ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

16 / 42
復活の雷竜

魔界樹のエキスから創りだした不死ゴーレムは一応の完成を見た。

しかし、その肉体強度は当初ゴルゴナが目指したものに比べると大分見劣りする。

竜魔人の血と精霊の血……それらとの完全融合は叶わず

”強いモンスター”といったレベルで落ち着いてしまった。

例えるなら”不老不死で不死身のエリミネーター”といったところであろう。

つまり……寿命や病で死ぬことはなく無限のスタミナを誇り、

魂・自我がなく主の命ずるままに行動し、

”HPを0にしない限り次のターンには全回復するエリミネーター”というわけである。

ゴルゴナと6人のムー人は、不死ゴーレムの筋肉組織丸出し…といった外見を、

安布のマスクとパンツ、マントで覆い隠し

斧で武装させ、そのまま”エリミネーター”として献上したのだった。

 

大魔王の側近2名がマジマジと新型モンスターを観察している。

謁見の間の、硬質そうに見えてその実かなり座り心地の良い玉座に深く腰掛けた大魔王は、

僅かに嘆息すると始めこそやや落胆し、

(この程度ではミストのスペアはとても務まらん……やはりヒュンケルが第一候補か)

と思いつつ、黙って跪く6体のエリミネーターを眺めていたが、

よくよくゴルゴナの説明を聞けばとんでもなく効率のいい雑兵であることを理解した。

 

「疲れず……老いず……感情を持たず……

 驚異的な再生能力を持つ大量生産が容易な有機ゴーレムか。

 ”エリミネーター”………優秀な兵士と成り得るな」

「ぐぶぶぶぶぶ………はい………大魔宮(バーンパレス)の生産能力で一日に約500体を造ることが可能です。

 魔界の各宮殿での製造も許して頂けるならば………

 一日に4000体以上は確実に揃えてみせまする」

 

その報告にさすがのバーンも、そしてミストバーンらも少々驚いたようだ。

キルバーンが感心したように、

 

「4000!へぇ、そりゃすごい……このレベルで大量生産できるんなら脅威だね」

 

こわいこわい、と肩を竦めてみせる。

大魔王も同意であるらしい。口の中でくっくっと笑い出すと、

 

「………ふっ……はっはっはっはっはっ……!

 それは愉快な話だ…………これほど手軽に日々4000の兵が手に入るとはな。

 しかも、どのような命にも服し日々の維持費も”置き場所”が必要な程度か。

 単純な労働力として考えても……おまえのアンデッドに劣るものではない」

「我のアンデッド以上でございます。

 あれらは腐臭を漂わせ”疫”を引き寄せまする…………ぐぶぶぶぶ。

 労働力として使うと………下級のモンスター達の中にはそれだけで死ぬ者もおりますからな」

 

冥王流のブラックジョークであるが、さっぱり笑えない。

アンデッド達は病を誘う。腐敗した死体なのだから清潔なはずがない。

疫病にかかるのはモンスターも同様で、人間と比べて速いか遅いかの違いしかない。

ゴルゴナのアンデッド達と同じ現場で働かせられると、

そのモンスターは高い確率で病を得るのだ。

当然ゴルゴナは治療などしてくれない。死ねばアンデッドにするだけなのだから。

 

「これが優秀なのは分かった………。

 だが、おまえの旧主……異魔神はこのゴーレムを用いてムーを崩壊に追いやったと聞くが……。

 この程度でそれが可能なのか?」

 

バーンの疑問ももっともだろう。

エリミネーターは優れているが、自分にとって雑魚の領域を出ない。

異魔神がボディとして使用しても、とても超文明を一晩で滅ぼせる性能はない……と思えた。

 

「異魔神は、無限にして不滅の精神を持った破壊神………。

 そして………我らの創りだした不死人形は大ダメージを追わぬ限り不滅。

 それはつまり、一定の条件下では無限に細胞分裂を繰り返し増殖する……ということ。

 我らムー人の制御下においていた無限増殖が、異魔神の無限の精神によって暴走し………

 不滅にして究極の肉体へと変貌させたのです………ぐぶぶぶ」

 

己の祖国、ムー滅亡に繋がる話だというのに、語る本人は何故かやや愉快そうである。

ゴルゴナにとっては、超文明を滅ぼすほどの破壊神のボディを創った……

ということの方が誇りであるのかもしれない。

 

「ムー滅亡の直接の原因は、不滅の肉体ではなく………

 それを得たことで異魔神が不滅の精神を遺憾なく発揮したこと。

 彼奴の超高密度魔法言語の発動をムーはあらゆる手段で阻止しようと試みましたが、

 不滅の肉体の中でそれを唱える異魔神を止めるなど不可能!

