ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

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みんな大好き黒の核晶。
自分の領地内で使うヴェルザーの鬼畜ぶりにバーンもキルバーンもドン引き。
(ただし冥竜王は後悔中)


相討つ冥竜王と竜の騎士

バーンがやったことは単純明快。

魔力はある所から無い所へと流水のように流れ行く…という性質を利用し、

ヴェルザー率いる大軍団周辺に魔力の真空地帯を作り、

真空の道筋をそのまま魔界の孔へ繋げ地上に放出してやっただけだ。

デルムリン島の大穴から垂れ流れる濃密な冥竜の魔力を

天界が見過ごすはずがなかった。

強大な魔の力を嗅ぎつけた当代の竜の騎士バランを中心として、

ラーハルト達の前身となる前代竜戦騎達…、

そして彼らに与する精霊達とが”天界の勇者パーティー”を結成し、

案の定魔界に乗り込んできた。

後はバーン軍が大人しくしていれば、

嵐は勝手に頭上を通過しヴェルザーへと襲いかかるだけである。

もっとも厄介な二つの陣営が潰し合ってくれるという、バーンにとって極めて都合の良い展開。

大量に増産された悪魔の目玉が、バランとヴェルザー一族の戦いを大魔王へ伝える。

 

「ぐぶぶぶぶ……。

 神々が創りたもうた究極の戦士という前評判は、あながち嘘ではないようで……」

 

「とんでもない化け物ですよアレは。

 ヴェルザー様とバラン達の戦端の火蓋が切って落とされたのは僅か1ヶ月前…。

 やれやれ……冥竜王自慢の大軍団が、今じゃ半分以下だなんてねェ。

 質の悪いジョークより酷い」

 

キルバーンが、珍しく茶化す気力もない…といった様子である。

それ程に竜の騎士は強い。

まさに一生命として規格外の存在だ。

バランの鬼神の如き暴れまわる様を映す大水晶に、ゴルゴナは食い付き観察する。

 

(素晴らしい………あれぞ生命の神秘の具現と言うべきだ。

 奇跡のバランスの上に成り立つ生体兵器……!

 興味深い……実に、興味深い……………)

 

探求者としてのゴルゴナの魂を揺さぶる存在であった。

大魔王もまた、熱心に見入っている。

バーンは永い時を生きているが、生きた竜の騎士を見るのは初めてである。

若かりし頃から、竜の騎士によってそれぞれの時代の魔界の実力者が

誅滅の憂き目にあったという噂を聞いたことがある程度。

竜の騎士は今まで全ての敵を100%滅ぼしてきた。 だから生き証人などおらず、

遠目で無関係の第三者がその戦いを記憶に焼き付けるしかなかった。

バーンも充分な実力が備わるまではひたすら天界を刺激しないよう心がけてきたのは、

偏に三界の調停者・竜の騎士の存在を警戒していたからだ。

 

「竜の騎士………恐るべき戦闘生物だ………。

 余も予想し得ぬ勇猛にして変幻自在の戦いぶりは見事と言うしかない」

 

バーンは感嘆する。

 

「……ま、まさか……竜の騎士の持つ剣の、あの輝きは…!」

 

ゴルゴナが、バランの持つ片刃の豪剣から放たれる異様な煌きに気づく。

あの光は、古代ムーが精錬法を確立させた超金属に酷似している。

 

「そう………オリハルコンだ……。

 あれこそ、神々が創出した伝説の剣・真魔剛竜剣……!

 竜の騎士がその剣を手にした姿は………、

 まさしく神の威光に逆らう全ての者を屠る殺戮生物といえような」

 

大水晶の中では、竜の紋章から放たれる閃光によって

数百のドラゴンが一方的に蹂躙されている。

 

「凄いなァ。 画面越しにも殺気が伝わってくるようですね。

 魔界のどんな猛者よりも血に飢えた狂獣ですよ、アレは。 容赦なくて実にいい」

 

死神からも称賛の声があがり、真の主の軍勢が……、

つまりは同僚が虐殺されているのを今では笑顔で眺めていた。

三人の大魔族の視線が、大水晶の映像に注がれて続けていた次の瞬間。

 

「む!?」

「…あれは!」

「く、黒の核晶!?」

 

黒い光に包まれた、子供の頭ほどの物体が高速で画面を横切り、そして…

 

