ゴルゴナの大冒険   作:ビール中毒プリン体ン

9 / 42
ゴルゴナとキアーラが少しでもイチャイチャするのを見れるのはハーメルンだけ!(某少年誌風)


ムーの7賢人

竜の騎士には逃げられたものの、

戦場にはおびただしい量の血痕が残されている。

魔界そのものの瘴気とゴルゴナが纏うそれに晒されて、

バランと精霊達の聖なる血はダメージを受け劣化が見られるが、

それでも研究に耐えられぬ程ではない。

生き延びたバランが、

魔界に対する警戒を今後も緩めることがないであろう事は懸念材料だが、

バーンにとっては血を得たことのほうが意義が大きい。

 

ゴルゴナは早速キアーラと共に研究に打ち込みだした。

その間にはぐれ魔族のハドラーがただの人間の勇者に敗北したらしいが、

魔界樹の葉と聖なる血の解析に没頭するゴルゴナにとって益体もない出来事だ。

 

「……やはり一筋縄ではいかぬな。

 まずは血の状態を回復させねばならん」

 

「う~ん…やっぱり彼らの力が必要じゃないですか?」

 

「……ツークーマン達か」

 

「はい。 魔界樹の葉の数にも余裕がありますし…。

 不死人形の質を高めるためにも聖なる血は必要です。

 彼らを復活させれば進捗状況は間違いなく好転しますよ」

 

ゴルゴナの八つ目が魔界樹の葉を収めた無機質なボックスに注がれる。

 

「………ウム…、では…貴様に任せるぞ。

 こいつらの心身の核は、既に我が体内から取り出し二番ポッドに保存してある」

 

「はい、お任せを。

 …あぁ、ゴルゴナ様。 彼らを甦らせても、私が二番目に偉いんですよね?

 だって、ずっとあたし1人でゴルゴナ様を支えてきたんですから、

 ムー時代の序列は有効じゃありませんよね?」

 

にこにこ笑顔で権力の保持を嘆願するキアーラ女史。

権勢欲もなかなかに豊かだ。

 

「ぐぶぶ……欲深な女だ…。

 それでよい………貢献を考えれば妥当であろう。 我も貴様には感謝している」

 

「あはっ、やったー! だからゴルゴナ様大好きです」

 

黒髪の美少女が跳ねて喜び、そのまま黒衣の大蜘蛛へと抱きつくと、

虫特有のクチクラ質ちっくな外骨格に覆われた頬へと頬擦りする。

 

「えへーかたーい。 あたしの美肌が削れます~」

 

「……だったらさっさと止めんか」

 

世の中広しといえども、大きな蜘蛛の化け物に頬ずりして喜ぶ

変態の領域に片足突っ込んだフェチ美少女はキアーラくらいだろう。

しかもその大蜘蛛の能力と性格は、魔界全土でも屈指の悪辣さなのだから。

その後、キアーラは10分近く頬擦りを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月の後、ゴルゴナの大研究室に一同が揃っていた。

一同とは、冥界の大蜘蛛ゴルゴナとキアーラ。

そして蘇生に成功した古代ムー人達…、

ツークーマン、オティカワン、トピアポ、フロレンシア、ポポルヴーの計6人と1体。

 

「誠にお久しゅうございますなゴルゴナ様」

 

後頭部・側頭部がでっぱった老人が深々と礼をする。

 

「ぐぶぶ…オティカワンよ……百ウン十年ぶりか。

 皆も息災で何よりだ……………トピアポもな」

 

かつて、勇者ロトの末裔アルスらとの戦いで1人、真っ先に脱落した長頭のトピアポ。

導師タオの神仙術による一撃で致命傷を負った彼は、切り離され見捨てられた経験がある。

 

「あ、あの時は…押し寄せる死に怯えるばかりでした、はい。

 しかし、今はこうしてゴルゴナ様の御力で…

 別個の体まで授けて下さり無事に甦りました。

 思い出してみれば、あそこで私を切り捨てたのは好判断でございます。

 感謝こそすれ、怨みには思いませぬ」

 

