ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

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鬼岩城 大地に立つ

それは幸運に幸運が重なった結果だった。

最後まで決して諦めない人々の決死の抵抗が引き寄せた奇跡一歩手前の幸運だった。

何度でも奇跡は起こる。起こす。それが人間の、勇者の恐ろしさでもある。

 

グノン率いる百獣魔団はベンガーナに撤退し大勇者一行を今か今かと待ち受けていた。

ハドラーは増援を率いてフレイザードと共に鬼岩城を出立。

ヒュンケルはもうじき戦列復帰の筈だが、今現在は鬼岩城にはいない。

ミストバーンとボリクスは魔軍司令の個人的な思惑から

旧カール領で人間狩りという名の厄介払いをされている。

魔王の属国・リンガイアも領土拡大に伴う戦後処理に忙しいし、

ハドラーからの動員命令に応えベンガーナへの派兵で精一杯。とても多方面で戦は出来ない。

色々と目端が利く冥王ゴルゴナは、北の死の大地と魔界を往復し今も何やらに没頭している。

 

アバンらの狙い通り過ぎる理想的展開となったのだ。

今、魔王軍の本拠地(とアバンらが思っている)鬼岩城はガラ空きであった。

ダイ達は主力不在の敵本拠地へ高速で迫りつつあった。

そしてその目的地…ギルドメイン山脈にそびえ立つ鬼岩城では…。

 

「あっ!?

 た、たいへんだ!艦長代理!19時の方向からレーダー反応です!

 しかも…結構近くまで来ちゃってます!」

 

鬼岩城の顔内部…コントロールルームで端末をボーッ眺めていたあやしいかげAが、

玉座の間中央に座るシャドーへ慌てて報告した。

何故かシャドーの頭にはちょこんと船長帽子がのっかっているのはご愛嬌。

というか艦長代理という呼称といい、

彼らは鬼岩城の操作をムー人から習うついでに変な知識まで与えられたようだ。

 

「な、なんだと!

 気を抜きすぎだぞ!

 いや…落ち着け。友軍かもしれん…友軍反応はあるか!」

 

「パターンレッド!人間です!魔王軍ではありません!」

 

「なんということだ!軍団長も魔軍司令も不在のこのタイミングで来たのか!

 城内に緊急放送!総員戦闘配置につけ!」

 

「艦長代理!パターン赤の飛行物体が更に速度を上げました!距離3分!

 す、すごい速さでギルドメイン山脈を越えてくる!」

 

玉座の間は急速にわらわらと忙しく動き出し、今ではてんてこ舞いだ。

数分前までののんびりっぷりが嘘のようである。

 

「そ、そんな!速すぎる!ひ、ひぃぃ!勇者だ!勇者が来たんだ!

 こんな速さでルーラが出来るなんて勇者以外にいない!」

 

あやしいかげDが、モンスターにとって最悪の来訪者の予感に慄いた。

 

「あわわわ!ミストバーン様もゴルゴナ様もハドラー様もいないぞ!大変だ!」

 

と、更にあやしいかげB。幹部不在の現状に悲鳴を上げた。

 

「お、落ち着くんだ!全兵器、準備はいいな!戦闘配置についたな!?

 あっ、そ、そうだ!緊急回線開け!ゴルゴナ様への報告を忘れていたぞ!」

 

シャドー艦長代理もいまいち落ち着けていなかった。

微妙にメダパニ気味だが、当然といえば当然である。

雑魚モンスターだけで勇者に立ち向かうのは自殺行為以外の何者でもないし、

大魔王お気に入りの鬼岩城を幹部の立ち会い無しで戦闘行為に巻き込むのは、かなり気が引ける。

独断での鬼岩城起動などもってのほかだ。

だが、

 

「ぐぶぶぶぶぶ…シャドーよ。バーン様のお言葉を伝えよう。

 『勇者と思しき者共を、余の鬼岩城を存分に使い撃退せよ。

 鬼岩城の恐ろしさを人間共に披露してやるのだ。』

 …以上である。グブブブ。バーン様は此度の余興に大層心惹かれておる。

 精々励むことだ…」

 

普段、お目通り叶わぬ殿上人…魔界の神の直近に侍る魔神は愉快そうに言った。

バーンにとって見ればお気に入りの玩具の、いよいよ本格お披露目の機会というわけだ。

以前の公試運転とは違う初めての実戦投入となる。

ミストバーンやゴルゴナに陣頭指揮を任せるのが妥当だろうが、

 

