デレマスss 僕の可愛さは不滅ですね!   作:紅のとんかつ

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 お久しぶりです!

 最近ようやく時間が出来てきたので投稿再開です!

 読んで頂けた方のアドバイスで、1話と2話の間に1話追加しました!
 よろしければ読んで頂けたら幸いです!

 皆さんの少しでもお暇つぶしになれば幸いです!


かわいいボクと、新人さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気にいりません」

 

 

 

 作業机でパソコンからデータをプリントしているプロデューサーの前でボクは腕を組ながら仁王立つ。

 プロデューサーさんはそんなボクを”ぽかん"と間の抜けた顔で見上げていた。

 場所は事務所、プロデューサーさんの間の抜けた顔を夕日が窓から差し込んで温かく照らしてくれている。

 

 夕方特有のやんわりとした空気の中にも関わらずボクの顔は険しかった。

 ボクの一言に麗奈さんも森久保さんも頷きながらソファーに座っている。

 

 

「え~と、自分のスーツの柄がっすか?」

 

 

 それはいつもです。

 なんですかオレンジって。漫画だったら成金キャラが着る色ですよ。

 

 紫、白黒縞模様、赤、オレンジ。

 この人が普通のスーツ着ているのを見た事が無い。喪服にすら水色とか着ていきそうだから困る。

 しかしボクは首を横に振ってその答えを否定した。

 

 

「え~と、なら今度のお仕事っすか?」

 

 

 それもありますね。

 なんですか、外国紹介でパプアニューギニアに行ってジャングル体験って。それ大体お笑いの人が行く奴じゃないですか。でも今の気に入らないはそれじゃない。

 

 

「……解った! 今日の幸子さんのコーディネートっすね! 大丈夫です、今日も良くお似合いですよ!」

 

 

「レッスンあがりでジャージですけど。ああもう、勘の鈍い人ですね! 新人の話ですよ!!!」

 

 

 

 そう言ってボクはプロデューサーに詰め寄った。

 

 そう、気に入らないのはこの前入ったばかりの新人アイドル、村上巴さんの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ボクの言葉にソファーに横たわる麗奈さんが同意した。

 

 

 

 

 

「解るわ幸子、あんたの気持ち。後輩の癖に生意気って言いたいんでしょ? あいつには先輩を敬おうって気概が無いのよ。生意気ね!」

 

 

「貴女が良く言えますね!!! でもその通りです!」

 

 

 寧ろ誰に対しても偉そうで生意気なのは貴女ですよ! ですがボクの今言いたいことは確かにソレだ。

 

 

 

「勘違いしないでください。別に敬語を使えとか、気を使えって意味じゃないんです。でも! しかしながら! 巴さんにはボク達に対する敬意がまるでありません! だから彼女は今までのボク達の考えを、浸透させてきた創意工夫を無下に扱うんです!」

 

 

「無下に、ですか?」

 

 

「そうです! まずはボクのパーフェクトな自主トレレッスン表、まずこれを見てください! さあ!」

 

 

 

 詰め寄ったボクに体を仰け反らせるプロデューサーの顔にスケジュール表を押し付ける。

 

 

「これを! 見て下さい!このレッスンのタイムスケジュール、見て下さい!さあ!」ぐいぐい

 

 

 

「えっと! 程良く休憩を取られていて、体を動かすレッスンとそうじゃないレッスンの比率を考えられていて、よいスケジュールかと!」

 

 頭を抑えつけられて椅子から落ちるに落ちられないプロデューサーが涙目になってボクのレッスン割をみやる。その角度で本当に見えてるんですか!? まあいいですけど。

 

 

 

「そう、ボクなりに皆さんの体力や練度を考えてのメニューなんです! 一番体力の無い人に合わせる、集団訓練はそういうものであり良く練られたレッスン計画! それを、ボクがレッスンで計画された休憩を指示した時巴さん何て言ったと思います!?」

 

 

「えっと、休憩に反対したとか?」

 

 

 

 違いますよ。

 そうならまだ良かったです。

 

 

 

「こう言ったんですよ。

 ”なんじゃ、もうバテたんか?”って……」

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

「”いえ、まだですけど!!”ってなりますよね!」

 

 

 

「”あんたが後でバテないか心配だわ!”ってなるわよね!」

 

 

 

「え!? なります!?」

 

 

 

 なるに決まってるでしょう!

