状況把握に混乱しつつ立ちつくす僕は、ある少女とぶつかって。
続くかは未定。
「あんたも提督やってるのか」
始まりは、唐突だった。コンビニの帰りに出会ったのは、やけに顔色の悪い男。上着についたフードを頭るその男に、気圧されて「はい」と答えてしまったのが、そもそもの間違いだったと思う。
「そうか……で、大型建造は出来るようになったのか?」
「えっ」
「大型建造だ」
男は更に聞いてきて、言葉に詰まろうとも容赦というものがない。
「良いから答えろ」
同じゲームをやっていると知り、親しみを覚えて聞いてきたとかそんなのとは全く違う。狂気すら感じるぎらついた目が僕を見据えていて、遅まきながらし始めた無視して逃げれば良かったという後悔が二巡目を向かえた。
(ここはまだ出来ませんって言えば――)
この場はやり過ごせるだろうか。
(いや、何か危ない感じだし、下手に嘘をついたら激昂して来るかも……さっきからポケットに片手突っ込んだままだし、「じゃあ、大型建造が出来るところまで手伝ってやろう」何て言われたら嘘がばれる……)
良くある二次創作モノならこの危ない男にナイフで刺されてゲームの世界に転生、何てテンプレに至るかもしれないが、これは現実だ。
「こ、この間出来るように……なりました」
迷ったあげく、僕は真実を話した。
「ほう、それで」
「そ、それで?」
「何を作った? 空母か戦艦か? へへへ、まるゆだったりすんのか?」
素直に話したからか少し機嫌を良くした態の男はニヤニヤしながら問いかけてきて、やはり正直に言って正解だったと思った僕は、続く問いにも正直に話した。
「資材がたまりませんからまだ数隻ですよ。……と、……と、……。それから――」
だが、これが拙かった。
「はぁ? ざけんな! 俺が回しても回しても陸奥なのに、なんだそりゃ?」
「あ」
攻略サイトの確率を見ると飛び抜けて良い方でもない。数隻分回してアタリと思わし艦は一隻だったのにそれでも男にとって許せないことだったらしい。
「ざけんなよ、……になれ。……なむ……なれ。あ゛ぁあぁあぁああーっ」
ブツブツと呪詛のようなモノを呟いた男がポケットに突っ込んでいた手を引き抜くと、手首から先にあったのは手ではなく、砲身で。
「みんな……に、む……になってしまえばいいんだ!」
「ちょっと待て」
ナイフなら解る、だが、何で片手が砲なんだ。
「あぁぁぁ、む、ぶべらっ」
「何だよ、何だそりゃぁぁぁ」
喚き散らしながら男がこちらに向けた砲口から迸った光に僕は飲み込まれた。最後にバランスを崩しすっ転びかけていたがそんなことを気にする余裕はない。
(ビーム、光線? ともかく、ないわー)
薄れ行く意識の中、こんな展開あってたまるかと僕は吐き捨て。
「……う、ここは」
どれ程時間が経過したのか、解らない。
(あれ? 僕の声ってこんな明らかに女性っぽい声だったっけ?)
目を開いたものの視界はまだぼやけ、はっきりとものを捕らえられず。それでも直前の疑問が嫌な予感に成長して行くのを僕は止められなかった。
(えーと、これって)
手を前に持っていこうとしたら、胸の辺りに柔らかな感触を覚えたのだ。しかも、それが身体の一部だという感覚もある。
「はっはっはっはっは、解る。ここまで来れば僕にも解るぞ。陸奥だろ? 戦艦陸奥。旧日本海軍の艦船を擬人化した少女の一人、つまり艦娘になってましたってオチだよね?」
この手の二次創作作品は何本か読んでいる。そしてあのイかれた男の言葉。背中に感じるずっしりとした重量は、艦娘の背負う艦装だろう。
「まぁ、動くには問題ない重量と感じてしまうのは、この身体が艦娘だか……」
そこまで言って、僕は固まった。露出した肌と腕が褐色だったのだ。スカートの色は似たような黒だったと思うけれど、陸奥の胸を覆っていたのはサラシでは無かったと思う。
「戦艦む、までは合ってる、合ってるけどさぁ……武蔵? なんで武蔵改?」
これは、あれか。あの男が最後に叫ぼうとした時転んで言葉が途中になったからか。
「いや、陸奥だったら良かったとか、そう言う訳じゃない。そう言う訳じゃないけどさ」
そもそも艦娘は提督に率いられて戦うものであり、何処かの鎮守府に配属されなければ整備のためのドックとかも使えないだろう。燃料弾薬共に今は満タンの様だが、今のままでは補充も効かないし、損傷したり負傷した場合に治療出来る場所もない。
(だいたい、ゲームは艦娘を率いて人類を脅かす深海棲艦ってのと戦うお話しだったと思うけど、僕に戦闘が出来るって言うのか)
身体は見たところ艦娘だし、艦装の重さもモノともしていないが、ここは陸の上。
(海に出たことさえないのに……って、ここ何処だっけ?)