「ぬぅ!」

 

凄まじい閃光と天地を砕かんばかりの轟音が大水晶に伝達する。

ピシリ、と水晶に僅かながらヒビが入るほどだ。

思わずバーンも目を細め、激光から眼を庇う。

ゴルゴナとキルバーンもまた、腕で咄嗟に瞳を覆った。

 

「ヴェルザーめ………やりおったな……!!」

 

完全に映像が途絶した大水晶を見ながら、バーンが言う。

 

「まさかあれ程の規模の黒の核晶を己が領地で使うとは………。

 ゴルゴナよ。 早急に爆心地に悪魔の目玉を派遣しろ。

 あの辺り一帯に潜ませていた悪魔の目玉は、全て消え去った」

 

「はっ」

 

短く応えた冥王は、そのままフッと姿を消す。

リリルーラでキアーラの元へいき、ストックされている目玉の起動と、

そして失った分のそいつらを追加生産するつもりだろう。

キアーラの罵声と悲鳴がすぐに聞こえてくるかもしれない。

バーンは、それきり何も言わず…ただ黙って割れた大水晶を見つめていた。

 

(あれ程の大きさの黒の核晶だ………。

 ”ボクの持つ”黒の核晶とは段違い………まずただじゃあ済まない。

 どれだけの被害が出たのか……さすがのボクも引きますよ…ヴェルザー様)

 

キルバーンもまた言葉を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルゴナの調査の結果、

ヴェルザーが使用した黒の核晶による被害は極めて甚大であった。

ヴェルザーの支配する大陸一つが丸々と、2つ目の支配大陸の半分が消滅。

それに伴い領内の臣民も当然死に絶え、

バランの足止めを行っていた軍勢も全滅した。

ヴェルザー本人こそ無事だったものの、

魔界の海までが大量に蒸発してしまい、

不毛の世界である魔界の気候がさらに荒れ狂うこととなった。

しかも、泣きっ面に蜂とはまさにこのことで、

竜騎衆と精霊の多くを超爆弾で始末することは出来たものの、

肝心のバランを討ち漏らしてしまったのだ。

ヴェルザーの計算は完全に狂った。

しかもまだある。

仲間を失い、己の部下と国民をも巻き込んだヴェルザーの非情さに

バランの怒りは頂点に達し……、

 

「ヴェルザー…! 貴様は絶対にただでは済まさん!

 竜の騎士の名に賭けて貴様を殺す!!」

 

マックスバトルフォーム・竜魔人となったバランの全力を、

余すことなく叩き込まれる事になってしまったのだ。

通常の竜魔人ならば、まだ冥竜王にも分があったかもしれないが

迂闊にバランの怒りを増大させてしまったヴェルザーは、

不滅の魂を持つ…という慢心も手伝いまさかの敗北を喫した。

 

「信じられぬ…! この俺が竜の騎士如きに遅れをとるとは!!

 だが、バランよ! 貴様の努力は全て無意味だ………俺は不死身!

 我は不滅の冥竜王ぞ! 必ず甦り世界を支配してみせる!」

 

滅び行く冥竜王の肉体が石と成り果てると、

そのまま邪悪の竜の魂は輪廻の輪に飛び込もうと魔界の空を昇っていったが、

生き延びた天の精霊達に捕らえられ、封印の屈辱を味わう羽目になる。

こうしてヴェルザーは討伐されたが、バランの負った傷もまた深く…

天の精霊達もヴェルザーが最期に放った怨念によって、その心身は衰弱している。

大魔王バーンは、大した労力もかけず2つの強力な敵対勢力を潰すことに成功したのだ。

ヴェルザーの敗北までを見届けたバーンは、

 

「フッ………正直、ここまで余にとって都合良く事が運ぶとは思わなかった…。

 ミストバーンも地上から呼び寄せ祝杯をあげるかな…?」

 

上機嫌である。

そこに、

 

「バーン様…」

 

冥王が平身低頭で大魔王の御前に進みいでる。

 

「どうしたゴルゴナ……」

 

「我に出撃をお命じ下さい………。

 竜の騎士はまだ生きております…………。

 虫の息の今こそ最大の好機。 我が彼奴めを始末してご覧に入れまする」

 