「よろしい………その言葉聞けて我は満足だ。

 未だに我を恨んでいるようならば、相応の対処をしたが…賢明だなトピアポ…グブブブ」

 

無感情なゴルゴナの単眼に見つめられたトピアポは、

「は、はぃ」と小さい悲鳴のような返事をするのに精一杯である。

 

(やはり、ゴルゴナ様は恐ろしい御方だ)

 

と、その様子を見て思うのはツークーマン。

短い小ざっぱりした髪を持つ長身痩躯で、エラが張った角ばった顔の男。

 

「キアーラから大体の事情は聞きましたわ。

 それで…わたし達は新たな主、大魔王バーン様の元で研究に励めばよいのですね?」

 

黒々とした美しい長髪を掻き上げながら、澄ました声で言うのはフロレンシア。

キアーラとは毛色の違う、高飛車な雰囲気のする美女で、

その近寄りがたい薔薇のような美貌に反して、

ムー崩壊の折に飛び立つ太陽王の飛空艇の衝撃波から

同性でか弱い(とフロレンシアが思い込んでいる)キアーラを庇ってやるなど、

意外に面倒見が良くて常識人である。

 

「目覚めてみればまさか異世界の、しかも魔界とは驚きましたが、

 わしらがこうしてまた全員無事で相見えようとは嬉しい限りじゃ」

 

うんうんと笑顔で頷く恵体の研究員・ポポルヴー。

 

「我ら、ムーの叡智を極めし7人……1万2千年の時を超え…死を超越せり。

 憎き導師タオ……太陽王ラ・ムーの裁きをも物ともせず我らは甦った。 

 我々の勝ちぞ………ぐぶぶぶぶ。

 タオの歯軋りする様が目に浮かぶわ………」

 

黒き冥王は肩を揺らし、唸り笑う。

その様を甦りし5人は少しの冷や汗をかきながら見つめ、

キアーラは心底嬉しそうに微笑んでいた。

 

「では皆さん、今後はあたしがナンバー2ですからそのようにお願いしますね。

 何と言いましても私が真っ先に復活して、魔王軍への貢献も頭一つ抜けていますから」

 

早速に主張するキアーラに、

 

「仕方ないのう。

 ゴルゴナ様はお忙しいようだし、誰かがわしらをまとめた方が効率も良かろう。

 本来なら一番の年長者であるわしが務める所じゃが、キアーラの方がここでの実績は勝る」

 

オティカワン老が応えた。

皆、若輩のキアーラがリーダーとなることに若干不満気で、

特にフロレンシアは同性の後輩が上に立つことに強めの嫌悪を抱かないでもない。

しかし彼らの最大の欲求は神の叡智に追いつき追い越すこと。

完全なる不老不死。 究極の生命。 極限の進化。 時と空間の究明と支配。

古代ムーで頓挫したそれらを追い求めることが出来るのなら、

誰がゴルゴナの代理を努めようが些細な事なのだ。

 

「皆の者………大魔王様から賜りし御力でもって………

 古に失われし異界の超文明ムーの力を甦らせるのだ」

 

ぐぶぶと愉悦に満ちた笑いをあげるゴルゴナ。

大魔王軍は、ムーの更なる超科学を手に入れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミストバーンが最重要で監視している人間の1人、

勇者アバンが拾った少年を弟子1号として教育し始めたという、

ゴルゴナにとって極めてどうでもいい情報が魔界にもたらされた頃、

 

「ゴルゴナ様……また失敗です。 5割を超えて力を発揮させると崩壊が始まります」

 

これで何度目のトライ・アンド・エラーだ。

軽く千を超えた失敗の数々に、

ゴルゴナの無表情な虫の顔に”不快”が浮かんでいるように見えた。

実を言えば、不老不死のゴーレムの開発は完了したのだ。

ムーの7賢人が揃った今、

かつて偶然とはいえ成功させたゴーレムの再現は比較的容易かった。

しかし、今ゴルゴナが求めているのは更なる高み。

 

