FAIRYTAIL 紺桔梗の道標 作:management
いつか平穏な人生は突然崩され、そして何もかもやり残したまま天界へと行く。
その魂はもう二度と戻らない。
どんなに手を伸ばしても。
どんなに祈っても。
誰も、あの魂に届くことはないのだ。
そう、
"人間だから"
ーー
今日も俺はクラスメートのやつと一緒に帰る。
だがあいつらは俺を放っておいて二人でベラベラと喋っている。
誘ってきたのはこいつらなのに。俺を止めたのはこいつらなのに。何故俺抜きで話を進める。
いつも俺は後ろ。
どんな状況でも、どんな関係でも、俺は後ろに行く。
後ろに付いていく。
前なんてまっぴら。考えたくもない。
級長やら議員やら書記やら、そんな前へ出て仕事する役職なんて、何故出来るのかが疑問に思う。
内点を取りたいから?先生に良い目で見てもらいたいから?それとも自ら進んで、自分がリーダーだとわからせるため?
ああ、考えるときりがない。何故人間はこんなにもつまらないものなのだろう。
何故こんなにも醜いのだろう。
路地裏に差し掛かった時、打撃音が響く。
思わず立ち止まり、俺はその先を見る。
暗くて良くわからないが、打撃音と嗚咽、小さな悲鳴を掛け合わせれば後は簡単に予測できる。
だが通り過ぎる人々は皆誰も行こうとはしない。気づいていないだけか、はたまた気づいているのに助けないだけなのか。
本当に人間は無情すぎる。
その人間の仲間に入る俺も、同罪だけど。
俺は路地裏を一度しっかりと見て、また歩き出した。
もう前には、あいつらはいなかった。
いつもの事だと割り切っても、やはり何かが湧き出てくる。
これの正体はまだわからない。
そして俺は帰りにスーパーに寄って食材を買いに行くのだ。
誰も止められない、俺の人生。
誰にも阻害されない、俺だけの未来。
俺はあいつらとは別の道を通り、馴染みのスーパーへと向かった。
いつもとは違う食材を買い、昨日とは違う店員と言葉を交わらせる。
この過程があまり好きではなかった。
何か変な事を口走れば、赤の他人のこの店員は俺を変な目で見て、周りのやつらも俺を変な風に見る。たとえどんな些細な事でも、こういう年老いた人間はそんなのすぐ拾ってしまうであろう。実に迷惑だ。
実際に経験したことはないが、何日か前に俺の前にいた人間が恋愛に関する事を呟いていたら、その時の店員だった年老いた人間がそれを拾ってどんどん話題を広めていったのを至近距離で見た。零した人間は赤くなり、さっさと会計を済まして出て行ったが、火花はこちらにも飛び、俺は散々彼女の恋愛に聞かされた。その時は俺の後ろには誰もいなかったからいいものを、いたらただの迷惑でしかない。現に俺もイライラしてキレそうだったくらいだ。
どうして人間は自分の事を話したがるんだ。
自分を見てもらいたいから?自分という存在を認めてほしいから?そもそもの存在理由を知ってほしいから?
