ワンパンマン ~最強の超能力者~   作:沼木

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復活?のF

 夜の7時。24時間営業のハクが助っ人として働いていたコンビニでは、この時間帯に昼と夜のパートに別れる。つまりハクの勤務はこれで終了だということだ。

 

「はぁ、今月ヤバイな………節約しないと生きてけない」

 

 帰り道、ハクは大きな溜め息をつきながら、投げ捨てるように財布の中身を見た後の感想を言った。

 

 5万。そして今月はあと20日。

 幸いなことにハクが住んでいるアパートの家賃は月2万と少々安い。しかし、それでも3万だ。

 

「あ、ヤベ。依頼来ないとリアルで死ぬな。うん。元SS級ヒーローともあろうものが餓死とは……情けない。おいおおい、俺の人生詰みすぎなんだけど」

 

 ハクの目は、諦めの眼差しを見せていた。

 本当に今月生き抜くことを諦めているのかもしれない。実際に何日かは水だけでギリギリ生活できるものの、ハクはこういうことに関しては、ネガティブに考えすぎるのだ。

 

 3年前の面影など、微塵も残っていない。同時の知り合いが今のハクを見たら、鼻で笑ってしまいそうな程だ。

 

「………そういや、あのハゲマント、結局弁当取りに来なかったな………いやあ美味しかった。うん。一食浮いて助かった。ハゲマントに感謝だな」

 

 ハゲマントーー改め自称趣味でヒーローをやっている男は、怪人が現れたであろう寸前に既に代金は払っていた。

 では、暖めた弁当はどうなるのか?勿論、彼が取りに来るまで待っているべきだが、ハクは勝手に決めつけたのだ。ーーあいつは死んだと。

 必然的に、一度暖めた商品は売り直すこともできずに処分することになる。

 ただ、ハクがそれを処分しただけ。腹の中に納めただけ。ただそれだけなのだ。

 

「ん?」

 

 ハクの目の前で一人の少年が歩いていた。

 フードを被って、下を向いて俯いている。今は夜の9時であり、このハクの住んでいる地区は比較的人口も少ない。

 

 こんな時間帯に昼と小さな男の子がそとを彷徨くのは、珍しいことだが、不可思議で不自然なことではない。

 

 

 ーーその少年が、溢れんばかりの殺気を放っていなければ、だが。

 

 

 ハクと少年がすれ違う。

 

 次の瞬間、少年のフードの腕の裾が怪しく光った。

 掌から刀が出てきたのだ。

 そして一般人には目にも写らぬであろう驚異的なスピードでハクへと斬りかかる。

 

「ああ、最近ここらで五月蝿い辻斬りってのは、お前のことか」

 

「っ!?」

 

 いつのまにか、ハクは少年の真後ろへと移動していた。

 

「へへ、速いな………これは斬り甲斐があるってもんだ」

 

 少年がフードとると、中からは黒い装甲につつまれた灰色の肌をもつ、人間の顔をした何かが飛び出す。

 当然だが、少年は人間ではなく怪人だ。

 化物だ。

 

「俺の名前はキリギリー!へへそうさ。その辻斬りってやらは俺のことだぜ!キヒャヒャヒャ!!………あ?なんで辻斬りなんてするかって!?そりゃあ生きてる動物を斬ったときの感触が最高だからさ!その中でも生きてる人間は………」

 

「聞いてないんだよ。よく喋るなお前」

 

「………」

 

 キリギリーと呼ばれた怪人は、ハクの一言と共に喋らなくなった

 否、喋れなくなった。

 

 ーー顔が、ハクのすぐ斜め上から発射されたレーザーのようなものによって、消し飛ばされたからだ。

 

「はぁ、加減したつもりなんだが、地面が焦げてやがる」

 

 ハクは一直線に出来た地面の焦げ目を見ながら呟く。

 そして再び顔をあげ、顔を失った怪人を見つめる。

 

「あんなの避けれないんじゃ、どっちにしろお前長くなかったぞ。良かったな。最後は楽に逝けて」

 

 その言葉が場を包み込むと、怪人の体が前に倒れる。

 ーーそしてそのまま、顔を無くした状態まま、夜のアスファルトの上で動かなくなった。

 

