とらなのVRMMO ~魔法はゲームの中だけなの~【改訂版】 作:戯言紳士
時は、前回と同じく、知佳がヴィータとザフィーラを倒した所まで遡る
『獣調教師シャマルの使役モンスター"ヴィータ"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
『獣調教師シャマルの使役モンスター"ザフィーラ"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
「まさか、あの知佳という少女に、ヴィータとザフィーラを同時に倒す程の力があったとは。」
シグナムさんがシャマルさんの回復魔法で回復してから、僅かの間に、俺達にとっては吉報がログに表示された。
タイミング的に、知佳はさきほどのシグナムさんに対する回復魔法の発動を阻止できなかった事への後悔から、衝撃念動を放ったのだろう。あれは、決闘において絶大なダメージを与えられるキラースキルだからな。
―― ガキンッ!
「それはともかく、まだ話をする余裕はあるみたいですね。」
―― グググ...
「これが、余裕のある者の表情に見えるか?」
鍔迫り合いの最中、シグナムさんの表情を窺うが、真剣そのもので、余裕は見せても、そこに隙は見せる事はない、と感じ取れた。
「失礼しまし ―― った!」
形式的な謝罪と同時に、一瞬身を引きシグナムさんの重心をずらしバランスを崩させ足払い。それでも無理に姿勢を保とうとした所を、その力のベクトルを利用しシグナムさんを投げ飛ばした。
昔、恭也さんにポイポイ投げられていた時の事を思い出し、同じ方法を使ってみたが、思いの外簡単に再現する事が出来た。
シグナム 【生命力】 240 / 316 ⇒ 218 / 316 (-22)
ただ、武器も武技も使っていないからダメージは微々たるモノだった。
「こうも簡単に投げられたのは、師匠との稽古以来 ―― っだ!」
シグナムさんは起き上がると同時に、縮地で一気に開いた間合いを詰め、低い姿勢のまま両手剣を切り上げてきた。
「縮地で距離を詰められるのも慣れました。直線的な動きしか出来ない以上、手持ちの武器から出現位置は大体推測可能です。」
―― サッ..
バックステップで切り上げを避け、剣が完全に振り上がった所で持ち手の部分を狙って小太刀モードのアイオーンを振るう。
―― カンッ!
シグナム 【生命力】 218 / 316 ⇒ 209 / 316 (-9)
それに気づいたシグナムさんは、当たる直前、僅かに腕を下げ剣身で受け止めた。
「理屈は分る。が、それを実現できるプレイヤーは限られているだろう。」
「シグナムさんも出来るんじゃないですか?」
「装備やスキルに頼っているプレイヤーなら可能だろう。だが、仮に刻也が今私がした事をしてきた場合、同じ様に防ぐ事が出来るかどうかは分らない。」
確かに初見では見切る事は難しいかもしれない。でも、2度3度。何回もその身で体験すれば、シグナムさんなら順応出来るんじゃないだろうか?
『プレイヤー"シャマル"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
と、ここで俺達にとっては更なる吉報が届く。
知佳が使役モンスターを倒してから数秒後に、その主でありこのPTの回復役でもあったシャマルさんを倒したようだ。
この短時間で期待以上の戦果を上げてくれてはいるが、無茶はしていないだろうな。
それにさくらも、さっきシグナムさんを投げた時に、激しい衝撃音がこっちにも響いていた。足止めが限界と言っていたが、知佳の活躍に触発されて真祖化して強引に戦っているんじゃないだろうな。
「そうか..シャマルも倒されたか...。」
ここで当初の目的である、前衛陣に精神的な負荷を与える事にも成功した。
自動回復スキルの無効とアイテムの使用が不可能な状況で唯一の回復手立てである回復魔法の使い手を失ったのだから。
『プレイヤー"リインフォース"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
知佳もさくらも良くやってくれている。やってくれているけど、タイミングが悪すぎる。
「…………。」
模擬戦とはいえ、立て続けにこれまで戦ってきた仲間がやられたんだ。シグナムさんでも意気消沈しても可笑しくはない。
ほんの数秒前には縮地の対処云々と話していた時の雰囲気と雲泥の差だ。
ここまで追い込んでおいて言えた義理ではないが、流石にこの状況下で攻撃をする事に躊躇してしまった。
「......、はぁぁぁっ!!」
―― 【精神統一】発動
シグナム 【精神力】 70 / 144 ⇒ 106 / 144 (+36)
そうしている間に、シグナムさんは口を開き声を上げ、戦闘中に一度しか使う事の出来ない精神力を回復させるスキル【精神統一】を発動させた。
―― ブースト・ウェポン
―― ブーストATK
―― ブーストAGI
―― エンチャント・ファイア
―― エンチャント・ウィンド
―― エンチャント・ダーク
シグナム 【精神力】 106 / 144 ⇒ 25 / 144 (-81)
そして、回復した精神力の大半を強化系の武技と魔法に費やした。
そのほとんどが効果の有効時間が戦闘終了ではなく、時間で効果が切れる種類だった。ブーストATKなどは効力は3分しかない。
これが意味するのは、
「お前との戦いでは、あまり..この類の術は使いたくはなかったのだが、背に腹は代えられん。リイン、シャマル、ヴィータ、ザフィーラと散っていった者を弔う意味でも、一矢..報いらねばならぬのだ!」
「
「
「
「
離れた所からは異論を唱える声が聞こえるが、要するにこれからは手段を選ばず攻めてくるという事だ。
〈応えようじゃないか。それにマイスターも、自身の剣を振るうと宣言したが、まだ見せていないものがあるのではないか?〉
「どうしてそう思う。」
〈何、稀にマイスターが振るう模倣剣技を、ここまで使っておらぬだろう。〉
「...良く覚えているな。」
〈マイスターの戦闘は全て記録している。私はそこからフィードバックしたに過ぎない。〉
急に喋り出したと思ったら、今までの戦闘を全て記録している?
