FAIRYTAIL 紺桔梗の道標 作:management
雪の宝石のように美しかったヴァグザラードは、『一体の赤い竜』によって滅ぼされた。
その竜に立ち向かう、六人の魔導士達。
だが彼らは、その竜には一歩も叶わずーーーーー無残にも、命を落としてしまった。
今回は、その魔導士達の一人の妻と、愛する我が子。そして、二人の魔導士のお話である。
「……」
ウィーネは、差し出される木箱を、ジッと見つめていた。
その木箱の中には、愛する人に預けていたはずの、愛の証。
その二つは細かい傷が付けられていたが、原型はとどめていた。
真っ白な服に身を包んだ男は、言いにくそうに彼女に言う。
「………あなたの夫。『オシリス・サーヴァント』さんは、不慮の事故で、お亡くなりになりました」
「……不慮の事故、とは」
「それはまだ、私たちの方ではあまり掴めていません。ですが、『何か』と交戦したような跡があり、オシリスさんは、それで命を落としたとみられます」
「……夫の仲間達は?」
「…『シャグラ・ローズブレイド』
『ガゼフ・スクリムジョー』
『セイグラード・アシュリー』
『シュン・イングラム』
『ミツ・ヘルキャット』
…この方々のことで、よろしいので?」
「ええ」
男は、ポツポツと話し始めた。
「彼らも、即死だったようです。焼け焦がれ、身元の判別も出来ないほどかと思われましたが、なんとか身元は判明しましたので…。ガゼフさんとセイグラードさんは、物理的の損傷により、命を落としました。シャグラさんは、シュンさんとミツさん程ではありませんが、酷い有様で…。しかし、その中で比較的軽傷だったのが、オシリスさんです。体の内側の損傷は酷かったですが、彼らよりも、ダメージは受けてはいませんでした」
「ーーー……そう、ですか」
ウィーネは、二つの玉石が入れられた木箱を手に取り、頭をさげる。
男も頭を下げ、静かに扉を閉めていった。
ウィーネはその木箱をゆっくりと抱きしめ、そして。
静かに、涙した。
「……ぁ、うぁ…おし、りすぅ…」
ぽた、ぽた、と雫が木箱に落ちていく。
じわりと広がり、木箱の色を徐々に変えていく。
ウィーネは、声をあげて泣かなかった。
必死に押し殺して、泣いていた。
そんな彼女に、可愛らしい声が届く。
「あー」という声とともに、後ろの部屋からトタトタと、母親に向かって一生懸命這っている赤子がいた。
その赤子は、あーと言いながら腕を伸ばし、母親を、ウィーネを励ますかのように太ももを撫でる。
ウィーネはハッとして、その赤子を、自身の胸へと引き寄せた。
「ごめんねぇ、エレン。お父さん、いなくなっちゃった」
まだ涙が止まらないのに、彼女は必死に赤子に、エレンに話しかける。
エレンは話の意味がわかっていないのか、その小さな手をウィーネの頬に伸ばす。
懸命に、懸命に。
ウィーネはその顔を近づけ、エレンが届く位置に移動する。
エレンは母親の頬に触れたことに嬉しいのか、鳴き声をあげて笑った。
ウィーネも、涙しながら笑った。
「……この子は、オシリスの事を、覚えているのかしら」
愛する我が子が、オシリスの事を覚えているのか心配だった。
まだ1歳の子だ。当然親の顔は、この時点では時が過ぎる頃に忘れてしまう。
だからこそ、帰ってきてほしかった。
我が子に、私達という家族がいるということを、教えたかった。
ウィーネは、さらにエレンを抱き締める。
そして、思いついた。
オシリスの、愛しの人の顔を覚えていなくても。
どうか、この愛の結晶は、覚えて欲しい。
ウィーネは、早速行動に移した。
■
身支度を整えたウィーネは、エレンを預けるために、受取人を待っていた。
ウィーネは、旅に出る。
彼を殺した『何か』を探すために。
何年かかるかわからない。だから彼女はクエストを貼った。
私の愛しい息子を、誰か預けて欲しい、と。
報酬は100万ベリー。つまり、この家の殆どの資金を費やした。
自分の費用は取ってある。だから、彼女は受取人が来るまで、ここで待つ。
「エレン」
すやすやと眠っているエレンを、静かに呼びかける。
起きる気配もない我が子を、愛おしそうに抱きしめた。
「ごめんね。こんなダメなお母さんで。あなたを置いていってしまうなんて。
でもね、私は真実を知りたいの。
オシリスを殺したのは誰か、知りたい。
だから私は、あなたを置いていってしまう。
このままあなたを連れて行っては、あなたも命を落としてしまうの。
だから、こんな無力なお母さんを許して」
そうエレンに言うと、彼女達の前に、二つの影が現れる。
顔を上げれば、そこには背丈の高い男と、優男とも言える男が立っていた。
背丈の高い男が、ビラをひらつかせる。
「あんたが、このクエストの発注者か?」
「ええ。ウィーネ・サーヴァントよ」
「俺はロジック・テンペスター。こいつはマグカ・スミル。俺達は、『
「…幽霊の、支配者。……そう、ですか」
「あんだが気が落ちることもわかる。だが、俺はあんたの息子さんを守りたい。ただ純粋に、あんたの息子さんを育てたいんだ。……ダメか?」
ロジックはそう言う。