(一般モンスターだけで鬼岩城を運用した場合、どれだけの戦力となるか)

 

を知りたいバーンの思惑によって両幹部の派遣は見送られた。

それに、いざとなれば合流呪文(リリルーラ)でミストかゴルゴナを瞬時に転送できる。

そんな大魔王の考えを知る由もないお留守番組の一般モンスター達の胸中は察して余りある。

 

「わ、我々だけで勇者を相手せよと仰せに…!?」

 

シャドー艦長代理が船長帽を握りしめながら絶望的な嘆息をあげた。

彼の周囲から「もうおしまいだぁ!」とか「そんなぁ!」とかの声が巻き起こっていたが、

 

「ぐぶぶぶ、シャドーよ。バーン様の鬼岩城はそう簡単にやられるような代物ではない。

 何者も寄せ付けぬ鉄壁の装甲、国家すら蹂躙する大量の武器と無限の兵士。

 大陸をも消滅させる究極の魔砲…。

 真の姿を顕にした時、何者にも負けぬ超兵器となる。

 お前はミストバーンより直接生み出された謂わば分身であり、

 ポポルヴー達から直接、鬼岩城の操艦と指揮を教導されている。

 鬼岩城の留守を預けられるほどの貴様は、バーン様に期待されているということだ。

 その貴様ならば、無双の大要塞の真価を発揮できるであろう」

 

弁の立つ魔神はそう言い切って、自分たち幹部無しの戦闘開始を宣言した。

 

「バ、バーン様が…我々に期待なさっている…!

 これは…負けられん!負けられんぞ!

 わかりましたゴルゴナ様!私を生み出したミストバーン様の御名を辱めない為にも!

 我らはやってやります!

 魔界の興廃この一戦にあり!魔影軍団鬼岩城組各員一層奮励努力せよ!

 やるぞー!」

 

「「「おー!やるぞー!」」」

 

シャドーとあやしいかげ達は薄っぺらな腕を振り上げて気合充填。

蜘蛛の冥王の言葉は、見事に彼らを落ち着かせ士気を高めたのだ。

シャドー艦長代理は直ぐ様預かっていた”バーンの鍵”を”バーンの顔”の口へと差し込むと、

ゴゴゴ、という地響きと共に

山岳と一体化していた城塞であった鬼岩城が急速に立ち上がろうとする。

 

「鬼岩城…トランスフォーメーション!キガーンゴーーッ!」

 

ノリノリでヤル気に満ちたシャドーがムー人伝来の怪しげなロボット発進掛け声をあげる。

一人だけ片腕を突き上げていて、〝あやしいかげ〟タイプの顔のくせに満面の笑みなのが解る。

カモフラージュとして覆われていた岩石が砕け、落下して鬼岩城の膝が顕になる。

山肌を突き破り巨大な腕がゆっくりと持ち上がる。

グラグラと地すべりが起き、軽い山体崩壊の後には巨人の大腿が剥き出しになる。

一分と掛からず巨大要塞は超巨大人型ゴーレムの模様を呈していた。

各部から排気し、白煙をまとい吹き上げる。その全貌は白い靄の向こうに霞む。

 

「イマジン細胞安定しています。(ラング)の間…大暗黒水晶球、稼働良好!」

 

「ボリクス細胞、活動活発化確認。

 心臓(ハート)の間、稼働効率80%まで順調に上昇しています」

 

「各部オールグリーン。

 口部大魔砲〝いかずち〟充填完了!」

 

「よし、一発先制攻撃をお見舞いしてやるか」

 

「射角調整。角度よし。方位、19時」

 

「撃てぇーー!」

 

玉座の間直下の砲撃スペースが唸りを上げて、

口から吐き出された閃光が遥か空へ吸い込まれていった。

雷光と振動が〝いかずち〟の状態が万全であることを物語る。

シャドーとあやしいかげ達によるスムーズなやり取りはなかなか見事で、

大魔王の威光によって落ち着きを取り戻した彼らが日頃の練習の成果を発揮しだした証拠だ。

 

「続けて電磁投射砲、全砲門開け!

