ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

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天の精霊達のイメージはエルフとドラクエ7の風の精霊を足して2で割った感じです。
原作ダイの大冒険で、
バラン戦はいきなり格上の雑魚が出るフィールドにきちゃってステータス画面真っ赤っ赤!
をイメージした、というのをどっかで読んだ気がするんですが、
今回はそれをバランが味わう感じで書いてみました。


天の精霊

「腐・病・葬・怨・魔……ぐぶぶぶぶぶ」

 

冥王の呪言に瘴気が引き寄せられ、やがてそれは一つの暗雲となり

邪悪の雷撃がパリパリと短い音とともに放出される。

暗雲はゴルゴナの足元に集い呪いの主人を空へと持ち上げいく。

 

「腐・病・葬・怨・魔…………! 腐・病・葬・怨・魔…………! グブブブブブブ」

 

スルスルと魔界の暗い空へ舞い上がり、

闇の空をうねって駆ける邪悪の蛇のようにも見えるゴルゴナの雲は、

傷つき倒れたバラン目指して一散に滑り飛ぶ。

魔界の空が荒れている。

ヴェルザーが起爆させた黒の核晶の余波が、魔界全土を侵食していた。

海の多くが干上がり、全てを切り刻み吹き飛ばす凶悪な嵐が常に空を支配する。

大地は干上がり、或いは腐毒が広がる底なし沼に浸かっていて、生命を拒む。

山々は地獄の業火と溶岩を堪えず吹流して、何もかもを燃やし尽くしていた。

だが、それら全ても冥王ゴルゴナを止めることはできない。

冥王の雲に近づく嵐は減退し腐ったそよ風となって霧散する。

彼が通ったあとには瘴気がばら撒かれ触れたモノ全てを朽ち果てさせる。

狂った天候すらも切り裂くゴルゴナの暗雲は、

確実にバランのもとへ忍び寄っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上半身が裸の男が荒野をさまよい歩いている。

右手に、ヒビがはいった片刃の豪剣を緩く持ち、

左手で右肩を庇い右足は軽く引き摺られているが、歩行に大きな支障はなさそうだ。

剥き出しの上半身は至る所が傷だらけで、

中には一見して「なんで生きているんだ?」と思うほどのものもあって、

この男が只者でないことを証明している。

 

「はぁ…はぁ……まだ、生きているか……精霊達よ」

 

額から垂れてきた血が左目に入り思わず片目を瞑りながら問うと、

どこからともなく声が響き、満身創痍の男へ語りかける。

 

『大丈夫です………バラン様にご心配していただけて……我々はそれだけで…』

 

バランへと語りかけた声の主は天の精霊。

今は激闘に継ぐ激闘の疲労…ヴェルザーを封印する際に受けた呪いによって

物質世界に顕現するのも辛い状態で、

バランの携える神器・竜の牙(ドラゴンファング)を依代としてその内側で体を癒していた。

本来はその竜の牙とて左目を保護するように装着する物なのだが、

戦闘の中で留め具が破損し、バランの黒革のベルトに括りつけられている。

真魔剛竜剣も竜の牙もどちらも損傷しているが、

ともに神々の創りだした装備であり自然治癒能力を備えているので問題ない。

 

『旅の祠まで、あと半日も歩けば…たどり着きます……

 バラン様………そのように傷付いたお体で歩かせてしまい、誠に申し訳ございません…』

 

「構わん……今は喋るな。

 少しでも疲れを癒やせ……ヴェルザーの残党がいつ襲ってくるとも限らん」

 

『…はい』

 

だが、正直バランも辛く限界は近いと感じられた。

呼吸は既にずっと荒いままで、どんなに整えようと思っても乱れる。

足取りもふらついたままだ。

自分も精霊達も体力・MPは空っぽで、魔界に持ち込んだ数々のマジックアイテムも使い切った。

 

「まさに総力戦だったな……。 今襲われたら目も当てられん」

 

竜騎衆も全滅し精霊達も大半が討たれ、生き残りも疲労困憊。

相棒ともいえる真魔剛竜剣も、ヒビがはいっており刀身全体が疲労していて、

出会う敵によってはオリハルコン製の相棒でも折れかねない。

倒れこんで目を閉じてしまいたい衝動を必死にこらえながら、

バランは重い足を引きずって必死に前へ進む。

魔界に降り立った時に精霊達が設置した旅の祠まで辿り着けさえすれば……、

竜の騎士の憩いの聖地・奇跡の泉まですぐなのだ。

 

「はぁ…はぁ……祠が……誰にも、見つかって…いなければいいのだが……」

 

『っ!? バ、バラン様……! お、恐ろしく邪悪な気配が…迫っています!