 

 

 

 翌日。

 昨夜のできごとを気に止めることもなく簡単に眠りについたハクは、難なくいつも通りの朝を迎えることとなった。

 

「朝の10時か………二度寝しよ」

 

 依頼がない。仕事がない。金もない。無駄な体力を使うべきではない。

 そう結論付けたハクは、いそいそと再びベッドの布団の中に潜り込んだ。

 

「仕事がないって、幸せだな…………金もないけど」

 

 贅沢な暮らしをして泣いたため、ヒーローとしての貯金も既に底をついた。もはや仕事を選んでいる暇はない。どんな依頼でも確実にこなすしかないのだ。

 

 そのとき、けたたましいと表現するほどではないが、ハクの眠気を吹き飛ばすには十分なインターホンの音が部屋中に鳴り響いた。

 

「いらっしゃい!!」

 

 ここまでの時間、およそ5秒。着替えて顔を洗って寝癖を直す。これをすべて5秒でハクは行なったのだ。

 

「あ、便利屋さんはここであってますか?」

 

「ああ、そうだよお嬢ちゃん!依頼か!?」

 

「えっと……その、はい」

 

「そうかそうか、ささ!入って入って!」

 

 ハクは少女をそそくさと手招きし、部屋の中へと案内する。

 中は片付いているというよりも、あまり家具や荷物が無い。バラバラになる以前に、物がなかった。

 

 部屋の中心にある細長いテーブル二つと、それを三方向から囲むロングソファ。のこりの一方向には大きな液晶テレビが設置されている。

 ハクがロングソファの一角に座ると、それに続くように少女もハクの対角線上の箇所に腰を下ろした。

 

「じゃ、仕事の話をしよう。依頼に来たんだろ?」

 

「はい。えっとじゃあ………お、お金払うので、家出した私の猫を探してください!」

 

「………猫?」

 

「はい」

 

「猫、迷子の猫探し………あー、はいはい分かった了解」

  

 仕事に手応えなど求めていない。しかし、今回の依頼は本当に子供らしい拍子抜けの依頼だった。

 正直、今のハクにはやる気も誠意もない。もしこれが人間ならばこんな所に依頼しに来たりしないだろう。

 

(全く、ここを何でも屋と勘違いしてないか?………あ、何でも屋だったっけか)

 

 ハクは頭をポリポリと掻き、気だる気に少女と顔を会わせる。

 

「取り合えず、猫の名前と写真見せろ」

 

「これです。名前はココアです」

 

「ココアね。どれどれ」

 

 少女が出した写真を受け取り、その写真に写った生物を確認する。

 そしてそこに写っていたのは……。

 

 

 ーー熊のような巨体をした、赤い目のバケモノだった。

 

 

「あの………これ何?」

 

「え、何ってココアですけど」

 

「……………あ、そう」

 

 ハクは顔を渋らせる。

 おもむろに口を開くと、直後声のトーンが若干低くなった声が口から発せられた。

 

「えっと、あのな、これは猫じゃないんだが」

 

「はい?いや猫ですよ?ココアもそう言ってましたし」

 

「うん、でも…………ハァ!?ココアが言ってた!?」

 

「は、はい。『俺様は猫である。名前はまだない』って」

 

「いやそれ猫じゃない!喋った時点でもはや動物じゃないだろ!」

 

 その場を包むのは、静寂。

 少女もハクも表情を崩さぬまま、動かない。

 

「新種の猫なんじゃ………」

 

「いや違うから。これ多分怪人だぞ?お前のこと食おうとでもしてたんじゃないのか?」

 

「そ、そうだったんですか。…………あ、よく見たらこれ猫って言うより熊ですね」

 

「今更かよ」

 

「あ、えっと、じゃあ依頼なんですけど……」

 

「はいはい。無しってことね。じゃあ俺二度寝したいから、とっとと出てってくれ」

 

「はい……」

 

 羞恥によるものか、少女は少しだけ顔を赤らめていた。

 バックに写真を詰め込み、せっせと帰り支度をすませる。

 小走りぎみにドアまで移動したのを確認すると、ハクはドアの開閉音とともにソファの上で寝転び、意識を手放した。  

 

