気がついたらONEPIECE世界で霊体になっていたんですがこれは(仮) 作:無闇
「5億で買うえ」
そう言った天竜人の顔はとても満足気に笑う。
もう勝ったと思っているのだろう。確かにそうだが。
「え、えー。会場、言葉を失っておりますがー…一応お聞きします。5億以上、ありますでしょうかー?」
5億なんて大金、そうそう手にする物でもなく使う物でもない。
ましてや、珍しい人魚だからってそこまで使って買う者もいない。
相手が悪過ぎたのだ。天竜人、世界貴族である彼等は金が湯水のようにある。いるだけでお金が入って来るのだから、それはもう天職だろう。働いていないが。
皆が皆、悔しがった。それはもう、歯を食いしばり拳を握るほどには。
ただ、この会場の中で一番悔しがっているのは麦わらの一味とその友人達だろう。何せ、たった今天竜人に競り落とされた人魚のケイミーは彼等の友達なのだから。
友達が奴隷にされる。だけど、もう打つ手がない。物理的に奪い返すにしても天竜人がいるのだ、海軍大将を呼ばれては一溜まりもない。
トントントン、時間切れの合図が鳴る。司会者ディスコは予想だにしなかった大金に内心浮かれながら、マイクに向かって口を開いた。
「時間切れです」
人魚族ケイミーが天竜人チャルロス聖の物となる地獄のカウントダウンが始まった。
タイムリミットはこの司会ディスコが言葉を紡ぎ終えるまで。
さぁ数えよう、まずは5。
「それではこれまでとさせて頂きまぁす」
先程の出来事をとんだ茶番だと言ったユースタス・“キャプテン”・キッドは仲間を引き連れて、会場の出口へと向かった。
そこでステラが彼等の存在に始めて気づいたのは余談だ。
4。
「本日の超目玉、人魚のケイミーは」
ステラは帽子の位置を直しながら、改めて司会者を見る。
何故、横髪はストレートなのに後ろ髪はうねっているのだろう。まさかわざわざパーマを当ててるのか?
元々少しだけ天パよりのストレートなステラは、その当てる意味がわからないからだ。彼女は元々綺麗なストレートになりたいと常々思っている。だから、その意味がわからない。
しかし、まず前提に天パとパーマは少し違うということをステラに誰か教えてやって欲しい。
3。
「世界貴族、チャルロス聖の5億ベリーにて」
チャルロス。可笑しな名前だとステラは笑う。
天竜人は皆こんな名前なのだろうか。親はどうしてそんな名前を付けたのか聞いて見たくなる。
まぁこの名前にも意味があるのだろうきっと。
その前にあの鼻水を垂らした顔はどうにかならないのか、とステラは思った。どうにも綺麗に垂らしているその鼻水を見るとベトベターな奴を思い出してしょうがない。ステラはそいつが粘っこくて嫌いだった。
2。
「落札を!」
会場出口に向かっていたキャプテンキッドとその仲間達だが、外から聞こえてきた声に立ち止まる。
うわぁあと小さかった悲鳴はだんだんとデカくなって行き、確実に此方に向かってきていた。
1。
「決てぇー」
い、と言おうとし木槌を振り落としたディスコだったが、木槌で叩くと同時に聞こえてきた爆音に驚く。
前方から見えてきたのは、大量の砂埃と太陽の明るさ。以上の事から踏まえて、誰かが壁を壊して来たことは確実であった。
そして、扉付近にある客席の一部が壊れていることも。心なしかそこらで何人かが伸びている。
「何だよ!お前!!もっと上手く着陸しろよ!!」
途端に聞こえてくる不満そうな声。
子供のように明るく声変わりもしてないのではないかと疑うほど高いその少年ボイスを持つ青年は、会場中の注目を浴びた。
半ズボンに青いノースリーブ、麦わら帽子を被っているその青年を見てステラは目をキラキラさせた。主人公だ、主人公がいる!と。
今、世間を賑わせている破天荒な奴。麦わら帽子がトレードマークの彼の名は。
「ケイミーは何処だっ!!」
麦わら海賊団船長、通称“麦わらのルフィ”の名で知られるモンキー・D・ルフィ。賞金、3億ベリーの大物だ。
一々騒がしい彼の登場にローは笑う。その真意は同じ一族だからか、それとも別の感情から来ているのかわからないが、ローは彼がここに来ることを予想していた様にも見えた。
