ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

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魔剣戦士、始動

魔王軍の新型モンスター”エリミネーター”は早速量産が開始された。

まずはゴルゴナのラボが整っていた大魔宮と魔界の第7宮にて生産が開始され、

完成したエリミネーター軍団をムー人が率い、

魔界の各宮殿に施設を建造して回る作業から始められた。

魔界のバーン勢力圏内の宮殿に生産施設を増築するだけの安全な作業で、

1年を待たずして4000体の量産体制は整ったのであった。

 

本格的な量産開始から更に1年が経ち、

エリミネーター軍団は(デーモン)兵団の名がゴルゴナより与えられ、

現在稼働している150万近いエリミネーターの内、

9割が広大な魔界での各作業……ヴェルザー領への威力偵察や国境警備、

バーン領内における都市整備や治安維持に従事することとなり、

地上に割かれたエリミネーターは約15万。

生産は今も行われているが、ヴェルザー残党との小競り合いでの消耗も意外に多く、

需要と供給は安定している。

消耗するはずだった魔界の魔族・モンスター達が温存できたと

大魔王もほぼ無限であるデーモン兵団を評価していた。

来たる天界との決戦においても、

(ミストバーンの暗黒闘気体軍団……ゴルゴナのアンデッド軍団……

 そしてムーのデーモン兵団。

 3つの無限の軍勢は……神の軍団にも対抗し得る……)

大いに役立つであろうことを大魔王は予想する。

無限の兵は得た。

ならば、後は神にも対抗できる魔の勇者を育成するべきだろう。

創生を予定している6つの軍団は、

競い合わせ互いに互いを喰らい合い、より強い力を手にする為の蠱毒としよう。

そんな”悪戯心”のような暗黒道の英雄育成計画が大魔王の頭の片隅によぎったのだった。

なにせ地上破壊など、既に成ったも同然なのだから。

3人の側近が静かに佇む中、バーンは玉座にて美酒を片手に静かに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日、魔界第7宮の研究施設にて。

 

「ザボエラ」

「は、はいぃなんでしょう?」

 

黒衣に身を包む大蜘蛛に呼び止められ、覗いていた顕微鏡から目を離す魔族の老人。

冥王の低く唸るようなくぐもった声を聞くと、

いつもザボエラの小さなハートは恐ろしさに震える。

彼自身はそんなに恐ろしい目に合わされていないのだが、

なにせ初対面が……自分をスカウトしに来た案内役の凄惨な捕獲劇と、

それに続く”手足”の採掘の手伝いという事実。

ザボエラの根っこに怯えが植え付けられても仕方ないだろう。

 

「貴様の毒をもらう」

「え?」

 

突然の冥王の言葉にザボエラの思考がやや追いつかない。

僅かに沈黙が流れた後、

 

「おっ、お待ちくだされぇ!ゴルゴナ様!

 わ、わしに何か落ち度がございましたか!?わしは!わしはただ懸命に超魔の研究を!」

 

青い顔で脂汗を浮かべながら研究椅子から飛び退いて、

土下座をする勢いで必死に助命嘆願する。

(マ、マキシマムのように……絞り尽くされ嬲り殺されるぅぅ!!)という思いが、

ザボエラの心を埋め尽くしていた。

(出世はしたい!その為には誰だって利用してやるが……!ゴ、ゴルゴナは相手が悪い!

 此奴はわしを目障りと判断すれば、間違いなく即座に殺す!か、勘弁じゃあ~!!)