 我の不死人形の前に我が祖国は敗れ、滅んだのです………グブブブブブブブ!」

 

異魔神は俺の最高傑作だ。

そう言わんばかりのゴルゴナの笑いであった。

そんな冥王を見るバーンの目には好奇心という感情しか浮かんでいない。

 

「……そうか…………つまり余の精神のみがおまえの不死人形に入れば、

 その肉体は不老不死にして不滅。

 そうなるというのだな?」

「バーン様の精神が、異魔神と同レベル以上ならばそうなりまする………ぐぶぶぶ」

 

冥王の返答は、暗に「バーンの魂が異魔神以下ならば不滅を得られない」と言っている。

しかもそれを全く悪びれず、恐縮せず言うのだから、やはりこの大蜘蛛は大物だろう。

 

「クククククク…………ぬかしおるわ。

 もう一つ聞いておこう………おまえの創造したエリミネーター。

 その”イマジン細胞”を他生物に移植して不老不死と不死身を得ること………。

 結局のところそれは可能になったのか?」

 

バーンの最大の関心はそこであった。

大魔王が真に求めるのは自分の肉体そのものを不滅とすることで、

強大な不死人形はあくまでミストのスペアを求めてのことだ。

 

「現段階では不可能でございます…………。

 バランと精霊から得た血……魔界樹の葉……

 その両者を繋ぐ触媒があれば不死人形は完全なものとなり、

 その時……初めてイマジン細胞は完成するでしょう………。

 ザボエラが持ち込んだ”超魔細胞”………未完ながら素晴らしいものでございました。

 あらゆる生物の長所を取り込む、という発想は……竜魔人に近しいものがございます。

 超魔細胞は竜の騎士から聖の力を取り除いたものに似ており……、

 全てを繋ぐ触媒として期待できます………ぐぶぶぶぶ。

 イマジンと超魔が完成したその暁には………既存生物の不死化は成りまする」

 

そう断言する冥王には自信があった。

ザボエラが研究に加担したことで発想の幅が非常に広がった。

地上と魔界のほぼ全ての生物の特徴を知り尽くしているザボエラは、

極めて優秀な生物学者だ。その息子も充分に及第点。

自分と部下の7人のムー人に不足していた現地知識を

同分野から補ってくれる貴重な人材達で、彼の提唱する超魔生物が完成すれば、

竜魔人の生け捕りという危険過ぎる任に労を割かずともよいのだ。

ゴルゴナのその自信に大魔王の口角の端がやや釣り上がる。

 

「ほう……おまえは大分ザボエラを評価しているようだな。

 おまえがそこまで言うのだ。不老不死……期待して待つこととしよう」

「お任せくだされ………ぐぶぶぶ」

 

背虫を更に屈ませて”礼”をとる冥王は、

不死関連の報告を一先ず終えエリミネーターを後方に下げるとそのまま、

 

「次に……鬼岩城に関して、バーン様にお願いしたき儀がございます」

 

玩具についての報告兼陳情に移行した。

 

「申してみよ」

「はっ………鬼岩城の”心臓の間”に使用する発電生命体の製作には、

 雷竜ボリクスの細胞を使用するのが最も適しています。

 我が秘術にて甦らせたボリクスはあくまでアンデッド………。

 その細胞は研究に堪えられる鮮度ではありませぬ。

 バーン様には是非、このボリクスゾンビを一個の生命として再誕させて頂きたく………」

 

伏して申す冥王の願いだが、それは大魔王のより良い娯楽に直結することだ。

大魔王に否はない。

 

「よかろう。然しもの余も、あれ程の大物の命を創造するのは骨が折れるが……。

 余も、あやつには用がある。好都合だ。

 おまえの術で”下拵え”は成っているしな……。

 最後の一押しに余の力がいるのみ………容易いことだ。

 冥界門を開けよ」

「「「!!」」」

 

是を受け取った冥王だが、

最後に大魔王が発した一言に推移を見守り続けていた2人の大幹部も、

そして冥王も少々驚愕する。

 

「ここで…………で、ございますか?」

 

