とらなのVRMMO ~魔法はゲームの中だけなの~【改訂版】 作:戯言紳士
―― ブンッ!
何度目だろうか?
鋭さを増していくシグナムさんの剣閃を目の当たりにするのは...。
シグナムさんは俺をターゲットに。リインさんとアインハルトさんはさくらをターゲットにしてから、3分ほど経過した。
知佳も俺達の戦闘が始まってから1分後に、先に挙げた3人の妨害を一切受ける事なく、シャマルさんの下へと向かい、シャマルさんとその召喚モンスター2体と戦闘を始めている。
「まだ、考え事をする余裕があるみたいだな。」
「そんな事は..。ただ、ちょっと事後報告を。」
俺の返答に、シグナムさんは言葉にはしないが、何を言っているんだ思っているだろう。
ちなみに、シグナムさん。西洋剣を模した両手剣を振るっているのだが、全く重さを感じさせず、長剣を振るっているかのように、振り終わりから次への繋ぎが早い。
それに感覚も徐々に研ぎ澄まされてきている様で、先ほどから俺の反撃を予知しているかの如く防いでくる。それでも相殺しきれなかったダメージは受けているが、今の所、直接的なダメージは受けていない。
美由希さんはスピードタイプの剣士だが、シグナムさんはパワータイプの剣士という違いはあるが、この感覚は本気モードの美由希さんと最近戦った時に似ている。
それはつまり、剣の技量では武器の違いはあれど、ほとんど差がないという事だろう。
すでにシグナムさんは様子見という感じではなく、時折武技を織り交ぜながら本気で斬りに来ている。
―― ブンッ! ブンッ!
シグナム 【精神力】 113 / 144 ⇒ 104 / 144 (-9)
今も無言でダブルスラッシュを使いながら、振り下ろしから横への薙ぎ払いを仕掛けてきた。
クロノス 【精神力】 303 / 361 ⇒ 280 / 361 (-23)
振り下ろしは右側に半歩移動し回避、続く薙ぎ払いは暗殺術"六兎"を使用し、六兎の入りの動作(限りなく低い姿勢になる)を利用して回避、そのままダブルスラッシュ使用後の僅かな硬直時間を狙って、シグナムさんの腹部に6発の蹴りを叩き込む事に成功した。
シグナム 【生命力】 284 / 316 ⇒ 189 / 316 (-95)
武技を使用し、上手く硬直時間をつけた事で、初めてシグナムさんに攻撃を直撃させる事が出来た。
そして、六兎を受けた衝撃でシグナムさんとの間合いが開いた事で、攻防の手が一度止まる。
「くっ..! 見事だ。まさか武技を使った後の硬直時間を狙うとはな。」
「今のは偶然です。確かに硬直時間は狙っていましたが、シグナムさんの攻撃を回避しながら、こっちの武技の発動まで計算する余裕はなかったので。」
「そう願いたいものだな。私も今の攻撃でこれほどダメージを受けるとは想像していなかった。」
俺もシグナムさんに与えたダメージ量は気になった。何せ、正規サービスが始まってから対人戦をするのは初めてだったからだ。
互いに武器・防具を装備し、与ダメージ増加・被ダメージ軽減などのスキルを無数に所有するプレイヤー同士が戦った場合、フィールドなどに出現するモンスター戦よりも与ダメージ・被ダメージが小さくなるのは必然の結果なのだが、それなりの威力を誇って入るが蹴り6発でシグナムさんの最大生命力の1/3近く削っている。
俺の作った装備が他で入手出来るモノより数段性能が上なのは自覚していたが、この結果を見ると、シグナムさん達との模擬戦に関していえば、数的な不利はあれど圧倒的な装備の性能差でカバーリングされてしまっている。
「気にする事はない。私達とてこのメンバーの中では装備が一番貧弱である事は理解していた。」
シグナムさんには、俺の思考が読まれていたらしい。
俺からは何も言っていないのだが、フォローされてしまった。
―― ハイヒール
シグナム 【生命力】 189 / 316 ⇒ 301 / 316 (+112)
シャマル 【精神力】 246 / 317 ⇒ 230 / 317 (-16)
「それに我らにも、優秀な回復役がいるからな。そう簡単には落ちない。」
加えて、シャマルさんの回復魔法でシグナムさんの生命力が全快に近い所まで回復した。
「だから刻也も遠慮するな。今の私は模擬戦の勝敗よりも、お前の全てを引き出した上で、私の全力をお前に受け止めて欲しいという気持ちの方が大きいんだ。」
リーダーとしてそれはどうかと思うが、そう言ってもらえた事で心が軽くなり気分が高揚した。
「では、これから俺からも結局的に仕掛けていくので、出来るだけ持ちこたえて下さい。」
「嘗められたものだ..と普段なら思う所だが..良いだろう。刻也の期待に応えようじゃないか。」
シグナムさんの返事を聞き、俺は一度目を閉じ精神を統一する。
そして、ゆっくりと目を開き、正面で待ち受けるシグナムさんを視界に捉え、改めて名乗りを挙げる。
「永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術 鏡刻也。御神流の根源は守護。でも、今この時だけは、貴方を倒すためだけにこの剣を振るいます。」
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
時は僅かに遡り...