体力の劣る魔法使い体質で、

魔族にしても老齢な者とは思えぬ速度で頭をぺこぺこして床に擦り付けている。

 

「………腕を出すのだ」

「ひ、ひーーー!!」

 

恐怖のあまりルーラで研究室の扉へと飛んで逃げようとしたザボエラを、

 

「………手間を掛けさせるな………何、痛い思いはさせぬよ……ぐぶぶぶぶ」

 

神仙術にて金縛りにして宙に固定してしまう。

 

「う……ひ、ひぃ……あわわわ!お、ゆ、る……し、を……!!」

 

声さえ自由に出せなくなってきたザボエラは、

ガクガクと震え涙と鼻水で顔面を汚す。

哀れな小さい老人へゆっくりと大蜘蛛の爪が伸びてきて……、

プスリ、とザボエラの腕に注射を挿すと、

数十mmの体液を抜き取ってあっさりと注射器を抜き去った。

ザボエラの体の金縛りが解け、どすん、と床に落下すると

「あたっ!」という悲鳴が小さく聞こえた。

 

「………何を勘違いしていたのかは知らぬが………、

 毒の元を採取すれば、後はこちらで培養する……おまえはマキシマムとは違うからな。

 奴は曲がりなりにもオリハルコン……我でも複製はできぬ。

 なればこそ奴そのものから切り出す必要があるのだ。

 それに、奴は多少手荒く扱っても死なぬ…………バカだが丈夫だ」

「ひ、ヒヒヒ……そ、そ~でしたか~!い、いやいやお恥ずかしい……キィ~ヒヒヒ…」

 

半笑いでぽりぽりと頭髪が薄くなった頭を指でかくザボエラ。

珍しく少々恥ずかしがっているようにも見える。

 

「………貴様の頭脳は貴重だ。そうそう簡単に切り捨てはせぬ。

 先日おまえがポポルヴーと話し合っていた集束呪文……これも良い発想である……。

 魔導及び生体研究の手腕…………これからも期待しているぞ……。

 大魔王様には、おまえの功績はあまさず報告しておいてやる……

 安心したか?……………ぐぶぶぶぶ」

 

後で魔香気の配合レシピを提出するように言われ、あっさりとザボエラは解放されたのだった。

ザボエラは立ち上がると膝を叩いて埃を払う仕草だが、

ゴルゴナから預けられた研究室には埃なんぞ一片も落ちていない。完全なポーズである。

 

(ぬ、ぬぅ~~。お、おのれゴルゴナ……わしに恥をかかせおって~~……。

 だが……うむ……初めてわしをまっとうに評価することが出来る奴が現れたようじゃな。

 ゴルゴナの部下とかいう得体の知れん6人の人間も、

 話してみると中々小気味良い、話のわかる連中じゃったしのう。

 冥王の奴が、ちゃ~んと大魔王様にわしの手柄を報告しとるんなら……

 まぁ、大人しく従ってやらんこともないがのう………。

 まったくそれにしても紛らわしい!ゴルゴナの奴ももうちょい愛想よくすべきじゃ!)

 

そそくさと椅子に戻り、

視線を注ぐ助手の悪魔神官達をごほんっ!と咳で誤魔化すと研究に没頭するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼岩城建造には遅れが出ていた。

軽視できない課題や思わぬ構造上の問題が浮上し、

まず、ギルドメイン山脈の剣山のように鋭い峰々に囲まれた盆地に収まりきらぬ巨体は、

山腹を一部削る必要に迫られ作業スペースの確保に時間が取られた。

また建造途中で既に超重量となっていた結果、

地面の岩盤が崩壊し鬼岩城の土台が土中深くに埋もれる事故も起き、

オティカワンとザボエラが、

 

「だから地盤の強度は限界だと言ったじゃろう!

 先に飛行魔石を組み込み浮遊機関を完成させるべきだったのに

 おまえがチンタラしてるからじゃ!」

「飛行魔石はデリケートで錬成に時間がかかるんじゃ!

 強度を充分に上げるまで建造をストップすべきと進言したのに

 ”工期がおしておるのじゃ~”と泣き言いってたジジイはどこのどいつじゃ!」

「何を言うこの魔族の老いぼれ!」

「おまえこそ人間のくせに1万2千歳のジジイじゃろが!

