主人公SIDE
「(ワクワク!)」
「……落ち着け、開始時刻までは後10分はあるぞ 」
俺がちょっと遅れた事もあり、開館時刻と同時に入るつもりが昼近くに成ってしまった。
水族館に着くと同時に、セシリアが興味を持ったのはイルカショーのチラシだった。
セシリアに手を引っ張られ連れてこられた。
そして現在、俺の隣で全く落ち着いていない。
「それにしても、一番目の前か。
嫌な予感しかしない 」
パンフレットを読み返してみたら、此処のイルカショーは最後にイルカの大ジャンプがあるらしい。
俺たちの周辺には人が少ない。
…どう考えても濡れるだろうなコレ。
「此処のイルカショーは迫力があって面白いですよ 」
「そうなんですか?楽しみですわね 」
ん?セシリアがいつの間にか係員の人と会話してるな。
「お隣に座っている方は、彼氏さんですか?」
「そうですわ 」
面倒くさいから会話には混ざらないでおこう。
係員がこちらをニヤついた視線で見ているのも面倒くさい。
と、云うかなんか見たことある奴な気がする。
「これから始まるショーでこちらが合図をしたら手を挙げて貰いたいのですが宜しいですか?」
「何かのイベントですか?」
「カップル専用です 」
どう考えても俺たち以外にもカップルはいる気がするんだが。
「分かりました。イベントの一つと言うのならやらせて頂きますわ 」
「ありがとうございます!」
係員が頭を下げる。
そして、俺の前を通過する。
「………ハート。バイトか?」
係員がビクッと動く。
「……さて、誰の事を言っているでしょうか?」
「今は見逃してやる。帰ったら、組手でもするかハート 」
「し、失礼しますーー 」
係員もといハートが走って逃げる。
セシリアは全く気づいていないから良しとしよう。
「あ、始まりますわ 」
ステージに女性が出てくる。
それと同時に目の前のプールにイルカが二頭入ってくる。
『本日はイルカショーに来て頂き有り難うございます!』
女性が頭を下げると同時にイルカが大ジャンプする。
「おぉ、地味に凄いな 」
「タイミングバッチリでしたもんね 」
『それでは、イルカショーを開演させて頂きます!
まずは、イルカの輪くぐりをご覧下さい 』
プールの上から、リングが降りてきて中央で停止する。
停止したタイミングで、女性が手を挙げる。
その瞬間、イルカが飛び上がり輪を見事にくぐる。
客から歓声が聞こえる。
『この子達はボールを輪に通して、ラリーが出来ます 』
ボールがプールに投げ込まれる。
一頭のイルカが、ボールの真下に潜り込み尻尾でボールを打ち上げ、輪を通す。
見事に輪を通り、反対側にいたイルカが顔でボールを弾き、再び打ち上げる。
それを5回ぐらい繰り返し、ラリーを成功させる。
「賢いな。イルカは賢い動物だが、ここまで芸を仕込むのは苦労しただろうな 」
「相変わらず、考えるところがズレてますわね… 」
なんだが、セシリアが呆れているんだが、何かあったか?
『では、そこのお客様。協力をお願いします 』
そう言って女性が指差しているのは俺だった。
他の係員に連れられ、ステージに登る。
「で、俺は何をすれば良い?クローバー 」
「……私が右手を挙げたら、ステージの前まで出て左手を大きく振ってください 」
意地でもこのスタンスは変えないということか。
ハートにクローバーまで居るとなると、ジョーカーやスペードまでいるのか?
ダイヤとマドカは居ないだろう。
あの二人は、面白がって参加する様な連中では無いだろう。
「はぁ、何を企んでるのか知らんが乗ってやろう 」
『それではお願いします!』
クローバーが右手を挙げる。
それを確認し、ステージの前まで出て左手を大きく振る。
すると、二頭のイルカがクロスする様に飛んだ。
水面へ入水した直後に、俺の所に寄ってくる。
「どうしろと?」
無言でバケツを持ってくる係員。
バケツの中を見ると、小魚が入っている。
………餌をやれと云う事か。
バケツから小魚を取り、放り投げる。
それを空中でキャッチし食べるイルカ。
『ご協力有り難うございます。皆さん、拍手をお願いします 』
客が一斉に拍手をする。
拍手が鳴り止まない内に、ステージを後にする。
「……ふー、面倒くさかった 」
「良かったではありませんか。結構迫力がありましたよ 」
楽しそうに笑うセシリア。
…まぁ、セシリアが楽しかったのなら良いか。
『さて、最後のイベントです!イルカの超ジャンプをご覧になって下さい 』
クローバーがウィンクをする。
「セシリア。多分、これが合図だと思うぞ 」
「え、そうですか?分かりましたわ 」
セシリアが手を挙げる。
そこを目掛けて、イルカが飛び込む。
無論、プールにはガラスがあるが、あの距離で飛び込んだらどうなるだろうか?
答えは、簡単だ。凄まじい水飛沫が飛んでくる。
「セシリア!」
セシリアSIDE
「セシリア!」
そんな声が聞こえ、私はファウストに抱きしめられた。
まるで、宝物でも守る様に優しく包み込まれた。
飛んでくる水飛沫から、私を守る様に。
「大丈夫か?」
体を濡らしながら、私を見るファウスト。
「ええ。でも、ファウストがずぶ濡れに… 」
「これか?気にするな。
………後で説教だなクローバー 」
何か最後に不穏な事を言った様な気がしますが気にしないでおきましょう。
ファウストが私に不利益な事はしない筈ですから。
『これで、イルカショーは終わらせて頂きます。
この後もごゆっくりとお過ごし下さい 』
礼をして下がる女性とイルカ。
「ふー、まだ時間はあるし見ていくか?」
「勿論ですわ!でも、着替えないと 」
そう言ってファウストを見る。
私は殆ど濡れていないが、ファウストはずぶ濡れで風邪を引いてしまうだろう。
「申し訳ございません。これをどうぞ 」
「今度はジョーカーか?」
ファウストがそう言って着替えを受け取る。
ジョーカー?確か、ファウストの部下の1人でしたわよね。
どうして、ここにいるのでしょうか?