そこまで考えてから、割と重要な問題へようやく気づいたのはこの状況を鑑みれば仕方ないと思う。
「建物のなか……廊下?」
窓からは陽光が差し込み、床に幾つも明るい四角を作り。
「はわわ、急がないと遅刻なのです」
「ん?」
後方から聞こえた声に振り返った直後だった。
「ふあーっ?!」
「っとお」
衝撃に蹌踉めいた僕はバランスを崩し、ぶつかってきた何かの上に、倒れ込んだ。
「はにゃあーっ?!」
「しまっ」
今、確実に悲鳴の主をお尻の下にしいた。
「ちょっ、大丈夫?」
「う……し、司令官さんに着任のあいさ……つ」
慌てて抱き上げるがそれだけ言い残して少女は気を失い。
「と、とにかく手当をしないと」
若干パニックになりつつ、僕は走り出した。
「って、どこに行けば」
数歩で足が止まったのは、現在地どころかここが何処なのかも解らなかったのだから、無理はない。
「何だガシャガシャと……と、艦娘か」
だからこそ、騒音を聞きつけてやって来た男性が居たのは、まさに天の助けだった。
「ええと、その子の事よろしくお願いします」
ドックに下敷きにしてしまった艦娘と思わしき少女を預け、ここを案内してくれた親切な男性にあの子の司令官が居る場所を教えて貰った僕は、一人そこに向かう。
(怪我させちゃったのは僕なのだから……)
色々思うところはあったが、全て後回しだ。
「し、失礼します」
ようやく辿り着いた提督執務室のドアをノックし。
「あー、遅かったっすね。君が」
「初めまして司令官。電です。どうかよろしくお願いいたします」
「お前のような駆逐艦が居るものか」
せめてあの子の代わりをしようと渾身の演技を見せたこの僕に、執務室にいた男の人は鋭いツッコミをくれやがったのです。
「ひ、酷いのです。ちょっとしたお茶目なのに」
初対面の上、相手は提督。つまり軍のお偉いさん。緊張を緩和するにはジョークに頼るしかなかったというのにあんまりなのです。
「……と言うか、見たところ戦艦の艦娘さんとお見受けしますが、私、新任提督っすよ? 鎮守府をお間違えでは?」
「し、新米? と、言うことは……この鎮守府の所属艦は」
「駆逐艦が一隻っす。もう来ても良い頃だったんっすけど」
「うわぁ」
その説明に僕は頭を抱える。さきほどお尻の下にしいてしまった子は、この鎮守府の最初に与えられる艦だったらしい。
(つまり、実質出撃可能な艦娘、0人ってことですよね?)
ゲームなら建造で追加の艦娘を長くて数時間で作れたはずだが、ゲーム通りなのかも定かでない。最悪代わりの艦娘を着任させるのに時間がかかることだってあり得る。
「ごめんなさい」
自分のやらかしたことの重大さにとりあえず、僕は目の前の提督へ土下座したのだった。
武蔵も陸奥も「む」までは同じだと思って書いた本作品。
今のところ陸奥は二隻しか出てません。(闇谷の鎮守府では)
とりあえず、初期艦が武蔵改とか運用まず無理ですよね、燃費的に。
ともあれ、たまには別原作の話を書いてみれば以前の勘とかギャグのキレとか戻ってくるかと思ったのですが、うーむ。
もうちょっとギャグパート増やしておふざけしても良かったかも知れませんね。
もっと精進しないと。