ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~ 作:リィンP
『遠征』から三日目、【ロキ・ファミリア】の面々は五十階層に到達していた。
この五十階層はダンジョンの中でもモンスターが出現しないとされる階層―――
そしてそれは、都市最大派閥である【ロキ・ファミリア】も例外ではない。
五十階層は灰色に染まった樹林に埋め尽くされた階層である。
樹林の間には川が葉脈状に走っており、青い水流が途切れることなく続いていた。
その階層に存在する、高さは約十メートルもある広大な一枚岩―――その上に中規模ほどの野営地が作成されていた。
その野営地では多くの者が何らかの作業に勤しんでいる。
たくさんの器材を肩に担ぐヒューマンの男性や、武器の点検を行うドワーフの女性、戦いで疲れた者にタオルや飲み物を手渡すヒューマンの少女など、作業に勤しむ者は様々であった。
そんな準備で騒がしい野営風景から少し離れた場所で、二人の少女が会話をしていた。
「アイズさん、先程はお疲れ様でした」
「…ん、レフィーヤこそお疲れ様」
「ありがとうございます。でも、アイズさんたち前衛がほとんど倒してくれましたので、私は楽をしてしまいました…」
そう告げるレフィーヤの表情は心なしか少し暗い。
思わず俯いてしまったレフィーヤに、アイズは優しい表情で語りかけた。
「…ううん、気にしなくていいよ。レフィーヤたち後衛は戦況を引っくり返すほどの攻撃力を持っている。そんなレフィーヤたちを守るのが、私たち前衛の仕事だよ」
「それにレフィーヤたちが後ろでサポートしてくれるから、私たちは安心して戦える」と言いながら、アイズはレフィーヤの頭を優しく撫でた。
「ア、アイズさん…!!」
顔を上げたレフィーヤの顔にはもう暗さはなく、彼女の紺碧の瞳は思わず潤みかけた。
(あのアイズさんが私のことをこれほど信頼してくださっていたなんて…。このレフィーヤ・ウィリディス、感激ですっ!)
「私…いつも以上に頑張りますからっ!!絶対にアイズさんの信頼に応えてみせますっ!!」
「…う、うん?」
アイズの言葉がジーンと心に響いたレフィーヤは、凄い勢いで張り切り出した。
レフィーヤの山吹色の髪を撫でていたアイズはというと、いきなり熱くなったレフィーヤに驚き、撫でていた手を思わず戻すのであった。
そんな盛り上がっている二人の所に、エルフの女性が近付いて来て声をかけた。
「随分と盛り上がっているようだな…アイズ、レフィーヤ。これなら大いに活躍を期待できそうだ…特にレフィーヤはな」
「リ、リヴェリア様!?えっとですね、これはその…」
「お前の発言は私にも聞こえていた。いいか、レフィーヤ…アイズの言葉を聞いて張り切るのはいいが、肩に力が入り過ぎだ。そんな状態では肝心な所でミスをするぞ」
「うっ、申し訳ありません…リヴェリア様」
「ふふ、どうやら頭が冷えたようだな。いいか、レフィーヤ…お前の力が必要になってくる場面はこの遠征中に必ずやって来るはずだ。…厳しいことを言ったが、私もアイズ同様期待してるぞ、レフィーヤ」
「リヴェリア様……はい、必ずや期待に応えてみせます」
余談だが、アイズやリヴェリアがLv.3のレフィーヤにここまでの期待を寄せる理由―――その答えはレフィーヤの【ステイタス】にあった。
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レフィーヤ・ウィリディス
Lv.3
力:I78 耐久:H103 器用:H182 敏捷:G223 魔力:C680
魔導:H 耐異常:I
《魔法》【アルクス・レイ】
・単射魔法
・照準対象を自動追尾
【ヒュゼレイド・ファラーリカ】
・広域攻撃魔法
・炎属性
【エルフ・リング】
・召喚魔法
・エルフの魔法に限り発動可能
・行使条件は詠唱及び対象魔法効果の完全把握
・使用した対象魔法分の精神力を消費
《スキル》【
・魔法効果増幅
・攻撃魔法のみ、強化補正倍化
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レフィーヤの【ステイタス】は魔力特化型の【ステイタス】であるが、これは魔導士としては平均的な数値である。
真に注目すべき所は、三つあるレフィーヤの魔法の一つ―――召喚魔法【エルフ・リング】である。