 眼部・腕部・指部・掌部・脚部スネ・脚部フクラハギ、全光線砲も用意!」

 

シャドーの指令に合わせカモフラージュ岩石が次々に剥離する。

鬼岩城の、太陽光を受けてキラキラと輝く白金の装甲が剥き出しになると、

全身の毛を逆立たせる猛獣の如く装甲から砲身と攻撃魔法球が姿を現した。

 

「了解…各砲座、準備よし」

 

「勇者達をギリギリまで引きつけてから一斉発射だ!

 それまでは口部〝いかずち〟で攻撃するぞ!当たれば儲けものだ」

 

右肩(ライトショルダー)左肩(レフトショルダー)のカタパルト展開完了!」

 

「よぉし!準備のできた奴から飛行モンスター出撃だ!」

 

(ラング)の間、更にゴースト、エビルスピリッツ、さまようよろい各30体生産完了!」

 

右肩(ライトショルダー)左肩(レフトショルダー)にじゃんじゃん回せ!

 よろい系の生産はしないでいい!今は飛行系を優先しろ!

 勇者達のルーラの妨害と撃墜が狙いだ!」

 

「いかずち再充填完了!」

 

「第2射…撃てっ!」

 

再度の閃光と轟音がギルドメイン山脈の空に響いた。

視線を鬼岩城の上方に移せば、その空域には飛行系モンスターがうじゃうじゃと集いだしている。

まるで黒い雲が鬼岩城の頭上を覆うかのようだ。その雲は今も膨れ上がっている。

(ラング)の間のゴルゴナ謹製の常設魔法陣から生成されるアンデッドモンスターは

異形形成により無理やり翼を生やし飛行能力を得ていて、

暗黒闘気が満ちる水晶球からは

絶えずガストやギズモが生み出され鬼岩城の両肩から飛び立つのだった。

そして…、

 

「艦長代理!勇者達を有視界距離に補足!

 メインモニターに回します!」

 

とうとう来るべき時が来た。

勇者が来た。

彼らの姿がシャドー達の目にはっきりと映った。

鬼岩城を中心に空を黒く染めていたモンスター達がワッと勇者らに飛びかかる。

が、魔法使いの師弟コンビ…

マトリフとポップの放つ呪文によって溶けるようにその数を減らしていく。

このペースなら一分と経たずに全滅だろう。

しかしそんなことはシャドー達とて予想済みだ。

飛行部隊第一陣は次に繰り出す飛行隊を隠すカーテンにすぎない。

 

「空中戦で恐ろしいのは魔法使いだ…!ガスト隊、出撃!」

 

カタパルトを完全に展開し終えた鬼岩城。

その異様と威容はより増して、まるで邪悪な羽を広げた堕天の悪鬼が如く。

そしてその悪魔の城の羽から、

シャドーの命令と同時に数百体の暗黒生命体・ガストが巨大な黒い霧かと見紛う群れとなって

ブロキーナをおんぶするマトリフ、マァムを抱えるポップ…

そしてミーナの手を引くダイとその傍らのゴールデンメタルスライムに殺到した。

 

「ピピピィっ!?ピーピピィー!」

 

「いけねぇ!ガストだ…!あいつらの得意呪文は…!!」

 

呪文封じ(マホトーン)!!」

 

「くそ!何なんだよこのデカブツ!

 城が動くだけでも反則だっつーのによ!なんて数のガストだ!」

 

慌てて勇者パーティーはマホトーンの嵐から逃げ惑う。

空中で呪文封じを食らってしまえば、トベルーラの効果も消え失せて地面へ真っ逆さまだ。

自力で飛べないブロキーナ、マァム、ミーナの三人を巻き込んでしまう。

それだけは避けたいマトリフは年齢を感じさせない急旋回や宙返りやら錐揉み回転やら、

とんでもないアクロバット飛行を次々に披露し、そしてポップとダイもそれに倣う。

 

「いいぞぉ!よし!よし、よし!ガスト隊ぃ…頼むぞ~!

