ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

5 / 42
今回短いです(´・ω・`)
ようやく原作キャラ一人追加……ちょい役ですが。


名工が、来て作って帰った

現在、大魔王の宮殿には珍しい客が訪れている。

精悍な偉丈夫然とした魔族の青年で、大魔王の前でも一切臆することがない。

黒々とした長髪を後ろで縛り垂らしていて、なかなかの男前だ。

彼の名はロン・ベルク。

魔界一腕が立つと言われる名工である。

だが、昔の彼を知るものは声を揃えて彼をこう評するだろう。

魔界の伝説的剣豪ヒュンケルにも劣らぬ天才剣士、と。

 

「どうだロン・ベルクよ。

 余のための武器を作ってはくれぬか?

 余の力に耐えられる武具………余の真価を発揮できる、

 神々の伝説の武具にも劣らぬものを、おまえならば作れるはず……。

 どうであろうか」

 

長大な食卓の上座にゆったり腰掛ける大魔王が、伝説の名工を口説く。

青年は、美しい魔族の美女に注がれたワインで唇を湿らせながら、

 

「……面白い。

 神どもより優れた武具………作ってみせよう」

 

言い切ると血のように紅い美酒をグイと飲み干す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というようなことがあってね」

 

大鎌を担いだ漆黒の死神が、暗黒のローブで全てを覆う背虫の冥王へと話しかける。

現在、死神の親友は大魔王のお供をしているため冥王が暇つぶしの相手に選ばれた。

 

「ほう………200歳にもならぬ若造と聞いていたが………。

 鍛冶師としての名声は聞こえておったが、バーン様が直接乞うほどとはな…………」

 

鉄と石の中間の性質を持つ”魔鉱石”の切り出し現場で指揮を執っているゴルゴナ。

百ウン十年程前から大改修が始まっていた『大魔宮』に使われるもので、

予定よりも魔鉱石の産出が遅れていたためゴルゴナのアンデッド軍団の出番となった。

数千のアンデッドを不眠不休で作業にあたらせている。

腐臭漂う採石場までわざわざ来るあたり、キルバーンも暇人である。

 

「う、うぇぇ~~ くさーい! 鼻がひん曲がりそうだよ……。

 早く帰ろうよキルバーン!」

 

「へぇ? ピロロって鼻が無いとばかり思ってたけど臭いわかるんだ?」

 

「………………馬鹿にしてるだろ」

 

死神の肩に常にへばりついている小柄な一つ目ピエロが不満気に主人へと噛み付く。

彼の真の正体を知るものがこの光景を見たら、

その自虐ネタっぷりに思わず吹いてしまうだろうが…

幸いゴルゴナには気付いたような素振りはない。

 

「それで………おまえは、まさかわざわざここまで雑談をしに来たのか?」

 

円柱状に窪んだ採石場を崖の上から見下ろすゴルゴナは、

指揮を執るというよりは監視しているだけだ。

ひたすら労働を繰り返す死に損ないのモンスター達は、延々と単純作業を行う。

そこには高度な知能もゴルゴナによる複雑な指令も必要ない。

体が崩壊し、完全な機能不全に陥るまで働き続けるまさに死の奴隷である。

 

「う~~ん………そのまさかなんだよねェ。

 だってバーン様もミストもロン・ベルクの接待で忙しいみたいでさ。

 どうせ君も見てるだけで暇してるんだろ? いいじゃないか」

 

「いいじゃないかいいじゃないかーー! きゃはは!」

 

ピロロは怨嗟の声を響かせながら働き続ける動く死体達を愉快そうに眺めており、

そのテンションは妙に高い。

 

「いやぁ良い眺めだね……。 君の、魔法とは異なる術…妖術だっけ?

 羨ましいよ……死者を操るなんてスゴイ素敵だ。

 ボクも死神なんて呼ばれてるけど、君のほうがいかにも”死の神”って感じだ」

 

クスクス笑いながらの死神の軽口はどうにも皮肉のように聞こえる。

が、実際は心底からの褒め言葉である。

ゴルゴナの冷酷無惨・残酷非道な性格と能力に、

キルバーンは最大限の敬意とシンパシーを抱いている。

卑怯で陰険な性質もまるきり隠さず、

取り繕おうとする努力すらしない所にも、キルバーン的にはポイントが高い。

 

「君とボクは似たもの同士だ。 そう思わないかね……ゴルゴナ」

 

