ゴルゴナの大冒険 作:ビール中毒プリン体ン
1万のロモス軍は、家族と涙の別れを済まし、全員が大型船に別れて乗船。
100隻近い大船団は海路を往き、一路ギルドメイン目指し突き進んでいった。
当然、アバンやクロコダイン達は
(洋上で水棲モンスター達に襲われない道理はない)
と警戒を強めていたが、
ロモス自慢の聖水を船首から垂れ流す軍船団にモンスター達は近寄れない。
マーマンやしびれくらげ、だいおうイカの群れは無理矢理攻撃を仕掛け、
その全ての水棲モンスター達が皮膚を焼かれて自滅していく。
だが、それでも彼らは攻撃を止めようとしない。
身を焼かれる苦しみに悶えながらも、狂ったように軍船目掛け殺到してくるのだ。
「よせ~~! 貴様らもわかっているだろう! 無駄死には止めんか!!」
地上のモンスター達に顔の効くクロコダインが大音声で呼びかけるも効果はない。
アバン達もこの異様に息を呑み、異常性に気づく。
「…これは……モンスター達は、何かを恐れているように見えますね。
聖水の中に突撃し、その身を焼かれる方が退くよりもマシ…。
そういうことでしょうか」
アバンがクロコダインを見る。
「そう見えるな。 マーマンのあの血走った眼……とても普通じゃない」
「一体何が彼らを駆り立てるのか…!
だが、あの勢いは危ない。 クロコダインさん、皆に号令をお願いできますか。
近寄るモンスターから弓と大砲で迎撃。 MPはなるべく温存するように」
「心得た!」
巨体のクロコダインの声はドデカく、そして声は低音で渋いながらも良く通る。
命令の伝達や士気の鼓舞に大変役立ち、これも立派な将として才能だ。
クロコダインが叫ぶと大船団に隈無くアバンの意志は伝わり、
勢い盛んな個体から狙撃され海の藻屑となるモンスター達。
淡々とした作業じみた狙撃が1時間程も続いたが、
今度は空から怪鳥の雄叫びが洋上の空に響き渡る。
何らかの合図と思えた。
「今のは……オレが聞いたこともないモンスターの声だ。
オレが知らぬ地上のモンスターがまだいたのか…?」
獣王の名が泣くな、と薄く笑うクロコダイン。
そんな頼れる彼の言葉にアバンが一抹の不安を抱き、そしてある可能性を示唆する。
「…ならば、地上のモンスターでないとすれば?」
「なに…?」
アバンとクロコダインが互いに不安げな視線を交差させた、その時である。
ドオン、
という爆発が船団の右翼から幾つも起こり、
大型軍船が満載した兵士ごと四散し海上に散らばった。
「な、なんだ!」
「わかりません! 突然船が爆発し――」
ドオン、ドオン、ドオンと今度は立て続けだ。
「――うわぁ!?」
火薬庫に引火した船が大爆発を起こし火炎を周囲に撒き散らす。
燃えた兵士が何かを叫びながら海へと転落していくのが遠目にも分かる。
「空だ! 空から火炎がふってくるぞ!!」
誰かが叫んだ。
「バカな! 空には雲ひとつない晴天だっての!
モンスターなんて………あっ! い、いた!!」
「さっきまでいなかったのに、きゅ、急に!
ア、アバン様! クロコダイン様! 空に、空にモンスターの群れです!」
「あ、ああ! なんて数だ!」
「今まで誰も気づかなかったのか! 見張り台は何をやっている!」
兵士達が蜂の巣をつついたように慌てふためく。
無理もない。
空を埋め尽くす飛行型モンスターが突如現れたのだ。
突撃を繰り返す水棲モンスターに気を取られていたとはいえ、
この数を全員が見落とし船団の上空をすっかり覆われてしまうなんて有り得ないことだった。
「レムオルか消え去り草でしょうね。 やられました。
しかも、あのモンスターは初めて見る…!
クロコダイン、皆にあの燃える鳥めがけて氷系呪文で攻撃するように指示を!」
アバンが指差す空。
そこには燃え盛る炎をまとう鳥が無数にひしめき合い、今も船へ火炎を吐きかけていた。
クロコダインは勇ましく大きな声で皆を落ち着かせ、そして空の燃える鳥への攻撃を命じた。
だがそれと同時に、
「ひくいどり共よ! 中央右よりの大型船を狙えいっ!!」
空からクロコダインにも劣らぬ大音声が聞こえ空気を震わせた。
そしてその声に合わせて大量の燃える鳥…
ひくいどりが一斉に炎のブレスを吐きながらアバンとクロコダインが乗る軍船に殺到した。
「くっ!?
アバンが咄嗟に展開した氷炎を弾く結界呪文によって炎は大分軽減されるが、
降り注ぐ火炎の全てはとても防ぎきれない。
船に引火し、それを消すために甲板を兵士達がバタバタと走り回る。
「リントブルム隊!! 周囲の船を攻撃! 船首の聖水壷を破壊せよ!!