 わしなどおまえに比べたらピッチピチのボーイじゃわい!」

 

と、事故時の現場責任者だったジジイ同士で大人げない喧嘩をしたりもしたが、

ムー人全員の全力の神仙術と、エリミネーター土木軍団で土台を掘り返し事なきを得た。

この事故の後、2人のジジイは「やはり不死研究チーム専属が此奴らにはあっている」と

ゴルゴナに判断され、それ以後鬼岩城には関わらせてもらえなくなった。

当初、3年以内で終わると思われた建造は現在伸びに伸びているのであった。

 

大魔王も楽しみにしていた玩具の完成が遠のきやや不機嫌……

かと思いきやそうでもない。

もともと数千とも数万とも言われる時を生きてきた大魔族だ。

地上破壊計画を数千年に渡って辛抱強く遂行してきた彼の忍耐力は、

たかが数年の延長など蚊に刺された程のこともないのだ。

それに、その間に面白いことがいくつか起きていて大魔王を楽しませる。

 

一つは、

竜の騎士バランが徐々に動きを見せてきたこと。

悪魔の目玉の監視網にちょこちょこ引っかかるようになってきており、

これはつまり、バランの体勢がある程度整ったということなのだろう。

ヴェルザー戦で失った竜騎衆の補充の目処でもたったのかもしれない。

各国にバランの大まかな居場所を密かに漏らしているので、

その内バランと人間との間で何か起きるだろうと予想される。

 

二つは、

人間の勇者アバンが城塞王国リンガイアに単身潜入し、

大立ち回りを演じたこと。

恐らく、リンガイア王と接触し挙兵の真意を確かめるべく行動したのだろうが、

その後のリンガイアとアバンの動きを見るに失敗したのだろう。

王宮の警護をしていた近衛相手にほぼ無傷で切り抜け脱出するなど、

やはりアバンは警戒すべき人間といえた。

現在はリンガイア発給で国王暗殺未遂の指名手配犯としてアバン探索の網を広げているが、

アバンは世界中にファンが多く、リンガイアに差し出す者はそう多くないだろう。

それと関連するだろうが、カールとリンガイアの関係はより険悪となっている。

王女フローラは自制しているようだが、

戦士ロカの後を継いだ若き騎士団長ホルキンスは、

公然と「リンガイアの悪漢ども」と憤っているらしい。

 

そして三つめ、

魔王軍の期待のホープ、魔剣戦士ヒュンケルの最終仕上げである。

17歳となる彼は、年が明けたこの日に魔界第7宮で大魔王と謁見し仕上げの儀式を授かるのだ。

大魔宮(バーンパレス)は限られた者にしか出入りが許されておらず、現在、自由に出入り出来るのは

大魔王バーン、ミストバーン、キルバーン、ゴルゴナ、ボリクス、マキシマム……

それに特例として技術全般を司るムーの6人。

それ以外の者は存在すら知らない。ザボエラ、ザムザ親子も魔界第7宮での勤務が主だ。

地上の主拠点となる鬼岩城も未完であるため、第7宮での謁見となっていた。

 

第7宮玉座の間……薄いベールで遮られた向こうに、大魔王バーンが座している。

そしてその前に、どこかオドロオドロしい全身鎧で身を隙間なく包んだ者が

跪いた姿勢のまま微動だにせず主の言葉を待っていた。

 

「ヒュンケル………面を上げい」

 

ベールを越えて、威厳ある声が玉座の間に響く。

ゆっくりと頭を持ち上げる彼こそが、

人間の身で驚くべき戦闘能力を身につけた青年……ヒュンケルである。

彼の師であり養育者であるミストバーンも、主と弟子の謁見を静かに見守っていた。

 

「今宵から、おまえが真の戦士となる目出度き儀式が始まる。

 それを成し遂げた時、神をも恐れさせる魔剣戦士が生まれるだろう……」

「……俺は既に無抵抗の女子供でさえ斬り殺すことが出来ます。

 この身と心はもはや立派な魔界の戦士だ。

 今更儀式など必要ないでしょう」

 

最低限の敬語で、ふてぶてしく大魔王に返すのは

若さゆえの怖いもの知らずか、それとも彼の胆力の凄まじさか。

だが、大魔王はその程度の無礼は意に介さない。

 

