ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~   作:リィンP

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五十階層の激闘-前編-

 

 

 先手を取ったのは、アイズ、ティオネ、ティオナ、ベートの四人だった。

 アイズ達はLv.5の脚力を存分に発揮し、百メートル離れた敵との距離を一瞬で埋める。

 

「てやぁッ!」

「フッ!」

「喰らえッ!」

 

 ティオナは芋虫型のモンスターの頭に向かって大双刀(ウルガ)を叩き込み、ティオネはすれ違い様に一対の湾短刀(ククリナイフ)でその胴体に無数の斬撃を浴びせ、ベートはその横っ腹に渾身の飛び蹴りを叩き付けた。

 

 そして同じように芋虫型のモンスターへと斬りかかったアイズはというと、遠征前日にしたベルとの会話を思い出していた―――。

 

『…ベルは苦手なものとかあったりする?』

『その…お恥ずかしい話、芋虫が苦手だったりするんです』

『意外…どうして苦手なの?』

『実は小さい頃、外で遊んでいたときに芋虫を踏みつけてしまったんです』

『…それで、どうなったの?』

『誤って踏んでしまったその芋虫の体液が足にかかったんですけど、浴びた箇所が焼けるように痛くなって、薬を塗っても痛みが全然引かず、凄く辛い思いをしました…。それがトラウマになってしまい、未だに芋虫は苦手なんです』

『…そんな危険な芋虫がベルの故郷にはいたの…?』

『お祖父ちゃんが言うには珍しい種類の虫だったらしく、滅多に人里には現れないらしいんですけど、運がなかったのか出会ってしまったみたいです…。確か効果は弱いながらも腐食作用(、、、、)の体液を有する珍しい芋虫だと―――』

 

(―――腐食作用のある体液を有する芋虫)

 

 ベルが語ってくれた芋虫についての話を走馬灯のように思い出したアイズは、目の前の『新種』に対してひどく違和感を覚えた。

 現在進行形で斬りつけている芋虫型のモンスターに対し、猛烈に悪寒が走る。

 アイズは自分の直感に従い、敵を斬り終わった瞬間に全力で後方へと跳躍して距離を取るのであった。

 

 結果として、自身の直感を信じたアイズの行動は正しかった。

 ―――なぜならアイズが後ろに跳んだ次の瞬間、芋虫型のモンスターの傷口から体液が飛び散ったからである。

 その体液がアイズが先程までいた場所に降り注ぎ、じゅう…と音を立てて地面を溶かしたのだ。

 

「ッ!?」

(―――腐食液ッ!?)

 

 腐食液の放出範囲から間一髪で逃れたアイズは、自分がいた辺りの地面が溶かされた事実に驚愕する。

 なぜなら、地面を一瞬で陥没されるほど溶かすほど強力な腐食作用のある体液なんて見たことも聞いたこともなかったからだ。

 

 アイズは直前に後ろへと跳ぶことでに腐食液を回避することができたが、他の者はそう上手くはいかなかった。

 

「きゃっ!?」

「痛っ!?」

「クソッ!?」

 

 一対の湾短刀(ククリナイフ)で無数の傷口をつくったティオネは、自分がつくった多くの傷口から放出された腐食液を全て避け切ることができず、腕や足などに数ヶ所かかり、彼女の褐色の肌をじゅぅっ、と焼いた。

 またティオナとベートも自分達がつくった傷口から噴出してきた腐食液を回避しきれず、少なくない傷を負ったのだ。

 

 だが、それはまだ序の口であった。

 芋虫型のモンスターの頭を叩き潰したティオナと、その横っ腹に渾身の飛び蹴りを放ったベート―――二人の攻撃は一撃でモンスターを絶命させた。

 本来なら敵を一撃で倒す、つまり相手に攻撃の機会を与えずに倒すことは最良の戦闘である。

 しかし、このモンスターに対してその方法はこの上なく悪手だった。

 

 ―――なぜならそのモンスターは絶命したら爆発して腐食液を撒き散らすという、悪質な能力を持っていたからだ。

 

『『オオオオオオォォ!?』』

 

「なっ!!?」

「うそッ!?」

 

 絶命した二体のモンスターは勢いよく破裂し、腐食液が爆弾のように二人を襲う。

 そしてティオナとベートは、飛び散った腐食液をもろに喰らってしまうのであった。

 

「ティオナッ、ベート!?」

「二人ともっ!?」

 

 アイズ達の視線の先では、身に纏う軽装ごと皮膚は溶かされ、痛々しく焼かれた肌から煙が立ち昇るティオナとベートの姿があった。

 そんな二人を見てティオネは思わず名を叫び、アイズも切羽詰まった声を出す。

 

