今回からまた幸子ちゃん視点に戻ります!
巴さんを迎えに行って帰った頃にはもう夕方を越え夜になってしまっていた。
しかし、この町はまだ外には遊ぶ若い人たちで溢れている。とは言っても、流石にボク達ほど若い人達はいませんけどね。
事務所に上がり、中に入るとなんだか今日だけで懐かしく感じるようになってしまった。お父さんが旅行から帰ってくる度に、やっぱりウチが一番だぁ、て言う気持ちが解りますね。
「帰ってこれたぁああ!!」
麗奈さんも同じ気持ちだったのか、プロデューサーの上着を脱ぎ、いつものソファーに寝そべった。はい、ぼくかわポイントマイナス1。
そしてボクもプロデューサーから借りた服を脱ぐ。
「うぅうう!まだ春先とはいえ、冷えるっすね~!」
ふうとため息を付くボク達の後から下はスーツ、上はシャツ一枚でネクタイを首にかけるプロデューサーと共に、巴さん達が部屋に入ってきた。
「情けない男じゃのぉ。格好つけるなら最後まで格好つけぇ」
巴さんになじられながら、プロデューサーは自分のロッカーに歩いていった。中から薄目のコートを取り出して身を包む。
「あ~、温かいわ~」
因みにプロデューサーがなんでこんな奇抜な格好になったか。
それは簡単な話、麗奈さんや巴さんとのやり合いでボク達の服がびろんびろんに伸びていたから。帰り道途中でご飯に降りた際、ボクと麗奈さんの服が伸びて胸元からブラがチラついていたのを見て、プロデューサーが悲鳴をあげたのだ。
するとプロデューサーが自分のスーツを脱ぎ麗奈さんにかけ、そして自分のYシャツを脱いでボクにかけてくれたのだ。
”これで大丈夫っすよ。大切なアイドルに、そんな恥はかかせられませんから”
と微笑みながらキメ顔で。
優しい言葉に優しい笑顔。
ボク達は確かに嬉しい気持ちはありました。あったんですがそれ以上に新たに発生した問題にばかりボク達は意識がいってしまった。
プロデューサーの格好である。
下は紫のスーツ、これはまあ良いでしょう。
そしてその上は、
Tシャツ一枚に黄色のネクタイ。
そして茶髪にピアスの男が立っていたのだ。
プロデューサーはそのまま食事の為にサービスエリアに行き、そのままの格好で車を運転していた。
もう、死ぬほど恥ずかしかったのは言うまでもない。でもね? あんなに格好よさげに決めた人の親切を無下にする訳にはいかないじゃないですか!だからボク達は微妙な表情で受け入れるしかなかった。
巴さんはやるのぉ、とプロデューサーを誉め、そして星さんも森久保さんもなんら気にする事なくプロデューサーの横でご飯を食べていた。
恥ずかしいのはボクと麗奈さんだけですか!?
せめて、せめてネクタイは外して下さいよ!
そんな心の叫びは届く事無くこの格好のまま事務所まで帰ってきてしまった。
お仕事関係の人には見られてない事を切に願う。
「それじゃ、皆さん長く車に座ってて御疲れっすよね! 少し休んでいて下さいっす。自分、巴さんに事務所を案内して、巴さんとの契約書を保管してデータにしたらそれぞれのお家にお送りしますんで!」
そう言ってプロデューサーがソファーの前の机に温かいお茶を並べた。しかし、それは流石に申し訳無い。疲れているのは運転してきたプロデューサーでしょうし。
「いえ、案内位はボクがやりますよ」
そう言ってボクは巴さんの前に行き、事務所を案内を始めた。
とは言っても、うちの事務所はそんなに大きい訳じゃない。
二階建てのビルに、一階は車を入れる車庫と物置がある。
二階には学校の教室四つ分位のスペースに、扉から出てすぐにロッカー、そしてついたてを挟んで事務用の机が四つ並び、そのうちの一つにデスクトップパソコン。
そして部屋の一番奥に、麗奈さんがよく寝そべるソファーが並んでいる。そこには大きめのテレビが一台。
扉から見て左側に簡単な調理室、その隣にシャワー室やらが並び、最奥には仮眠所がある。
二階に上がればほぼ全ての場所が見渡せる。
そんな場所だから、現在地から動く事無く案内を終わらせてしまえた。
「……成る程、確かに小さい事務所じゃが一通り施設はそろっとるようじゃな」
腕を組みながら辺りを見渡す巴さん。
まあ、その気になればここに住めるだけの設備はありますね。
現に、プロデューサーは結構な頻度で事務所に寝泊まりしている。
人がいない分、多く働けるよう考えた設備だ。
ボクのプロデューサーが働き者なのは構いませんが、たまには家で休んで欲しい物です。
「そしてこのビルの隣にレッスン場にトレーニングルーム、簡易ステージがあります。まあ、それは今度案内しましょう」
「おう、どうもな。幸子」
そしてボク達もソファーに座り込んだ。
「後は事務所で皆それぞれ自分のポジションを決めて過ごしています。ボクと麗奈さんはソファーにいますし、星さんはプロデューサーの机の下に良く潜んでます。森久保さんは窓のカーテンの中だったり、仮眠室の横の隙間だったりとまちまちですけど」
そう言って森久保さんの所在を目で探すと今日はパソコンの机の下に隠れているみたいですね。あんな所にいないで、ソファーに座れば良いのに。
プロデューサーが机から書類をまとめてパソコンの机に座った。森久保さんが閉じ込められてしまった。
パソコンで何かをプリントして、そして紙を巴さんに差し出した。
「巴さん、今日から宿泊する場所はもう借りてあるんで。必要な物は俺が揃えるっすから、そこに書いておいて下さい!」
そこには冷蔵庫や洗濯機等”既にある物”とかかれた箇条書きの一覧に、下に記入欄がある。
ボクの時も書いたな、それ。
「……なんじゃ、部屋借りるんか? そんなん金の無駄じゃ。P、お前マンションで一人暮らしじゃろ。そこでええよ」
!!!?