この召喚魔法は、憧れの存在であるアイズの力になりたいという彼女の強き思いが形となり、最後に発現した魔法であった。
その召喚魔法【エルフ・リング】は、神々さえも仰天させるほどの前代未聞な効果――主神であるロキが『まさにチート魔法や!!』と評したほどの性能を持つ魔法であった。
その魔法効果は、詠唱及び効果を完全把握したエルフの魔法に限り使用することができるという反則技―――。
ベルの速攻魔法【ウインドボルト】も十分に規格外な魔法であったが、レフィーヤの召喚魔法はそれすらも上回るほどの力を秘めた魔法なのだ。
以上の理由から、リヴェリア達はレフィーヤのことを高く評価しており、彼女の力が必要になるときが必ずある来るだろうと確信していた。
また、努力家で仲間を気遣うレフィーヤの人柄も、みんなから信頼される理由の一つになっているのは言うまでもない。
「うむ、いい返事だ。…しかし、私達がダンジョンに潜ってもう三日目か」
「………うん」
アイズはリヴェリアの言葉…具体的には三日という言葉を聞いて、一人の少年のことを考えていた。
その少年の名はベル・クラネル―――アイズが直接指導した新人である。
アイズにとってベルと過ごした日々はとても新鮮で、彼から色々なことを学ぶことができた。
こんな素敵な弟が自分にできたことを、神に感謝したくらいであった。
―――彼は元気だろうか?
―――自分がいない間にダンジョンで怪我をしていないだろうか?
ベルの師として…そして姉として、心配せずにはいられなかった。
「やはりベルのことが心配か、アイズ?」
リヴェリアは、三日目という言葉を聞いて黙り込んでしまったアイズの様子から、ベルのことを気に掛けているのだろうと推察した。
「…うん、ベルの実力なら心配ないと思うけど、やっぱり少し心配…」
「私は今でもベルが一人だけでダンジョンに潜るのは反対です…。その、どうしてリヴェリア様は条件付きで許したのですか?」
「ふむ…私もレフィーヤと同じく反対だったが、ベルの意思を一方的に無視するのはどうかと思ってな。だから条件付きで許可することにしたんだ」
「そうだったんですか。ですがベルは、私たちが課した条件をちゃんと守るでしょうか…?」
「以前に私たちからこっぴどく叱られて、凄く反省していたのはお前も見ていたから知っているだろう?あの様子では、再び約束を破るような真似は絶対にしないさ」
「まぁ万が一破ったときは、以前よりもさらに厳しい説教が待っているがな」とリヴェリアは瞳を鋭くされて告げる。
そのリヴェリアの有無を言わない迫力に、レフィーヤはベルが約束を守ることを心から祈るのであった。
「そういえば、アイズさんはベルが一人で潜ることに初めから賛成でしたよね?」
「…ちょっと違うかな?私にベルのその意思を反対する資格はなかったから、反対できなかっただけ」
「反対する資格がなかった、ですか?そんなことは…」
「…ううん、そんなことはあるよ。だって私もよく一人でダンジョンに潜って、みんなに心配を掛けているから…」
「そ、それは…」
「…そんな私が反対するなんて、さすがに自分勝手すぎる。だから私には、一人で潜ろうとするベルを止める資格はない」
「確かにその通りだな。ベルが一人でダンジョンに潜ることに対して、お前だけは反対だと言う資格はない」
「…うん」
「ア、アイズさん…」
リヴェリアに強い口調で責められたアイズは顔を俯き、レフィーヤはそんなアイズのことを心配そうな顔をして見つめるのであった。
「反省しているのなら、これからは一人でダンジョンに潜ろうとするな。上層や中層ならまだしも、一人で深層に挑むのは危険過ぎる。…どうしても潜りたいときは私を誘え。分かったか、アイズ?」
「…本当にありがとう、リヴェリア」
「リヴェリア様っ、アイズさんっ!」
二人の間に存在した張り詰めた雰囲気がなくなったことに、レフィーヤは心から安堵するのであった。
「まったく…弟子は師に似るというが、お前とベルは本当に似ているよ」
「…私にはよく分からないけど、そうなのかな…?」
「あぁ…お前たちを見ていると、本当の姉弟のように思えてくる」
「…何だか、照れる」
リヴェリアにベルとは姉弟のようだと言われたアイズは、思わずその頬を染める。
アイズが頬を染めた理由―――それは彼女とベルの関係が、客観的に見ても姉弟だと評されたことが嬉しかったからだ。
(…本当によかった。今の私は、ベルに相応しいお姉ちゃんになれたのかな?)