 勇者共を所定の位置にまで追い込んでくれぇー!」

 

飛行部隊第二陣のガスト達もまた、次なる手の布石。

鬼岩城の全砲門が火力を集中できるクロスファイアポイントへの誘導こそ真意だ。

大画面を凝視しながらシャドーが(魔界の)神に祈るように呟く。

そして祈りは届いた。

 

「艦長代理!勇者共をXポイントに誘導完了!」

 

「っ!撃て!撃てぇ!撃って撃って撃ちまくれっ!砲身が焼け付くまで全砲門発射ぁぁぁ!!!」

 

玉座の肘掛けをダンッと叩きながらシャドーが叫び号令一下。

胸部電磁投射砲がググッと砲身を持ち上げ火を噴く。

一門、また一門、更に一門。

留まることなく怒涛の如く拭き上げていく砲火。

鬼岩城は雷光迸るハリネズミとなって、その光は全て勇者達に降り注ぎ轟音が大地を震わす。

炸裂し続けた雷力砲弾が空中を粉塵の濃霧で包み隠した。

 

「艦長代理!いかずち再充填完了!」

 

「第3射ぁぁぁってぇぇぇぇっっ!」

 

ダメ押しとばかりに鬼岩城の口が極大の破壊エネルギーを吐き出し、

空中に描かれつつあった爆煙の濃霧を一気に引き裂いていく。

勇者らを包んだ光の柱は背後の山脈頂きを薙ぎ払い、

尚威力は減退することなく地平線へと吸い込まれ、

そして遠来からドロドロと響く重低音が、微弱な地震と共に数拍後に響いた。

鬼岩城のモニターからは遥か遠方の地にキノコ雲が立ち昇るのさえ見て取ることができた。

 

「やったか!?」

 

やや喜色の浮かんだシャドーの大声が艦橋に響く。

国家消滅砲に数歩劣るとはいえ、大魔砲いかずちは弩級の戦術兵器だ。

無論、勇者達はガスト諸共、為す術もなく〝いかずち〟の雷光に焼き尽くされていくのみ…、

と思われた次の瞬間。

 

「あっ!?」

 

シャドーが叫んだ。

〝いかずち〟の激烈な光と魔力流によって

視界とレーダー双方が塞がれていたことで反応が遅れた。

雷光をくり抜きながら突き進んでくる巨大な魔法の矢が、鬼岩城の顔面に迫っていたのだ。

 

 

轟音。

 

爆音。

 

揺れる艦橋。

 

メインモニターが激しく乱れた。

 

強い振動に玉座にしがみついたシャドーに冷や汗と共に疑問が湧いてくる。

 

(〝いかずち〟をくり抜く程の攻撃魔法を人間達は持っているのか!?

 竜の騎士のドルオーラなら話は別だが……しかし今のは違う!

 今の魔法弾は一体何なんだ!データにないぞ!)

 

その疑問は非常に重要なことではあるが、その前に…。

 

「被害状況は!?」

 

「大魔砲いかずち、被害甚大!使用不可!」

 

「大魔砲へのダメージが眼部光線砲にまで伝搬しています!」

 

「頭部センサー類、7割使用できません!」

 

司令塔である艦橋に損傷度合いを確認し、あやしいかげ達の報告にシャドーの顔が歪む。

 

「くっそう!〝いかずち〟の攻撃を跳ね除けて砲台を攻撃してくるなんて予想外だ!

 鬼岩城の鉄壁の装甲も砲台までは覆いきれていない…!

 技術班を損傷部に向かわせろ!センサー類だけでも使えるようにするんだ!

 あやしいかげB!敵、攻撃魔法解析!」

 

「は、ははっ!お待ちを!『マキシマム』に分析させます!」

 

あやしいかげBがボタンをポチッと押す。すると…。

『キィ~~~ングスキャ~~~~ン!』

鬼岩城のスーパーAI『マキシマム』が解析開始の電子音声を艦橋内に木霊させ、

検索(アクセス)!!!』

解析中の音声が響き、

『ショアッ!!!』

そして解析完了の合図。

何ともやかましいAIである。

 

「でました!あれは……爆裂(イオ)系でも閃熱(ギラ)系でもありません!

 メラやヒャドと同系統の魔法です!」

 

「バカな!あれがメラやヒャドの威力なものか!それに全然火炎でも氷でもなかったぞ!