……ゴンッ!
巴さんの問題発言にボクは思わず立ち上がる。
Pさんの座る机からは頭をぶつけたような音がした。
「何を馬鹿な事言ってるんですか巴さん!」
「なんじゃ幸子、ルームシェアっていう奴が今流行っとるんじゃろ? 新たに部屋探すより、そっちのが安く済むけん。うちも稼ぎ始めたら生活費は折半すれば、うちもPも費用が大分浮くじゃろうし、そんなデカい事務所でもないけ、費用は少ない方がええじゃろ?」
立ち上がり講義するボクに”ん?”と首を傾げる。プロデューサーさんは困ったように笑っている。すると麗奈さんや輝子さんまで乗り出した。
「確かにそれ、いいわね。よし、P。アタシもそれに乗りたいんだけど。そうすりゃ迎えに来る時間も減らせて楽じゃない! 親から離れて自由になれるし!」
「ふひっ、なら、私も、そうするかな……。ふひっ、ルーム、シェア、なんか、リア充の響きがするね……」
「いやいやいや皆さん何言ってるんですか!? 大丈夫ですか!?」
皆の狂気の発想にボクは悲鳴をあげる。
皆は何が悪いの? といった顔だ。
「あのですね!! ボク達はアイドルなんですよ!? プロデューサーとはいえ、男性と同棲なんてスキャンダル物ですよ! 皆さんアイドルとしての自覚あるんですか!?」
「……ふ、不潔なんですけど」
本当この人達大丈夫なんだろうか!
唯一良識のある森久保さんも机の下で戦慄している。
「何も考えすぎじゃ無いんけ? まだうちらは子供じゃぞ。世間様じゃ保護者代理位にしか見えんじゃろ?」
「馬鹿な事言わない! ボク達は既にレディなんですから! はい、ボクかわポイント減点!」
え~っと皆からブーイングが飛ぶ。
本当アイドルというか女の子としての自覚が無さすぎますよこの三人は!
プロデューサーもハッハッハッと笑って誤魔化すばかりだ。
「そ、それに、プロデューサーは、ロリコンなんですけど……」
・・・・・・・・・。
「え?」
森久保さんの発言に、ただ笑っていたプロデューサーが目を飛び出させた。ボク達も一斉にプロデューサーを見る。
「おい、P。お前、そんな変態に成り下がったんか?」
「へ、変態!!変態!!変態!!変態!!」
さっきまで意識して無かった二人まで一斉にプロデューサーをなじり始めた。
プロデューサーへの熱い風評被害。
「ちょ、ちょっと乃々さん! 何を言ってるんすか! そんな訳無いっすよ!」
焦りながら机の下に向け必死に否定するPさん。こっちの角度から見るとシュールですね。
「でも、プロデューサーがスカウトしてくる子、大体中学生なんですけど。プロデューサーのお眼鏡にかかる子は、中学生なんですけど……」
「いやいやいや、たまたまっすよ! たまたま!」
プロデューサーも焦ったように否定する。
言われてみたら、確かにそうですね。今いるメンバーは全員中学生だ。
そう考えた麗奈さんは自分の体を隠しながら、ジトリとプロデューサーをにらむ。
「そういえば、アタシを見る目が何処かいやらしかったわね。この変態、アタシと同棲して何をするつもりだったのよ!!」
「見てないっすよ!? それに自分は別にルームシェアに賛成なんてしてな……」
「まあ仕方ないですよ! こんな魅力的なボクがいたんじゃ、ロリコンにもなりますよね! ボクが中学生だから好きなんじゃなくて、ボクが好きだから中学生が好きなんですよね? プロデューサーさん♪」
「幸子さん! 今そういうの止めて下さい!」
「そういうのとはなんですか!」
いよいよロリコン疑惑が本格的になり、プロデューサーも思わず立ち上がる。
皆から責められ、星さんのいる机に飛び付いた。
「ふひっ?」
「輝子さん! 輝子さんは自分の事信じてくれるっすよね!?」
現状唯一プロデューサーを責めない星さんに泣き付いた。
中学生に助けを請う大人、それもどうなんでしょうね。
「ふひ、大丈夫、私は、プロデューサーを、信じてる、ぞ……」
「し、輝子さん……!」
涙目になり星さんの手を掴む。
ほっと胸を撫で下ろし、味方を得た事でプロデューサーに余裕が戻った。
「プロデューサーが、ロリコンでも、私は、プロデューサーを信じるぞ……。大丈夫だ、ふひ」
「信じる所違うじゃないですか!! やだー!」
変態コールが事務所に響き渡る。
まあプロデューサーがロリコンなのはなんとなく知ってましたけどね!
