ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

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ロモス決戦 その二

百獣魔団が占拠したロモス王都に、9万の軍勢が入りその総数は12万。

クロコダインは抵抗する者は容赦なく殺したが、逃げる者は見逃し、

投降する者はそのまま捕虜として受け入れ手酷い扱いを与えることもく虜囚とした。

ロモス城の地下牢はそこまで広くはない。

とても全員は地下牢に入らぬので、

比較的レベルの高い兵士や騎士、貴族達を地下牢に放り込み、

民については、戒厳令の下それぞれの家に引き続き住むことを許可している。

降伏した者が多いのは、

 

「わしは降伏する……! わしはどうなってもいい!

 だから頼む……これ以上国民に無体はやめてくれい!」

 

と言ってシナナ国王とその一家が降ったからである。

長く続いた戦争に疲れ、そして新たな脅威…魔王軍による虐殺を散々見せつけられ、

しかもまともな反撃が何一つできなかった国王はとうとう降る決心をし、

国民と兵にも抵抗をやめるよう布告をだしたのであった。

ハドラー率いる援軍が迫りその重い腰をあげ陣頭指揮をとっていたクロコダインは、

 

「良かろう……お前の王としてその責務を果たそうとする姿……敗者とはいえ見事!

 素直に魔王軍に降伏する者に関しては助命を約束しよう」

 

としてそれを受け入れた。

ハドラーの意思通り逃亡者は捨ておいているが、

12万に膨れ上がった魔王軍が王都に入り、

国民は心底から震え上がって大人しくなっており叛意や不満は全く噴出していない。

(今はアバンが最優先……)

そう決めているハドラーは、王城に入りきらぬ大軍団を都の大通りまで使って整然と待機させている。

打って出るか、王都に籠城して迎え撃つか、

現在ロモス城では4人の軍団長と魔軍司令によって作戦会議が行われていた。

 

「籠城などと悠長なことを! 第一、王都にひしめくモンスターの群れは遠目からも一目でわかる。

 勇者アバンは切れ者。 この大軍に正面から乗り込んでくるわけがあるまい。

 打って出るべきだ!」

 

アバンをこの手で殺すことを望み、またハドラーに劣らずアバンの為人(ひととなり)を知るヒュンケルが強く主張した。

クロコダインとフレイザードも、

 

「この軍勢ならば身動きのとりやすい草原などに出るべきですな。

 王都に篭っていては大軍なのがかえって動き難い」

 

「勇者一行など3人程度………消極策なんざとってられっかよ。

 魔の森から出ていねぇのは悪魔の目玉の監視ではっきりしている。

 ルーラを使われた形跡もねぇ………魔の森を包囲した後、主力を突っ込ませりゃいい」

 

出撃を主張していた。

もともと小細工を弄するより前線で暴れるのを好むハドラーは、

クロコダイン程ではないが武人気質である。

3人の言に頷き、出陣の号令を下そうとしたその時、

 

「…………ぐぶぶぶぶぶ。

 打って出たところで勇者とその使徒を捕捉するのは容易くはない。

 魔の森を包囲しても、氷炎将軍が懸念した通りルーラを使われれば意味は無い。

 が、奴らは使わぬ。

 奴らはルーラを使えないのではなく、使わないのだ。

 それは何故か……………それは奴らが正義の心を持っているからである……。

 ロモスには人間の生き残りが多くいる。

 人々を救いたい、解放したい………そう思っているからこそ、奴らは逃げぬのだ。

 奴らは我らの所に来たいと願っている。

 だが、出撃し不用意に追い詰めれば奴らは逃げるやも知れぬ。

 打って出る必要はない………グブブブブブ」

 

黒き冥王が発言した。

フレイザードが素早く反応し、「確かに……」と小さく頷く。

ヒュンケルが、

 

「ならばアバンが我らに挑むのを待ち続けるのか?

 アイツが挑んできた時……それは付け入る隙を見出した時だぞ。

 アバンが我らの弱点を見出す……或いは作り出すまで待てというのか」

 

やや語気強く反論する。

だがゴルゴナは悠然と、

 

「勇者どもに時間は与えぬ。

 陣容整いし我らの軍団の中に、自らの意思でお越し願おうではないか」

 

さらに返すのであった。

不死騎団長が小さく鼻で笑い、

 

「バカなことを。 アバンをどうやっておびき出すのだ」

 

無理に決まっている、と頭から否定してかかっていた。

しかしゴルゴナは、

 

「ぐぶぶぶぶぶ………奴らは正義の使徒。

 そのようなこと、実に容易い………魔軍司令殿…………、

 ロモスに捕らえし人間共の処刑を進言する。

 我らが魔王軍に逆らった者がどうなるか………声を大にして喧伝し、

 精々派手に殺そうではないか…………まずは国王一家を処刑するか……

 あるいは未だ人間達が多く住む住宅街に火を放っても良い。

 奴らはやってくる。 そして国王を、人々を手遅れになる前に助けようと必死になる」

 

不気味な”唸り笑い”を漏らしながら可能と断じる。

だが、今度は獣王が怒りも顕に席を蹴りあげて

 

「ゴルゴナ! お主、何を言うか!

 ロモス王とその民は武器を捨て軍門に降ったのだぞ!?

 無抵抗の者を手に掛けるなど言語道断!