どうして俺は考え始めるとこうなのだろう。もっとプラスの意味があるはずなのに、マイナスな言葉を並べてしまう。
会計を済ませた俺は食材をレジ袋に入れ、肌寒い外に出る。やはりまだ寒く、しかしそれ程寒いというわけではない。つまりマフラーはいらないということだ。
左手をポケットに突っ込み、俺は歩き出す。もうここからは家に帰るだけだ。何をしようか、まずは宿題を終わらせなければ。その後は読書でもするか。まだ読み切っていない小説があったはず、今日中に読んでしまおう。そこからは晩飯を作って食べて、風呂に入ろうか。あとは寝るだけだ。
なんだ、いつもと変わらないではないか。
音をたてるなか、青となった信号に人々は歩き出す。俺もその波に乗り、信号を渡る。
後もう少しで家だ。いくら寒くないとはいえ、長くいれば次第に寒くなる。やはり最初は風呂に入ってからにしよう。温まった方が勉強にも集中しやすい。
まだ親も帰ってきていないだろうし、水を入れて温めなければ。親が帰ってきたらさっさと入れと言えば大丈夫だし、無駄ではない。
しんみりとした住宅街を通り、やっとのことで我が家に着いた。
そこで俺は首を傾げた。
門のドアノブを握った時、言い合わらせぬ不信感を感じた。
なんだ、いつものドアノブではない。
俺はそう思いながらも、そっと開ける。
ガキッと音を立てた門戸は、そのまま削れるように開け放たれた。
建てつけが悪い。いつもはスムーズに開くのに。何故こんなにも歪んでいる。
何かを感じている俺は門戸をそのままにし、玄関へと歩み寄った。
そこで俺の疑問は確信へと変わる。
俺の視線の先には、
玄関の扉が、破壊されていた。
無理矢理こじ開けたかのようなぐちゃぐちゃな鍵穴がそのまま放置されており、ドアノブも湿っていて気持ちが悪かった。
それに不快感を覚えた俺は持っていたタオルで拭き、ドアノブに手をかける。
玄関ドアはいつも通り開けれたが、中を見た時の惨状は酷かった。
玄関付近の棚に置かれていた花瓶は割れ、朝規則正しく並んでいた靴もぐちゃぐちゃになっており、ここからでもわかるくらい廊下にスプレーでもふきかけたような落書きが書かれている。
強盗かと思ったが、明らかに違う。まるで恨みでももった行動だ。
だが俺は恨みを持たれたことがない。極力人間とは関わらないようにしているし、周りも俺に必要最低限以外の事は話さない。のでこの推理は却下。
なら一体何が目的だ。ただ荒らしたくて仕方がないやつがいて、そいつの標的が運悪く俺の家になっただけ?キチガイだな。
しかし物音は聞こえない。そこからもう誰もいないだろうと確信する。ああ、今日の予定が狂ってしまった。今日の半分は掃除で埋め尽くされそうだ。
荒らされた玄関に足を踏み入れ、靴を脱ぐ。
その時だった。
ドォン!という音と共に、俺の脳が熱に侵された。
そこから激痛が走り、一瞬で消える。代わりに赤い液体が、俺の視界に映った。
急に力が出なくなり、俺は足膝をつくしかなかった。視界がぼんやりするなか、俺はゆっくりと後ろを振り向く。
俺が最後に見たものは。
銃口をこちらに向けている、一人の"人間"。
だがどんな表情をしているかは伺えず、ただ解った事は。
その"人間"が、俺の親だということだけだった。
ーー
目を開ければ真っ白な空間だと思っていたのに、俺は何かの円盤状に立っていた。
それは浮遊しており、俺の身体を揺さぶらされる。だが不思議と乗っている感覚はしない。
周りを見れば金色の雲が辺りを包み込んでいる。そこからの様子は伺えないが、この空間では俺一人だというのがわかる。
俺は何処に向かうのだろう。
俺は、死んだのだろうか。
最後に見た"人間"の顔を思い出し、俺は溜息をつく。恐らく家を荒らしたのもあいつ。俺を誘い込むためなのだろう理由は誰かを殺さなければ、自分の命が危ういとか、ただ誰かを殺したかっただけなのか。真相はわからないが、これで俺は一人となった。
ここは天国なのだろうか。俺は、天国へと行っていいのだろうか。
ゴウン、と円盤状のものは突然止まり、俺は前方を見る。
見ればそこから道が続いている。まるで俺を誘導しているかのように作られている。
それが俺の運命ならば、俺はその先に進もう。
俺は迷う事なく、その道を辿った。
その先に。
「やぁ」
雪のような白さをもつ肌に、あの雲の色のような金色の髪を靡かせた………"人間"とは程遠いものがいた。
そいつは俺の姿を見て、薄く笑う。
