とらなのVRMMO ~魔法はゲームの中だけなの~【改訂版】 作:戯言紳士
現在の時刻は12時20分。
テスタロッサ邸のテーブルには全部で7つの料理が並んでいる。
並んでいるのだが、明らかに異質な雰囲気の料理が混ざっている。
それも2つ。
どうしてこんなモノが出来上がってしまったのだろうか?
この場に美由希さんはいないはずなのに......。
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
少々時間を遡って、時刻は11時45分。
一度、SLOからログアウトした俺達は、昨日決めた通り、みんなで昼食を作る事にした。
しかし、それぞれが思い思いに作ってしまっては、結構な量にもなるし、キッチンはここに1つしかないので、作る料理のジャンルを分けて作る事で、みんな納得した。
その振り分けだが、俺とはやてとすずかが、メインディッシュのパスタ料理を作る事になった。
麺は一緒に茹でる事で時間短縮にもなるし、最悪の場合、メインディッシュがちゃんと出来ていれば、それだけでなんとかなる。
なので、料理のうまさには定評と実績のあるはやてと、自信があるというすずかを加えた、このメンバーがメインディッシュを担当する事にした。
次に、なのはとアリシアには、サラダ類の料理を1品ずつ別々で作ってもらう事にした。
なのはの方だが、休日たまに、なのはが早く起きると、朝食になのはの作った料理が1品出てくる事があるので、変な物は作らないのは確かだ。
一緒に、桃子さんから料理を教わっていた時期もあったので、なのはは大丈夫だ。
問題はアリシアの方だが、これまで料理をした事は、おそらく学校の家庭科での調理実習くらいだろう。しかし、調理実習は先生がついているし、1人で作るわけではないはずなので、ほぼ未経験と同じようなものだ。
そんな料理初心者でも、簡単なものなら、野菜を切って盛り付けるだけで作れるはずなので、サラダ類の担当にしたのだが、大丈夫だよな?
包丁を使う事はあるだろうから、指を切らないようにとは注意しておいたが、若干の不安は残っている。本当に大丈夫だよな?
最後に、フェイトとアリサには、スープ類の料理を作ってもらう事にした。
フェイトは普段から、プレシアさんの帰りが遅い時は、アリシアの分を含め、自分で作っているという証言があるので、問題はないはず。
それに、プレシアさんが休日の日には、一緒に作って、テスタロッサ家の味を教わっているらしいので、寧ろ期待しても良いくらいだろう。
一方、アリサは経験こそ、アリシアと同じくらいだろうが、ちゃんとした料理の知識を持ち合わせているはず。
それに、素人考えでアレンジを加えると、大概失敗するという事も知っていると思うし、アリサの性格からして、創作料理は思いつかない気がするので、見た目はともかく、不味いモノが出てくる事はないと思う。
アリシアとアリサを一緒にする?
そんな、使用するまで何が起こるか分からない、パルプンテを毎回使うような、危険度の高い、ギャンブルみたいな事を、間違ってもするわけがない。
通常攻撃でも倒せる相手に、パルプンテを使って、味方全員が瀕死状態に陥り全滅するなんて、ネタでしかない。
もしかしたら、至高の一品が出来上がる可能性もあるが、そんな賭けをしてまで、至高の一品を食べたいとは思わない。
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
時刻は11時50分。
それぞれの担当が決まったところで、俺達は一斉に料理を作り始めた。
この事を事前に知らされていたのか、プレシアさんが仕事に向かう前に、冷蔵庫に入っている物は好きに使っても良いと言われたので、好きに使わせてもらう事にした。
俺達メインディッシュ班は、何を作るかを相談した結果、俺がカルボナーラ、はやてがペペロンチーノ、すずかがアラビアータを2人前ずつ作る事になった。
こうしている間にも、2人は迷うことなく必要な食材を取り出して、料理を始めている。
すずかの料理をする姿を見る限り、自信があるというのも、見栄などではなく、本当の事だったんだとわかった。
その姿を見ていたため、俺は一足遅れて、カルボナーラを作るのに必要な食材を取り出した。
女性はなにかと、カロリーを気にするので、生クリームは使用せずに作ろうと思う。
まずは、ボールに卵と牛乳、パルメザンチーズを適量入れて、よく混ぜ合わせる。
途中で、塩と黒コショウを入れるのを忘れてはいけない。
次に、ベーコンを細切りにし、ニンニクをみじん切りに刻んでいくき、刻み終えたところで、はやてとすずかに声をかけて、パスタの麺を茹で始めないかと提案した。
すると、2人とも順調なようで、丁度良いタイミングで声をかけたらしく、二つ返事で了承し、沸騰したお湯に、少量の塩を入れ、6人前のパスタの麺を投入した。
これが手作りだったら、茹で時間も気にしないといけないが、投入した麺は、普通にスーパーなどに売っている物なので、後はパッケージに表示されている時間まで茹でるだけで良い。
さあ、麺を茹でている間に、他の工程も済ませておかないといけないな。