「竜魔人と不老不死、不死身の両立が困難なことは当初から分かっていたこと。

 しかし、ムーが誇った貴様らならば不可能ではない筈………。

 何のためにうぬらを甦らせたと思っている……」

 

黒のローブから見え隠れする蜘蛛の瞳は、

射抜くようにキアーラを見据えていた。

 

「も、申し訳ありません……ですが、魔界の瘴気と魔力を吸って育った魔界樹は、

 世界樹の性質を有していながらもその属性を聖から邪へと変えております。

 竜の騎士と精霊の聖なる血に強い拒否反応を示すのです」

 

キアーラの提示した問題点はゴルゴナもとっくに知っていることだが、

どうにも解決しがたい難問としてムー人達の前に横たわっている。

葉と血…どちらも属性を弄ると品質が著しく劣化するのだ。

あちらを立てればこちらが立たず…なのであった。

 

「我らが用いている理論は、そもそも異界のものである。

 その世界にはその世界に合うコトワリが存在するものだ。

 だというのに、我らはこの世界の理にやや疎い………。

 現地人の頭脳が欲しいな………魔界に生きる研究者などおらぬものかのう」

 

年長者オティカワンの意見は的を得ている。

ゴルゴナも既に多くの時をこの魔界で過ごしてはいるが、

根本的には超時空を支配したムーの技術を使っている。

 

「えぇ、なるほど………確かに。

 魔界の技術と知恵に精通した者が必要ね。

 バーン様は魔界において全知全能というに相応しいが、

 その本質は研究者ではない。 あの方はあくまで支配者であり為政者。

 わたし達の求める解答を出せる分野の人ではない」

 

とは、フロレンシアの言。

 

「うむ……魔界の賢者の件は、いずれバーン様に聞いてみることとしよう。

 不老不死については成果がでているのだ。 色良い返事が期待できる……。

 だが、竜の肉体…魔の力…人の心。

 それらを反発させることなく両立させている竜の騎士は素晴らしい。

 成功例の一つとして……やはり入手しておくべきだったな。

 参考程度にはなったかも知れぬ………」

 

「そういえば……ミストバーン様がバランの行方を掴んだそうですねゴルゴナ様」

 

穏やかな笑みを浮かべつつキアーラが言う。

 

「ぐぶぶぶぶぶぶ………生きたサンプルが欲しいかキアーラよ」

 

「はい欲しいです♪」

 

にこやかに即答するキアーラ。

大量に投入された悪魔の目玉と、

更に追加されたメドーサボールらの昼夜を問わぬ地上監視によって、

地上で傷を癒したバランが、

魔界に未だ脅威あり…と警戒を解いていないのはバーンも知るところである。

地上のミストバーンからの報告で、

アルキード、テラン周辺の悪魔の目玉らが徹底的に排除されているのが発覚しており、

目玉の真空地帯に何者がいるのかを察するのは容易い。

殺気を放たず気配を殺して潜む目玉らを発見し、

魔王軍に気付かせずに始末できる存在など限られているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルゴナの陳情による、

バラン捜索のための地上への”炙り出し”は、バーンによって許された。

というのも、バーンは既に

天界が地上と魔界への大きな介入力を喪失していると確信したからである。

ヴェルザーの地上への大規模侵攻を察した天界が起こした行動も、

バランと精霊達の派遣、そして神代のマジックアイテム貸与程度であった。

太古、世界創世の際に振るった全知全能・森羅万象を司る万能の力は、

もはや多くが失われ残った搾り滓が奇跡の術である。

そして、その”奇跡”もバランを虫の息で地上へ逃すのに精一杯であったのは、

先の戦いで証明された。

バーンは自身の揺るがぬ勝利を確信したのだ。

竜の騎士も神の奇跡も、もはや自分を打ち負かす決定打足り得ないと。

地上消滅計画は大魔王の悲願であるが、

それですら遊び心をもって成すべき事と、バーンの価値基準が改められた。

不死のゴーレムにも目処がたった現在、

計画が失敗する確率が0になったとバーンが確信してしまったのだから、

ある意味で興冷めなのは仕方なかったといえるだろう。

であるならば、せめて楽しまねば。 それが大魔王の答えだった。

 

「…許す。 ゴルゴナよ。

 再び竜の騎士に挑み、捕獲を試みよ。

 そのためには、地上はおまえの好きなようにして構わん。

 ただし、ハドラーが目覚めるまでの12年間だ。

 ハドラーが目覚めた時……余は地上破壊計画の本筋を実行する」

 

「ハドラー………?