服装は動きやすそうな白のノースリーブにスカート。その上からコートという真っ白な服装だ。
俺はそいつと微妙な距離を保ち、睨む。
すると相手はそれを一瞥し、質問した。
「一応確認しておくよ。君は死んだ。それは認識してるよね?」
その問いに俺は傾く。
そいつはそれを聞くと、また薄く笑った。
あいつの見つめる先には、無限の空間。
そこには何があるのだろうか。
それを確認する前に、あいつがまた話し始めた。
「それを聞いて安心した。それじゃあボクの名前を言っておくよ。とは言っても、名前なんてないんだけどね。ボクは神。君の魂を導く、神だ」
あいつは自分を神と名乗った。そう認識した途端、神の周りが輝いたかのように見えてきた。
なるほど。俺が"人間"じゃないと確信していたのは、あいつが人外だったからか。
神はこのまま続けるようだから、俺は黙っている。
「最後の確認として、君は死んだ。死因は銃殺。死に場所は自宅。そこに君の死体がある」
この神は俺の死因も知っているらしい。
銃殺。思いもしなかった死に方だ。俺は誰にも見守られずにゆっくりと死んでいくと思っていたのに、即死んでしまうとは。情けない。
「そして君は本来、天界へと行くんだ。だけど今は、この時は違う」
「………?」
どうやらここは天国ではないらしい。
なら、ここは何処なのだ?何故ここに、神という存在がいるのだ?
俺は、何処にいるのだ?
「そこまで考えなくていいよ。あ、もしかして考える時間が欲しいかい?」
「………いや、話してくれ」
神は一呼吸起き、真意を伝えてくれた。
「ここは、魂が"転生"するところ。天界と地獄の間。つまり、君は転生するためにここにいるんだ」
………転生。
そんなの、サイトでしか見たことがない。
主人公はトラックにぶつかって死んで、そして神に出会って気に入られ、さらにチート能力を貰う。……それが転生なのかと思っていた。
だが実際は違う。俺は銃殺で、こんな大層なところにいて、尚且つ気に入られていない。……これが、本当の転生なのだ。
しかし何故俺は転生することになった。俺は別に…天国に行ってもいいのに。
その疑問を知っているかのように、神は補足し始めた。
「かと言っても、ここに誰もが来れる訳じゃない。ルーレットがあるんだ」
「……ルーレット?」
「そう。天界か地獄。そして転生か、そのルーレットをボク達で行うんだよ。だから下手すれば大罪人が選ばれることもあるのさ」
「……それに、俺が選ばれたと?」
「確率は1億万分の一。余程の強運の持ち主でないと、この道は選ばれない。そして君はその強運には見放されていなかった。それだけのことだよ」
俺がそんな強運の持ち主だとは知らなかった。
しかし、何故俺みたいな人間が選ばれたのだ。他にも人材はいるはずなのに。
……他の人間はいるのだろうか。その人間達は、何処に転生したのだろうか。
「……ここには何人の人間が来たんだ」
「君を含めれば約100人以上。君達で言う歴史上の人物も含まれているからね。もしかしたら、確率は1億万分の一が嘘かもしれないな。まぁそんな事はどうでもいい。今の君はここに立っているのだから、この運命からは逃れられない」
「……そうらしいな。本当、こんな強運いらないってのに」
「君とは違って、ここに来た者の大半は大喜びだったけど?」
「喜んでいないやつもいるんだな」
「そりぁ、自殺した者のいたし、老死した者のいたからね。今回はスラスラといけそうだ」
神が手を翳す。
その時、神の手の周りから光の粒子が集まり始めた。
それは透明な粒子の塊を作り出し、神の、俺の周りを囲み始める。
「怯えなくて大丈夫だよ。これは一種の準備さ」
「……大層な準備だな。何をする気だ?」
「アンケートさ」
アンケート?と俺が聞き返すと、神が何かを操作しながら答える。
「そう、君の転生先、名前、特典を決める重要な行程だよ。ああ大丈夫。君は答えてくれればいい」
「お前が全てを決めるのか?」
「ああ。この行程で、君の全てが決まる」
……アンケートで俺の人生が決まるのか。なんか…嫌だな。
それが拍子抜けでないことを祈ろう。好きな食べ物とか、好きなこととか、そんなものではないことを祈るしかない。それで決められるのはさすがの俺も嫌だ。
準備が整った神は、俺に向き直る。
「じゃあ行くよ」
「おう」
「君は何を望む?」
「………?」
それは今欲しいものと捉えていいのだろうか…?