冥王が逡巡する。

ボリクスは強い。それはこの場の誰もが知る所だ。

大魔王と比肩した魔界の実力者ヴェルザーと同格であったボリクスは、

ヴェルザーに敗れこそしたものの、

間接的にではあるがバーンと近しい実力を有している……と言うのは少々過言だが、

それでも広大な魔界で確実に十指に入る強者だろう。

それも数百年前の当時の話で、

今は理性を失う代わりに魔力・体力・膂力が上昇し再生能力まで有している。

ヴェルザーも、そして勿論バーンも当時と同じままの強さというわけはなく、

常に己の力を増大させることに貪欲であるからレベルアップはしている。

だが、既に完成している強さである彼ら(クラス)は上昇率が低い。

しかしボリクスの能力の上昇率は、ゴルゴナの外法によって高まっており想像以上に厄介だ。

狂乱に陥っていながらもバランと一対一で戦えたのがその証拠だろう。

重臣一同に、バーンに万が一があっては……という思いが走ったが、

大魔王は、

 

「ここでは狭かろう。知恵ある竜どもは総じて巨体だからな」

 

そんなことを歯牙にも掛けていない様子で、

軽く腕を振るうと玉座の間の一同を瞬間移動させてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……………魔宮の門手前のホールですね。

 確かにここならボリクス君が大暴れしても大丈夫そうだ」

 

キルバーンが周囲を見回しながら言う。

 

「ここならばヴェルザーの好敵手を丁重に出迎えるのに丁度いい」

 

バーンが一同を見ながら答え、さぁ冥界門を開け、と改めてゴルゴナへと命じる。

冥王が応じ、邪悪な文言を詠唱しだすとドス黒さと濃紫が入り混じった渦が空中に生じて、

低く唸る狂獣の如き声がそこから漏れ出す。

邪気、瘴気、溢れ出る暗黒闘気、そして臭気が濃密に交じり合った物が溢れ出て、

 

「グ、オオオオオオ……、イタ、ィィィィ!オオオオオオ!!」

 

濁った眼をギラつかせる腐敗の雷竜がバーンパレスへと解き放たれる。

 

「グァァァァ!ギ、がデ―――」

 

そして開幕早々に電撃呪文をぶっ放そうと試みるも、

主からのテレパシーによる「封殺せよ」との命を受けたミストバーンが突風のように踊り出て、

腐竜の顎に思い切りの良い掌打を繰り出した。

ボリクスゾンビの巨体が掌撃の威力に浮きあがり、

次の瞬間には上方に回り込んでいたミストバーンの肘が腐竜の眉間に打ち込まれ、

そのまま轟音とともに地面へと叩きつける。

 

「―――ッグ、ゴォオオオオ!!」

 

「ふむ……やはりゾンビだけあって俊敏さに欠けるな。

 だが、ミストバーンの打撃すらあまり効かぬその打たれ強さは素晴らしい」

 

バーンは「やはり並の竜ではない」と感心する。

床面へとめり込ませた頭は意識を失うことは無く、

憎悪が満ちた白濁の瞳がミストバーンを見つめ続けていた。

ボリクスゾンビがゆっくりと鎌首をもたげ始め体勢を整えた瞬間、

大魔王の額から一筋の光が撃ちだされ腐竜の巨体を貫いた。

 

「ッ!?オオオオオオオ!!?ア、アツイィィィ!!」

 

腐竜がもんどり打って苦しみだし翼と尾をぶん回してはそこら中に無差別に叩きつける。

その度に腐肉が剥がれ落ちては飛び散り、

スカルサーペントやカパーラナーガとなって生産されるが、

殆どが次の瞬間には暴れ狂う腐竜の巨体に押し潰される。

そして、

 

「………!おお…!腐り落ちた肉の下から……新たな肉体が!」

 

ミストバーンが感嘆する。

いつ何時、何度見ても、己の敬愛する主人の起こす超常なる事象は感動モノであった。

ドクリ、ドクリ、と脈打つ桜色の肉が腐竜の体幹から湧き出てくる。

剥き出しのくすんだ骨が鮮やかな白色へと……濁りきった眼球が鮮やかな黒へと変貌していく。

 

「グオオオ…!オオおオおぉ!い、痛いぃ!体が…焼けるようだ!!」

 

割れていたようなくぐもった腐竜の咆哮が、クリアーな威厳あるものへと変質していく。

 

「……素晴らしい……!これがバーン様の御力か……!