 あぁ! そんな…! この邪悪さは………ヴェルザーにも劣りません…!』

 

「な、なんだと……! く…! それほどの力を持った奴を討ち漏らしていたか!」

 

バランの顔色が変わる。

この状態で勝てるレベルの敵ではないことが、精霊の口ぶりからもわかる。

 

『早く……早く逃げて下さいバラン! 今の我々では勝てません!』

 

バランも既にそれはわかっている。

しかし足が思うように動かない……トベルーラを発動するMPも残っていない。

 

「く…くそ……! はぁ、はっ……はっ…はっ!」

 

なけなしの体力で必死に走る。

だが、

 

「グブブブブブ……情けなや……伝説に謳われる竜の騎士が無様に逃げるか」

 

不気味な唸り声とも笑い声ともしれぬ音があたりに響く。

と、同時にバランの周りを急速に黒い霧が包みだす。

 

「何者だ!」

 

足を止め、真魔剛竜剣を構えるが、既に持ち上げるだけで腕が震える。

 

『いけません! バラン! 逃げて!』

 

竜の牙内の精霊が必死に声を荒げるが、バランはもはや腹をくくってしまった。

もともと逃げることを良しとしない武人気質。

部下や仲間には、無理をせず逃げるよう促すこともあるが、

自分自身は死を恐れず向かっていく闘将タイプ。 これも当然の帰結といえた。

 

「ぐぶぶぶぶぶぶぶ………我は冥王……死を司る者なり」

 

黒一色で塗りつぶされた視界の向こうから、恐ろしげな唸り声でそう告げる。

 

「冥王…!? やはり冥竜王の追手か! 姿を見せろ!!」

 

「ぐぶぶぶぶぶ……半分は正解だ……。

 姿など貴様に見せる必要はない………おまえの相手は我が手先ども。

 可愛い我の駒が……貴様を冥界に誘う………ぐぶぶぶぶぶぶ」

 

冥王の声が途切れると同時に、地面を持ち上げる低い音がバランの耳に届く。

そして肉の腐る不快な臭いも鼻に届けば、冥王の手先とやらが何なのか自ずと判明する。

 

「アンデッドの…群れ! こ、この数は…」

 

闘いの遺伝子を持つバランには即座にわかる。

今も響き続ける土が盛り上がる音。 強くなる腐敗臭。

 

「さぁ者共! 嬲れ! いたぶれ! 手足を引き裂け!

 貴様らの旧主……ヴェルザーの仇を討つが良い!!」

 

一斉に襲いかかるアンデッドの群れ。

寸前で躱すバランが見たのは腐るドラゴンの巨大な前腕。

そして苦しそうな竜の咆哮。

間違いなくその者達は、かつてヴェルザー一族であったドラゴン。

 

「き、貴様! 己が主の仇を討つのに仲間の死を利用するのか!」

 

反撃をドラゴンゾンビへと叩き込みながら、バランは憤る。

 

「ぐぶぶぶ…この者らは、この冥王に感謝の涙を流しておるぞ。

 自分と主の命を奪った貴様を殺すチャンスをくれて、ありがとうございます、とな……

 グブブブブブブ…!」

 

冥き瘴気の中に響く怨嗟に満ちた竜達の咆哮。

それらは明らかに苦しみ、痛がっている。

命を縛る地獄の鎖を痛がっている。

精霊とバランにはそれがわかった。

 

「お、おのれぇ…! 外道が!!」

 

怒るバランの気配に、一瞬、一際濃い瘴気が捉えられた。

(親玉か!)そう判断したバランは、八相の構えで瘴気濃き場へ地を蹴って跳ぶ。

疲労の極致にあるとは思えぬ凄まじい跳躍。

この場を指揮する者を打ち倒さねば勝機は無い…バランのイチかバチかの賭け。

 