「いや、ちょ、ま、ちょ待てよ(キムタク風)第一、自分中学生以外もスカウトしようとした事あるっすからね! 沢山!」
プロデューサーがそう言って昔スカウトした事があるアイドルの名前をいう。
「例えば今マーチングバンドで有名な日下部若葉さんとかですね! ほら大人!」
ふふ~ん。
……いや、寧ろロリコン疑惑が確信に変わりそうですプロデューサーさん。
麗奈さんと巴さんが後ずさる。
森久保さんがひぃい、と机から這い出てきた。
「森久保ぉ、早くこっちに来なさい! 皆で身を寄せ会うのよ!」
「おらぁ、P! こっち来たらぶっ飛ばすけんな!」
本格的な警戒が始まった。
思わずボクもその群れに混ざりそうだ。
「いや! いやいや! あと早苗さんという警察の方をプロデュースさせてとお願いした事が……! あれ?あの人は寧ろロリ顔か?」
「警察のお世話になったんかいな!!!」
「前科ありなんですけど! 前科ありなんですけど!」
「後、神崎蘭子さんというアイドルを……」
「 や は り 中 学 生 か !」
収集つかない位混沌に包まれる事務所。
星さんが奥で楽しそうに笑ってる。
「あとは、あとは……」
あたふたと記憶を整理するプロデューサー。
その時、何かを思いついたように
はたっ! と手を叩く。
「あのカリスマ女子高生、城ヶ崎美嘉さんをスカウトしようとした事があります!!」
自信満々にキラキラした顔でボク達を見た。
いや、あの、女子高生というのはどうなんだ……?
「ほ~っ、良かった。ならロリコンじゃ無いわね」
「安心したんですけど……」
ほっと胸を撫で下ろし、プロデューサーの所に戻る三人。
カリスマすげぇ、あの混沌を名前だけで沈めてしまった。
「ていうか、凄いじゃないですか。あのカリスマの城ヶ崎さんですか? 超スーパーアイドルじゃないですか!」
ボクの反応にふっふっふっ、と得意気に笑うプロデューサー。
「彼女がアイドルになる前にね、声をかけて断られた事があるんすよ!」
あ、断られたんですか。
ならなんでそんな偉そうなんですか?
しかし、プロデューサーさんが、城ヶ崎さんをスカウトですか。
この茶髪ピアス派手スーツのプロデューサーさんが、チャラ男にしか見えないプロデューサーさんが、城ヶ崎さんをスカウトですか。
「なんて声かけたんですか?」
「え? そりゃ、君可愛いっすね~っ少しそこの喫茶店で話いいっすか? て声かけました!」
・・・・・・・・・。
「なんて返ってきました?」
「”アタシ、そういうのいいんで”って、
めっちゃ冷たく言い放たれました(´;ω;`)」
でしょうね。
やっぱりプロデューサーさん、その頭とスーツなんとかした方いいですよ。
その後プロデューサーさんの話を聞くと、本当に沢山の人をスカウトしていた事が解った。
中には今アイドルとして活躍してる人もいて驚いた。
そして解りました。
プロデューサーさんが中学生しかスカウトしていたんじゃない、大人の女性には相手にされていなかっただけだったみたいです。
因みにカリスマ中学生城ヶ崎梨嘉さんもスカウトして、
プロデューサーにもなついてくれたらしく、詳しく話をしましょうと事務所に連れていこうとした所を城ヶ崎(姉)に警察を呼ばれてしまった逸話まであった。
その時来た婦警さんが早苗さんという方で、事情聴取の時にその人までスカウトしようとしたものだから城ヶ崎(姉)からはゴミを見るかの如く嫌悪に満ちた顔をされたらしい。
ロリコン疑惑を解消と共に、自分の悲しい仕事歴をさらしたプロデューサーがふらふらと事務所の扉を開く。
「……んじゃ、帰りますか」
とぼとぼと車を回しに行くプロデューサー。
少しいじり過ぎましたかね?
「相変わらずあいつはいじめがいがあるわね」
満足したような笑顔を浮かべ階段を降りるプロデューサーさんを眺める麗奈さん。
ボクも思わずクスッと笑いが溢れてしまった。
続く。