死神は楽しんでいた。

”本当の主”には少し申し訳なく思うが、

大魔王バーンは冗談を解する懐が広い男だ。

そしてミストバーンとは何もかもが正反対であるにも関わらず馬が合う。

冥王ゴルゴナとは”同好の士”。

 

「……………かもしれぬ」

 

ゴルゴナもまた、無感情にあっさりと認める。

が、それきり興味が無いという風で話題を提供することもなく、

むしろ最初から目線すら合わせていない。

 

「君って、喋る時は良く口が回るけど、雑談するタイプじゃないんだね。

 ミストといいゴルゴナといい、少しは会話を楽しんだほうがいいんじゃないかな」

 

「……………おまえが喋り過ぎるだけだ」

 

結局、死神は石切り場から帰ることはなく、

ゴルゴナの仕事が終わるまで無駄話を続けることになる。

陽気でお喋りな死神に、冥王は相槌を余儀なくされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1ヶ月もかからない仕事だった。

帰れば噂のロン・ベルクの顔を拝めるだろう。

そう思って帰還したゴルゴナだったが、

 

「ロン・ベルク様は、先程………帰る、と一言おっしゃって……」

 

手近な侍女に聞けば幾つかの武具を大魔王に献上してから機嫌が悪くなり、

突然、本日を限りにバーンの元を出て行った…とのことであった。

 

「ぐぶぶ………随分と気難しい男と見える…………」

 

「それかよっぽど子供ってことさ」

 

帰還した挨拶を主へとする前に、

とりあえず死神と冥王はその短気な名工のツラを拝みにいこうと

宮殿の正門口へ歩いて行く。

長く続く白亜の廊下に、漆黒の魔人両名の足音が響く。

カショリ…という爪の音と、カツンッという銀のブーツの金属音が交互に反響し、

それ以外の音は一切しない。

静か過ぎて耳鳴りでもしそうなほどであった。

そこに、段々と別の音が響き始める。

意思ある者の声で、そして何やら苛烈な勢いのある声色だ。

歩調はそのままに、声が聞こえた瞬間思わず見合ってしまう冥王と死神。

 

(……なにごとだ?)

 

(さぁ?)

 

と目線だけで意思疎通を交わす。

その怒声が聞こえたと同時に僅かに殺気混じりの闘気が感じられたが、

それでもこの2人は別段急がない。

怒声が聞こえた方向からは、彼らが良く知る気配を放つ存在が感じられたからだ。

ロン・ベルクとやらが何かをしたとしても、或いは別の曲者がいるのだとしても、

気配の主・ミストバーンが殲滅するだろう。

ひょっとしたら……万が一にもミストバーンが敗死しても、

「最強の手駒が手に入る」としかゴルゴナは思わぬし、

「ミストが死んだら悲しいけど……お仕事が捗るなァ」とキルバーンは考えるだろう。

もっとも、両名ともミストバーンが負けることは永遠に来ない…とも思っているのだが。

 

そんな風にどこかのんびりとやってきた冥王と死神。

彼らがそこに着くと、白亜の床に小さな血の水たまりで汚れていて、

その傍らにはミストバーンが黙って立っていた。

ミストバーンが両手の指を素早く空で切ると、

彼の無機質な指から血が弾かれ床の血溜まりに落ちる。

 

「ミストは優しいんだなァ。 ロン・ベルクがいたんだろ? ボクが始末してあげようか?」

 

「………………」

 

キルバーンの問いかけに、ミストバーンはただ黙っているだけだ。

首を縦に振るでもなく、横に降るわけでもない。

 

「………ロン・ベルクの意志が疎ましいのなら、

 この冥王が…奴を立派な傀儡にしたててやろうか? ぐぶぶぶぶ……」

 

ゴルゴナの本気か嘘かわかりにくい言葉を受けて

ようやくミストバーンが光る目を力強く輝かせ冥王らを眼光で射抜く。

どうやら「手出しは無用」ということらしかった。

 

「ぐぶぶぶ………甘い奴………」

 

「………………」

 

やはり沈黙を保ったままのミストバーンは、

静かに振り返るとそのまま廊下の奥へ消えていく。

キルバーンが、やれやれ…といった感じに肩をすくめてそのままミストバーンへ付いていく。

 

(使いこなせぬ駒など……いくら強力だろうと無価値。

 才を惜しんで始末せぬことが………後々我らの災いとならなければ良いのだが、な)

 

冥王はチラリと正門側を見やると、そのまま白い影と死神を追ってゆっくり歩き始めた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。