 コンピュータの故障じゃないのか!?」

 

スーパーAIマキシマムの(コア)ユニットとなったモンスターは

天界地上魔界含めても屈指の大馬鹿者である。

彼の記憶力と計算速度、スキャン能力()()を活かせるように七賢人から改造を施されている。

マシーンと化した彼は以前よりも余程有能なのだからまず間違いはない。

シャドーがムー人印の生体コンピュータにイチャモンをつけ始めた、その時だ。

血相を変えたあやしいかげFが、

 

「艦長代理!前方に急速に高まる闘気反応っ!」

 

「っ!!」

 

勇者達からの再攻撃の予感を告げた。

完全に晴れつつある戦塵の中から

強烈な闘気の剣撃(アバンストラッシュ)が鬼岩城の損傷部位…口部〝いかずち〟に突き刺さった。

 

再び爆発。

 

鬼岩城が、読んで字の如く口から火を吹いて眼部光線砲も内側から炎を垂れ流す。

 

勇者達はあの嵐のような弾幕と極大の雷撃の中で生きていて、

しかも反撃の余力まであるらしい。

〝いかずち〟は使えなくされたとはいえ、

今も電磁投射砲や暗黒闘気圧式機銃は勇者達目掛けて撃ち出され続けているというのに、だ。

しかもカウンターパンチは鬼岩城の顔面にぶち当たり

大魔王自慢の白亜の移動要塞は傷物にされてしまった。

2度目のシェイクを味わった艦橋内でシャドーは事の重大さに表情を大きく歪めている。

 

「ゆ、勇者め…!化物か!鬼岩城の超火力の中で無事だなんて…!」

 

勇者への怒りと恐怖と、爆発による振動のダメージ。

それらがシャドー達艦橋員の手を僅かに止めさせ、鬼岩城の指揮をほんの少し鈍らせた。

メインAI『マキシマム』による自動迎撃は健在だが、

勇者達は暗黒闘気圧式機銃185門の弾幕を捌き防ぎ潜って城に取り付かんとする。

そして…、

 

ドゴンッ

 

という轟音と共にとうとう城壁に突っ込んできてしまった。

 

「わ、わ、わっ!取り付かれたぞぉ!」

 

あやしいかげAが悲痛な叫びをあげ、あやしいかげCも

 

「く、くそぉ!国家消滅砲ならきっと奴らもひとたまりもない筈なのに!」

 

叫んで嘆いた。

鬼岩城最大最強の必殺兵器を放つには充填時間が足りなかったし、

勇者達の速度が予想以上であっと言う間に有効射程距離圏の内側に入られてしまった。

ある程度の遠距離でなければ鬼岩城自身が余波によってダメージを受けてしまう。

あれを撃つと他の防備が疎かになる点も使用を躊躇わせた要因だ。

しかし、確かにドルオーラ級の国家消滅砲ならば今のダイ達を倒すことができたかもしれない。

今更言っても全ては愚痴でしかないのだが。

それを知るシャドーは、戦闘が次の局面に移行したことを即座に理解した。

 

「落ち着くんだ!バーン様達の期待を裏切りたいのか!

 艦内に緊急放送!勇者が城内に侵入してくるぞ!

 プランB発動!

 全戦闘員配置につき時間を稼ぐんだ!」

 

「りょ、了解!プランB開始します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼岩城の内部は、いかにもバーンに好まれそうな悪魔的でありつつも

高貴であり正統派な意匠が施された部分と、

無機質で近未来的な…或いは異世界の超古代的な機械部分が混ざり合っていて

魔導機械文明といった様相を呈していた。

そんな鬼岩城内では今、赤色灯が各ブロックを照らし、緊急ブザーがやかましく鳴っている。

それだけでなく、ブザー、サイレン、足音、そして破裂音や爆発音。

喧騒の中、〝さまようよろい〟や〝くさったしたい〟、マミー達…

ムー人印の機械人形らが通路を忙しくバタバタと走り回る。

彼らが急ぎ向かう区画では、

重々しい防壁扉を蹴破って来た桃色の髪を靡かせる武闘家の美少女が

ボロ雑巾のようにモンスター達を引きちぎっていった。

それに負けじと覇者の剣を携えた勇者の少年も続き、彼の背を守るようにミーナが、

そして前線で肉壁役を務める3人の若者を老練のブロキーナがまとめ上げる。

更に後方を大魔道士マトリフと賢者の片鱗を見せ始めたポップがサポートするのだった。

アバン、マトリフ、ブロキーナの薫陶を受け、

そしてその師の二人までがパーティーに同行しているダイ一行。

鬼岩城内部の防衛力は当初の建造計画時よりも大分強化されていた筈だが、

どうやら勇者パーティーも予想以上の速さでレベルアップをしていたようだ。

生半可なモンスターでは相手にすらならず、一方的な蹂躙が始まっていた。

 