ルフィはケイミーを見つけるとステージに対して走り出した。友人であるハチの制止も聞かず、ただ走り続ける。大の大人が両手を使って止めているのにも関わらず、同じ速さで走る彼は見た目に反して筋肉質かも知れない。
残念、もうあと四本ぐらい腕があれば止められたのに。
そうステラが思ったのと同時にハチの着ていたジャージのボタンが外れる。そこから出て来たのは四本の腕。しかも吸盤が付いていた。
「キャァアアア!!」
富豪達の誰かが叫んだ。声からして女性だろう。
女性の悲鳴と言うものは何故こうも耳を劈くのか。ステラは知らず知らずのうちに顔を顰める。
ハチが魚人だとわかった客人達は、ハチから遠ざかりながら罵倒を浴びせる。中には自身の番号札を投げたり、本を投げたり。何故この会場に本を持って来ているのかは謎だが、それよりこの現状に麦わら達やハートの海賊団も驚いていた。
「差別か…魚人の方が身体的能力は上なのにな」
「存在がwww怖いwwwww」
「何を笑ってるんだよ、ステラ」
客人の一人が言った“やめて近寄らないで、存在が怖いわ”という台詞が何故か彼女のツボに入ったようだ。
ローはそんなステラを見てハァとため息をついた。ステラのツボが可笑しなところにあるのを知っていたが、この状況で笑うとは…結構大物ではないか。
それよりもよくそんな声が聞こえたな、と思う。ローにはその台詞は聞こえなかったからだ。
--パァアアン…!
その時、銃声が響いた。
同時にぐらりと傾き、倒れ階段を転がり落ちて行くハチ。
ハチは途中の段で止まったが、そこから流れる赤い液体は彼が先程の銃声に合わせて撃たれたということがわかる。
ただ、その発砲した本人はニヤリと笑って喜んでいた。
「見てください!お父上!魚人を仕留めましたえ」
ハチを撃ったのは、天竜人チャルロス聖。
鼻水を垂らして笑うその姿は、とてつもなく醜い。人を撃っておきながら両手を上げて飛び跳ねるなんて、尚更。
シャボンディ諸島では、魚人族と人魚族を差別している。例え魚人が人間の十倍の腕力を持ってたとしても、例え人魚が水中で世界最速だとしても、人間にとってはただの魚だったのだ。
何十年か前には、魚人と人魚は人類と同じ区別にされたが、今でもその差別は続いている。そう、例えば…傲慢な貴族共とか。
「はぁ、撃たれてよかったわ…何するかわかったものじゃないし」
「例え二足歩行しようと、脳はただの魚だろう」
魚人であるハチが倒れて、安堵する貴族達。
貴族と言うものは物凄く身勝手である。権力や金がある結果なのだろう。こういう馬鹿やクズが王になったりしたら、国は消滅するだろう。
金とかで何でも解決すると思ってしまうのだから。まぁ大抵はそうだが。
この世界貴族なんぞ、以ての外。世界一の権力を持っているので、口にしたものは何でも叶う。そんなクズには海賊も手を出さない。海軍大将が来るからだ。
実力が大将並みにあればいいが、大抵の海賊はないだろう。権力以外は一般人に等しい天竜人を殴るのは容易い、だが海軍大将は無理ゲーである。そんな危険、誰も犯したくはないだろう。
……この男以外は。
「なんだえ、その目は」
麦わら帽子がトレードマークの、“麦わらのルフィ”。
この青年は一度仲間や友達と決めたのなら、助けたり護ったりする情に熱い男だ。
それは今回も一緒で、友人であるハチが撃たれ、貴族達はそれを喜び、目の前のシャボンを頭に被ったブサイクはもう一度ハチを撃とうとした。
もうすでに彼の怒りは頂点に達している。
彼は一度決めたら、誰が何を言ってもやめたりはしない。拳を握り、ゆっくりと階段を上がっていく。
「麦わら屋?」
「本気か?」
今まで傍観していた、ローやキッドは今からするであろうルフィの行動に見当が付いた。
誰もがルフィに注目する中、当の本人はチャルロス聖が撃った銃弾を避け、拳を下から大きく振りかぶり……そして。
「うぉおおおおおおっ!!!」
「何をっぶふぅっ!!」
殴った。
頭に被っていたシャボンも割れ、頬にパンチを受けたチャルロス聖は流れるように飛んで行き、椅子や物、床を壊しながら止まった。
それで生きているのかは謎だが、多分生きているのだろう。天竜人は結構タフだと聞いた。
「ふんっ!」