「フ……そう言うな。

 儀式とはこなす事に意義がある………それに、おまえも気に入ると思うがな」

「ほう……」

「簡単なことだ………いつも通り村を皆殺しにしてくるだけに過ぎぬ。

 だが、その村にいる者が少々特殊でな………。

 ネイル村…………そこには勇者アバンのかつての仲間、戦士ロカと僧侶レイラがいる」

 

「なに!?」と叫んだヒュンケルが、思わず立ち上がる。

ミストバーンが目をギラリと光らせて傀儡掌で座らせようと僅かに動くが、

「良い、ミストバーン」と忠臣を遮ったバーンは、

 

「ふふふ……興味が湧いてきたようだなヒュンケル。

 ネイル村に血の雨を降らせよ………そして、アバンの仲間共を血祭りにあげるのだ。

 勇者アバンに一泡吹かせ……元勇者一行の心臓を供物として余に捧げよ。

 そうして儀式が完了する………その後、ゆるりと宴席でも開いてやろう。

 魔界の勇者誕生を祝してな………フフフフフ」

 

武者震いする青年を愉快そうに見つめていた。

 

「願ってもないこと……!!

 アバンを苦しめるためなら、俺は女子供も喜んで殺そう!

 戦士ロカと僧侶レイラ………ネイル村を鼠一匹住めぬ廃墟にしてくれる!」

 

憎しみを奮い立たせて己を鼓舞する若者が、

そのまま踵を返すと足早に立ち去ろうとするが、

彼の前に音もなく闇の師が瞬間的に移動してきて、

すぅ、と無言の内に暗黒の懐中から一本の剣を取り出し、彼に差し出した。

それは黒く…どこか生物を思わせる意匠を凝らした剣。

 

「なんだそれは?

 俺にはバーン様から頂いた、この鎧の魔剣がある。

 そのような剣……かさばるだけだ。要らぬ」

 

突っぱねるヒュンケルであったが、

 

「そう言うなヒュンケルよ………ミストバーンもお主を心配してのこと。

 それに、その剣は唯の剣ではない。

 余の臣にして、ミストバーンの友……冥王ゴルゴナがお前のために創りだした魔剣。

 冥王の妖力によりその刀身は邪悪の黒に染まってはいるが……

 気付かぬか?……ヒュンケルよ」

 

訝しげにミストバーンに握られた黒剣を数瞬見つめたヒュンケルは驚愕する。

 

「こ、これは………まさか!この輝きは!

 オリハルコン!!?」

「その通り………。

 同じ材質ならば魔界の名工ロン・ベルクが作った鎧の魔剣が数段上であろう。

 だが、その剣はオリハルコンを材料とし、

 冥王が秘術を用いて存分に妖力を注いだ生きた魔性の剣。

 その名も魔剣ネクロス…………必ずや、おまえの役に立つであろう。

 ミストバーンの親心だ………受け取っておくがいい」

 

(俺の父さんは地獄の騎士バルトスただ一人……!誰がおまえなど!)

心でそう悪態をつきながらも、

 

「生きた魔剣………確かに……これ程の物ならば、鎧の魔剣に劣らぬでしょう。

 鎧の魔剣は、剣を手に取れば顔面の防御が弱まりますからな………頂きましょう」

 

大魔王にまで言われればさすがに断れない。

ミストバーンからもぎ取るように魔剣ネクロスを受け取ると、

ギ、ギ…ギィと小さく唸ってヒュンケルの背に、

爪のような鍔でしがみつくように自ら括りつけられるネクロス。

 

「こ、これは………なるほど………まさしく魔剣、というわけか。

 面白い……!俺の足を引っ張るなよ……ネクロス」

 

ヒュンケルが兜の下で歪んだ笑みを作り、笑う。

勇者アバンの仲間を殺せると思うだけで、

少年のあどけなさが未だ残る青年の心は異常なほど高鳴るのだ。

それは彼が自分自身に、

催眠暗示のように言い聞かせ続けた、仮初めの憎悪の結果であった。

1人と一振りがネイル村に現れるまで後僅かである。

 

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