とらなのVRMMO ~魔法はゲームの中だけなの~【改訂版】 作:戯言紳士
「よーし。お前ら、さっさと集合しろ。」
金曜日の4限目、男子は教室で体操着に着替え、空調設備の整っていない剣道場に、大部分の男子が普段とは違った雰囲気で、講師の人が来るのを心待ちにしていた。
4限目の体育は着替えやなんやで、授業が終わっても色々と時間が費やされてしまうため、学食や購買を利用している、主に運動部の生徒には、非常に嫌な時間帯なはずなのだが、その運動部の生徒の9割以上が大部分の男子を占めている。
こいつらは、どれだけ女子に飢えているのだろうか?
どうして女子大生という響きだけで、そこまで態度が一変するのか、俺には理解出来ない。
「...ってなんだお前達のその目は。」
しかし、授業の開始を告げるチャイムが鳴り終えて、特別講師の人がやってくると思っていた所に、髭面のおっさん教諭が入ってきたので、その大部分の男子が一斉におっさん教諭に睨んだ。
仮にやってきたのがおっさん教諭ではなく、特別講師の女子大生の人だったとして、その人の容姿が残念な感じだったら、こいつらは一体どういった反応を示したのだろうか?
「まあ、お前達の気持ちは分からなくもないがな。俺もさっき挨拶してもらったが、あんな別嬪がくると思ってた矢先に、おっさんが来たらそうなるわな。」
そのおっさん教諭も、自分がどうして睨まれているのかを察し、ポツリと漏らした言葉で、睨んでいた男子生徒の睨みの意味合いが「なんでお前なんだ!」から「さっさとその人をだせ!」という意味合いにシフトした気がした。
まあ、あくまでこれは俺が感じた事だが、何故睨んでいる連中は言葉を発さないのだろうか?
気配も察知できない癖に、近くにその人達がいる事を感知して、自分達の心象を悪くしないようにと画策しているのだろうか?
とりあえず、相手の容姿は優れているらしいぞ。良かったな、お前達。
「全く、いくら先生達の立場や威厳が昔よりも低くなっているからといって......、はぁ、わかったからもうその目はやめろ。そうすれば、すぐに呼んでやるから、なっ!」
現金なモノで、おっさん教諭がそう言うと、おっさんに向けての睨みがなくなった。
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
「はぁ...。少々時間が潰れてしまったが、どうぞ、暑苦しいところですがお入りください。」
そうして入って来たのは3人。
ピンク髪でポニーテールの闘気溢れる女性が一礼してから道場に足を踏み入れ、それに続くように、武術を嗜んでいるとは決して思えない、ほんわかした雰囲気のクリーム色の髪をした女性と、最初の人と比べると大分劣るだろうが、何かしらの武術を嗜んでいるであろう銀髪の天然っぽい雰囲気がある女性が入ってきた。
「この人が、宮沢先生が腕を負傷し今日は休暇となってしまい、昨日急な申し出にも関わらず、お前達の指導を引き受けて下さった、シグナムさんとその付き添いの人達だ。」
扉の前に気配が3つあったので3人いる事は分っていたが、最初の人以外は付き添いで来ただけらしい。
というか、付き添いの人も授業に加わって良いとか、ウチの学校はかなりセキュリティも含め、色々緩いと言わざる負えない。
「私が宮沢教諭の代役として、今日、キミ達の指導をすることになった"シグナム"だ。宮沢教諭とは違い、いつもとは勝手が違い戸惑うとは思うが、僅かな時間なので従って欲しい。」
そして、剣道場に入場しておっさん教諭の隣に立つと、シグナムと名乗ったピンク髪の女性が簡単な自己紹介をした。
その後の言葉に、異常な程、活気のある声で返事を返す男子生徒だが、その視線はシグナムさんの身体の一部に集中していた。
女性は男性のそう言った視線に敏感らしいから、お前達のその行為は男として抗えないモノだったのかもしれないが、せっかく講師を引き受けてくれたシグナムさんに失礼な行為だぞ。
それにシグナムさん自身、相当な修練を積んでいる感じがするので、確実にその視線に気付いているはずだ。
「それと後の2人だが、ただの付き添いなので気にしないで欲しい。ただ講義がないからといって面白半分でついてきた付属品だ。」
「それは酷いんじゃない。私はただ、シグナムが生徒さん達に怪我を負わせたら一大事だと思って救急セットを持参して来てるのに...。