城内で繰り広げられる虐殺劇を尻目に、

今、艦長代理たるシャドーは(ラング)の間に全力で飛んでいた。

鬼岩城の防衛指揮をAIマキシマムとあやしいかげ達に任せてでも

自分自身でやらなければならないことが彼にはあった。

 

「マキシマム!勇者達の現在位置は!」

 

廊下を高速で滑り飛ぶシャドーががなり立てるように『城』に聞く。すると、

 

『勇者達は中央の間でオリハルコン扉のトラップに引ッカカッテイマス。

 閉鎖された中央の間で、デッド・アーマー10体、さまようよろい120体、あやしいかげ60体、

 ギズモ70体、ガスト100体、くさったしたい100体、がいこつ100体と交戦中デス。

 味方戦力が全滅するまでの予想時間、10分。

 オリハルコン扉が破壊されるまでの予想時間、1分デス』

 

かつてのド無能(リビング・ピース)では考えられないぐらい正確で気の利いた返答を返してきた。

先程の解析時のハイテンションぷりが嘘のように冷静だ。

 

「よし…いいぞぉ!間に合う!充分間に合うぞっ!

 そのまま足止めをしていてくれ…同志達よ!」

 

ギラリと眼を光らせたシャドーは飛び続け、

すぐに彼の眼前に(ラング)の間の重々しい扉が目に入ってくる。

開かずの間と言われた部屋の扉は大きく開かれ、

シャドーは次から次に走り出てくる魔影軍団と不死騎団のモンスター達とすれ違うと

そのまま(ラング)の間へと飛び込んでいった。

 

 

(ラング)の間では現在進行系で天井中央の巨大な暗黒の水晶球が唸りを上げて、

空っぽの鎧兵士に暗黒闘気を吹き込んでいる。

一方、磨き抜かれた床を見れば、

ゴルゴナが敷設した大きな魔法陣からは

滾々と湧き出る水のように〝がいこつ〟や〝くさったしたい〟達が這いずり出てきていた。

 

「はぁはぁ………よし。(ラング)の間に異常はない……()()も無事のようだ」

 

暗黒生命体であるシャドーは肉体的に疲労することなど無いが、

精神的な疲れがそうさせるのかシャドーは肩を上下させるほどに息が荒い。

そんな彼の目線にある物。

それが彼の息を荒くさせているのかもしれない。

疲労ではなく、ある種の興奮と緊張が彼の暗黒の魂を駆け巡っていた。

 

シャドーが見つめる物。

 

それは鋼鉄の腕と、四本の足を持つ巨大な鎧。

全体的に丸みを帯びた鋼鉄の巨人のようにも見え、小柄な人間一人ぐらい軽々と握れそうだ。

右手には湾曲した大剣。

左手には大型弩弓バリスタが取り付けられていて、

更にバリスタの機構に覆い被さるようにして銀色の人用サイズの盾が括り付けられている。

 

それは鎧ではなかった。

かつて魔王ハドラーが地上侵略の為に創り出した最強の機械兵士。

ハドラーの天啓ともいえる瞬間的な閃きと勇者抹殺の執念が結実した奇跡のマシーン。

ゴルゴナでさえ感心し、そしていの一番に回収を命じた珠玉の逸品。

そのオリジナルがそこに鎮座していた。

それをゴルゴナとミストバーンが中心となり技術者達が改良していった結果…、

起動と操作に多大な暗黒闘気が必要となってしまい

それを動かすことが出来るのはミストバーンか、

或いは彼に直接生み出されたシャドーぐらいになってしまった。

しかし、デッド・アーマーを圧倒的に凌ぐ魔影軍団最強の鎧として生まれ変わったのだった。

 

「今こそ貴様の出番だ…!目覚めろキラーマシーン!!」

 

シャドーがずるりと青い巨兵に入り込む。

暗黒闘気がキラーマシーンの隅々まで浸透し、満ちていく。

 

――ブゥゥン。

 

キラーマシーンの紅い瞳が静かに怪しく光り輝いた。

 


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