんでしたね」

 

 

「拾われたねぇ。でもその割に言動が軽いわよね。ちっとも怖く無いし」

 

 

 まぁな。

 じゃが別にアイツはヤクザだった訳やない。

 あくまでうちの世話係、たまに祭りの出店やったりしたが、基本はそれしかやっとらんかった。

 

 

「……あの」

 

 

 途端に前に座っとった森久保が振り返った。

 森久保はおずおずと絆創膏を差し出してきた。

 

 

「指から、血が、出てるんですけど……」

 

 

「おお、さっき判押した時切りすぎたか。悪いの。森の字」

 

 

 絆創膏を受け取り指に軽く巻く。

 確かに少し多目に血が出ている。

 すると幸子が信じられないといった顔でうちの顔を見ていた。

 

 

「判って、今時血判ですか!?」

 

 

「当たり前じゃろう。うちの人生を預けるんじゃからな。そん時は血で契約するんが常識じゃ」

 

 

「いやいやいや、そんな常識無いでしょ!?」

 

 

 すると小関まで否定しはじめた。いつもこうしとったんじゃがな。

 

 

「とにかく、アイドルは自分の体が資本なんですよ! 自らの体に傷をつけるなんていけません。もう二度とそんな事許しませんからね!」

 

 

 ・・・・・・。

 

 

「……なんですか、その目は! 解ったんですか!? 巴さん!」

 

 

 親父以外に説教されるなんざ、久しぶりじゃのう。怒られたにも関わらず、気分は悪くない。

 

 

「解った。もうせん」

 

 

 そういって腕を組み背もたれに体重を預ける。

 

「解ればいいんです! 巴さんの場合、世界の正しい常識から叩き込まなくてはいけませんね。いいですか? 皆さん、帰ったらまたアイドルに相応しい振舞いについて指導しますからね。心の準備をしておくようにっ!」

 

 

 うえ~っという声が上がる。

 

 フッ……。こんな年の近い連中が、周りで笑っとるなんて、初めてやな。

 

 

 

 

 

 

 

「……いいか? 巴に手ぇ出しても殺すけんね、解っとるか?」

 

 

 車の外で、親父がまだやっとる。いい加減恥ずかしいからやめい。

 いい加減Pも困り初めていた。親父の威圧をこうも耐えるんはある意味すごいのお。

 

 

「当たり前じゃないっすか~。プロデューサーなんすよ? 手なんか出しませんよ」

 

 

「ちっとは出さんかい!!! ワシの巴に魅力が無いっちゅうんか!! アァ!?」

 

 

「いやいや手を出したら殺す言ってましたよね!?」

 

 

「おう言った。少しでも口説いたらコンクリに埋めたる」

 

 

「……つまり娘の為に死ねと?」

 

 

 親父に迫られ、そして若いもん迄Pを殺さんばかりに威圧をかけていた。もう恥ずかしいから止めてくれや。

 

 そしてとうとう解放されたPがふらふらと車に乗り込む。

 しかし外から若い奴等が

 

「事故ったらッスゾゴラァ!」

 

「お嬢に怪我させたら小指じゃすまねぇぞ! 解っとるんか!?アァ!?」

 

 とがなり立てている。

 

 森久保がひぃいいと小さな悲鳴をあげた。

 

 

「お、お待たせしました皆さん。シートベルトはいいっすか?」

 

 

 もうとっくに出来とる。ていうか幸子と小関が青ざめとるからさっさと出せ。森久保なんぞ過呼吸寸前じゃないけ。

 

「ふひひ、手厚い見送りだね……」

 

 

 星がニコッと笑いかけてきた。恥ずかしい。

 

 

 Pが車にエンジンをかけて周囲を確認した。

 

 コンコンッ。

 

 

 窓が叩かれる。

 

 Pが窓をスライドさせ、親父の顔を見た。

 

 

「……感謝する。巴を、組の外の世界に連れ出してくれた事を」

 

 

 そして親父は微笑み、プロデューサーの頭を撫でくり回した。

 周りの若いもんらは急に泣き出す。

 

「巴が、組のせいで苦しんでた事は知っとった。じゃが、ワシは組の世界以外知らんけ、組の娘として幸せにしてやろうとする事しか知らなかった」

 

 

 そう言って、親父はうちに微笑みかけてくれた。

 

「じゃがな、気付いたんじゃ。いつも寂しそうに、一人で将棋指す巴をみて。組であるかぎり、あいつは外に幸せは無い。じゃが、組にいてもワシの娘である以上組の奴等は巴に対して無礼は働けん、外の連中と同じ一歩引いた付き合いしか出来んとな」

 

 

 

 そして親父は車から離れ、そして整列した若い奴等と共に、涙を流す。

 

 

「じゃからアイドルの皆さん。対等な目で巴を見てくれてありがとうございました。これから巴を、よろしく、よろしくお願いします!」

 

 

 

「お嬢ぉおお!! 絶対成功して下さい!!」

 

「お嬢ぉ! 頑張れぇ!!!」

 

 

 それぞれが大声でうちの応援をしてくれる。

 

 

 

 

 

「おう、出せ」

 

 

 プロデューサーに出発の合図を出す。外の連中に見向きもせず。

 

 

「いいんですか? 村上さん、答えてあげなくて……」

 

 

 輿水が隣で心配そうな顔で覗き込んできた。

 星はうちの代わりに組に手を振っている。

 

 

「結果を出すんが、うちの返事じゃ。言葉なんか、必要ない」

 

 

 

 そして、車が走り出す。

 後ろから何人かの若いのが走って追いかけてくる。見えなくなるまで、大きな声で応援を送ってきた。

 

「必ずボクがトップアイドルにしてみせますから!! 楽しみにしていて下さいね! ですから幸子、輿水幸子をよろしくお願いします!! よろしくお願いします!」

 

 窓から幸子が手を振っている。

 こんな時も売り込むとは良い根性しとる。

 

 

「ふぅ~、なんとか生きて出れたわ」

 

 

 小関がへなへなと背もたれに崩れる。

 森久保もようやく大きなため息を落とした。

 

 

 

 

 

 

 ……そしてうちは、手で額に当てながら俯いた。

 

 

「ふひっ、良い、家族だね……」

 

 

 星が、微笑みを浮かべてハンカチを渡してきた。

 

 

「おう、自慢の家族じゃ」

 

 

 うちはハンカチを受け取り、うっとおしい涙を拭き取る。

 

 ……覚悟を決めた。

 

 先程、仕方なくアイドルになってやるだけ、そう言った自分を殴りたくなった。うちは、絶対、絶対トップアイドルになったる。そう心の中で固く誓う。これからの未来にウチは、一つ大きな覚悟を持ち家を後にする。

 

 

 

 

 

 




続く
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