という事で、負傷したら私(シャマル)のところに来てね♪」
「いや、シャマルは「年下のイケメン男子の彼氏ゲットのチャンスだわ!」とか言っていたような気がするよ。それに、その救急セットを用意したのは私(リインフォース)なんだけど。」
「ほう?リインの言う事は事実なのかシャマル。私はそんな事は聞いていなかったぞ?」
「ち..違うわよ。ただ、カッコいい子がいると良いな、的な事は言ったけど、そこまで露骨に言葉にはしていないわ。」
「でも、意味合い的には間違ってないよね。」
そんな視線を気にする事もなくシグナムさんは、隣に控えている2人の事をざっくりと紹介したのだが、あまりにもざっくりとし過ぎ、少々扱いが雑だった事に不服申し立てをした、シャマルさんとリインさん。
2人の名前は3人の会話の中で把握出来たわけだが、このやり取りだけみても3人の仲が非常に良い事だけは分った。
「ほ...ほら、私の事よりも今のシグナムは、この生徒さん達の特別講師なんだから、授業を始めないと、恩師の教諭さんに顔向け出来ないわよ。」
「分かっている。だが、後でこの事は追及させてもらうからな。」
「... はぃ。」
「シャマルは、昨日もシグナムに絞られたのに懲りないね。」
このようなやり取りも日常的に行われているような会話だった。
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
「連れの所為で時間を浪費してしまい、申し訳ありませんでした。」
「あぁ、良いですよ。おじさんにも、こいつらにも目のほy...げふん、げふん。それほど時間も経っていませんから。
今からしっかりと指導して頂けるのであれば、私の方からも宮沢先生に、貴方はちゃんと務めていたと報告しますので。」
「ありがとうございます。では、手始めに――――。」
という事で、おっさん教諭の睨みから特別講師のシグナムさんとその友人との絡み兼自己紹介で授業開始のチャイムから5分ほど経過してしまったが、始めに怪我防止も兼て柔軟から始める事になったのだが、ここで1つ問題が発生した。
今日、俺のクラスでは男子が1人欠席してしまい、現在この場にいる男子の数が奇数になってしまい、またその休んだ男子が毎回俺とペアを組んでいるやつだったので、柔軟の際に俺のペアが不在という状態だった。
普段、この様な状況では、宮沢教諭がその余りの男子の補佐を務めていたわけなのだが、この場には、講師のシグナムさんとその友人しかおらず、代役でやってきたおっさん教諭はシグナムさんが仕切り始めてから、何処かからパイプ椅子を取り出し、タブレット端末でなにやら作業を始め、こっちの状況は最低限しか手出しも口出しもしない姿勢を見ているので、当然、俺の相手をするわけがなかった。
まあ、体育程度の簡単な柔軟運動であれば1人でも出来るのだが、集団行動が基本の学校生活でそういう訳にもいかず、
「ん?キミは......。」
周りがペアを組み、順当に柔軟運動を続ける中で、ポツリと孤立していた俺を見たシグナムさんは、周囲の様子を見まわし、
「なるほど、今日は男子生徒は19人だったのか。では、私が君の補佐をするとしよう。」
と、宮沢教諭の代役兼講師としては当然の事を申し出てくれたわけで、俺も柔軟をしなければいけないので、その申し出を断る理由もなく「お願いします」と承諾したのだが、「またか、またあいつだけが良い思いをするのか」や「クソ!どうして、お前は今日休まなかったんだ!」と俺に対して呪詛を唱えるモノや、自分の相方に対して理不尽な不満をお互いに言い合うペアが続出し、再び場の雰囲気が荒れた状態での柔軟運動となった。
また、そんな雰囲気の中で、
「ふむ。一目見た時にも思ったが、キミは良く鍛えているみたいようだな。筋肉の柔軟性も素晴らしいく、無駄に大きすぎるわけでもない。非常に実用的に鍛えられている筋肉だ。」
と、補佐をしてくれているシグナムさんの口から、筋肉フェチなんじゃないかと疑われても否定出来ないんじゃないかと思われる発言や、もにゅんもにゅんと背中に押し付けられる弾力性のあるメロンを意識させられる場面もあった。
「では、柔軟したペア同士で打ち合ってくれ。私はそれを順番に見て、それぞれに指摘していくので、普段はどうか分からないが、この時間のペアの変更はしない。」