「……そうだな。そんなの、考えたことなかった」
「じゃあ、何もないってことで?」
「ああ」
そう答えた途端、神が手を動かすと何かが書き込まれていった。それは俺でもわかる。たぶん、俺の答えが書き込まれているのだろう。その文字は俺から見た限り見たことがなかったが、予想できることなのであまり深くは考えないでおく。
神は続ける。
「君は、どんな人生を歩んできた?」
「……つまらない人生」
「具体的には?」
「人間が醜く争う世界を生き抜いてきた」
「君から見た世界は随分物騒だね」
また書き込まれていく。
神からの質問は、良くわからないものだった。
「もし転生するなら、何処にしたい?」
「………別に何処でも」
「何もないのかい?」
「ああ。気楽に行けばいい」
「ふん…君は君自身をどう思っている?」
「……つまらない人間。人間の醜い争いを傍観している、無情な人間。誰からも見放された人間」
「…………ふむ、わかった」
……終わりみたいだ。
本当にこれで、俺の転生先は見つかるのだろうか。
長く書き込まれた文面をジッと見ながら、神は俺にこう言った。
「以上のことから、君の転生先は三つに絞られたよ」
「……本当にあれで終わりなのか」
「人それぞれだよ。多く質問することもあるし、君のように少ない質問をすることもある。さて、転生先の説明をしようか」
神が指を鳴らすと、突如として三つの門が現れた。
一つは青。
一つは赤。
一つは黄。
信号のような色合いの門は、俺の身体を遥かにいき、神の後方へと佇む。
神は髪を後ろへ靡かせた。
「まずは右の門」
右とは、俺から見て青い門。
「この門を抜けた先には、ある男が残した大秘宝を巡る『海賊』の世界」
「そして左の門」
左とは、俺から見て黄色の門。
「あの門を抜けた先には、全てが『決闘』で決まる弱肉強食の世界」
「そして最後に、ボクの後ろにある門」
その門の色は、赤。
「この門を抜けた先には、ありとあらゆる力を持った者たちが住む『魔法』の世界」
青は『海賊』。
赤は『魔法』。
黄は『決闘』。
この中から、俺の転生先を決める。
「ちなみに、選んだ門を抜けたらもうそこからは死ぬまでその世界で生きていく。だけど死んでまた転生する訳じゃない。今度は99%、天界に昇るよ」
「……なるほどな」
「時間はまだあるけど、どうする?」
俺がまた死んだら、次は天国。
でも死ななければ、俺は老後まで生きていくことになる。
その為にも、慎重に選ばなければ。
死なない為に、尚且つ楽しめそうなところに。
どれも洒落にならないように聞こえるが、比較的マシなところに行けばいい。
……なら、一つしかないではないか。
俺は歩き出す。もう心の中は決まっていた。
俺の転生先は、案外早く決まるようだ。
神を通り過ぎて、俺はその門の前に立つ。
俺が選んだのは。
「……赤の扉、か」
『魔法』の世界。
まず一つ、海賊はもう除いていた。俺が思う海賊は人間達を襲い金品を奪い、そして海賊争いになり、人々は散っていく。そう考えると、俺は真っ先に死んでしまうような気がした。
次に決闘だが、はっきり言って良くわからない。今時決闘などする人間などいるのだろうか。それに決闘という単語だけで物騒に感じ、そして何かに巻き込まれそうな気がしたからやめたのだ。となれば必然的に残るのはこの魔法の世界。
三つとも面白そうだが、この魔法の世界の方が断然マシだと思う。
だから俺はこの門にした。
俺の後ろにいる神の足音が聞こえる。恐らく、俺に近寄っている。
「確認しておくよ。その扉でいいのかい?今なら変えられるけど」
「いや、ここにする。これは変えられない」
「……わかったよ。じゃあ、次の行程に行こうか」
