ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

15 / 42
アイドル・マキシマムがいないだけでこの始末。


冥王の暗躍

地上世界は4つの大陸がある。

北のマルノーラ、南東にホルキア、南西にラインリバー。

そしてそれらに囲まれた海洋に最大の大陸、ギルドメイン大陸が中央に横たわる。

最大の大陸の東部で延々と連なる大山脈がギルドメイン山脈。

ギルドメイン大陸の背骨ともいえる大山脈地帯である。

その一際高い峰の頂……

広がる雲海とほぼ同じ高さに、純黒のローブを纏う冥王が佇んでいる。

冥王の隣にはミストバーン。 

2人揃って眼下に広がる光景を見下ろしていた。

そこにはアンデッドとモンスター達が昼夜にわたって忙しく動き回る様子が広がっていて、

大魔王の壮大な玩具”鬼岩城”の建造が始まっていたのだった。

西方でベンガーナ王国をアンデッド軍団に襲わせているのは、

鬼岩城建造を隠す意味合いも強い。

近いうち、ゴルゴナは他国にもアンデッドと瘴気をばら撒いてやるつもりで、

さらにもう一つ火種をこさえて、こちらは既に大火となった。

 

 

 

 

人間の相手を務めるのは、やはり人間が向いている……という考えを元に、

ゴルゴナは建造の合間……暇な時間を見つけて

妖術を駆使してギルドメイン山脈北方に位置する城塞王国リンガイアに潜り込んだ。

リンガイア王の寝室まで忍び込み、夜な夜な妖術をかけ心神を徐々に喪失させ

更に弁舌巧みに悪意を掻き立て邪心野心を煽っていた。

守衛達を幻術で夢の中に誘い、

 

「ぐぶぶぶぶ………リンガイア王よ。

 おまえは古今稀に見る勇者にして賢王……………。

 何故に、このような辺境の地で燻っているのだ?

 貴国には難攻不落の城塞在り………抱える騎士団は勇猛にして死を恐れぬ。

 誠……西方のカール王国にも勝る騎士団…………。

 更に、勇者アバンにも劣らぬ勇者……バウスンの忠誠をも獲得しているおまえが、

 名も無き有象無象とともに歴史に埋もれていくのを見るのは偲びぬ………。

 神も無情なことをするものだ…………ぐぶぶぶぶぶ」

 

こういった甘言を毎夜のように心神喪失の権力者に聞かせたのだ。

そしてリンガイア王は、

 

「う……う、うぁ……わ、わしは……わしは……。

 そうじゃ……わしは、勇気も…知恵も、ある。

 我が王国は…要害堅固………我が部下達は、皆、勇敢な戦士だ………。

 我が国は…もっと……もっと富を得る権利があ、る……そうだな……黒の賢者よ」

「ぐぶぶぶぶぶぶ……そうだ…賢き王よ。

 おまえはもっと多くを望む権利がある………

 おまえはもっと多くの民を庇護下に置き……幸福に導く義務がある。

 尊き者の義務を果たせ。

 選ばれし者は起つ運命にある。

 カール王国は既に野心に囚われ騎士団をベンガーナに派遣した。

 カール本国は手薄になっておる…………おまえならば容易くカールの王座を奪える。

 ………カールの花、フローラ王女は大層美しい姫君だという………

 美しき高貴な花には相応の護り手が必要だ………リンガイア王……おまえのような、な」

 

