バカテスト
第29問 思いがけない出来事に驚きあきれて声も出ない様子の事を何というか答えなさい
【木下優子の答え】
唖然
【和泉剣のコメント】
正解です。ちなみに呆然は気を失うぐらいの衝撃という意味です。使い間違えないようにしましょう。
【工藤愛子の答え】
鼻血を出すムッツリーニくん
【和泉剣のコメント】
あきれたり笑ったりする前に人命救助はしてください
【吉井明久の答え】
ムッツリーニと同列なんて納得いきません!
【和泉剣のコメント】
君の古典の点数には私も唖然としました。
○
俺はここに来る前大学で歴史を学んでいたということは以前も少し話をしたと思う。専攻はみんな大好き戦国時代を中心にやっていた。
当然戦国大名について調べることもあったのだが文献などを調べるとかなり昔から(古代から)男性同士の同性愛は存在しているうえそれを縛るような法律はなかった。(明治期には一時期だが違法だったことがあるようだが)
これらは男色と呼ばれ明治初期ぐらいまでは公然と行っていたという。俺が専攻していたのは戦国時代だったので戦国時代の話で進めるが森蘭丸や前田利家といった小姓と呼ばれた人たちはそういったこともしていたらしい。実際日本にやってきた宣教師たちはこのような行為が行われていることにかなり不快感を示していたという記述もあるぐらいだ。
……何が言いたいかというと昔は久保が望んでいることが当たり前に行われていたが今は必ずしもそれを肯定する社会状況ではないということだ。少し前にドイツの大臣が同性愛者であることを告白したりしたのがニュースになる、そんな世界だ。
では、こんな世界で同性愛を告白した男子に教師はどんな言葉をかけるべきだろうか?
…………
「分かるかぁ!!」
『先生!? どうかしましたか?』
「あ、あぁ……悪い。ちょっと叫びたくなってな」
分かるわけねぇだろ! 俺もそういう世界で生きてきた人間だし何をどうしたらいいのか分かるわけがない。恐らく吉井は普通の人間だからこの男子(誰だかわからないが)の恋が実ることはないと思われる。
……高確率で失敗するであろうこの状況、一体どうしたらいいのか……無理だと言い切った方がいいのかあるいは……
相談するにしても先生たちもこんな案件を持ち込まれても困るんじゃ……(似た理由で犯罪行為をして謹慎している奴はいるけどあんま関係ないし……)
とりあえず今のそういったことに対する現状とこの子自身の考えを聞き出すことにしよう。何分情報が少なすぎる。
「……はっきり言うと今の社会でそういうことに対する視線はいいものじゃないしそういう事で不快に思われる事もあるかもしれない。それについて君がどう思っているのか聞きたい」
『確かにそう思われる事もあるかもしれないですがそんなことは些細なことでしかないと思います。時と場所を選べば問題ないと思います』
「……近隣住民とかが文句を言いにきたら? あり得ない話じゃないと思うし」
『そうなったら同姓婚が認められる場所に引っ越します!』
……なんでこの学校ここまで頑固な奴が多いんだろうか。よく言えば意志が固いというんだろうけど。
ピーンポーン
「下校時間のチャイムか……悪いけど今日はここまでいうことでいいかな?」
『分かりました。できれば明日もお願いしたいんですけど……』
「…………わかった。予定に入れておく」
○
時間切れで今日はなんとか帰ってもらえたけど明日も来ることになってしまった……マジでどうしよう……。
確かに今まで元の世界じゃいろんな相談を受けてきた。しかしこれはまったく経験のない事だしどうしたら……
もう悩んでいてもしょうがない! この際迷惑とか考えない!
「というわけなんですがどうしたらいいでしょうか?」
「…………俺に言われてもな。木下の事がとか言った奴と同じことを言うことはできなかったのか?」
「かわいければ何でもいい連中と同じにするのはどうかと思いまして」
「とはいっても俺も長いこと教師をやっているがそういうのは経験がない」
ですよねー……まぁそんな生徒に遭遇することはそうないだろうし……
「事情を知っているからこそそういう悩みが出てくるんだと思うが違うか?」
「……確かにこんなに事情を詳しく知っている状況で相談を受けたことはあまりなかったと思います」
「だからといって気を張るな。いつも通りやればいい。それが誰だか俺にはわからん。生徒を支えるのは教師だが経験させることで教えるというのも教師の教え方だと俺は思っている」
生徒に陰口叩かれるのも仕事の内……確かに生徒だったころは嫌いだった先生でもいざ卒業して離れてみてみると役に立っていたこともあった。たとえばいいノートの作り方とか。当時は面倒で仕方なかったのに何時の間にか癖になっていたりした。
それに俺が受けてきた相談の中にもそういうものもあった。状況こそ違うが全てがハッピーエンドに行ける世の中甘くはない。ただそれでも俺はそんな状況でもなんとかそっちに無理にでも持っていこうとしていた事もあった。どこかそういう事を認めたくない気持ちがあったんだろう。後変なプライドも。
「わかりました。一応最善は尽くします」
「まだ半人前なんだ。何かを恐れず中途半端で動くな。やって後悔だ」
「……すいません」
やっぱりまだまだ学生の延長線。教師としても大人としてもまだまだだ。
○
翌日の放課後、昨日の相談者は時間通りやってきた。
「んじゃ再開するけど……先に言っておくことがある」
『? なんでしょうか?』
「今から言うことは君にとっては相当きついことだと思う。でもあいにく俺もそれ以外の解決法を思いつかなかった。聞きたくないと思ったのならこの部屋から出ていってもいい。それで誰に文句を言われるわけでもないしね」
そういったところ向こうでは考え込んでいるのかしばらく沈黙が続いた。
『いえ、大丈夫です』
「……本当に大丈夫?」
『はい』
「…………じゃ続けるよ」
注意はした。この先どうなるかはわからないが精神力が持つことを信じたい。
「単刀直入に言うけど君のその感情が今の状況下で実る確率は一パーセントもないと断言してもいい」
『!?』
ガタッという椅子を倒してしまった音と同時に立ちあがったようだ。睨んでいるのか絶望なのか表情をうかがい知ることはできないが動揺しているのだけは分かった。
真面目そうな生徒である以上余計な隠し立てをするよりもはっきり断言してしまった方がいいと思っての事だけど……どうなるか……