それは、俺を正式に転生させる『儀式』のようなもの。
神は途端に手を翳す。するとその手は空間に吸い込まれていくように埋められ、神が手を引くと一本の白い棒状のものが出てきた。
その矛先を俺に向ける。ステッキのようなものはただただ真っ白で、雪のようだった。
「君を転生させるには、代償が必要なんだ」
金色の髪が靡く。
俺達の間に風が吹き抜けたかのように、俺達を揺らす。
その言葉を聞いた俺は、ああ、そうかとしか思えなかった。
ただで転生させるわけにはいかない。それはわかっていた。
わかっていたのだが、何故か身構えてしまった。
神は言う。代償を。
「その代償は"記憶"。家族、友、恋人、そして名、その他全ての記憶をボクが奪う」
「………そうか」
「でも安心してくれ。ちゃんと五分五分に、転生者には特典を与えている。勿論君にも与えよう。君にぴったりなものを」
「……そうか。名前はどうなる。俺は、名無しになるのか?」
「それはない。産まれたら必ず名前を貰うのは当然だろう?まぁ、これもボクが決めさせてもらう。ボクが決めたものは、君の新たな母親に無意識に伝えられ、ポロリと零すだろう」
「……そうか、なら」
始めてくれ。
全ての質問を終えた俺はそう言った。
あとは転生するだけ。新たな世界に、転生するだけ。
神は俺の願いに傾き、目を閉じた。
そして唱える。
「……汝に誓おう。我はこの男の鋭記をさせることのないよう、完全に忘却し、新たな肉体へと。【メモリーズ・カナグラディ】」
その瞬間、俺の頭が鈍器で殴られたような痛みが走る。
重い一撃を食らったような、そんな痛みが。
俺の体が後ろへと傾く。いつ開け放たれていたのかわからないが、もう扉は開いていた。
俺の記憶が、消えていく。
直前まであった記憶も、今さっきのことも、親の顔も、犯人の顔も、何もかもが消えていく。
神の口が動く。
俺が読み取れたのは、最後の言葉だけ。
『よ う こ そ』
これだけだった。
最後に俺は光に包まれ、意識を失った。
次に目が覚めた時は、俺はどんな姿で、どんな名をもらえるのだろうか。
ーー
彼の最後の生涯を見届けた神は、ステッキを空間にしまって元の定位置へと戻った。
虚空に刻まれているのは、先程の青年の答え。
それらを全て消し、また新たに書き込む。
書き込むのは彼の名。
先程の答えを再構築し、それを凝縮して彼にぴったりな名をつける。それもこの間にいる神としての仕事なのだ。
「………ふむ。なるほど。彼は人間というものに関心がない。そして……囚われやすい。脆く、儚く、しかし闇が大きすぎるせいで、自分の事がわからない」
無情、冷酷、傍観者。そんな言葉が彼の口から出たが、実際は違う。
彼は寂しがりやで、周りのことを気にしすぎで、そして闇が深すぎるせいで、本当の自分に気づいていない可哀想な子。
これが神の心理だった。
そこから導きだされるのは。
「……ふっ、奴にそっくりだな」
思い浮かぶは古き友。
伝承とは違う、内側が清き魂だった彼。
彼とこの青年は似ている。
素直になれないところも、本当の姿を出せないところも似ている。
神は古き友の名を呼ぶ。
「ーーーエレボス。君の名を使わせてもらうよ」
その名は『エレボス』。
暗黒の神と称された、ギリシャ神話の神の名。
その名を空間に刻み、彼女は手を動かす。
名を借りたとはいえ、そのまま使うわけにはいかない。色々文字らなければ、本当の名としては機能しない。
それを長年知っていた彼女は、『エレボス』を弄っていく。
そして。
「………こんなものか」
納得のいく名がつけられた。
新たな人生を歩む、彼の新たなる名が。
名が決まった次は特典。これは彼自身を見た神が創造とするもの。