照れくさそうに微笑むアイズとは打って変わり、レフィーヤの表情は硬かった。
「あ、あのリヴェリア様…私は…」
「私はベルと本当の姉弟のように見えますか?」と尋ねようとしたレフィーヤだが、直前で思い留まる。
何故ならレフィーヤ自身、リヴェリアに聞かなくてもその答えは分かっていたからだ。
他人から見た自分とベルの関係は、【ファミリア】の先輩と後輩―――。
いくらこの一週間で距離が縮まって来ても、自分達のことを姉弟みたいだと評してくれる人はいないだろう。
―――だって自分は、アイズさんとは違うのだから。
二人が中庭で訓練しているときに、自分はただ見ていることしかできなかった。
最初はベルに色々と教えていた自分だが、時間が経つに連れてベルに教えられることがなくなってきたのだ。
しかし、それも当然である。
なぜならベルは、戦闘面ではオラリオ最強の剣士であるアイズさんに鍛えられ、知識面ではオラリオ最強の魔導士であるリヴェリア様に教えられているのだ。
そんな偉大な二人と比べてずっと実力が劣っている自分が、今さらベルに何を教えられるというのか……いや、はっきり言ってないだろう。
「どうした、レフィーヤ?」
「…いえ、何でもありません」
「ふむ、そうか…」
「…?」
リヴェリアはレフィーヤの心中を察したのか、それ以上何も追求して来なかった。
一方アイズは、神妙な顔をする二人のことを不思議そうな表情で見つめていた。
ベルと過ごす内に他人の感情の機微が段々と分かるようになってきたアイズだが、今のレフィーヤの心境までは察することはできなかった。
そんな三人の下へ、小人族の青年が駆け寄って来た。
「リヴェリア、アイズ、レフィーヤ」
「ん、フィンか…もう天幕は張り終わったのか?」
「あぁ、こっちはもう完成したよ。だからこうして、リヴェリアに伝えに来たんだ」
笑顔でそう告げるフィンに対し、何かを考えるように両目を閉じたリヴェリア。
そして徐に片目だけ開けて、フィンに告げた。
「…伝えたいことはそれだけではあるまい、フィン」
「流石はリヴェリア、本当に察しがいい」
「本当に天幕が完成したことを伝えるだけなら他の者で十分だからな。わざわざ団長であるお前自身が来たということは、他の団員たちには聞かせられないほどの案件なんだろう?」
「あぁ、本当に話が早くして助かるよ。実はリヴェリア達三人に伝えておきたいことがあるんだ」
「…ふむ」
「…私たちに伝えたいこと?」
「あの、何かあったのでしょうか…?」
「ンー、そうだね……何かあったと言うよりは、これから
「そ、それって…」
「どうにも親指が疼いて仕方がない。しかもこの疼き方……途轍もなく嫌な感じだ」
真剣な表情をしたフィンは、右手の親指の腹をぺろっと一舐めしてから呟いた。
フィンの意味深な呟き、リヴェリア達の表情は一気に険しくなった。
「それは穏やかな話ではないな。今までにお前の勘が外れたことはない……これはいつもより警戒しておく必要があるな」
「け、警戒ですか…」
「そう不安そうな顔をするな、レフィーヤ。前もって危険を知ることができたのは大きいぞ。だからお前はいつも通り、直ぐに魔法を放てる準備をしていればいい。危険に直面したときこそ冷静に―――それが冒険者の鉄則だろう?」
「リ、リヴェリア様…」
「…大丈夫だよ。レフィーヤたちが魔法を放つまで、私たちが絶対に守り切るから、だから安心して、レフィーヤ」
「ア、アイズさん……」
「うん、アイズの言う通りだ。僕たち前衛はモンスターを後衛で控える魔導士達の下へと行かせないために存在する。だからレフィーヤは普段通り、自分の為すべきことを為せばいいさ」
「それにだ…レフィーヤはいつも守られてばかりだと思っているかもしれんが、それは間違いだぞ。―――そうだろう、アイズ?」
「えっ?」
「…うん。だって私達前衛はいつも、レフィーヤ達後衛に助けられているから」
「―――!!」
「…この前も危険に陥ったとき、レフィーヤの魔法に助けられた。―――そうだったよね?」
「――――――」
アイズにとっては当たり前のことを伝えただけであったが、レフィーヤにとっては衝撃的な言葉であった。
前衛は後衛を守り、後衛は前衛を守る―――それは自分とアイズさんにも当てはまっていた。
前衛であるアイズさんは私を守り、後衛である私はアイズさんを守っていた――その事実にレフィーヤはようやく気付くことができたのだ。