ウィーネはあまりいい噂を聞かない幽霊の支配者を警戒していたが、仕方がないと、息子を委ねることにした。それに、ロジックから強い信念が伝えられたのだ。これでは、託すしかないではないか。
ウィーネがエレンをロジックの元まで連れて行く。ロジックはエレンを大事に抱き抱え、起こさないように抱き変えた。
マグカはエレンの顔を覗き込む。
「わぁ、可愛いですね」
「ああ…俺は、赤ん坊の育て方はあまり詳しくない。もしかしたら、あんたの希望通りの息子には育たないかもしれない。…それでもいいか?」
ウィーネは、側に置いてあった木箱と写真を手に取りながら、こう言った。
「例え息子が悪に染まっても、息子は息子です。私は、息子を受け入れるまで、足掻くつもりよ。だから…息子をお願い」
「…お願いされた」
「待って。あなた達には、これも預かって欲しいの。私と夫。そしてエレンの家族の愛の結晶を」
ウィーネが差し出した木箱と写真を、今度はマグカが承った。
マグカは、木箱に乗っている写真を見る。
写真は、微笑ましそうに笑う、エレン達家族の写真だった。
マグカはそれを見て微笑み、大事そうに抱え込む。
ロジックは、一歩下がる。
「ウィーネさん。あなたの息子は、俺達が責任を持って、預かります。だから」
ロジックは言い淀んだが、意を決して、彼女に言った。
「ーーーあなたの姿を、成長した息子さんに見せましょう」
「ーーーええ。息子をお願いします。ロジックさん、マグカさん」
翌日、ウィーネの姿はなかった。
■
それが、彼らの所属する、ギルド名である。
そのギルドは、かの
ギルドも素行の悪い奴らが集まるばかりで、運が悪ければおちおち眠れない時にもなる。
そんなギルドに所属する彼らは、そのギルドから離れたところにギルドがある。
理由は、赤子を見つからせないため。
恐らく赤子ーーエレンが見つかれば、彼らはおもちゃとして遊ぶかもしれない。そんな不安が過ぎり、急遽ギルドから最も離れているマグカの家へと避難したのだ。
ロジックは抱き抱えているエレンを、そっとマグカのベッドにへと置く。
まだ赤ん坊用のベッドがないので、必然的にマグカのベッドになるのだ。
必死にロジックに手を伸ばすエレンの手を、ロジックは優しく包み込む。
その時、マグカが一皿分の牛乳を持ってやってきた。
「哺乳瓶がないから、スプーンで飲ませてもいいかな?」
「ん?哺乳瓶なかったのか?」
「うん。買っておけばよかった…。明日買ってくるよ。あと、ベッドは俺のベッドでいい?俺達は床で寝るってことで」
「賛成。それと、その牛乳は生暖かいか?」
エレンの近くまできたマグカは、牛乳をひとすくいする。
「大丈夫。あったかいよ。でも、これを飲んでくれるかだよね…」
「……今から哺乳瓶、買ってくるか?」
「うーん。と言っても、もう夕方だし。今日はこれで、我慢してもらおう。ほらエレーン。牛乳だよー」
零さないように、ゆっくりとエレンの口元に持っていく。
エレンは口元に流れ込んできた液体を、零しながらも飲んでいた。
結構零していたが、それよりも飲めることに安心した。
その後、彼らはエレンに、スプーンで掬って、牛乳を飲ませていた。
■
ハタハタと、風に吹かれるローブ。
ウィーネは、頭まで深く被ったローブを羽織り、最低限の荷物を持って、大地を駆けていた。
ダァン!と、力強い音がし、その後、ウィーネの体は急速に跳ね上がる。
「………あっちが、ヴァグザラード。だったかしら」
そう確認した途端、ウィーネは両腕を広げる。
刹那。
ウィーネの体から、『炎の翼』が創り出された。
その翼はウィーネと連動しており、ウィーネが前に傾けば、その方向へと飛んでいく。
ウィーネは最大質力で、崩壊したヴァグザラードに向かう。
真実を知るために。
彼が、愛しい人が、誰にやられたのか、知るために。
ウィーネは、『その身を犠牲にして』、飛んでいくーーーーー。
この日、一つの『愛』が、散りばめられた。
今回は短くなりましたね…。
では早速補足です。
■何故ウィーネはエレンを置いて真実を優先したのか。
これは、エレンを危険に遭わせないためにです。
もしオシリスを殺したやつが、次はエレンを標的にしたのだとしたら。エレンが危ない。なら、私が決してしまえばいい。そんな思考が働きました。
一番の理由は、『何が』オシリスを殺したのか、知りたいだけなんですけど、その旅にエレンは連れて行けませんので。
■何故
私の考えている今後のエレンは、幽霊の支配者に行かなければならないものなのです。
幽霊の支配者の他に、素行の悪いギルドがあったと思いますが、あえて幽霊の支配者にしました。
■いつ鎌は渡されるんだ。
今の赤子のエレンには無理ですよ。
■ロジックとマグカ
この二人は、幽霊の支配者で言うとちょっと先輩くらいです。
彼らはお金が貯めればそれでいいという感じで、運悪く幽霊の支配者を選んでしまったのです。
ギルドの喧しさや下品な笑いに毎度苦しまれています。ですが、彼らはちゃんとクエストはこなせているんだなぁ。と、そこだけは感心しています。
■何故ロジックとマグカはこのクエストを受けたのか。
後々わかります
このくらいですかね。
次回はロジックとマグカ。そして赤子のエレンの成長期です。