とらなのVRMMO ~魔法はゲームの中だけなの~【改訂版】 作:戯言紳士
「という事が昨日あったんです。」
―― シュッ! ......ササッ
現在、俺は高町家の道場で士郎さんと鍛練をしている。
「男の子がトキ君しかいない状況じゃあ仕方ないね。でも、良かったのかい?」
―― スッ! ..サッ!(危なっ!!)
アリサの家から高町家までは身体を温めるのに適した距離だった。
「な..なにがですか?」
―― カチンッ!
「朝からアリサちゃんの家を抜け出して、こうして僕と撃ち合っていてさ。」
―― ググググググッッ!!
出掛ける際に丁度起きてきた鮫島さんに、出掛ける旨を伝えて来たので、万が一、なのは達が起
きた時に俺が居なくても、問題にはならない。
「休日は士郎さんに見てもらえる日ですから。それに、なのは達は俺が部屋に戻ってからも話し込
んでいたようなので、こんな時間帯には起きませんよ。」
―― ゴゴゴゴゴゴッッ!!
それにしても、士郎さんはまだまだ余力がありそうだな。
こうして会話をしながらの打ち合いだけど、俺は本気なのにまだ力負けしている。
「なら大丈夫だね。......しかし、見ているだけじゃあ気付かなかったけど、トキ君かなり腕を上
げたんじゃないかい?」
―― クッッ!!
...... 士郎さん。鍔迫り合いで押し負けた後に、そんな事を言われても信憑性がないですよ。
「そう言われても、この有り様だし、まったく実感がありません。」
「そういえば恭也にも同じ様な事を言われた事があった。"吹っ飛ばされた直後に称えられてもま
ったく入ってこない"ってね。だけど、僕は確かにトキ君が強くなってると断言するよ。」
「...ありがとうございます。でも、まるで思い当る節がないんですけど。」
「僕はプレイした事がないから確証はないんだけど、トキ君の成長の陰にはなのは達とやっている
SLOが関係しているんじゃないかな?」
「SLOがですか? あれ、ゲームですよ?」
「確かにゲームだね。だけど、今までにない疑似体験が出来るゲームらしいじゃないか。」
「それが売りのゲームですからね。」
「そこから、ゲームに関しては全くの素人の僕が思った事は、トキ君はゲームをしている間、質の
高いイメージトレーニングをしている状態なんじゃないかって。
現実ではまず出会う事のない人外の動きをするモンスターと何百、何千と戦ってきた事で、その
経験がトキ君にフィードバックして、今こうして活かされているってね。
どうかな?少しは信憑性が湧いてこないかい?」
......。正直、そんな事がありえるとは思えない。
だけど、俺自身に思い当る節もなく、今までの生活から変わった事と言えば、SLOをプレイし
始めたと言う事だけ。
結果、今の俺の思考では、士郎さんの言葉を否定する事は出来なかった。
「そういえば、どうして今日は美由希さんいないんですか?」
「あぁ。美由希なら、昨日の夜に那美ちゃんが訪ねて来てね。那美ちゃんの仕事の手伝いで1週間
は戻ってこないらしい。」
「そうだったんですか。那美さんも大変ですね。仕事で全国を飛び回ってるみたいですし。」
「そうだね。恭也がまだ学生だった頃には良く遊びに来ていたんだけどね......。
これが時が流れると言う事かな。っと哀愁を漂わせて呟く士郎さん。
美由希さんの所在を聞いだけだったのだが、何故かしんみりとして雰囲気になってしまった。
「...っと、いけない。そういえば、那美ちゃんからトキ君に伝言を預かっていたんだった。」
「那美さんから俺に伝言ですか?」
それから少し間があくと、士郎さんは那美さんから預かっていたという伝言の事を思い出したよ
うで、「はは、まだ若いと思っていたけど、こんな事も忘れているんじゃ、僕も歳かな。」と、ま
たも哀愁を漂わせながらも、那美さんからの伝言を正確にリピートした。
―― 今度、刻也君の都合が合えばで良いんだけど、次から刻也君にも来てほしいな。刻也君が
まだ学生だって分かってるけど、ほら、美由希もいつまでも日本にいるわけじゃないし...。
もちろん、刻也君に無理はして欲しくないから、これはあくまで私の個人的な願望というか、我
儘なんですけどね。
「以上が、那美ちゃんからの伝言だよ。(本当はまだ続いているんだけど、那美ちゃんが直接トキ
君に伝えた方が良いだろう。)」
「そうですか。わざわざ、ありがとうございました。」
ていうか、士郎さん。さっきまで忘れてたとは思えないほど流暢に話していたな。
「とりあえず、返答は今度会った時で良いって事だったから、早急な話ではないから、那美ちゃん
の手伝いをするかどうかは、ゆっくり考えても大丈夫だよ。」
「分かりました。」