キッチンに兼ね備えられているコンロの数が足りないので、これもプレシアさんが用意してくれたのだと思う、アウトドア用コンロを持ち出し、フライパンを熱した。
そのフライパンが十分に熱したところで、オリーブオイルを敷き、そこにみじん切りにしたニンニクを先に入れて炒め、香りが出てきたところで、細切りにしたベーコンを加え、ニンニクと一緒に炒めた。
そして、ここでパスタが茹であがったので、先ほど炒めていたフライパンに2人前のパスタと、パスタの茹で汁を大さじ2杯ほど加えて、混ぜ合わせる。
よく混ぜ合わさったら、一度火を止め、フライパンをコンロから下ろし、中のパスタを、最初に卵と牛乳とパルメザンチーズを混ぜ合わせて作ったソースが入っているボールの中に移し、パスタ全体をソースとよく絡ませる。
ソースがよく絡んでいるのを確認したら、再度、ボールの中身をフライパンに戻して、弱火でかき混ぜながら、とろみをつければ、カルボナーラの完成だ。
あとは、皿に盛り付けて、黒コショウと刻んだパセリを軽くまぶせば、見た目もそれらしくなり店で出てくるような仕上がりになった。
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
料理を作り終え、時計を見たら、時刻は12時15分となっていた。
周りを見回し、全体の進捗状況を見ると、ほぼ調理が終わろうとしているところだったので、そこから2,3分ほど待つと全員が調理を終え、自分の作った料理を持って、テーブルに集まった。
はやてとすずかは、決めた通りの料理を完成させ、見た目も良いし、実に美味しそうな香りが漂ってきている。
辛いのが苦手なメンバーもいるからと、1人前ずつ辛さを変えて用意している、すずかの気配りは流石だと思った。
次に、なのはが「自信作だよ!」と持ってきた料理を見ると、ポテトサラダだった。
見た目も、ファミレスなどで付け合わせでついてくる、ポテトサラダと比較しても、遜色のない出来だった。持ってきた時の自信といい、これはかなり期待が出来そうな物が出来上がったな。
そして、フェイトが「上手に出来たかわからないけど...」と自信がなさそうに持ってきた料理を見ると、キノコと野菜のコンソメスープだった。
匂いも良いし、入っている食材を見てもおかしな物は入っていないし、綺麗に切りそろえられていて、十分良く出来ていると思う。
まあ、なのはとフェイトまでは、俺と安心して料理を任せていたので、ちゃんとした料理が出てくる事は想像していたし、想像以上の出来上がりだったので良かったと思う。
問題作が出てくるとしたら、ここからなんだが、さて...。
若干、不安の残っているアリサが持ってきたモノは、よくわからない緑色のスープだった。
その匂いからも、原材料がわからない。グリーンピースなのか、それとも緑黄色野菜をフードプロセッサーにかけて作ったのか。調理方法がまったく予想できないスープだった。
さらに、それを手にしているアリサは終始無言なので、正体がわからないスープを、人数分の皿に盛られていくのを、ただ眺める事しか出来なかった。
とりあえず、アリサの方は良いだろう。刺激臭がするわけでもないし、終始無言なのは、口にした後で、自分がどんなものを作ったのか話すためのフリかもしれないから。
本当に問題なのは、アリシアが持ってきたサラダという名の物体X。
SLOに持ち込み、鑑定出来るのであれば、貴重な素材である
...っと、現実逃避するのもここまでにし、この全く匂いのしないジャガイモサイズの球体の製造方法を聞くのも怖いので、誰もが声を発さずにスルーした。
普段料理をしないにしても、こんなモノが作れるのは、アリシアには料理以外の、何か別の才能があるのかもしれないな。
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
ここまでが、冒頭の時刻になるまでの出来事である。
当然ながら、アリシアの生み出した物体Xは、テレビでテロップやナレーションの人が言うように「この後、スタッフが美味しく残さず頂きました」とはいかず、消費された食材と、その食材を生産してくれた人には申し訳ないが、廃棄処分させてもらった。
その際に、可燃物なのか、不燃物なのか、普通に捨てて良いモノなのかと、考えさせられてたがもとは野菜のはずなので、今回の料理で出た生ごみと一緒の袋に入れる事にした。
この事に、アリシア自身は特に不満を言う事もなく、寧ろ「早く食べようよ!」と、物体Xなどなかったかのように、振る舞っていた。
こうして、5品の料理がテーブルに並んだところで、俺達は昼食を食べ始めた。
みんな、3種類のパスタは自分の取り皿にトングで取り分けて、美味しそうに食べているし、最初から人数分に分けられていたポテトサラダや、コンソメスープを口にしている中、明らかに敬遠されている料理があった。
それは、アリサの作ったスープなのだが、やはり不明な点が多いためか、なかなか手を付けずらいらしい。
作ったアリサも、未だ自分の作ったスープには手を付けず、他の料理を口にしているが、視線がちょくちょく俺に向けられ、その目は「刻也なら、食べてくれるわよね」と訴えているように感じられた。