 神代の腐竜に新たな命を吹き込むとは………!」

 

死者を操る術に長けるゴルゴナすらも羨望を禁じ得ない光景。

アンデッドとして甦らせ使役することをノーリスク且つ大規模で行える冥王だが、

死者を完全なる生者にすることは彼も不得手である。

キルバーンも口笛を吹いて疎らな拍手で大魔王の所業を称賛していた。

 

「ぐ、ぐ……ぬぅぅ……!ぐおおお……!お、オレは……オレは一体………」

 

真新しい皮膚と鱗に覆われた、生前の姿そのものの雷竜がそこにはいた。

有り余る力を闘気と、微弱な電撃として放電し続けるボリクス。

強靭な鱗の周りに雷のバリアーが薄く存在しているようなものだ。

自分の真新しい肉体を「信じられぬ」といった表情で見続ける雷竜だがやがて、

 

「貴様を覚えているぞ……!冥王ゴルゴナ!!

 長き暗闇の中でのあの痛み!苦しみ!!我が雷によって消し炭に―――」

 

ゆっくりとその視線を黒き冥王に向けると怒りに任せ莫大な放電を溢れさせる。

バリバリと激しいスパーク音が雷竜の全身から響き渡るが、

そこで雷竜ははたと何かに気づき動きを止め、

 

「―――う、うぅ!お、おまえは……何者だ……!

 こ、この魔力は……この威圧感は……一体!?

 ヴェルザーにも劣らぬと自負するこのオレに畏れを抱かせるとは!」

 

ゴルゴナの背後に控える枯れ葉のような老人を見て狼狽しだす。

 

(いや……この年寄りだけではない……。

 奴の両側に立つ奴らも……恐ろしく強い……。

 ゴルゴナ1人とて手に余るというに……お、おのれ……

 竜族の頂点を極めるオレやヴェルザーに匹敵するやもしれぬ者がこれ程存在しようとは!)

 

大魔王バーン、ミストバーン、キルバーン、ゴルゴナ。

この4人を前にして萎縮せぬ者などこの世にいないだろう。

ヴェルザーを除けば、天空の神々でさえも裸足で逃げ出す魔界最強最悪の4人であろうから。

それだけに、この雷竜ボリクスが畏れながらも踏ん張り勇と誇りを維持し続けているのは、

さすが冥竜ヴェルザーと一歩も退かぬ”真竜の闘い”を演じただけはあった。

 

「控えろ雷竜よ………。大魔王様の御前である」

 

闘気の放出と放電を繰り返し”威嚇”を続けるボリクスに、

ミストバーンが静かに……だが力強く告げた。

 

「だ、大魔王……!?魔界の神、大魔王バーンとでもいうのか!

 かつて冥王が語った大魔王バーンとは……貴様のことであったのか!」

 

驚愕するボリクスに、

 

「へぇ~、さすがはヴェルザー様と死闘を演じたボリクスだ。

 バーン様のこともよ~くご存知のようだね……フフフ」

 

地力では劣るであろうキルバーンも余裕綽々である。

冥王と死神は搦め手と邪悪な策謀が前提の闘法で、

それをフルに活用すればゴルゴナとキルバーンは雷竜ボリクスに勝るだろう。

そのキルバーンが、裏ではヴェルザーに忠を尽くし続けるのは

冥竜王ヴェルザーが力だけではなく権謀術数にも長ける知恵ある竜だからだ。

神々の奇跡の術に敗れたが、その魂と陰謀は未だ生き続け、

大魔王バーンに対抗し続けている。

キルバーンとしても主とほぼ同等の力を持つもう1頭の知恵ある竜に思う所があるのだろうが、

彼のからかいの言を制して大魔王がその口を開いた。

 

「雷竜よ。100年ぶりにおまえを甦らせたのは他でもない。

 おまえを余の幕下に迎え入れようと思ってのことだ。

 お主には、いずれ余が組織する6つの軍団の内の1つを任せようと思う。

 かつてヴェルザーと名勝負を演じたおまえだ。悪いようにはせぬが……どうかな?」

「おや……それはボクも初耳だ」

 

大魔王の誘い文句に、死神が少しだけ仮面の下の目を大きくする。

ミストバーンとゴルゴナも初耳である。

言われた当の本人もやや戸惑い気味だが、

 

「……このオレに、貴様の手下になれというのか……!

 ヴェルザーにも屈しなかったこの雷竜ボリクスに……、

 そのような言葉を口にする輩が存在するとは思いもしなかったぞ……!