「お兄ちゃん..凄い。」
私、お兄ちゃんの召喚モンスターの知佳は、少し離れた空の上からお兄ちゃんとシグナムさんの戦いに目を奪われてちゃいました。
なんと!お兄ちゃんはシグナムさんの猛攻の中、連撃の中に織り交ぜられた武技の発動を見抜き、発動後の僅かな硬直時間を狙いすまし、一瞬で6発キックを直撃させたたんだよ!
「―― ハイヒール」
シグナム 【生命力】 189 / 316 ⇒ 301 / 316 (+112)
シャマル 【精神力】 246 / 317 ⇒ 230 / 317 (-16)
「あぁーー!!」
いけない!目を奪われている間に、折角お兄ちゃんが与えたダメージを回復されちゃいました。私はシャマルさんとその使役モンスターさん達の相手をして、他の人への支援の手を出来るだけ邪魔しないといけなかったのに。
「てかっ!お前!一人だけ空飛ぶなんてズルいぞ!降りて正々堂々と戦いやがれ!」
『そういうなヴィータ。相手が自らのアドバンテージを失う事をするわけがない。』
私一人に対して相手は2人と1匹。数だけ見ると私だけだと対処しきれないって思うけど、お兄ちゃんの言ったように空を飛ぶ事の出来る私は、そのアドバンテージを活かして相手の攻撃が届かないポジションをキープしながら攻撃をしているので、リインさんとアインハルトさんの2人を正面から相手にしているさくらお姉ちゃんよりも、難しい事はしていない。
だから、さっきのミスは言い逃れする事が出来ない私のミス。
「クソッ!シャマルの魔法も簡単に相殺する相手じゃ、アタシらの攻撃なんて当たった所でダメージを受けねぇだろうし、どうしろってんだよ!」
『最近では滞空している相手はツヴァイが担当していたからな。』
「そのツヴァイちゃんも、知佳ちゃんとはレベル差があり過ぎて、呼び出していたとしても同じ結果だと思うわ。」
「でも、このままだと嬲り殺しされるぜ?」
『今はまだ私が障壁を展開し続けていられる余裕があるが、何時までも展開し続けられんぞ。』
「そうなのよね。でもこっちに打つ手がないから、早めに刻也君かさくらちゃんのどちらかを倒してもらいたいのだけど...。」
今、シグナムさんはお兄ちゃんの攻めに防御を強いられていて、さくらお姉ちゃんは2人同時に相手しているのに力が拮抗してどっちも攻めあぐねているので、すぐに決着はつかないでしょう。
「ヴィータちゃん。リインとアインハルトちゃんの所に行ってあげて。」
「ここを離れて良いのか?」
『攻める事が出来ぬ以上、護衛は私に任せて、ヴィータは前線に出て戦った方が良いだろう。』
「ザフィーラの言った通りよ。リイン達の方がまだ戦力が拮抗しているみたいだから、ヴィータちゃんが加われば、それが崩れるかもしれないわ。」
「分かった。でも、ぜってー、あいつが妨害してくるぜ。」
『多少、消耗が激しくなるがヴィータが合流するまで、私が防ごう。』
それは絶対に阻止しないと!
お兄ちゃんはもちろんだけど、さくらお姉ちゃんも傷付いて欲しくないから!