 あの魔王を拾っていたのですか……?

 彼奴程度が、どれ程バーン様のお役に立つというのです」

 

ゴルゴナの疑問ももっともだろう。

ハドラーは確かに優れた戦士ではあるが、

戦力としての総合力は3人の側近、ミストバーン・キルバーン・ゴルゴナに大きく劣る。

人間の勇者程度に敗れた三流魔王の命を救ってやる必要は無いように思えた。

 

「ハドラーは軍勢を率い、人間世界を大いに混乱させた。

 その指揮力は一定の価値がある………。

 だがそれ以上に余が評価しているのは奴の潜在能力だ。

 ハドラーはまだ若い……化けるやも知れぬ」

 

将来性は、確かにある程度ハドラーにはあるだろう。

自分も含め、ミストバーンらは完成した強さを既に持っており、

そうそう簡単にレベルアップは出来ないだろう、と冥王も納得する。

 

「天界に通用する最強の軍団を育成するには、

 成長する指揮官が相応しい……ということですかネ?」

 

大魔王と冥王のやりとりを見守っていた死神が口を挟んだ。

軽く指先から魔力を放った死神が大水晶の映像を切り替えると、

そこには傷付いた体を蘇生液で癒やす屈強な魔族の姿。

 

「そういうことだ。

 ………おお、そうであった。 

 ゴルゴナ、おまえが地上へ”狩り”に出ると同時に、余も大魔宮(バーンパレス)へと居を移す。

 バラン捕獲の成否に関わらず…一旦ことが終われば、おまえも大魔宮へと帰還せよ。

 お主に作ってもらいたい玩具があるのでな……フフフ」

 

下がって良い、と最後に呟いた大魔王に、

 

「ははっ」

 

即座に頭を垂れて冥王は拝命する。

 

「ボクもバーン様にくっついてくから、君とは地上でまた会うことになるかな。

 シーユーアゲイン、ゴルゴナ」

 

ひらひらと手を振る死神に「ああ」と短く返答しゴルゴナは玉座の間を退出する。

 

(バーン様とキルバーンも地上へ……。

 我が作る玩具とは………大魔宮の再改修か………?

 不死の竜魔人の研究を後回しにしても良いとは……

 バーン様の遊び心も過ぎるというものだが……ぐぶぶぶ。

 まぁそれもよかろう。 どの道我らの勝利は揺るがぬのだ……焦ることもない)

 

魔王軍の全ての者が、魔界の神の絶対の勝利を信じていた。

それを揺るがすことは神でさえももはや出来ない。

それは天の神々の1柱・聖母竜でさえも認める事実だった。

だが、これと時を前後して、天と魔、それぞれの神の予想さえ覆す

恐るべき小さな魔神がテランの片隅で産声をあげていたのだ。

その名はディーノ……アルキード王国の古き言葉で”強き竜”を意味する、

竜の騎士バランとアルキードの姫ソアラの子。

後の勇者ダイである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああそうそう。 バーン様経由で君に頼まれてた魔界の賢者だけどね」

 

ついでとばかりに、背を向けて去りゆく冥王にキルバーンはその名を告げた。

一人息子と僻地に隠れ住んでいる魔族で、

あらゆる生物の利点を詰め込んだ究極生物の研究に打ち込んでいるらしい。

 

(近いうちに我のもとに連れてくる必要があるな……ぐぶぶぶ)

 

大変な大蜘蛛に目をつけられたのであった。

その名はザボエラ。

後の不幸人である。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。