「それじゃあ、休憩はここまでにして、次からはもう少しだけ激しくしていくよ。」
「はい!」
その後、不在のなのはに代わり、桃子さんがいつもの時間に呼びに来るまで、いつもより激しい
士郎さんの指導を受ける事になった。
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
『クロノス様がログインしました。』
朝の鍛錬を終え、早々に高町家を後にしアリサの家に戻って来ると、ちょうどなのは達が起き始
めた時間だったらしく、朝食の時間には間に合った。
まあ、その朝食の時に「こんな日まで鍛錬しなくても良いじゃない。」と、若干呆れられていた
が、長年の生活サイクルの一部となっているので、最低でも市外に出ない限り俺は高町家へと出向
くだろう。
そんな過程を経て、9時に全員揃ってSLOにログインした。
今日の目的は、無限図書館の地下ダンジョン攻略。
とは言っても、無限図書館の地下ダンジョンは確認出来ている範囲でも地下50階はあるので、
今日は20階まで進む事になった。
地下ダンジョンは10階層毎にボスがいて、地下に潜っていけば行くほど、敵のレベルも上がる
と言った仕様なので、現状では地下20階が限界だと判断した。
これは、昨日までの全員のレベルとプレイヤースキルを考慮した上で、昨晩、全員で決めた事で
ある。
その上で時間が余り、余力があるようなら、今週の水曜日から始まるというイベントに向けて、
レベリングをする予定である。
タイミング次第ではあるが、ユーリ達がその時間にログインしている様であれば、顔合わせもし
てしまおうと思う。
そういえば、イベントについてシグナムさん達も誘う事になって、その連絡をヴィヴィオ達に任
せたのだが、返信はどうなっているのだろうか?
「ヴィヴィオ。そういえば、シグナムさん達から返事って来てるのか?」
「うん。刻也が個室に行った後に返信が来て、一緒にやろうって。」
「だけど、その前に、こっちで会わないとだから、今日か明日にでもって話だったね。」
「一応、シグナムさん達にも今日の私達の予定を伝えてあるので、とりあえずは地下ダンジョンの
攻略で問題ないですよ。」
「分かった。それじゃあ、まずは予定通り、無限図書に向かうとするか。」
「「「「「「「「「「「はーい!!」」」」」」」」」」」
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
ミッドチルダに転移し、南方向に移動する事2分。
俺達は早々に無限図書館の前に到着した。
「ていうか、はやっ!」
「当たり前だよ。だって、ミッドチルダの街の中にあるんだもん。」
「広場からも建物は見えていたじゃない。」
「昨日の移動に割いた時間を考えると、あっという間だったけどね。」
「だよね!」
昨日、短時間で4つのダンジョンを巡ったからだろう。
無限図書館の前に到着しても、特に強張った様子もなく、普段の和気藹々とした雰囲気で他愛も
ない雑談をしながら、アリシアが軽々と扉を開けた。
先に少しだけど説明したが、ここで一つ、無限図書に関する情報をまとめておく。
・無限図書館はミッドチルダの南方向に位置している、最大の図書館。
・1階から3階までは、普通の図書館同様..とは言い難いが、SLOに関する情報が眠っている。
というか、企画段階の草案から没ネタが乱雑に投げ捨てられている感じで、本が散乱している。
その中には、正規採用された案やお得情報も混じっているので、ある意味で宝探しも出来る。
・地下にはダンジョンが形成されていて、現在確認されているだけで50階層。ちなみにβ版では
30階層までだった。
・推奨レベルは一応30からだが、深い階層に行く程に出現するモンスターのレベルと強さが上が
っていく。特に10階層刻みで、出現するモンスターのレベルが飛躍する。
・10階層毎にボスが設置されていて、そのボスを倒す事で次の階層に進む事が出来る。なお、再
度ボスに挑む場合は、最初の階層から挑み直す必要がある。
・ボスを倒す事で、次回からはその階層から挑む事が可能になる転移装置の使用が可能になる。
と、こんな所だろう。
蛇足になるが、俺が持つSLOの情報はβ版での実体験もあるが、この無限図書で得た情報も多
い。それに、意外と没案や草案も面白く、レベリングの羽休め感覚で良く訪れていた。
それから、一応、無限図書にも館長という名の、情報整理を押し付けられた運営の役員が一人だ
けいるのだが、その人に「良くこの中から正確な情報を見つけ出せますね」と苦笑いされながら言
われたものだ。
果たして、その人は正規サービスが開始しても、ここの館長をさせられているのだろうか?