まあ誰かが食べて、ちゃんとした料理だと分かれば、他のメンバーも口にし始めるはずなので、俺がそのトップバッターとして打席に立とう。
幸い、俺達...正確には俺と士郎さんと恭也さんだが、幾度となく、美由希さんの作り出したバイオウェポンを口にした事があるので、耐性はかなりついている。
物体Xは流石に無理だが、並大抵の料理なら、どんな味だろうと飲み込む事は出来る。
という事で、俺はアリサの作った、緑色のスープを手に取り、スプーンですくい口にした。
念のために言っておくと、スプーンをスープにいれた瞬間に、スプーンが溶けるといった現象は起きなかった。ネタで言っていると思うかもしれないが、実際にあった事だ。
そして味の方だが、口にした瞬間にピリッとした辛さが口の中に広がった。
テスタロッサ家のキッチンには、さまざまなスパイスもあったから、チリ系のスパイスを入れたのだろう。そこからの味わいを基に、使用したスパイスを考察すると、ターメリックとコリアンダーあたりも使っているだろう。
そこから推察すると、アリサが作ったのは中東料理の可能性が高い。
今の一口ではこれくらいの事しか推察出来ないので、二口目を口にした。
今度は、スープと一緒に入っていた、鶏肉も咀嚼すると、鶏肉は少々表面が焦げている感じはしたが、中までちゃんと火が通っていて悪くなかった。生焼けよりは全然いい。
チキンベースのスープに鶏肉。そして中東料理で、この調味料という事から導き出される答えはスパイススープ。
この緑色の原因は、おそらくモロヘイヤだろう。それにクミンシードも入っていそうだ。つまりアリサは、モロヘイヤのスパイススープを作っていたという事だな。
日本の一般家庭にあるような食材じゃあないから、口にするまで全くわからなかったし、そもそも、普段料理をしない人間が作る料理ではないと思ったが、持ち合わせの知識だけで、作り上げたのだがら大したものだ。
見た目は決して良いとは言えないが、味は悪くないし、これからの季節にはぴったりな料理だった。
そして気が付けば、全員の視線が俺に集まっていた。
「アリサ。これ、モロヘイヤのスパイススープだろ?」
「えぇ...そうよ。」
そんな中、俺が料理名を言い当てた事を、アリサは驚きながらも、表情が柔らかくなった。
「味は問題ないな。ピリッとした辛さに、スープも鶏肉も合ってる。中東料理はあまり口にした事はないけど、ちゃんと出来てると思うぞ。
まさか、モロヘイヤが一般家庭にあるとは思っていなかったから、口にするまでわからなかったけどな。」
「当然でしょ。だって私だもの。知識さえあれば、この程度の料理は、簡単に作れるわ!」
その後、味に関する感想を言うと、いつもの自信満々なアリサに戻り、生き生きとした口調で、なのは達にも食べるように勧め、作り方を1から説明していった。
「アリサちゃん、よっぽど嬉しかったみたいですね。」
「せやね。刻也さんに褒められて、天狗になっとるわ。料理の道は、そんなに甘くないんやで。」
その姿は確かに天狗だが、初めて最初から料理を作って、それが美味しいと褒められたなら、まあ仕方のない事なのかもしれない。
はやても、それを理解して上で、空気を読み、アリサには聞こえないように、俺に耳打ちしたんだろう。
「アタシだって、知識くらいあったもん!アリサはたまたま成功しただけだよ!」
「何とでも言いなさい。私はアリシアみたいな物体Xじゃなくて、ちゃんと食べれる物を作ったのだから、何を言われても、負け犬の遠吠えにしか聞こえないわ。」
「むきーー!!じゃあ、また今度、勝負しようよ!」
「良いわよ。今度は、見た目も完璧な料理を作って、アリシアとの差を明確にしてあげるわ。」
......少々、調子にノリ過ぎかもしれないが、これを機に、アリサもアリシアも料理の腕を磨いてくれればいいと思いながら、俺はみんなが作った料理を堪能した。
「刻也さん。私のポテトサラダはどうでした?」
「刻也さん。私のスープもコメントお願いします!」
「私も、刻也さんの感想が聞きたいな。」
「私も、今後の参考にさせて下さい!」
アリシアとアリサの討論が止まず、料理がほとんどなくなったところで、今後の参考にしたいからと、2人を除くメンバーから言われ、専門的な知識があるわけではないので、あくまで俺自身の好みとして、1人1人に感想と、こうした方が俺は好きだな、というアドバイス?をしていった。
それが終わる事には2人の討論は終わっていて、そろそろ片づけを始めないと、姫達を待たせてしまう可能性が出てくる時間になっていたので、俺達の昼食時間はここで終わりになった。
キッチンに戻って、あらためて周囲を見回すと、一部のみ異常に散らかっていたが、これもこのようなイベントの醍醐味なんだろうなと、微笑ましく思いながら片付けていった。
そことは対照的に、アリシアが使っていたと思われるスペースは何故か、一切ゴミも落ちておらず、物凄く綺麗だったのが、逆に怖かった。
このように昼食の時間を過ごした俺達は揃って、再びSLOにログインした。