殴り終わった拳を下に勢い良く下ろし、鼻から息を吐いた。たったこれだけの行動でも、彼が相当怒っていたのがわかる。
ルフィは自身の麦わら帽子を頭に被るとニッと笑った。その笑顔は先程天竜人をぶっ飛ばしたような強者には見えない。
「わりぃおめーら、天竜人ぶっ飛ばしたら海軍大将が軍艦引っ張ってくるんだってさ」
その事実を知った上で殴ったのか。聞いた通りの破天荒な奴だと、ローは思う。
さて船長がこうも破天荒なら、麦わらの一味全員は必然的にそんな船長に感化されるだろう。現に全員、ルフィだから、の一言で片付いている。
「きっ貴様等っ!よくもチャルロスをっ!!」
チャルロスの父親であるロズワード聖は自身の杖をルフィに向かって突き出し、銃弾を撃った。どうやらその杖は銃だったようで、両手で抱えながら撃っていた。
しかし慌てているのからか、一発も銃弾が当たらず、麦わらの一味コックであるサンジの蹴りによって銃を手放してしまった。
因みにロズワード聖が銃弾を撃った時から客人はもう既に逃げて行っている。
この会場にいるのは、司会のディスコ、オークションスタッフと傭兵。麦わらの一味とその友人。ハートの海賊団にキッド海賊団、そして奴隷になりかけた者達だけである。
天竜人は人ではないので、わざと数えてはいない。
オークションスタッフと衛兵は自らの武器を持って、麦わらの一味に立ち向かう。目的は事態の沈静化。
もう既に天竜人が殴られたので、事態が静まるとは考えにくいが…それでもマニュアル通りに動くのが、契約社員である彼等の役目だ。
だが、少し訓練して一般人を取り押さえる事は出来ようとも、相手は全員賞金首である。事態が片付く訳もなく。
衛兵達はやられて行った。そりゃそうだろう、弱い者は強い者にやられる…自然の摂理だ。
オークション会場で暴れ回る海賊達に激怒したロズワード聖はすぐに自身の部下を呼び、海軍大将と軍艦を呼ぶように指示した。
「麦わら屋のルフィ…懸賞金、3億ベリーか…」
ボソリと呟いた言葉を拾ったのは、ハートの海賊団クルーだけ。
船員達は船長の言葉には反応しないが、副船長だけはクスリと微笑んだ。
「何?興味持ったの?」
「まぁ…な、って何だその紙」
隣に座っているステラに目をやると、その手には四角形の少し分厚い紙が。そして後ろに座っているシャチからマジックペンを受け取り、ふふっと妖美に笑った。
「色紙よ、知らないの?」
「いや、知ってるが…何故それを今持っているんだ?」
「何故って…それは勿論、麦わら屋さんにサインして貰う為よ」
「……意味がわからん」
はぁとため息をつく。
ステラはこの状況をわかっているのだろうか。いや、わかっているからこそのこの行動なのだろう。
何せ彼女はこれから一味に起こる出来事を知っている。
転生者で原作知識を持っている彼女だからこそのこの行動なのだが…機から見れば異常な行動である。
そうこの冷静で残酷だと知られる“死の外科医”にため息を吐かせてるぐらいなのだから。ステラに言えば、ローは頭が固いと言いそうだが。
ローは自身の船である潜水艦の、ステラの部屋を思い出す。副船長の部屋として設けられているそこの壁には確か、同じような色紙が何個か並んでいた。
サインは大抵が名前だが、字体が独特だ。パッと見ただけでは何が書かれているのかすら、わからない。ローにも、ステラが飾っている色紙が誰に書いてもらったのか見当がつかなかった。
ただ一つ分かることは、誰にだってサインを求めているわけじゃなさそうだ。
そこまで考えて、目の前に目をやる。ちょうど、天井から次々と新しい麦わらの一味と思われる人物達が落ちてきた。そこで、ロズワード聖が下敷きになるのも見えてしまった。ローは目を逸らすように帽子を少し深く被り直す。
一味の航海士“泥棒猫”ナミの言葉で、麦わらの一味全員が集まったを知った。
「急がないと、軍艦と大将が来ちゃう!」
そうナミが叫んだと同時に、ローがピクリと反応する。
ウソップの悲鳴を無視し、ローは口を開いた。
「海軍なら…もう来てるぞ…麦わら屋」
「(何故そこでルフィに声をかけた!?)」
ローが言い放ったその言葉にステラは心の中で突っ込む。
麦わら海賊団の船長だから、という理由で声をかける相手を選んだのだが…別に麦わらの一味全員でも良かったのでは?とステラは小首を傾げた。