デバイスの記憶領域がそれほどの容量を有しているとは思えない。なら、クラウドの様にサーバーで保管しているのか?
無限図書に丸投げという可能性もあるが...〈来るぞ!〉、っ!!
―― ブンッ!
思考中、アイオーンの言葉で前方を見ると、今までと同じように縮地を使ったわけではないが、比にならない速度で正面から突っ込み、その勢いを乗せた剣を振るってきた。
クロノス 【生命力】 241 / 249 ⇒ 236 / 249 (-8)
その剣速もひと際速くなっていたので、完全に回避する事が出来ず、僅かに掠めてしまった。
「くっ...。不意をついたと思ったが、これでも捉えられないのか。」
これまでは節目の会話や考え事をしている時はどちらからも手は出さなかったが、どうやらそれもこれからはないらしい。
まあ、普通に戦っていて考えがまとまるまで攻撃して来ない奴はいないからな。
このダメージは、そう思い込みんでいた俺のミスが招いた結果だ。
『プレイヤー"アインハルト"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
そしてたった今、アインハルトさんも討たれた。残っているのはシグナムさんだけとなる。
それに、まもなくさくらと知佳も加勢に来るだろう。だが、もう十分戦果を上げているし、外で見ているなのは達にも今の戦闘力も伝わっているはず。
なら、後は俺が力を示すだけだ。
「やるぞ..アイオーン。」
〈承知した。〉
「お前から言いだしたんだ。後から武器遣いが荒いなんて言うなよ。」
―― 御神流奥義之壱・虎切(七夜)
クロノス 【精神力】 280 / 361 ⇒ 274 / 361 (-6)
暗殺術"七夜"。対象に向かっていきすれ違いざまに高速で斬り付けるそれは、御神流"虎切"の再現にぴったりな武技だった。暗殺術を習得した時に最初に使える武技なので、威力は低いが消費精神力は低く連続使用が可能なので非常に使いやすい武技だ。
今回はそこに御神流の基礎である"貫"という技を織り交ぜる。貫とは相手の防御や回避パターンを見切り、その隙をついて攻撃を当てる技法で、やられた相手には攻撃がすり抜けて来るような感覚に陥る。
ここまでは、シグナムさんの行動パターンを把握していたので使う事が出来なかったのだが、なりふり構わず最大まで強化されたシグナムさんの動きを見て、貫が通用する位の情報が揃ったわけだ。
―― スッ...
「なっ! ...小太刀がすり抜けt 」
―― サクッ
シグナム 【生命力】 209 / 316 ⇒ 175 / 316 (-34)
アインハルトさんが倒されたログが表示されてから攻撃の手を止めたシグナムさんだったが、俺の攻撃に反応し、剣の刀身を自分と俺の間に向け盾の様に構えたが、それをすり抜け虎切はシグナムさんに直撃し、俺はそのままシグナムさんを通り抜け背後に回った。
俺の攻撃はまだ終わらない。
―― 御神流奥義之伍・花菱(八点衝)
クロノス 【精神力】 274 / 361 ⇒ 242 / 361 (-32)
「どういう事だ...っ!」
シグナムさんは困惑しながらも、御神流の中で最も手数の多い連続斬り"花菱"に対抗しようとしている。
ちなみに、ここで併用した武技"八点衝"は、8回前方に斬撃を乱れ打つのだが、その一撃の威力は七夜と変わりない。全て直撃してしまえば今のシグナムさんの生命力を上回る計算になる。
さあ、シグナムさん。これに対応出来なければ貴方の負けですよ?