ある日、ギルドメイン統一の為の兵を挙げ、突如としてカール王国に兵を進めたのだ。

カールの進撃に全世界が驚嘆した。

まさに青天の霹靂であった。

魔王が滅び去って、まだ3、4年。

アルキードとテランが一夜にして滅び、

アンデッドが軍団となり組織的に動いているということは、

魔王が早くも復活したか、或いはそれに代わる強大な悪しき者が現れたのは明白。

そしてリンガイア王が暗君ではないというのは各国の王の誰もが知る所。

だというのに、突如の挙兵である。

人間同士で領土の奪い合いを始めようというのだ。

各国は、一気に互いを不信に思いだす。

どの王も、いつ、どの国が自国に侵略しに来るか戦々恐々の日々を送りだし、

カールとリンガイアは全面戦争に陥ったのであった。

また、一方的な攻撃に怒ったマルノーラ大陸のオーザム王国が、

カールとの同盟を宣言しリンガイアに攻撃を開始する。

自慢の海軍でオーザムは海上での決戦を望んだが、それに乗るリンガイアではない。

バウスン将軍率いる主力がカール遠征で出払っていたが城塞を頼みにして籠城。

オーザムは、主力不在の内に……とギルドメイン大陸に上陸し力攻めを行ったが、

リンガイアの城塞はびくともせず

「リンガイア戦士団の主力、帰還せり」の報を受けて挟撃を恐れ撤退した。 

当然の如く、リンガイアとカール・オーザム連合の国際感情は最悪となったが、

そんなことを歯牙にも掛けず、リンガイア王は野心の炎を更に燃え上がらせる。

近々、カール攻略の前に

”喉元にある邪魔な骨”であるオーザム攻略に乗り出す予定であるらしい。

人と人が争えば、

将来、魔王軍に歯向かうかもしれない人間の兵士達は潰し合い消耗し、

戦場に散乱する死体は全てゴルゴナの駒となる。

平和を愛するロモス王国までもが税率を引き上げ軍備を拡張しているという。

それも、魔王軍に対する備えではない………人間に対する備えで、だ。

先の魔王大戦の英雄達も、大小様々な国から仕官を要請され、

勇者達を戦争に巻き込む気がどの国も有り有りであった。

 

 

 

 

この一連の策で、現在、魔王軍は悠々と建造に専念できていたのだ。

鬼岩城の建造は非常に順調で、1年と少しで3割以上の進捗である。

作業を眺めていたゴルゴナが、そういえば…と切り出し

 

「アバンの弟子を拾ったらしいな…………ヒュンケルとかいったか。 あの小僧は」

「……………」

 

ミストバーンが無言で頷く。

 

「ミストバーン………おまえの”教育”は少々甘い………ぐぶぶぶぶぶ。

 おまえの技の教え方に不満はないが、ヒュンケルに対する内面の躾が不足しておる」

 

ミストバーンはただ黙って首をゴルゴナに向けた。

付き合いがそこそこ長い冥王は、こういう時は肯定的な感情の時である、と理解していた。

自分の話を聞く気があるらしい。

 

「戦闘技術など後からいくらでもついてくるものだ……。

 重要なのは……ヒュンケルに闇の心を植え付けることだ。

 それも、決して消せぬ……深い所に………ぐぶぶぶぶぶぶ」

「…………暗黒闘気を奴の心身に馴染ませている………問題はない」

 

最近では、ゴルゴナの前でも口を開く機会が増えていた。

それでも数ヶ月以上声を聞かぬことはザラであったが。

 

「ぐぶぶぶぶぶ…………そうではない。

 アバンの教えもあるが……ヒュンケルの生まれ持った性質は光であり善。

 暗黒闘気を外から染み込ませるだけではすぐに内から喰われるぞ……………。

 鍵となるは、心…………ヒュンケルの心に闇を根付かせるのだ…………。

 決して消えることのない悪夢を……罪を……奴の魂に刻印する必要がある」

 

ミストバーンが沈黙を保ちながら、光る目でゴルゴナの単眼を見つめる。

続きを言え……と言っているようだ。

 

「ヒュンケルの強さは既に大人を軽々と打ち負かす。

 ………今、地上は人間達が共喰いを繰り返しており……獲物には事欠かん。

 ………………ヒュンケルに人間を殺させる。

 1人で村一つ………………滅ぼさせるのだ。

 戦う術を持たぬ老人も……女も……赤児も……奴の手で殺させろ」

「…………」

 

ミストバーンの光の瞳がやや見開かれる。

 

「ぐぶぶぶぶぶぶぶぶ……ヒュンケルは、決して父バルトスへの愛を忘れぬ。

 アバンを慕う想いも消えぬ………それは、ヒュンケルが人間だからだ。

 誰かを愛する心を知りながら……それでも奴が………

 血の涙を流しながら、何の躊躇いもなく女子供の首を捻じり切れるようになるまで………。

 まずは村一つ。 次は街一つ。 次は都市を。 やがては王国を……

 ヒュンケル自らの手で殺し尽くさせるのだ」

「……………それが、元人間としての経験から来る……私への助言か」

 

白い影の問いに、冥王はくぐもった笑いを返すのみ。

 

「善と悪……聖と邪……光と闇………その両面を持つ人間の弱き心こそが……

 おまえの与える暗黒闘気の力を極限まで高めるだろう。

 その時、ヒュンケルは無敵の魔戦士となる…………グブブブブブブブ」

 

ゴルゴナの言わんとすることは、ミストバーンも共感する点も多い。

闇に負けまいとする光の闘気は、例えか細くとも魂の奥底で燃え続け、より大きな炎となる。

ヒュンケルのアバンから与えられた光……、

ミストバーンから与えられた暗黒は、ヒュンケルの中で競り合い続けている。

故に、光に……

アバンへの愛情に負けまいとする憎しみの心が、強い暗黒闘気を生み出している。

光が消えぬというならば……、

 

「なるほど………試してみよう」

 

闇の師は、愛弟子を殺戮劇に駆り立てることとしたようだった。

血塗られた魔剣戦士が生まれる日も近い。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。