「 ――
知佳 【精神力】 283 / 344 ⇒ 163 / 344 (-120)
そう思った瞬間、私は
「なっ!今度は羽じゃねぇのかよ!」
『気を付けろ。ただの衝撃波ではなさそうだ。―― ワイドプロテクション 』
ザフィーラ 【精神力】 89 / 173 ⇒ 61 / 173 (-28)
私の放った念動衝撃波はそれぞれシャマルさんの使役モンスターへと向かっていきます。
シャマルさんの使役モンスターさんはどっちも回避すると後ろのシャマルさんに当たってしまうので、ザフィーラと呼ばれている狼さんが今回も障壁を張った上で受けの構えを取った。
だけど、それは悪手だよ。
だって、念動衝撃波は、
『何っ!』
「こいつ!ザフィーラの衝撃を貫通してきやがった!」
基本攻撃力は低いけど、相手の展開した障壁とか所有している防御系のスキル。それに、耐久値・抵抗力を無視してダメージを与える事が出来るんだから。
―― ボフッ! ×2
「ザフィーラ! ヴィータちゃんっ!!」
今の私の知力値は62。それに念動衝撃波の基本攻撃力4が掛け合わされて、お兄ちゃんが刻んでくれた装飾品の付与スキルの効果でダメージが1.5倍されます。
相手の耐久力は関係くなるので"372"、これが今の念動衝撃波の固定ダメージになります。
「...マジかよ。アタシ、まだ何にもしてねぇのに..。」
ヴィータ 【生命力】 340 / 284 ⇒ 1 / 284 (-372)
『獣調教師シャマルの使役モンスター"ヴィータ"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
『くっ..、守護獣たる私が...不覚だ。』
ザフィーラ 【生命力】 368 / 307 ⇒ 1 / 307 (-372)
『獣調教師シャマルの使役モンスター"ザフィーラ"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
「嘘でしょ!? たった一撃で2人ともやられるなんて...。」
念動衝撃波を受けた二体の使役モンスターは、この戦いのルールで生命力が1だけ残ったけど、最大生命力の10%以下になったからリタイア。
つい、衝動的に大きな技を発動しちゃったけど、相手が避けずに受けてくれて助かった。お兄ちゃんから出来るだけ消耗の大きなスキルの発動は控えるように言われていたのに、それが無駄になっちゃったらお兄ちゃんに顔向け出来ないから。
でも、次は
それにシャマルさんも今ので絶対警戒してくるから、この戦いじゃあ、念動衝撃波は絶対に当たるっていう状況じゃないともう使えないね。
「本当に..アリサちゃんの言った通り規格外ね。こうしている間にも、シグナムは刻也君にかなり追い込まれてしまっているし、拮抗していたはずのリイン達もさくらちゃん一人に押され始めてる。」
「それでも、最後まで諦めませんよね?」
「もちろんよ。シグナム達もまだ諦めていないし、私を守るためにさっきの攻撃を受けて倒れてしまったザフィーラとヴィータちゃんの想いも無駄に出来ないもの。」
本当にお兄ちゃん達と知り合い人は良い人達ばかり。
何故か女性の人ばっかりだけど、お兄ちゃんはとっても魅力的だから仕方のない事なのかな?
「それでは、私も最後までシャマルお姉ちゃんの相手をしてから、お兄ちゃん達に合流します。」
だからと言って、今はお兄ちゃんの敵。どんなに良い人でも戦う意思があって、お兄ちゃんの前に立ち塞がるんだったら、私が相手をするだよ。
「.........っ!」
私なりにシャマルお姉ちゃん事を認めた事の意思表明をしたつもりだったんだけど、それを聞いたシャマルお姉ちゃんは急に胸を掴んで項垂れてしまいました。
「どうかしたのですか?」
「い..今の最初からもう一回言ってくれる?」
敵対してる相手だけど一応声を掛けたら、もう一度同じことをいって欲しいみたい。
「私も最後までシャマルお姉ちゃんの相手をしてから、お兄ちゃん達に合流します?」
理由は分らなかったけど、言う分には問題ないので同じことを繰り返して言ったけど、これで良かったのかなって思って、最後の部分が疑問形になっちゃった。
「ぐはっ!
本当にどうしたのでしょう?
今度は、突然ぶつぶつ小声で呟き始めてしまいました。
今なら簡単に念動衝撃波を当てる事が出来そうだけど、やっちゃって良いのかな?
「えいっ! ――
知佳 【精神力】 163 / 344 ⇒ 103 / 344 (-60)
攻撃しても良いのかと悩んでいたけど、戦いの最中に隙を見せる方が悪いって、お兄ちゃんが言っていた事を思い出して、私は攻撃しちゃった。後悔はしないよ?
シャマルお姉ちゃん、私が念動衝撃波を放ったことにも気付かずに、今度は何かと葛藤してるみたいだけど、支援係がそれじゃあダメだよ?
―― ボフッ!
「きゃっ!」
シャマル 【生命力】 143 / 143 ⇒ 1 / 143 (-372)
「シャマルお姉ちゃん。戦いの最中に簡単に隙を見せちゃダメだよ。シャマルお姉ちゃんは支援係なんだから、戦闘中はちゃんと周りに気を張ってみんなが戦い易くなるようにしないといけないんだから。」
「......はい。知佳ちゃんの言う通りです。(みんな、ごめんなさい。
『プレイヤー"シャマル"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
結局、シャマルお姉ちゃんとはまともに戦う事もなく、簡単に倒せちゃいました。
お兄ちゃんには負荷を与えて欲しいってお願いだったけど、シャマルお姉ちゃんもその使役モンスターも倒せちゃったし、こっちの方が喜んでくれるよね。
こうしてお兄ちゃんのお願いを叶えた私は、今も激しい戦いを続けているお兄ちゃんとさくらお姉ちゃんの下に、文字通り飛んで駆けつけるのでした。(まる)