 オレは誰の風下に立つ気もない!」

 

やがてふつふつと怒りが湧いてきたのであった。

魔界の全竜族の王となることを望んだ雷竜もまた、

ヴェルザーに負けぬ程の自信家であったのだ。

しかし、彼とヴェルザーとでは決定的に違うことがある。

 

「だが、おまえは敗れた」

「…!!」

 

そう……ボリクスは歴史の敗者であり、既に覇権を望める位置にはいない。

大魔王バーンはもとより、冥竜王となったヴェルザーも当時よりも高みにいる。

もっとも、ヴェルザーはバランと精霊に敗れて封印されているが、

彼が築いた一大勢力は未だ消え去っていない。

 

「おまえが敗れてから数百年の時が流れている。

 既にお主が入る余地は魔界のどこにもない……。

 魔界の大部分は既に余の掌中にあり……

 残りはヴェルザーの残党が主人の帰りを待って守っている。

 それほどの忠義者達だ……今更のこのこ復活してきたおまえに尻尾を振ると思うか?」

 

バーンの宣告に雷竜が唸る。

 

「ヌゥゥ…、数百年だと……?

 アンデッドとされた100年すらも超える時の流れがあったとは驚きだが、

 ……だからと言って貴様に仕える理由にもならぬ…!

 オレは雷竜ボリクス!王となる竜よ!

 冥竜が既にいないのならば奴の領地をオレが引き裂き奪い尽くしてくれる!

 貴様に頭を垂れるオレではないぞ……大魔王バーン!!」

 

吠えたボリクスが、再び体中に闘気と雷を満たし、その目に殺気を漲らせていく。

しかし、

 

「知恵ある竜よ………貴様は存外に愚かだな。

 実に簡単なことだと、余は思うがな………。

 断ればおまえは死ぬ。

 そして、死ねば余の臣たる冥王ゴルゴナにその命と誇りを再び弄ばれるだけだ。

 うぬはそれを永劫繰り返すだけの、腐り果てた竜となるのを望むのか?

 あれが過去に冥竜王と覇権を競った末に敗れた負け犬の成れの果てと……

 魔界の者全てに憐憫の情を抱かれることを望むのか?

 それが魔界の勇者の姿か?」

 

大魔王の更なる言葉に、攻撃体勢に移りながらやはり実行できない。

なぜならば、大魔王の言葉通りになるであろうことを容易に想像できるからだ。

雷竜ボリクスは強い。確かに強い。

だが、今この場において、勝機は0だ。

逃げに徹しても絶対に逃げられぬであろうことは、ボリクス本人とて理解している。

死んでも膝を屈したくない……と思うが、ゴルゴナ相手にそれは通じない。

死んだら膝を折られるのだ。

過去の栄光も誇りも失って、美しき鱗も醜く腐り落ちる爛れた肉体に変えられて、

そして知恵すら奪われ下等な野獣以下の駒にされる。

その時の記憶は明確には残っていないが、朧気ながら実感がある。

遠い現の夢のように、思い出せはしないが”確かに見た”といえる悪夢であった。

ボリクスが低く口惜しそうに喉を鳴らし唸った。

 

「ボリクス………余のもとで新たな栄光を掴むのだ。

 余に仕え……共に天界の忌まわしき神々を葬ろうではないか。

 そしてその後……存分に己を磨き充分にレベルアップをしてから、

 冥竜王となったヴェルザーに再戦を挑むもよし。

 このゴルゴナに復讐を挑むもよし。

 ……余の寝首をかくのでも構わぬぞ?出来るのならば、な……ふっふっふっふっ」

 

マントの下から細い老人腕をゆるりと出すと、美しい髭を撫でる老帝は、

不敵な笑みを浮かべながらボリクスを冷厳な瞳で見つめ続けていた。

部下や自分に歯向かうのも、将来的には良し……と言う大魔王の姿はとてつもなく大きい。

そしてバーンの発言を聞いても些かも揺るがぬ側近3名を見て、心を決める。

 

「…………いいだろう。

 その言葉を忘れるな、大魔王。

 オレは、いつかきっと貴様らを超えてみせる。

 覚悟して待っておれよ……冥王!大魔王!

 その時までは…………貴様らに……おまえに従おう、大魔王バーン。

 オレを使いこなしてみせるがいいわ」

 

バチバチッ、と激しい放電が起き、熱風のような闘気も一瞬吹き荒れた。

それは雷竜ボリクスの怒気の現れだ。

死すらも奪われ、何も抵抗できぬ不甲斐なき己へ怒りと……

高みへ昇った宿敵、冥王、大魔王への挑戦……という興奮。

怒りと同時に挑戦者特有の、目標が有るが故の向上心も湧き水のように溢れでて来て、

雷竜ボリクスの心を満たしていく。

この日、魔王軍に甦りし雷竜ボリクスが加わったのであった。

 




この後ゴルゴナに細胞くれました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。