ゴルゴナの進言に、バーンは即答しない。

数秒もの間を使い、熟考しているようで

「ふむ…」と小さく漏らし、美しく豊かな髭を左手で撫で弄る。

数千年に及ぶ大計画発動の、完全なる機が熟すまであと一歩。

本当に後一歩であるが故に迷いが生じてしまう。

天界を刺激せぬよう、

あくまでもヴェルザーが首謀者という体をとり死にぞこないを見逃すか。

それともこのまま

天界に対して宣戦布告をするのを覚悟で、バラン達を確実に排除するか。

後者をとれば、神々が得意とする”奇跡の術”で更なる理不尽を味わう可能性が高い。

竜の騎士を殺害しても、それ以上の脅威が出現してしまえば意味は無い。

 

「………捨て置け」

 

大魔王の決断であった。

 

「捨て置く? 神代の頃からの戦闘経験値を持つ竜の騎士を……野放しにしておくので?」

 

「そうだ……噂に違わぬ戦士であったが、余の勝てぬ相手ではない。

 だが、今ここでバランを殺してしまえば聖母竜は次代の竜の騎士を産み落とす。

 そしてその者が更なる力を持って余に楯突くやも知れぬ。

 大計画の成就まであと十数年…といったところか……。

 まだ幼くも、竜の騎士として機能するには充分な年齢に到達するだろう」

 

なるほど、と死神が小さく言う。

 

「ヴェルザー様の仇討ちが出来ないのはと~っても残念ですが、

 確かにバラン君の手の内は、ボクらは既に見ましたし……相手しやすいですね」

 

しかしゴルゴナにはまだ言い分があった。

 

「バランを害すればその魂は聖母竜に回収され、新たなる竜の騎士の誕生を促すは必然。

 しかし………ご安心くださいバーン様………。

 ぐぶぶぶ……我はバランを生かしたまま囚えまする。

 究極の戦士の肉体の神秘………必ずや解き明かし、大魔王様にご覧に入れましょう」

 

ゴルゴナの狙いは、あの化け物の肉体。

魔界樹の葉は、もうじき研究に耐えうるまでになるだろう。

その時に竜魔人の肉体があれば……

『竜魔人の肉体強度を持った、不死身で不老不死』

という真なる化け物を創りだせるかもしれない。

そう思うとゴルゴナは自然笑みが漏れてしまう。

バーンもまた、ゴルゴナの言わんとする事を理解する。

 

「ほう………不老不死の研究に竜魔人を組み込むのか」

 

「はい……魔の神に仕える究極の魔戦士を創りだしてみせましょうぞ」

 

たしかに生かしたままならば聖母竜も手出しできぬかもしれない。

だが聖母竜の力は未知数だ。 

生きた竜の騎士から命と魂を回収することも可能、ということは有り得る。

しかしそれでもゴルゴナの提案は大魔王にとってあまりにも魅力的だ。

 

(いつの日か……余の真の肉体が必要になる日が来るやもしれん。

 余の見据える未来には…天の神どもの排除も必要なのだ。

 ならば………ミストの新たなるボディとしてこれ以上のスペアはない)

 

竜魔人・不死身・不老不死。

その体を操るミスト…………それを夢想するだけでバーンは愉快になる。

取らぬ狸のなんとやら…だが、夢見ずにはいられぬ甘美な夢だ。

それに、比較的バーンの本当の体に近い性能を持つ

竜魔人の肉体を不老不死とすることができれば、

真バーンそのものが不老不死となることも夢ではない。

それらを思うと笑わずにはいられぬバーンであった。

 

「フフフ………………はっはっはっはっはっはっ!

 ……其の言や善し。

 ゴルゴナよ………バランを生け捕りにしてまいれ。

 キルバーン…おまえもゴルゴナに協力してやれ」

 

「おやおや、ボクも行っていいんですか?

 これは楽しみだなぁ……ヴェルザー様からのお礼を代理で伝えなくちゃ。

 よろしく頼むよゴルゴナ」

 

死神の、常に笑みが張り付いた道化の仮面が、

残酷に笑った気がした。

 

「ぐぶぶぶぶ………お任せ下さいバーン様」

 

冥府の大蜘蛛の瞳が怪しく光る。

魔王軍の大幹部……2人の黒き魔人が動き出す。

 

 

死神キルバーン、冥王ゴルゴナ―――出陣。

 


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