それ以外には目もくれるなッ!」
再度、空から響く声の的確な指示が飛ぶ。
燃える鳥達の後ろに控えていた、
ひょろ長いトカゲのような血色の悪い紫の翼竜が猛然と降下を始める。
アバンが顔を青ざめるが、フバーハを解くわけにもいかない。
「バルーン隊、ケンタラウスを投下!
人間どもを八つ裂きにせよ!!」
矢継ぎ早に空から下される命令。
青の皮膚に翡翠色の翼膜、その翼膜には目のような紋様があるモンスターが滑空し、
その背に乗る二足立ちする馬のモンスターが軍艦の甲板目掛けて飛び降りる。
どの船も甲板上で激しい戦闘が開始され、そして燃え盛り、爆発し、沈没していく。
「デルパ!!」
乗り込んできた馬のモンスターを全滅させ、クロコダインが動いた。
腰袋から取り出した自分専用の魔法の筒から召喚したのは、彼の忠臣ガルーダ。
「アバン殿! 皆を頼む!」
「クロコダイン! お気をつけて! 敵は戦巧者だ!」
ガルーダは跳躍し、大きな足爪で主の肩をシッカリ掴むと大翼を広げ大空目掛け飛び立つ。
「海のモンスター共よ! 何を二の足を踏んでいるッッ!!
聖水は薄まった! 突撃せよ!! それとも我がハーケンに素っ首刎ねられたいかっ!!!」
「グオオオオオオオオ!!!」
「キシャアアアアアアア!!」
またも空から四方の海に吸い込まれる大音声。
尻にムチを入れられたかのように、だいおうイカ達が猛り狂って再突撃を開始する。
薄まったとはいえ、その身を焼く聖水に耐えての強行軍。
そして、
「う、うわあああ! 船尾にとりつかれたぞ!」
「ぎゃああ!!」
血走った目のマーマンが次々に側舷を這い上がり、甲板に乗り込んでくるのだ。
爪を兵士の背に突き立て、鋼鉄のヘルムごと頭に齧りつく。
「ゴオオオオオオ!!」
空から降り注ぐ友軍の火炎に全身を焼け爛れさせただいおうイカが、
太い触手をマストに絡めさせて船ごと海中に沈めんとする。
「くっ! おのれ…! 貴重な戦士達を!!」
沈む船の海流に巻き込まれ、
何十何百という戦士が水底に引きずられていく様を見て獣王が歯軋りするが、
今は救助よりも敵の指揮官と思しき声の主を倒すのが先決だ。
ロモス軍の魔法使い達の一部がトベルーラで必死に救助を試みているが、
魔法使いはそもそも絶対数が少ない精鋭だ。
皆もそれを理解している。
殆どの魔法使いはアバンと同じようにフバーハで船の守備を優先していて、
そして燃えたり、或いは海に没する兵士達の誰一人として「助けて」とは叫ばないのだ。
全員が歯を食いしばって戦っていた。
ガルーダと共にクロコダインはひくいどりの群れに切り込んでいき、
「クワアァアッ!!!」
「唸れ! 真空の斧よ!!!」
ガルーダはベギラマを口から連射し、
クロコダインは真空の刃でひくいどり達の翼を一時鈍らせ動きを封じる。
そして大型戦士の速度とは思えぬスピードで斧を斬っては返し斬っては返し…
次々に見慣れぬ炎の鳥を両断していく。
「我が名は獣王クロコダイン!! オレの首が欲しい奴はおらんのか!!」
(あの声の主を、何とかして探し出さねば!
このままでは船団はギルドメインに辿り着く前に全滅だ!)
敢えて目立つ立ち振舞で敵の指揮官を誘い出そうとする。
「ぬぅぅぅんっっ!!!」
一際強力なクロコダインの斧の一撃。
闘気をまとった衝撃波で頑丈の炎の鳥を一層する。
獣王の視界を塞ぐ一群が消え去り晴れ渡る。 雲一つない青空。
そして、遠くにポツンと見える異形のモンスターと目が合う。
それは巨大な斧を両手で握りしめる逞しい人型の上半身と、
ドラゴンのような四肢と尻尾を持つ下半身。
全身はダークグリーンの鱗に覆われ錆色の髭と長い髪が風にたなびく。
(あ、あのモンスターといい……一体コイツらは…何なのだ!)
だが、その異形のモンスターすらかすれてしまう威圧感を持った者が、その背にはいた。
クロコダインが真っ先に目を奪われたのはそいつだ。
大斧を携えたモンスターの背にまたがる、輝く鎌を右手に持つ男。
「貴様が
ハーケンを担ぎ直し、男が凶暴に笑った。
「セルゲイナス!」
男がハーケンの石突でダークグリーンのモンスターの脇腹を打つ。
セルゲイナスと呼ばれたそのモンスターが手の大斧を振り回すと、
汗ばむほどの陽気と海上の燃える船の熱気に挟まれた暑い空が一変し、
ゴウゴウと音を立てる猛吹雪が突如吹き荒れ氷点下に変わり果てる。
「くっ、マヒャドだと!? あのモンスターはかなり強いぞ!