 プロデューサーなのにアイドル魂が解ってませんね!

 

 

 それがどれだけ大変だったか。

 

 

 

 

 

 

 それの説明の為に今日のレッスンまで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------

 

 

 今日はダンスレッスン。

 基本中の基本だからこそ重要なステップを皆に浸透させる為の練習。

 

 そのレッスンはもはや五時間にも及んでいた。

 

 その練習に大型新人、後輩の村上さん。

 彼女を囲むようにして星さんも麗奈さんも森久保さんも座り込んでしまった。ボクもなんとか気合いで立っている、そんな状態だ。

 今村上さんに立ち向かえるのは今やボクだけ。だから、ボクが三人の分も思いを伝えなければならない。

 使命感を胸に、ボクは村上さんに声を張り上げた。

 

「休憩しましょう!!! これ以上は、もう休まないと、いや寧ろ終わりにしないと……」

 

 

「もうけ? バテるんが早いのぉ。幸子ぉ、麗奈ぁ、お前らそんなモンか?」

 

 

 

「いいえ、まだまだですが!!!」

 

 

「後でバテたって知らないわよ!!!」

 

 

「むぅううううううりぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 

 間髪いれずこの返事。このやり取りはもう六回目。

 終わらない無限ループにとうとう森久保さんが大声を上げた。

 

 

 ありがとう森久保さん。

 なんかもう、ボク達は反射でこう答えてしまう病みたいです。絶対に引き下がりたくない。

 

 体は限界でもこうなってしまったら、もう他人の声無しに止める事は出来ないんです。

 森久保さんらしくない叫びに、ようやくこの負の無限ループから解放された。

 

 

 

 

 

 

 本日初の休憩タイム、というか今日の所はもう終わりにしたい。そんな限界点を到達した体を表情に出さないようにしながら周りを見る。

 

 

 星さんはう~っと唸りながらパンパンになった足をマッサージしている。

 麗奈さんは涼しげに座っているも足がガクガクに震えている。

 森久保さんなんか、たいいく座りで血が出る位下唇を噛みながらボク達を尋常じゃない目で睨んでいた。ごめんて。

 

 

 事の原因の村上さんはと言うと、一度給水に来たっきり休憩ゾーンには近付きもせずダンスの動作確認中。

 

 どんな体力してるんですか!!

 

 

 有名アイドルグループにまでなると、ライブで五時間フルスロットルで動きっぱなしなのにその苦労をおくびにも出さないらしいですが、なに、貴女はもうその領域なんですか?

 

 

「のう、森の字。さっきのサビのステップなんじゃが、お前綺麗だったのう。なんかコツがあるんか?」

 

 

「ひぃ!」

 

 

 そう言ってカーテンにくるまろうとする森久保さんにアドバイスを貰いに行く村上巴さん。

 

 その向上心に複雑な気持ちになった。

 

 

 村上さん。

 彼女はプロデューサーさんの言う通り、ダンスも歌も素晴らしいの一言だった。

 

 初めて聞いたステップは”こうかの?”と一回で決めてみせ、

 初めて歌の特訓を始めた時はその声量、特にこぶしやビブラートの技巧にボク達は揃って苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

 しかもああやって周りに解らない事を聞く事を躊躇わない、それはボクや麗奈さんには無い向上心だった。

 

 ボク達は聞く位なら倍練習するがボクのモットーですから。だって聞くって、その人に負けてるみたいじゃないですか!

 

 そんなかんだで、この事務所でボクの次に技術のあるアイドル候補生になるのに時間はかからなかった。ボクの次に。

 

 

 

 これでもボクだって1年前からアイドル候補としてレッスンを積んできたんです。体力には自信がありましたが、それをこんな入って数日の新人に振り回されるなんて実に気に入りません!

 

 ていうか、レッスンの主導権をさりげなく握っている事もまた問題です。

 さっきみたいに、ボクが一日のメニューをこなす為に必要である休憩を取るよう指示をすれば”まだやれる”、”もうかいな?”等と横槍を入れるのは当たり前。

 酷い時はルーキートレーナーさんの休憩指示にすら逆らい特訓を止めない。ルキさん陰で泣いてましたよ!

 

 今だって巴さんがまだ練習しているから、頑張り屋の星さんが頑張って立って巴さんの所に向かおうとプルプル震えている。十分努力しているのにもかかわらず自分がさぼっているような罪悪感が出てしまっているのでしょう。それは問題だ!