『ダメですバラン!』

 

天の精霊の制止も僅かに遅く、

 

「な、なに!?」

 

竜闘気も呪文も篭められていない…現状で放てるバランの渾身の一撃は、

呆気無く異形の細腕に食い止められた。

その腕は、蟲を思わせる節と爪を持つ化け物のそれであった。

 

「見事……! さすがは竜の騎士よ………

 渦巻く瘴気に視界を奪われながらも、我に一撃を見舞うとは」

 

「ぐっ…け、剣が!?」

 

バランが消耗しているのとは別としても、この異形の細腕は見た目以上の膂力を持っていた。

オリハルコンの刃を掴み、びくともしない。 真魔剛竜剣がミシミシと悲鳴を上げる。

そこに、

 

「うぐ!? か、鎌!? じ、地面から……ガハッ!!」

 

ズブ…とバランの腹を、大地から突如生えてきた大鎌が貫いていた。

 

『バラン!!』

 

瞬間、バランの腰が……竜の牙が輝き出す。

 

「こ、この光は……!? ぐ!? うおおおおお!!」

 

突如、そこから強力な聖の光が放たれると冥王を遥か後方へ弾き飛ばし、

場を埋め尽くす大量のアンデッド達をも消し去ってしまった。

バランを守るように淡い光を纏った乙女が3人、忽然と立ち塞がっている。

薄い聖法衣を纏った、とんがった耳が特徴的な美女。

 

「君ら……精霊か………忌々しい天界の犬くんは、ちょっと黙っててくれるかな?」

 

大地の中…大鎌の向こう側から、冥王とは別の邪悪な声。

 

『そこか! 魔の者死すべし! 邪悪よ消え去れ!!』

 

精霊の1人が、全生命力を注いだ光の闘気弾を大鎌付近の地へと放つ。

 

「く…! こ、この…! 精霊風情が!」

 

隠れ潜んでいた死神は吹き飛ばされつつも、

 

『あぁ!? バ、バラン様! お逃げくだ、さ…』

 

手に持つ大鎌を高速で投げつけ天の乙女を胴切りに処した。

 

「せ、精霊よ……! が、がふ……!」

 

腹からおびただしい血を流しながらもバランは立ち上がろうとするが、

もはや膝を地から離すこともできない。

視界も歪み、仲間の精霊の姿ですら正確に認識できていない。

完全に限界であった。

 

『バラン様…! 今より我らの最後の力で、あなたを祠までお届けします!』

 

「待て! お、俺もとも、に戦う…ぞ! 仲間を見捨てて…いけるか!!」

 

『あなたは竜の騎士! このような所で朽ち果てる天命ではありません!』

 

「逃すわけがないだろう?」

 

いつの間にか舞い戻った死神が、薄ら笑いを浮かべながら2人の聖乙女へと迫る。

死神から何かが素早く投げつけられ、

それは2人の精霊の間をすり抜けバランのすぐ側の地面へと突き刺さる。

 

「キルトラップ……本来は仕掛けて使うものだが、こんな風にも使えるんだ。

 クラブの5……おバカさんを捕まえるのにはピッタリのカードだ」

 

トランプカードが不気味に光り強力な魔力牢が展開され始める。

だが、

 

『邪なる威力よ、退け!マホカトール!』

 

乙女が唱えし破邪呪文が、障壁となってキルトラップの完全発動を拒み、

突っ伏すバランと精霊達を聖なる結界が覆い守る。

もはやそのような呪文を使うMPはないはずである。

 

「チッ……先に君らを始末しなきゃだめみたいだね」

 

『無駄です! この結界には邪悪なる力は入ることは出来ません』

 

確かに精霊が張った破邪呪文は強力だ。

(結構厄介だな……ヴェルザー様との死闘で弱り切っているだろうに……。

 すでにこの抵抗が、奇跡だ。 だから天界の奴らは好きになれない)

 

「奇跡などというまやかしに頼るその姿は……虫酸が走るね」

 

キルバーンが大鎌を振り上げると同時に、

 