 

 

 

 窓の外から差し込まれる夕陽により、ハクは目を覚ます。

 

「あ?………ああ、ソファで寝ちまったか」

 

 上半身を起こし、時計を確認する。時計の針はきっかり1時を示していた。

 

「昼、コンビニ弁当でも買いに行くか」

 

 そう言いつつも、ハクの右手はテーブルの上にあるテレビのリモコンに伸びる。

 テレビをつけると、そこではニュースをしていた。

 どうやら、ハクの住んでいる付近の住宅の前で、昨夜顔が吹き飛ばされた怪人の遺体が発見されたようだ。ヒーロー協会はこれを怪人同時の殺し合いと見て、捜査を進めている様子。

 

「いや、それ俺だから。なんか騒ぎになっちまってるみたいだな」

 

 テレビの画面が切り替わる。

 ハクがリモコンで操作をしていないにも関わらずだ。

 

『臨時ニュースをお伝えします!』

 

 ニュースキャスターは声を荒げていた。

 

『えー、現在!Z市で災害レベル「鬼」の怪人が出現した模様!付近の住民は至急避難するように!』

 

「へぇ、怖いな」

 

『あ、映像が繋がりました!』  

 

 画面半分に、熊のようなバケモノの映像が写し出された。

 咆哮をあげて、近くの建物の窓ガラスにヒビを入れている。

 

「………ココアじゃん」

 

 そのバケモノは、今日依頼をしにきた少女の持っていた写真に写る、ペットのココアそのものだった。

 

『ああ!いたいけな少女がバケモノに狙われている!』

 

「あ、さっきの依頼主のガキ」

 

『「まてバケモノ!その少女に手を出すな!このタンクトップタイガーが相手になろう!」』

 

「タンクトップタイガー?……誰だそれ」

 

 名前の通りタンクトップの巨体の男が、ココアと対峙する。

 体の大きさではココアのほうか1.5倍ほど大きいが、タンクトップタイガーもそれに負けず劣らずの威圧感を出していた。

 

「ああでも、こりゃあいつ死んだな。ハァ、最近のヒーローは調子に乗りすぎだ。相手との力の差は見誤るなっての」

 

『「ああ!?なんだテメエ!俺はこのメスガキに用があるんだよ!今まで散々飼い主面しやがって、ついさっき俺の活動に必要なエネルギーを補給し終えた!テメエにわかるか!?こんなメスガキにキャットフードとミルクを飲まされ続ける屈辱の日々が!!」』

 

「ふーん、キャットフードから栄養とってた訳か。つかカメラマン逃げろよ。命張りすぎだろ」

 

 案の定、ハクの予想通りタンクトップタイガーはココアの一撃で地面に膝をつく。

 悶絶しながらもココアを睨み付けるが、ココアと目があった一瞬、怯えたようにも見えた。

 

『「が、がんばれタンクトップタイガー!」』

 

 何処かからの応援の声が、ハクに向かってカメラ越しに伝わってきた。 

 

(…………こりゃダメだ。あいつじゃ殺される)

 

 ゆっくりと重たい腰を上げながら、ハクは立ち上がる。向かう先は、ベッドのある寝室。

 扉を開くと、そこには雑にしわくちゃになった毛布が被さったベッドがあった。

 そしてそのすぐ手前。クローゼットの三番目の戸棚に手を伸ばす。

 

「今回だけだぞ。感謝しろよガキ………」

 

 取り出したのは、ハロウィンのコスプレで使われそうな、道化師を連想させる絵が掛かれた仮面だった。

 

「カメラもあるみたいだし、素顔じゃ不味いからな。まさか、これまた使う日が来るとは」

 

 仮面をつけると、ハクはすぐさま窓の外から宙を舞い、地面に飛び降りた。

 

 

 

 

 この日、夜のニュースは全て同じ内容を報道していた。

 おそらく、翌日の新聞の一面もこのことでいっぱいになるだろう。

 

『SS級ヒーロー・ファントム復活』と。

 

 

 




復活のFは、復活のファントムって意味です。
実際はヒーローに復帰して無いんですけどね。
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