(―――あぁ、自分はなんて大きな勘違いをしていたのだろう…。私がずっと気が付いていなかっただけで、本当はもう…アイズさんの力になれていたんだ)
―――彼女を支え、彼女を癒し、彼女を助け、彼女の力になりたい。
そんな自分の願いはとっくの昔に叶っていたのだ。
「…レフィーヤ?」
「…すみません、自分がいかに愚かだったのか思わず反省していました。だけどようやく…ようやくアイズさんのおかげで気が付くことができました」
「…?よく分からないけど、レフィーヤは愚かなんかじゃないよ」
「だって私よりも賢いから」と優しい表情で告げるアイズ。
「アイズさん…。私は、私は……」
―――私はこんなにも優しい彼女の力になることはできたのだ。
―――だけど憧れの彼女は強く、自分が弱いという事実は変わらない。
(それでも、アイズさんの力になりたいという自分の願いは叶えることができた。それなら、私はもう…)
―――憧れのアイズさんに認められたのだから、もう強くならなくてもいいのかもしれない。
(だけど私は―――私はいつまでも、アイズさんの力になりたいっ!!)
―――アイズさんはどこまでも強くなっていくはずだ。そうしたら、歩むことを止めた自分はすぐに置いて行かれるに決まっている。
―――彼女との差が開かないようにするにはどうしたらいいのか?
(答えは簡単……それは今の自分より強くなるだけ!アイズさんに追いつくために、私は絶対に強くなってみせるッ!)
「―――アイズさん、この危機を必ず乗り切りましょうね!」
「…うん、頑張ろうねレフィーヤ」
自力で壁を乗り超え、成長したレフィーヤ。
纏う雰囲気が変わったレフィーヤを見て、アイズは内心で驚きながらも、優しい表情でうなずくのであった。
そんな二人のやり取りを黙って見守っていたフィン達は、これ以上ないほどの温かい瞳をしていた。
「こういう光景を見ると、この【ファミリア】の団長を務めていてよかったと改めて感じるよ。そうは思わないかい、リヴェリア?」
「…あぁ、そうだなフィン。次世代を担う若者の成長というのは、いつ見ても嬉しいものだ」
「これは珍しい…今のリヴェリアは子供の成長を喜ぶ母親のような表情をしているよ」
「…お前までロキと同じようなことを言うのか、フィン」
「あはは、そんなに睨まないでよ。リヴェリアに本気で睨まれると結構怖いんだよ?…さて、話は変わるんだけど一つ聞いてもいいかな?」
「ん、何だ?」
「四十九階層での戦闘…そこで魔法を連発したが、削られた精神力はどのくらい回復したかい、リヴェリア?」
「精神力か…。先の戦いでの思ったよりも消費したからな、まだ半分も回復していないぞ」
「そうか…。まぁ、五十一階層に出発するまで時間は十分にある。それまでゆっくり休んで英気を養って……ッ!?」
不自然な形で会話が途切れたフィンに、リヴェリアは怪訝そうな顔をする。
「突然どうした、フィン?」
「親指がさっきよりもうずうずいっている。これは―――」
自分の親指が先程よりも強く疼いていることに気付いたフィン。
危険知らせる親指……その親指が疼いたときには、フィンたちは様々な危険に直面してきた。
そして今までの経験則から、フィンの親指の疼きが大きいほど、直面する危険はより大きなものとなる。
そして今回、フィンの親指はとても強く疼いていた。
これが何を意味するのか?―――その答えは明白だ。
(―――この疼き方はマズイっ!?)
「戦闘用意ッ!!」
自分達の身に危険が迫っていることにいち早く気が付いたフィンは、遠くにいる団員にまで聞こえるよう大声で叫んだ。
「「「―――!!」」」
フィンが言い放った瞬間、【ロキ・ファミリア】の団員達は団長の指示に即座に従う。
野営の準備をしていた者はすぐに作業を止めて武器に手を伸ばし、休憩していた者は外していた防具を一瞬で装備し、武器を構えた。
アイズもフィンの指示に即座に反応し、腰から剣を抜いて周囲を警戒する。
レフィーヤやリヴェリアも杖を手に取り、辺りを警戒し始めた。
そしてフィンはというと、約百メートルほど離れた地点に存在する横一面に広がる大きな壁を真剣な表情で見つめていた。
フィンの視線の先にある巨大な壁―――それが僅かであるが亀裂が生じたのを碧色の瞳は見逃さなかった。
「来るぞッ!!」
「なに?」
フィンが叫ぶのと同時に、壁の亀裂が大きくなる。
ビギビキビギッ、と不吉な音を鳴らしながら壁一面に無数の亀裂が走り出した!