「なにやら着替えが届いたから少し待っててくれるか?」
「待っていますわ」
係員と一緒に移動するファウスト。
「……取り敢えず少しは落ち着けますわ 」
椅子に座る。
心臓がバクバクとうるさい。
ファウストに抱きしめられてからずっとうるさい。
「うう。水も滴るいい男という事ですか?」
私を庇って、濡れたファウストが無事な私を見て、嬉しそうな顔をするのはズルイですわ。
熱いですわ。全身が火照って熱い。
「待たせた 」
ファウストが着替え終わってこちらに来る。
「なんで、スーツを着崩した様な格好なのですか?」
「知らん。時間が勿体無い行こう」
そう言って手を差し出すファウスト。
ふふっ、相変わらず顔が赤いですわよファウスト?
「そうですわね。行きましょう 」
ファウストの手を握る。
暖かいですわ。
主人公SIDE
イルカショーの会場を後にし、水族館内を散策していると行列を発見した。
「なんでしょう、あの人集りは?」
「気になるな。…すまない、あの行列は何ですか?」
近くにいた男性客捕まえ、質問する。
「あれかい?なにやら幸せになれる魚が観れるらしい。
カップルで水槽の前に行き、水槽の中の魚がたくさん目の前に集まってくると幸福になるらしい 」
神社とかである占いの様なものか。
火のないところに煙は立たないらしいから、あながち嘘ではないのだろう。
「有り難うございます 」
「いや、構わないさ。どうせ俺には縁のないところだ 」
若干目に涙を浮かべながら、立ち去る男性客。
何かあったのだろうか?どうでも良いか。
手を引っ張られる。
引っ張られた方向を見ると、セシリアが目をキラキラさせてこちらを見ている。
「行きたいんだな 」
無言で進み出すセシリア。
これは、よっぽど行きたいんだな。
歩調を合わせ、セシリアに追いつく。
「結構前に進むものだな 」
こういうのは、人が多くて一時間以上待たされるのは当たり前だと思っていた。
「そうですわね。人が多く見えたのは、この結果に一喜一憂している方々が大半の様ですわ 」
そう言われ周りを見ると、セシリアが言った通りだった。
喜んで抱き合ってるカップルや、なにやら揉めているカップル、どこか微妙な顔をしているカップル。
色々な反応をしている。
「ん、そろそろだな 」
「楽しみですわ 」
うっすらと水槽が確認できる所まで来た。
目の前のカップルが終わり、いよいよ俺たちの番が来た。
「「…………」」
思わず、二人揃って固まった。
別に結果が悪かった訳では無い。
ただ、エグい。
集まり過ぎてエグい。
「これは喜んだ方が良いのか?」
水槽のガラスに集る魚。
小魚だからまだ良いが、ある程度のサイズであればエグいでは済まないだろう。
「そう…ですわね。喜んで良いのでしょうか?」
あんなに行きたがっていたセシリアが戸惑っているぞ。
「まぁ、良いか。行こう、後がつっかえている 」
セシリアの手を引いて、水槽から離れる。
なんだか、微妙な気分になりながらその場を離れた。
『本日はご利用有り難う御座いました。
間も無く閉館時間となります 』
あの後もデートを続けた。
どうやら、もう時間らしい。
「もう時間ですか。早いですわね 」
「ああ 」
セシリアと一緒に水族館を出る。
…恐らくこれが最後だろうな。俺がこうやって過ごせるのは。
「ファウスト 」
セシリアが手を強く握ってくる。
「また、一緒に来れますよね?」
「……ああ 」
「嘘ですわね。ファウストは死ぬ覚悟をしていますわ。
そういう時は決まって、私を直接見ませんから 」
敵わないな。
セシリアの前で嘘を吐くことが出来ない。
「死ぬ覚悟はしている。
でも、死ぬつもりは無い。これは本当だ 」
「では、どうして、そんな悲しい目をしていますの?」
「そうだな。俺は、お前の為なら命を捨ててしまうからだろうな。
以前の約束を破るつもりは無い。だが、こればっかりは譲れない 」
前に比べて、俺はたくさんのものを持っている。
だからだろう。死ぬ事に恐怖が無いのは。
俺が死んでも、俺が大切だと思う人は俺が得た連中に守られる。
だからと思ってしまっているんだろう。心の片隅で。
「では、おまじないです 」
セシリアがキスをしてくる。
唇と唇が触れる程度のキスだ。
「私は貴方に守られます。なら、私の想いが貴方を死なせません 」
まっすぐ俺を見据える。
「ですから、必ず私の元に戻ってきて下さいな 」
思わずセシリアを抱きしめる。
「……… 」
こういう時に上手い言葉が見つからない。
今の俺が何を言っても、セシリアに無茶をさせてしまうだけだ。
「良いですわ。何も言わなくて。
ただ、こうしてくれるだけで 」
セシリアが抱き返してくる。
俺たちは、しばらくこのまま互いを抱きしめていた。
自分の思いを見失わないようにーー
活動報告でアンケートします。
感想・批判お待ちしております。