最初に身内トークを挟みはしたが、基本的にシグナムさんは真面目な人なのだろう。
この場の雰囲気を気にする事なく、柔軟運動が終わると、次の指示をシグナムさんはこの場にいる全員に伝えた。
「と言う事なので、キミ... 悪いが名前を教えてくれないか?」
「鏡刻也です。」
「ありがとう。個人的には、この後も私が鏡の相手のしたかったのだが、全員の指導を任されているのでな。私の代わりに、鏡の相手はリインに頼むが構わないだろうか?」
「はい。」
「すまないな。リインも多少出来る方だから、鏡もやり応えはあると思う。」
どうやらシグナムさんは、柔軟の際に触れた時に、俺の筋肉の付き方で何かしらの武術を嗜んでいる事を察したのだろう。
そんな事を思っていると、すぐにシグナムさんがリインさんとシャマルさんを俺の所に連れてきて、シグナムさんは「鏡とリインは最後に見に来る」と言う言葉を残して、他の男子生徒の指導をしに行ってしまった。
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
「シグナムってば、私にああ言っておきながら、自分はちゃっかりお気に入りの子見つけてるじゃない。」
「確かに良い表情してたけど、あれは良い対戦相手が見つかったっていう感じだったけど?」
「まあ、アインハルトちゃんを最初に見た時に似てたけど、今度は男の子だからね。可能性だってゼロじゃないわ。」
「すみません。」
シャマルさんが恋愛脳だと言う事は、はっきりと理解したが、今は一応授業中なので、非常に口を挟み難かったが、2人の話に割り込む事にした。
「あぁ、ごめんなさいね。」
「すまなかった。大丈夫、キミの相手をするようにシグナムに頼まれたからね。今から、しっかりと相手を務めるから、さっきの言葉をシグナムに言うのだけはやめて欲しい。」
「告げ口しようとかそういう事はしないので、相手をしてもらってもいいですか?」
「もちろん。でもその前に、キミにはちゃんと自己紹介をしておくよ。私はリインフォース。フルネームは非常に長いから省かせてもらったけど、普段はリインと呼ばれる事が多いから、キミもリインと呼んで欲しいな。一応、サバットという格闘技を嗜んでいるよ。」
「じゃあ、私もしちゃうわね。リインと同じ理由でフルネームは省かせてもらうけど、私はシャマルって言います。私はシグナムやリインと違って本格的な武術は嗜んでないけど、護身用に簡単な合気道くらいなら出来るわ。」
口を挟んでからは、大人の対応というか俺の言いたい事を察してくれて、俺はその後の言葉を、何も言っていないのだが、とんとん拍子に話が進んで行き、丁寧な自己紹介までしてくれたので、俺も御神流と言っても伝わらないだろうから、主に小太刀を用いる古武術を嗜んでいると言う言葉を付け加えた自己紹介をした。
「なるほどね。それでシグナムは、刻也くんに目を付けたのね。」
「ごめんね。シャマルはいつもこうだから。でも、剣を使う武術を嗜んでるって事は、刻也くんの相手を務めるには、私も本気で行かないといけないかな。」
自己紹介後、シャマルさんとリインさんの俺への呼び方が刻也くんとなり、聞き耳を立てていた周囲の男子生徒からは、醜い嫉妬の視線が付きつけられてはいるが無視し、俺が剣の扱いに長けていると知り、相手を務めてくれる事になったリインさんは、気持ちというかモードを切り替えて、エアーソフト剣を手に真剣な眼差しとなり、俺の前に立ち塞がった。
ここで一度確認の為に言っておくが、これは真剣を用いた勝負とかではなく、体育の授業であり安全性を確保したエアーソフト剣を用いたスポーツチャンバラなので、これまでの授業も遊び半分という感じでやっていたし、相手も同じ感じなので、ここまで本気の人を相手にする事はない。
だからと言って、今のリインさんの瞳は単純に俺とやり合う事に集中しているようので、無下にするわけにもいかず、俺も普段とは違った心持ちでエアーソフト剣を構え、リインさんの正面に立つ事にした。
「なんか、急に私だけ置いてけぼりにされているみたいだけど...。仕方ないわね。私が審判を務めましょう。」
という訳で、体育の授業での簡単な打ち合いから、審判までついた真剣勝負っぽい状況で、俺とリインさんの打ち合いが始まった。