 

 そして、その、なんというか、ボクとしてもいつリーダーの座を取られてしまうか気が気ではない……。とにかく!その位成長が目まぐるしかった。

 

 

「くっそ~、巴の奴、良い気になりやがって……」

 

 そう言って歯軋りをする麗奈さんにボクは内心シンクロしてしまいそうになる。

 首を降って雑念を振り払った。

 

 いやまだ、まだ負けてませんよ!

 

 このままでは、このままではいけない!

 今までは不動のエースだったのに、まさか、いや一万分の一の確率でその立場がひっくり返されようとしている?

 

 そうは、そうはさせませんよ巴さん! この業界の先輩アイドルの恐ろしさを教えてあげます!

 

 

 なんとかしようと自分の凄さをアピールする言葉を模索していると、横で麗奈さんが絶対周りに見せられないような悪どい顔をして何やら村上さんの御茶に何か入れていた。

 その行いにボクは止まってしまう。

 

 

「ヒッヒッヒッ・・・」

 

 

「麗奈さん何やってるんですか?」

 

 

 呆れながらにそうたずねる。

 するとイッヒッヒッと笑いながら入れた物の銘柄を見せびらかしてきた。

 

 

「唐辛子にタバスコよ。これを奴のポットに仕込んでやったわ。これで奴にこの業界の厳しさを教えてやる。イッヒッヒッ」

 

 

 ……何をやっているのだろうこの人は。

 

 業界の厳しさって、貴女そんな悪戯、誰にもされた事無いでしょうが。昔の少女漫画か。

 

 しかしまあ、このドリンクを飲んだ時に巴さんがどんな反応をするか、確かに興味が無いと言えば嘘になりますね。

 

 だから関与はしないけど止めはしません!

 見てない事にすれば見てない事になるのもこの業界の真理ですからね!

 表沙汰にならなければそれはやってないが芸能界だ!(あくまで個人の意見です)

 

 

 そうしている内に森久保さんからアドバイスを聞きだした巴さんがこちらに歩いてきた。

 

 麗奈さんは口笛を鳴らしながらボクと麗奈さんの間に一人座れるスペースを開けて、間にドリンクケースを置く。

 

 

「ふぅ、動けば熱いが、止まればやはり冷えてくるのぉ。風邪引く前に、早く着替えねばな」

 

 

 そう言いながら間に座る巴さん。

 片手にはドリンクケース。

 

 

「ぷくく、風邪対策なら、水分が必要じゃない? 温かい御茶とかさ」

 

 

 言いながら笑いを手で隠し顔を背ける麗奈さん。

 そして村上さんがとうとうその唐辛子入り茶に口を付けた。

 

 

 

 ・・・・ゴクッ・・・・・。

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 ・・・・・・ゴクッゴクッゴクッ。

 

 

 

「「!!?」」

 

 

「ふぅ、なんじゃ! 伊右衛門とかゆう茶、初めて飲んだが、中々美味いのぉ! 体がポカポカ温まるわ!」

 

 

 そう言って二杯目をのみ始める村上さん。

 

 その様に麗奈さんと二人で戦慄していた。

 

 

「え? え? えと、それお、美味しいの?」

 

 

「おう、芯から温まるわ。飲むか?」

 

 

 そう言って巴さんは御茶をコップに注いで麗奈さんに手渡した。

 

 

 え? え? とキョドりながら麗奈さんはおそるおそるその御茶に口を付ける。

 

 

 

 \ギャー/

 

 

 

「んじゃ、トレーニングに先に戻っとる」

 

 

 

 口を真っ赤にしながら悲鳴をあげる麗奈さんを振り向く事無く巴さんはフロアに向かい歩いていく。どんな時も狼狽えない、それも理想のアイドルですね!と軽く尊敬しそうになりながら巴さんの背中を目で追ってしまった。

 

 

 しかし、まだボクの示した休憩時間は半分にもなっていないにも関わらず、巴さんは今お茶を飲みにきたっきりで碌に休んでいない。

 

 努力とはいえ仲間で取ったトレーニングで、こんな風に休憩をほとんど取らずトレーニングをぶっ通しでやるのはどうだろうか。

 

 それに、ボク達はチームだ。

 例え努力だとしても足並みを乱すような事は悪影響だし、このままではチーム仲にすら影響する。巴さんを見て居たたまれなくなり、ふらふらとステップを練習する星さんがその証拠だ。