そんなステラを他所に船長同士の会話は進む。
「何だ?お前。何だ、その熊」
ルフィは敵を殴った後、ローの方に振り返る。
やはりなのか、白熊であるベポが気になるようだ。ハートの海賊団にとっては慣れたが、初見で見るとなんだこいつとなるのは必然のようで。
何度もその反応を見てきたハートの海賊団クルーは、あぁやっぱ気になるよね、と苦笑した。心の中でだが。
「奴等なら、オークションが始まる前からずっとこの会場を取り囲んでいる。この諸島に本部の駐屯所があるからなぁ」
気怠そうに言うその言葉は会場中に響いた。
「誰を捕まえたかったのかは知らねぇが…まさか、天竜人がぶっ飛ばされる事態になるとは思わなかっただろうなぁ」
フフフと笑う。
その声はとても愉快そうで嬉しそうに聞こえた。
その笑顔に釣られたのか知らないが、ステラも同じように笑った。いや、多分合わせたのだろう。ステラは空気を読む子である。
「面白いものを見せてもらったよ、麦わら屋一味」
「ありがとうね」
ニヤニヤと笑うその二人は異常で、髪型や体型以外は全くの瓜二つ。
気怠そうな目や隈、服装までもが全て一緒。双子だと思うぐらいには。
実際には違うが。
「貴方達…トラファルガー・ローとステラね。ルフィ、海賊よ」
「え?その熊もか?」
熊と言われたベポは小さく頷く。
その返答にルフィははぁーと驚いたように、麦わら帽子を抑えながら言った。
「それに、あそこの彼…ユースタス・“キャプテン”キッド」
「えぇ!?ルフィさんより懸賞金が上という!?」
ひえぇ!とウソップとブルックは驚く。恐怖から来ている驚きだろうか?その顔には冷や汗が流れていた。
そんな中同じように冷や汗をかき、ゴクリと唾を飲んでいる者がいた。サラサラとした金髪にスーツが似合うその者とはサンジだ。
そのサンジの異変にウソップがいち早く気づき、どうした?と声をかける。
「…今まで気づかなかったが…トラファルガーの隣の」
「隣の?」
「ステラちゃん超綺麗だッ!!」
「やっぱりかよ!!」
大体想像ついていたウソップは、はぁと呆れた。
確かにあれはナミとロビンと並ぶほどの美女である。だが、こんな状況でそれを言うだろうか?
今まで気づかなかったと言っていたが…その時まで周りを見る余裕がなかったのだろう…そう思いたい。
ステラを見たサンジは目をハートにしてクネクネと左右に動いた。サンジ特有の求愛ダンスである。
それに気付いたステラはニコリと微笑み、サンジに向けて手を振った。
「いっ今ステラちゃんが!手を振ってっ!」
「サンジー帰ってこーい、ケイミーの危機だぞー」
「はっ!そうだ!ケイミーちゃん!ってあ!」
サンジがケイミーの方を見ると、そこにはシャルリア宮がケイミーに向けて拳銃を構えている所だった。
ケイミーが入っていた水槽は、ゾロの斬撃によって斬れており、上半分がなくなっている。
脚立の上に立ったシャルリア宮はディスコの制止をうるさいと一喝し、銃弾を撃つ。撃たれたディスコは倒れて血を吐いた。
気を取り直して、シャルリア宮はまたケイミーに拳銃を向けた。
「死ぬあます」
ゆっくりと安全装置を外し、引き金に指をやる。後は引くだけだ。
「だめ!間に合わないっ!」
カチャリと音が鳴り、さぁ銃声が響くと思いきや、拳銃に撃たれたように倒れたのはシャルリア宮だった。
何が起こったのかわからなかった。ただ、シャルリアが眠るように気絶したのとステージ上の壁が壊れ、そこから誰かが出てきた事だけは理解した。
徐々に姿を現したのは、一人の爺さんと巨人。向こうから出てきたということは元商品達なのだが、本来ついている爆薬首輪がその首にはなかった。
巨人は誰かはわからないが、白い髭を生やした老人は見覚えがあった。ただ麦わらの一味だけは誰か知らないようだが。
「ほら見ろ、巨人君」
老人にしてはしっかりとした口調。緩いボタンシャツに半ズボン、草履。フード付きコートを肩から羽織った彼の老人は。
「会場はえらい騒ぎだ」
元ロジャー海賊団副船長“海賊王の右腕”と呼ばれた、冥王シルバーズ・レイリー、その人だった。
何故、この時の人たちって黒歴史真っ盛りなんだろうか……そうは思わんかね?ディスコ君。