これにどう対抗してきますか?
◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆
シャマルの使役モンスターが倒されたと表示された後、1分もしない間にシャマル、リインと立て続けに討たれた。
正直、知佳と呼ばれていた少女がヴィータとザフィーラを同時に倒すだけの力を秘めているとは思ってもいなかった。開幕当初の立ち振る舞いはシャマルと同じタイプに見えたからだ。
それに、リインもこっちでは魔法系統に秀でた能力ではあるが、現実の身体能力はそのまま反映されるという仕様もあり、格闘戦も武技やスキルに頼りきっているプレイヤーには負けないくらいの技量は持ち合わせている。
だが、現状はさくらと呼ばれる、これまで目にした事はない二種族持ちの召喚モンスターに討たれリタイアとなった。
残っているのは私とアインハルトだけとなった今、チームとしての勝利は非常に厳しい。アインハルトの実力は良く知っている。だが、リインとシャマルをこの短時間で倒した2人が相手では分が悪い。
チームとしての勝利が難しいなら、せめて、散って逝った仲間達の想いを汲み、本気で向かって来てくれている刻也に討たれるその時まで、全力で戦い続けようと思った。
―― ブースト・ウェポン
―― ブーストATK
―― ブーストAGI
―― エンチャント・ファイア
―― エンチャント・ウィンド
―― エンチャント・ダーク
そう決意した時、私はなりふり構う事を止め、可能な限りの自己強化を行った。本音では刻也と同じ条件(オーラのみ使用)で戦いたかったが、少しでも差が埋まるならやむを得なかった。
それにこの時、刻也はデバイス化という特殊な処置を施した武器と会話をしていて打ち込む隙はあった。
それをチャンスだと思い、全力で駆け出し剣を振るったが、結果は服を掠めほんのわずかにダメージを与えるだけだった。自分で言うのもなんだが、奇襲は間違いなく成功していた。刻也の武器が声を上げた時には、私の剣は回避出来ない所まで刻也に届いていた。
しかし、それでも刻也は避けた。私では到底反応できない攻撃をだ。刻也は攻撃を掠めた事を悔いで要る様子だが、私の受けた衝撃はそれ以上だと言える。
『プレイヤー"アインハルト"の生命力が最大値の10%以下になったため、バトルフィールド外に転移されます。』
そんな時にアインハルトまで討たれたとの知らせが届いた。
これで私達の敗北は確定したが、最後まで私は戦い続ける事に変わりない。
私が再度決意を固めると、目の前には刻也が迫って来ていた。その眼光は先ほどよりも鋭く、顔付きも凛としていた。この表情はダメだ。シャマルではないが刻也に惹き込まれてしまう。
そんな心境とは裏腹に、身体は刻也の攻撃に備え剣身を横に構え盾にしていた。
―― サクッ
シグナム 【生命力】 209 / 316 ⇒ 175 / 316 (-34)
これまでは、これで何回も防いでいたのだが、刻也の剣は剣をすり抜けるようにして私の腕を切り裂いていった。
理解が追い付かない。刻也に見入っていた事を考慮しても、刻也の剣が届く時には集中していたし、防ぐことが出来たと思っていた。しかし、結果は腕を斬られダメージを負った。
―― ...ぞくっ!
あっけに取られていると、背後からこれ以上ないほどの威圧感を感じた。
その元凶は分っている。さっきの攻撃で後ろに通り過ぎて行った刻也以外にはいない。
一気に畳みかけ、ここで終止符を打ちに来たと言う事か。
それとも、先の一撃を見せた上で、私対応を見たいと言う事か...。
私とてこのまま終わりたくはない。
だが、すり抜けてくる攻撃への対処方法は見いだせていない。
………………。
ステータスを強化した時、フィニッシュブロー用に意図的に僅かな精神力を残したが、ここで討たれてしまえば意味はなくなってしまうな...。
対処法が見出せない今、強引な力技で突破する事しか、私には選択肢が浮かばなかった。
思っていた以上に刻也と私の実力の差に悔しさと、これからそんな男と行動を共に出来る嬉しさ
を感じながら、私はこの一撃に全てを賭ける事にした。
「刻也、お前の期待に沿えるか分からないが、これが..今の私の持ち得る全てだ。」
―― 紫電、一閃っ!!