 ボクは仕方無く悪役になる覚悟を決めて巴さんの所に歩み寄る。

 

 

 

 軽快にステップ動作を確認する巴さん。

 

 その後ろに立って、ボクは咳払いをする。

 

 

 

 ごほんっ。

 

 

 

 ……。

 

 こちらに気付いたのか、巴さんは足を止めて振り向き、首に巻いているタオルで汗を拭いた。

 

 

「なんじゃ、幸の字。話でもあるんか?」

 

 

「はい。巴さん、今は休憩時間です。練習は止めて足を休めて下さい」

 

 

 ボクは冷たい飲み物を渡しながら休憩を促す。

 

 

「うちは大丈夫じゃ。まだまだ余裕はある。だから気にせんと休んどれや」

 

 

「大丈夫じゃないですよ。努力しているのは解ります。その成長ぶりも、その覚悟も伝わりました。ですが、適度な休憩を取り入れないと身体に良くありません。成長の阻害にもなりかねない、違います?」

 

 

 筋肉の超回復だって勉強だって、ただやれば良い物ではない。

 効率良く質の良い休憩も大事な要素だ。

 

 ボクは経験がらそれを知っている。

 

 

「確かに一理ある。じゃがの、休憩が必要になるタイミングってのは人によって違うじゃろ。ウチはまだやれる。皆で合わせて踊る段階なら解るが、今やっとるんはあくまで個人の練習じゃろ? 正直、今のペースじゃウチには全然足りんのじゃ」

 

 

 そう言って、巴さんが再びダンスレッスンを始める。

 その頑なな姿勢にボクはピクピク唇が動いた。

 

 

「でもですよ! これは集団活動でもあるんです! 一人が先走っては、和が乱れます! 一番体力の無い人に合わせて皆で頑張る、それがチームじゃないですか?」

 

 

「チームである前にお互いがライバルじゃ。自分がどの程度出来るかどうかはそれぞれが決めればええ。自分でこの世界に入ったなら自分の責任は自分が持つべきじゃ。自分に合わせてそれぞれ頑張る。歩く速度はそれぞれ違うんやからそれでええやろ?それもチームの形や」

 

 

「では遅れてしまった人は遅れてしまっている本人のせいだと、チームメイトは己を磨いていればいいんですか?」

 

 

 ボクの言葉にビキッと反応し、眉をしかめた巴さんがこちらに振り向く。

 

 

「……そうは言っとらんじゃろが。もし自分が遅れてる思って、手伝って欲しいゆうんなら助ける。特訓に付き合うしアドバイスも出すわ。じゃがそのアクションは個人でやるべきじゃろ ?なんでもかんでも周りで指示し助け舟出してやるのがチームか?そんなん個が育たんわ」

 

 

 ぐぬぬぬ。

 

 

 お互いの目が交差して睨み合う。

 その後ろでは麗奈さんが喧嘩か? みたいに目を輝かせ、森久保さんはその空気に負け白目を向いて体育座りで固まっている。

 

 

 

 

 

 …………ゴンッ!

 

 

 そんな時、側面方向から何か硬い物をフロアに落としたような鈍い音がフロアに響いた。驚いて振り向くと、星さんがフロアに足を滑らせたのか、頭から倒れ込んでいる。

 

 

 

「星さん!!」

 

 

 

 ボクは大急ぎで星さんの所に走っていった。

 麗奈さん達も顔色を変えて立ち上がる。

 

 

 

「星さん、大丈夫ですか!? 頭打ってましたけど!」

 

 

 慌て走り寄るボク等に、頭を抑えながらむくりと起き上がる。そして恥ずかしそうに口角を上げた。

 

 その笑顔にボクも麗奈さんもホッとしたように笑い、星さんの頭を撫でながら微笑み返す。

 

 

「全く、足フラフラの癖にターンなんてするからよ!馬鹿なの?」

 

 

「いやあ、フヒ……」

 

 

「救急箱持ってきたんですけど、血とかは出てないけど、一応冷やした方がいいんですけど」

 

 

 

 森久保さんが救急箱を持ってきてくれていた。

 迅速な対応に少し驚かされながら救急箱を開ける。

 

 

 頭にアイスノンを当てると星さんが冷たっと反応した。そしてにへらっと笑い、ありがとう、とお礼を言う。

 

 