「ぐぶぶぶ…光葬魔雲… 聖なる光よ、消え去れ!!」

 

先程吹き飛ばされた冥王の方角から、恐るべき黒き力が放たれた。

 

『ああ!! そ、そんな!?』

 

鉄壁の破邪呪文が、暗黒弾にぶつかった瞬間に爛れて溶けて、

結界は跡形もなく消滅し、

 

「グッドタイミングだ」

 

振り下ろされる死神の大鎌。

麗しの聖乙女の首が、胴を離れて魔界の空を舞った。

バランを守る精霊は、あと1人。

 

「グブブブブ……天の精霊よ。

 我のものになるのならば命だけは助けてやってもよいぞ?」

 

「フフ…本当いい趣味してるね………でもバラン君は君にあげるんだから、

 そっちの娘はボクにくれよ。 ボクのスペシャルメニューで歓待してあげたいんだ」

 

すでに冥王もこの場に戻った。

しかも、2人の魔人は全くの無傷。

至近距離から聖なる光を浴びせたのに……、

姉妹の1人が全生命力を捧げた光の闘気弾を直撃させたというのに…である。

だが、天界から降臨し竜の騎士に全てを捧げて仕える彼女らは、

決して邪の者には屈しない。

 

『姉妹らが、私に時間をくれました。

 魂と魔力を高める時間を。

 魔の者らよ………貴様らの思い通りにはならぬ!』

 

最後の乙女が全てを振り絞る。

 

「っ!! 殺せ! キルバーン!」

 

気付いた冥王が叫ぶが、死神が鎌を振り下ろすよりも速く

 

『バシルーラ!!』

 

既に意識が混濁したバランを、最後の魔力で弾き飛ばす。

精霊は、次の瞬間には両断されていた。

ずるり、と乙女の右半身がゴルゴナ側へ崩れ、左半身はキルバーンへともたれかかる。

 

「本当に足掻く奴らだねェ……。

 なんでこうも無駄な努力ばかりするんだい? コイツら」

 

ホコリを払うように精霊の死骸を手荒くのけると、そのまま死骸は消滅して霧散する。

精霊らの死とはすなわち消滅。

すでに血溜まりだけを残して3人の乙女は消え果てていた。

 

「足掻かねば嬲りがいもなかろう?」

 

「そりゃそうだ……ウククク」

 

嘲笑う冥王と死神は、すぐさまバランを追う。

キルバーンのトベルーラと冥王の神仙術による飛行は、

全力を出すと凄まじい速度となる。

それこそ、全生命力を込めたバシルーラにも追い付ける程に。

 

「ぐぶぶぶ…竜の騎士よ……! 今、我が手に…!」

 

ゴルゴナの三本の爪が、バランの足を掴んだ。

と見えたその刹那……。

 

「な、なんだと!?」

 

「うぅぅ!? これは!!!」

 

眩い聖光が、バランの全身を覆い尽くし、

冥王と死神を力強く押しのけて地面へと叩きつける。

すぐさま瓦礫を魔力で消し飛ばし起き上がる両者だったが、

 

「く……ば、バカな…! 我らを寄せ付けぬ力など、残っているはずはない!!」

 

「………精霊の血だ。 バラン君の体に付着した精霊どもの血飛沫が……、

 ボクらを拒む最後の結界になったわけだ…………。

 これは、奇跡などでは…断じてない………」

 

バシルーラの閃光の軌跡を追うと、そこには崩れた祠の残骸が転がるのみ。

 

「旅の祠…………修復したとて、もはや扉がどこに繋がっていたかまではわからぬ」

 

「こんな神代の遺産まで持ってきていたのか。

 …ここにバラン君が飛び込んだとして、一体誰が祠を壊したんだろうねェ」

 

「バランが飛び込んだ衝撃……それによって崩れたのだ……………。

 とてつもない強運……とでも言うべきか。 それこそ奇跡的な確率の、な」

 

得体の知れぬ、理不尽な運命。

首の皮一枚で繋がり続ける、勇者たちの未来。

可能性が一厘でもあれば、それが叶う力。

黒き魔人達は、神々の奇跡に翻弄される。

 


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