ガルーダ!!!」
「クワアアアアッ!!!」
ガルーダが口からベギラマを放ち、斧をぶん回すセルゲイナスへと攻撃。
だがセルゲイナスは上で振り回していた斧をそのまま前面に展開。 閃熱を散らしてしまう。
「なに!?」
「フハハハハハハ! セルゲイナスは魔界でも指折りの強豪!
オレが身を預けるに相応しきモンスター故に我が騎乗モンスターに選ばれたのだ!
地上のガルーダ如き、敵ではないわ!!
そして、クロコダイン! 貴様もな!!」
獰猛に笑う男が、背の大きな翼を広げセルゲイナスから飛び立つ。
「我が名はグノン! 新生百獣魔団の将なり!!
聖水如きで無防備な洋上を切り抜けられると思ったか!
貴様らの上陸を座して待つほどオレは気が長くないのでな…仕掛けさせてもらったぞ!
獣王クロコダイン! 貴様の首を獲って我が手柄とせん!」
威風堂々と名乗りを上げ、
太陽光を受け白銀に輝くハーケンをかざしクロコダイン目指し一直線に向かってきた。
「むぅ!? あ、あの輝きはヒュンケルのネクロスと同じもの!
ま、まさか…オリハルコン!?」
「ハッハッハッハッ! 死ねい!」
真一文字に振り回されるハーケンを斧の横腹で受ける獣王。
だが、ピシリ、とたった一撃で真空の斧にヒビが入る。
「ぐ!? や、やはり…オリハルコンか!
ぬぅぅぅん!!」
「っ!」
オリハルコン製武具とあまり斬り結びたくない獣王は、
斧持たぬ左の豪腕で眼前の男を殴りつけ、割りと整った彼の顔面に直撃させた。 しかし、
「…ふっ! 非力!」
男は不敵に笑ってクロコダインを睨みつけた。
「なんだと!?」
「オレの肉体は竜の騎士に匹敵するのだ!
本当の拳というものを教えてやろう!! そらぁーーーーッ!!!」
「がふっ!!!」
グノンの拳がクロコダインの顎に突き刺さる。
「もう一発!!」
「ウオォオオオッ!!?」
敢えてハーケンではなく拳でクロコダインを滅多打ちにするのだ。
「そらそらそらぁーー!!」
「ぐわああああああッッ!!!」
ガルーダも必死で羽ばたき主人を眼前の敵から遠ざけようと飛ぶが、
グノンは巧みに翼を操作してピッタリとガルーダに追いすがりクロコダインを逃がさない。
「貴様が獣王だと!? 笑わせる!
獣王の名はオレにこそ相応しい!
貴様の首ごと獣王の名、このグノンが頂こう!!」
グノンが右手に携えたハーケンを振りかざす。
首元をとんでもない握力で掴まれているクロコダインは、
それに加え頭を何発も強力なパンチを受けてしまって視界が揺れている。
とても避けられない。
「クワアアッ!!!」
その時、ガルーダがセルゲイナスとのマヒャド・ベギラマ合戦を取りやめ、
グノン目掛けて閃熱呪文を仕掛けた。
それによってガルーダはその身にマヒャドをまともに受けてしまうが気にも留めない。
「っ!? 貴様! このグノンに対して!!」
ベギラマの直撃を肩に受けたグノンがハーケンの矛先をガルーダへと切り替え、
オリハルコンの刃がガルーダの身を裂いた。
左翼の根本から切断され、ガルーダが苦悶の表情と呻きをあげる。
バランスを崩しもはや墜落する……寸前にグノンがガルーダの顔面を掴んだ。
「クワァァッ!!!?」
その時、ガルーダは己の命運を悟る。
そして咄嗟に足に掴む主人を蹴るようにして放り出し、少しでも遠ざけようと足掻いた。
「下等モンスター風情がこのグノンの毛皮に傷をつけるなど! 許さんッ!!!」
左手に掴んだガルーダを、まるで枯れ葉のように軽々と振り回すグノン。
「ぬ、ぐ……あ、あれは!? ガルーダぁぁ!!!」
脳震盪が治まったクロコダインの視界に飛び込んできた光景。
それは、左翼切断面からおびただしい血が吹き出しながら振り回されるガルーダの姿。
自由落下に身を任せるしか無いクロコダインには、その光景を見ることしか出来ないのだ。
「や、やめろ!! ガルーダ! ガルーダぁぁぁぁぁぁ!!!」
「死ねいッ!!」
グシャリ、
何かが潰れ弾ける音がして、大量の血が雨のようにクロコダインを追いかけていく。
「ガルーダぁぁぁぁッ!!!!」
獣王の雄叫びが海面に吸い込まれていき、
直後に破裂するかのような水音を轟かせて水柱があがる。
グノンの凶悪な笑いが空に響いた。