神自身もわからない、本当の「彼」が望むもの。
彼は何もないと言った。だが心の奥底では、これが欲しいという欲望が渦巻いているに違いない。
神は天に手を翳し、短い詠唱を唱える。
「【コントラクト】」
その瞬間、神の手に光の渦が巻き、それは次第に形へと変化していく。
それは棒状のもの。鋭利な刃が円を描く、それは。
「……ほう」
思わず感激の声がもれた。
神の手に翳されているのは。
「………【死神】、か」
真っ黒な"鎌"。
これが、いつ彼に届くのかはわからない。
全ては神次第。神の権限によって決まるのだ。
彼の"鎌"は空間に仕舞われ、一休みしようとしたところで。
空間が鳴る。
「ーーー……ああ」
神はもうわかったかのように、音のした方を見た。
それは先程神が使っていた虚空。その虚空に淡々と解読できない文字の列が出来上がる。
神はそれに歩み寄り、手を翳す。
その瞬間文字が浮き、それを神は目を通す。
その目は悲しみとも捉えられるし、呆れにも捉えられる。
神はこう言う。
「………また、届かなかったか」
神は記す。
全ての魂のものの名を。
ーー
「ああーーー……産まれた」
群青髪の女性は、抱き抱えている我が子を大切に包み込む。
その隣で涙を流している黒髪の男性は、女性と我が子共に抱き込んだ。
「よかった…よかったな、ウィーネ」
「オシリス…ありがとう。あなたがいてくれたお陰よ」
腕にいる我が子の泣き声に、彼らは綻ばせる。
ウィーネは暖かな目で見つめ、優しく、我が子を撫でた。
オシリスは興奮したままウィーネに聞く。
「名前、どうしようか?」
「……そうね。男の子だから…」
ウィーネは暫く迷った後、オシリスに笑顔を見せ、こう告げた。
「この子の名前は、『エレン』」
それが彼の名。
『エレボス』から受け継がれた、彼の新たなる真名。
「……『エレン・サーヴァント』」
神は呟く。
もういない、彼の新たなる名を。
「『エレン』……いい名前だ」
オシリスは嬉しそうに零し、小さな手を掴む。
ウィーネはまた呼ぶ。
彼の名を。
たった一人の、我が子の名を。
「…『エレン』。私達の、希望の子」
また新たなる生命が、誕生した。
作品が行き詰まった度に投稿していく予定です。
転生で8000文字以上いくとは正直思ってもいませんでした。いやはや最高記録更新…。
『エレン』という名前は『エレボス』の名前を色々と変えていくうちに浮かんだものです。『エレボス』を選んだ理由は『暗黒の神』。つまり闇の神と捉え、それとエレンの闇をリンクさせて決めました。冥府の神とか神格化とか記述に載っていましたので、詳しくはそちらで。
ここで少しまとめ。
◾︎転生する行程
⚪︎ルーレットに当たらなければならない。
⚪︎自分の死因を理解しなくてはならない。
⚪︎質問に答えなくてはならない。放棄した場合、その者は即座に転生する権利を失われる。
⚪︎世界を選ばなければならない。選んだ世界以外は、もう選べない。
⚪︎代償として記憶を神に与えなければならない。
という風に。
そして。
◾︎神
⚪︎転生する魂を迎えなければならない。
⚪︎その魂に相応しい質問をしなくてはならない。
⚪︎世界を最低三つに絞らなければならない。
⚪︎魂の記憶を奪わなければならない。
⚪︎名、特典を決めなければならない。
このくらいでしょうか。
もう一度言いますが、これは息抜きとして書いたものです。
作品が行き詰まった時に投稿していく予定なので、そんなバンバン投稿しません。もしかしたらそうなるかもしれませんが…。
なので遅い投稿になると思いますが、それでもお気に入り登録、評価、コメントを下されば感謝です。
ではまた会える機会に。
seeyou