(亀裂が生じる範囲がいつもより大きい!?―――これは間違いなく強敵だッ!)
【ロキ・ファミリア】の面々は戦闘体勢に移行しながらも、その明らかにいつもとは異なる現象に普段よりも警戒心を高くする。
そしてついに亀裂は壁全体へと走り、地割れの如く崩れ落ちた。
『『『―――――――――!!!』』』
フィン達の視線の先で、崩れ落ちた壁の中から巨大なモンスターの大群が姿を現すのであった!
「「「―――ッッ!?」」」
突如出現したモンスターは芋虫のような外見であった。
ただし、全長四メートルという巨大な体を有し、緑色の表皮には毒々しい極彩色が刻まれている。
その上半身は山のように盛り上がっており、左右からは腕のような触手が伸びていた。
そして下半身は無数の短い足からなっており、その動く姿は芋虫に似ている。
長年ダンジョンに潜り続けてきたフィン達でさえ、一度も見たことがないモンスター。
そんなモンスターが
本来ならモンスターが産まれ落ちることはない階層で、見たこともない怪物―――『新種』のモンスターが突然大量に出現した。
この異常事態に歴戦の戦士である【ロキ・ファミリア】の団員達も流石に言葉を失うのであった。
「何だあれは!?」
「し、『新種』のモンスターなの…?」
「一体一体が巨体なのに、数まで多いとかどうなってやがる!?」
「それよりもここは安全階層のはずだぞ!?なぜこんなにも大量なモンスターが産まれ落ちるんだッ!?」
長い間ダンジョンに潜ってきた彼らでも、安全階層で未知のモンスターを大量に産み落とされた経験はこれが初めてだった。
そのため団員達に動揺が走り、思わず体が硬直するのであった。
「―――ッ!」
多くの団員達が混乱している中、最も早く動いたのはフィンだった。
「まずは冷静になれッ!奴等がここまで登るのには時間がかかるはずだ!陣形を立て直すぞ!」
いち早く動揺から立ち直ったフィンは矢継ぎ早に指示を出していく。
「魔導士達は魔法の射程圏内に移動次第、すぐに詠唱を開始しろ!リヴェリア、彼らへの指示は任せたぞ!」
「了解だ、フィン!…行くぞ、レフィーヤ!」
「はい、リヴェリア様!」
フィンの指示に従い、リヴェリアやレフィーヤなどの魔導士達は即座に行動を開始するのであった。
「アイズ、ティオネ、ティオナ、ベート!あれほどの群れを相手にするには、強力な魔法を打ち込むしかない!そのため君達には魔導士達が魔法を放つまでの時間を稼いでもらう!ただし時間を稼ぐと言っても、相手はどんな能力をもつか解らない『新種』のモンスターだ!細心の注意を怠るなッ!」
「…任せて」
「分かりました、団長っ!」
「了解だよっ!」
「相手が『新種』だろうが関係ねぇぜ!」
フィンの指示に即座に従い、アイズ達は一枚岩の上に作成された野営地から飛び出して敵へと駆け出すのであった。
「残りの半分は弓などの遠距離武器でここからベートたちを援護しろ!ラウル、彼らへの細かい指示は君に任せる!」
「は、はいっす!」
「残りの半分は盾を構えて魔導士達を守れ!敵は『新種』だ、どんな遠距離攻撃を放つのか分からない!だがどんな攻撃が来ても必ず後ろの仲間を守り抜くんだッ!ガレス、陣形は君に任せる!」
「うむ、任せろフィン!」
フィンの指示を聞いて、ヒューマンの青年とドワーフの男性を中心に行動を開始した。
敵が現れて十秒も経たない内に、全団員へと指示をし終えたフィン。
この異常事態に冷静に対処するその姿は、まさしく【
そんなフィンが居たからこそ、【ロキ・ファミリア】の団員達はすぐに動揺から立ち直り、最適の行動へと移ることができたのだ。
こうして、後に『五十階層の激闘』と呼ばれることになった戦い―――その火蓋が切って落とされるのであった。
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