「ちょっと輝子、本当に大丈夫? これ何本に見える?」

 

 

「え? ピースしてるから、二本、」

 

 

「腕は一本よ。やっぱアンタ疲れてるのよ! 休みなさい、そうしなさい!」

 

 

「こすいんですけど」

 

 

 麗奈さんのさりげない本音が見え隠れする心配を他所に、ボクは狼狽えながら星さんの応急処置を進めていく。

 

 

「すみません! 星さん。監督のボクが目を離してしまったばっかりに……」

 

 

「い、いや、違うよ。わ、私が勝手に休憩中なのに動いただけだから、輿水さんのせいじゃ、無い、よ」

 

 

「いいえボクのせいです!今日はルキトレさんがいない自主トレだからこそ、リーダーのボクがしっかりしないといけないのに……」

 

 健気に笑う星さんの方が頭を下げてしまう。ボクは焦りながらその頭を上げて貰おうと必死だった。

 

 

 そんなボク達の背中越しに冷めた声で巴さんの言葉が投げかけられる。

 

 

 

 

「そうじゃな。星の失敗じゃ。幸の字には関係無いの」

 

 

 そう言い放ち、集まるボク達の間を抜けて星さんの前でしゃがみ込んだ。その情けの無い言葉に”かちん”ときて、一言怒鳴ってやろうか、そう思っていると、その顔は優しく微笑み、星さんにしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

「星の字、まずは体力付けんと、無理は効かんぞ。怪我したら意味ないけ、気ぃ付けぇや」

 

 

 

「あ、ああ。気を付ける……。一番遅れてるから、頑張らないと、な」

 

 

 

「その気概があるんなら大丈夫じゃ。一応頭打ったけ、今日は止めといた方がええんじゃないけ?」

 

 

 

「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけで、痛くない、よ」

 

 

 

「そんならええ。だが気分が悪くなったらすぐに止めろな。星の体の事は星しか解らんからな?」

 

 

 

 

 そう言って巴さんは星さんの肩を軽く小突くと、さっさと立ち上がり自分の練習に戻ろうと歩き出した。

 

 

「ちょ、それだけですか!? 仲間が無理をして頭を打ったんだから、もっと心配したりするでしょう! 自分の練習に戻る前に皆で星さんを保健室に……」

 

 

「それは星の決める事じゃ」

 

 

 巴さんは”じゃろ?”と星さんに背を向けたまま確認し、そして鏡の前で再びステップを再開する。星さんがなんで無理をしたのかも気にもせず。巴さんは最後まで星さんの転倒を星さんの責任とし、決断を星さんにさせた。

 

 

 

 

 ボクはその横柄で仲間を大切にしないその姿にワナワナと体が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 戻って現時刻、事務所の一角。

 

 

 

 

 

「仲間はなにより大事です。家族と同じ位に大切にしなくてはなりません」

 

 

「……それは、まあそうですね」

 

 

「人は、無理をします。無理をしている人間は客観的になんてなれません。そんな時に仲間が見ていてやらないといけないんです」

 

 

「……確かに頑張りすぎは、良くありません」

 

 

 ボクなりに、今の事務所の皆を大切に思っている。思っているからこそココの意見は曲げられない。

 

 

 

「それを巴さんと来たら、どこまでも個人主義! 足並みを揃えようとしないなんて横暴ですよ!」

 

 

「そうよ! 生意気よ!」

 

 

 

 

 あんたが言うなと言いたくなる麗奈さんを他所に、ボクは怒りの声を上げる。プロデューサーさんを解放して姿勢を正すと、ようやくプロデューサーさんがネクタイを直しながらボクにコホンと向き直す。

 

 

「確かに幸子さんの言っている事は解ります。ですが、巴さんだって仲間を大切に……」

 

 

 

「まだです! まだボクが言いたい事は続くんですよ!」

 

 

「むぐっ!」

 

 

 

 スッとシリアス顔になりそうだったプロデューサーの顔を指で押し込んでやった。まだボクのターンは終わって無いでしょ! まだまとめには入らせませんよ!