 オレの名で降伏を受け入れたからには貴様に勝手な真似はさせんぞ!」

 

厳重な抗議を寄越した。

 

「クロコダイン………お前の名が汚れようとも、

 それはただ人間共からの評価にすぎぬ。

 我らが魔王軍に、勝利のために邁進する者を糾弾する者はおらん。

 敵からの汚名、悪評などはかえって誉であろう…………グブブブブ」

 

「バカな! 例え敵とはいえ約定を違えれば、それは約束を守らぬ卑劣漢!

 そのような者は、いつか味方さえも謀り切り捨てる…と部下や仲間に思われよう。

 今はそう思われずとも、いずれはそれに繋がる。

 そうなってはもはや味方同士で結束などできん。

 結束なき群れに……軍に勝ちはないぞ、ゴルゴナ」

 

冥王を見つめるクロコダインの視線は厳しい。

クロコダインの抗議は、何も己のプライドに傷がつく…ということだけではない。

味方の士気を慮ってのことでもあった。

だが、そもそも末端の兵の意思や士気など気にかけるつもりもないのが冥王である。

 

「ぐぶぶぶぶぶぶ………、

 悪魔の目玉は既に勇者一行を見失った。

 魔の森にいるのは確実だが、軍を出すとなれば深き森を探索しつつの行軍。

 時間もかかる。 長期戦は魔軍司令殿も望むところではないのでは?

 森は隠れ潜んでの奇襲にこれ以上ないほどに適している。

 一騎当千の勇者が篭もれば厄介なことになるぞ」

 

ゴルゴナが尚も処刑の利を述べ続けているが、クロコダインは頑として譲らず、

どうやらハドラーもその策に乗り気ではないのが一目でわかる。

ならば森を焼き払うか、とも提案してみるが

 

「貴様……!

 本気で言っているのか!? 魔の森は百獣魔団の重要なテリトリーだ!

 魔王軍に生きるものの家を、故郷を奪おうと言うのか!」

 

より激しく反発した。

百獣魔団に属するモンスターの多くが魔の森出身なのだから、

獣王の反発も理解はしていた。

なので、

 

「……ならば処刑を実行に移さずとも、

 ”魔の森から出て我らと決戦せよ。 さもなくばロモスは血の海に沈む”

 とキメラ達、飛行系に叫ばせればよい。

 さすれば……奴らは出てこざるを得ない。

 例え嘘と見抜こうが……万が一にも真実かもしれぬ限り………

 絶対の不利を悟っていても尚、

 無価値な他人の血の為に、己が血を流すのが勇者という人種よ」

 

代案を出してやる。

これにはクロコダインも渋い顔ながら反論の気を弱めていた。

投降した者達との約定を破らず、魔の森の被害も少なくなる。

そして、勇者達は逃亡することも出来ず自ら死地に飛び込んでくる。

 

「………処刑の宣伝は、あくまでポーズだと言うのだな?」

 

「ポーズで済むかどうかは勇者どもの正義感次第………。

 奴らが日限を守らねば、処刑するしかないであろうな………ぐぶぶぶ。

 だが、その心配はあるまい………奴らは『勇者』だ」

 

獣王の確認に、勇者を強調して太鼓判を押してやる。

ゴルゴナはある意味で勇者という存在を信頼し、そして熟知していた。

(ロトの子孫・アルスもそうであったが………、

 奇跡などという得体の知れない神の加護だけが奴らの恐ろしさだ)

そう理解していても、

その奇跡がどうしようもないほどに厄介であるから勇者が恐怖なのだが。

 

「ケッ………魔の森を焼き払うってんなら、

 氷炎魔団が一肌脱いでやろうと思ってたんだがな……!」

 

ニヤニヤと笑いながらフレイザードが獣王へと野次を飛ばす。

それに、ギロリッ、と視線だけで返してやるクロコダインは、

 

「何はともあれ……魔の森が無事であるならば我ら百獣魔団も安心できる。

 処刑の約定も………実行する、しないは魔軍司令殿に従おう」

 

面子と軍全体の利を比べて納得できたようで、ドカッと椅子に腰掛けた。

鬼岩城の椅子ではないので、獣王の巨体が勢い良く降ってきたことで

椅子が悲鳴を上げたが、なんとか壊れずに耐えたようである。

一同を見渡したハドラーが、

 

「ヒュンケルもそれで良いな」

 

と確認すると「異存はない」と短く応え、

 

「よし!

 ならばゴルゴナの言を取り入れる!

 クロコダイン、人語を操れる飛行系モンスターに先の通りに叫ばせ

 魔の森上空を飛ばすのだ。

 …………各軍の準備をせよ! 日が沈むとともに出陣する!!」

 

魔軍司令の号令が下る。

それぞれが立ち上がり準備に取り掛かる。

(……ハドラー達の手腕に期待するか)

ゴルゴナとしては、”他者の盤上遊戯を観戦している”にすぎない。

もともと、余りでしゃばるな、と大魔王から言われている彼だ。

ある程度の助言、助力はするが、

自らの身に危険が及ばない限り彼の命令通り動くだけだ。

4軍からそれぞれ5000を出し、ロモス城守備の総勢は2万。

獣系、鳥系、虫系、スライム系……、

アンデッド、岩石生命体、エネルギー生命体、悪魔神官、サタンパピー……などなど。

様々なモンスター10万が魔の森へと進撃していく。

その威容を、ロモスの民はただただ震えて眺め、見送るしかなかった。

 


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