まあ、それは中に入れば分かる事か。
「刻也さん!もう、みんな中に入っちゃいましたよ!」
「考え事もええけど、早く刻也さんも来てや。」
「カウンターはあるんですけど、誰も人がいなくて、地下ダンジョンの入り口が分からないの。」
「分かった。すぐ行く。」
気付けば、無限図書館の前に立っているのは俺だけで、なのは達はアリシアに続き、すでに館内
に入っていたようで、俺は早足で無限図書の館内に入った。
すると、なのはの言う通り、カウンターは無人で案内役の人もNPCもおらず、そこで先に入っ
ていたなのは達が佇んでいた。
「聞いていた話だと、確かここに案内役の人がいて、まずこの許可証を提示するのよね?」
「そのはずだよ。」
「もしかして、私達より先に別のプレイヤーが来ていて、そのプレイヤーを案内をしてるとか?」
「その可能性が一番高そうやな。」
「なら、少しここで待っていましょう。」
「ちゃんとした手順を踏まないと、地下ダンジョンにはいけないしね。」
「なんか、出鼻を挫かれた感じ。」
「仕方ないわよ。」
「それにしても、本当にあっちこっちに本が散らかってるね。」
「そうだね。あそこなんて、凄いバランスで積み重なってるよ。」
「ああなってると、なんで崩れないのかが不思議ね。」
初回は案内役の人がいないと先に進む事が出来ないので、ざっと1階の館内の様子を見て、思い
思いに感想を言って時間を潰していたのだが、5分程経過しても、いっこうに案内役の人は現れな
かった。
「先輩。先輩はダンジョンの入り口を知ってるんだよね。アタシ達だけでそこに行けないの?」
そこで一番最初に痺れをきらせたチワワが、適当に床に落ちていた本を読んでいた俺に話かけて
きた。
「俺達だけで行った所で、不可視の壁に阻まれて先には進めないぞ。初回は必ず許可証を提示した
上で、案内してもらう必要がある。」
なので、俺は読んでいた本"七夜暗殺術の極意(前) ~これであなたも一流の暗殺者~" を閉じて
チワワに昨日言った事をリピートした。
「でも、もう五分もたったのに全然戻ってこないよ。」
「刻也先輩。私達もスバルほどじゃないけど、このまま人が来ないんじゃないかって不安になって
きたんですけど。」
「運営の人に確認してみませんか?」
しかし、俺以外のメンバーは、いっこうに姿を現さない案内人に不安を感じていたらしい。
「それはまだ良いだろう。その前に、ここの館長を読んでみるか。あいつなら絶対にこの館内にい
るから。」
「えっ!刻也さん、ここの館長さんと知り合いなんですか?」
「もう、何でもありね。一体、刻也はβ版でどんなプレイしてたのよ。」
「その事は追々聞いていくとして、今は刻也さんに館長さんを呼んでもらって先に進もうよ。」
「せやな。待ちぼうけはうんざりや。」
斯くして、俺は部署移動か自主退社していない限り、この館内にいるはずの運営員の名前を大声
で呼んだのだった。