 

 

 

「さらに、さらに気にいらないのはですねぇ」

 

 

「は、はひでふは?」

 

 

 

 プロデューサー何言ってるのかわかりません。もっとハキハキ喋って下さい。

 そして、ボクはこの根拠に自信を持っている。彼女は先輩だ後輩だ年上だのを意識している節は無い。そんな事を言ったら麗奈さんだってそうですが、リーダーであるボクの言葉に敬意を持っていないんです。

 

 

 

 

「巴さんは、ボイトレでも駆け足でも、常にトップの成績を収めているんですよ」

 

 

「は、はい」

 

 

「何事にも屈せず、常に前を向いて努力する姿には目を奪われました」

 

 

「な、なるほど」

 

 

「体力もあって、度胸もあって、凛々しくて……全然新人らしい可愛さが無いじゃないですか!!!」

 

 

「そこですか!?」

 

 

 クワッと目を見開いて”強いられてる”ばりに集中線を使って言い切った。

 

 それとはなんですか!

 

 ボクのような先輩アイドルには物凄い悩みですよ! 色々な世界で、常に下に追い抜かれる事を恐れている先輩がいくらいると思っているのでしょう! 追われる方がプレッシャーは大きいんです!

 

 

 つまり、それらを纏めると、問題は巴さんは仲間に対する配慮、そしてボクを先輩として、リーダーとしての敬意をもっていないという事です! それが実に気にいりません!

 

 ボクのトレーニングメニュー所か、普段の生活、事務所のルール、その何もかも巴さんは”自分の筋”を優先して聞いてくれません! ボクをリーダーとして敬わっていないからです!

 

 確かに巴さんの言ってる事は一部解る部分はありますが、ボク達はチームなんです! 一番能力の低い人に合わせて足並みをそろえて皆で強くなるべきでしょう!

 それに、指示を無視しても向上心だからといってそれを無視していい理由にはなりません!

 

 

「敬っていないとどうなるか、指揮系統が乱れ、頭が分かれて組織として瓦解してしまうという事です! つまり事務所の危機と言っても過言では無いでしょう。違いますか?」

 

 

 

「ま、まあ、誰が責任者で統制者なのかはハッキリさせないと組織というか、会社だとしたらヤバいっすが……」

 

 

「そして事務所がやばいという事は、ボクが可愛いという事を世界に知らしめる事が遅れ、世界の損失です! 違いますか!」

 

 

「あ、あ、ハイ……」

 

 

 

 押し負けたように縮こまるプロデューサーの机を叩き、ボクは顔を近づける。

 

 

「という訳で、リーダーが誰なのか、ハッキリさせてやろうと思います」

 

 

「リーダーが、ですか」

 

 

 

 困り顔のプロデューサーもようやくボクの目を見て答えた。

 

「そうです。この際彼女には、ボクとどちらが上なのかをハッキリさせておかなくてはなりません。完膚無きまでに叩きのめして上下関係を教え込む事から始めようと思います」

 

 

 ボクがプロデューサーにこの話をしたのは、何もプロデューサーから言って欲しい、とかそんな弱気な理由ではない。これから、ボクは戦いに行ってくるという報告だ。

 

 

「勿論、彼女がボクより優れているというのであれば、新しいリーダーは彼女です。ですが、そうは問屋が卸しませんよ! ぎゃふんと言わせてやります」

 

 

「ぎゃふんとか、言ってる人初めて見ました」

 

 

 

 そしてボクは扉に振り返り、歩みを進めた。出撃の覚悟を決めた歩みで。

 

 

「アタシも一緒に行くわ。アイツを倒すのは、このアタシ。そしてリーダーに相応しいのもね」

 

 

「麗奈さん……」

 

 

 

 なんて事だ。共通の敵(優秀な後輩)を得た事で、ボク達の団結力は深まったようです。これなら、もう、何も怖くない。

 

 

「森久保は事務所で小さくなってるんですけど」

 

 

「駄目よ。今度は協力しなさい。打倒ヤクザ女よ」

 

 

「森久保は争いなんて嫌なんですけど~!」ズルズル

 

 

「という訳でプロデューサー、今から隣でレッスンしてる巴さん達を連れて町に行ってきます。留守は、任せましたよ」

 

 

「あ、ちょ……」

 

 

 

 

 

 

 ボクの心配をしているのか困ったように手を伸ばすプロデューサーに振り返りもせずボクと麗奈さんは森久保さんの手を引いて部屋を後にする。

 

 こうして、ボク達のアイドル選抜が始まった。

 

 

 

 

 

 

「今日は皆さんに挨拶したいという人が、お~い……」

 

 

 プロデューサーの寂しそうな声が静かな事務所に悲しく響き渡り、そして返事が返ってくる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 






続く

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