「私は大丈夫っ!ティオネっ、片側半分の足を狙って!」

「こんなの掠り傷だっ!それよりアイズ、早く風を纏えッ!!」

 

 決して無視していいダメージではないのにもかかわらず、ティオナとベートは即座に大丈夫だと言い切った。

 そしてティオナはティオネに、ベートはアイズにそれぞれ最適な行動を助言する。

 

「……!わかったわ!」

「了解です…ッ!」

 

 ティオネはティオナの助言通りにモンスターの短い多脚のみに狙いを絞り、先程の攻撃で腐食液を浴びて溶けかけている二刀の湾短刀を使って切断していく。

 傷口から溢れ出す腐食液を見切りつつ、腐食液で徐々にボロボロになっていく湾短刀の寿命を気にしながらも片側半分の足を全て切断する。

 そして次の瞬間には、モンスターはバランスを失って地面へと倒れ込むのであった。

 

「よし、足止めとしてはこれで十分ね」

 

 厄介なモンスターを一瞬で無力化したティオネは、腐食液により歪な形になってしまった湾短刀を捨て、予備の湾短刀を取り出して装備し、新たな標的へと狙いを定めるのであった。

 

 そしてアイズはというと、

 

「【目覚めよ】」

 

 前方に存在するモンスターの群れを見据え、

 

「【エアリアル】」

 

 必殺の魔法を発動させた。

 

「―――行きます」

 

 そして疾風と化したアイズは、物凄い勢いでモンスターの群れへと一直線に突っ込んだ。

 

『!?』

 

 アイズは疾駆のまま先頭にいた一体に向かって剣を振り抜き、その胴体を真っ二つにする。

 切断された胴体から腐食液がアイズに向かって勢いよく噴出したが、アイズの身体を包み込む風がその全てを吹き飛ばす。

 

『オオオオオオォォ!?』

 

 次の瞬間、真っ二つになったモンスターは勢いよく破裂して腐食液を撒き散らす。  だが、放出された腐食液は風の鎧を超えることはできず、アイズに傷の一つも負わすことができなかった。

 

(風で腐食液は防げている…それに≪デスペレート≫も溶けていない。これなら、いけるっ!!)

 

 アイズの愛剣である細剣(デスペレート)は腐食液を浴びても、ティオネの湾短刀(ククリナイフ)とは違い剣身が溶けることはなかった。

 それもそのはず、アイズの剣は不壊属性(デュランダル)と呼ばれる特性を兼ね備えた特殊武装だからである。

 不壊属性(デュランダル)―――それは上級鍛冶師の中でも一握りしか作れない属性持ちの特殊武装であり、威力そのものは他の一級品装備に劣るものの、何があろうと決して壊れない(、、、、、、、)装備であるのだ。

 

 アイズは決して刀身が曇ることはない銀の細剣を構え、新たな標的へと疾駆と化して突っ込んで行くのであった。

 

 一方、傷だらけのティオナとベートはというと、自分の装備を見て苦々しい顔をしながらモンスターの攻撃を避けていた。

 

大双刀(ウルガ)はもう、使い物にならないね…」

「チッ、≪フロスヴィルト≫もダメか」

 

 大双刀(ウルガ)を叩き潰すように使ったためか、剣身はもろに腐食液を浴びてしまい、見るも無残な形になってしまった。

 そしてベートが身に着けるメタルブーツ―――とある属性を秘めた特殊武装(フロスヴィルト)も腐食液をもろに浴びてしまい、本来の能力が発揮できないほど溶解してしまった。

 そんな武装を失った二人の姿を見て、フィンは急いで指示を下す。

 

「ティオナとベートはすぐに下がれッ!!」

 

「「!!」」

 

 フィンの言葉が二人の耳に届いた瞬間、ティオナ達は即座に身をひるがえし、キャンプがある一枚岩の上へと戻る。

 

「ティオナ、ベート、目をつぶれッ!」

 

 フィンは万能薬(エリクサー)を取り出し、ぶつけるように二人の全身へとかける。

 腐食液を浴びて黒く変色してきた皮膚は、万能薬によりみるみるうちに治癒していくのであった。

 

「ありがとっ、フィン!」

 

「ありがとよ」

 

「疲労しているところ悪いが、ベート達には足止めを続けてもらう。敵の腐食液に気を付けながら、ティオネのように足を狙っていけ」

 

「今度は油断しないよ!」

 

「同じミスは二度もしねぇ」

 

 そしてティオナはボロボロになった大双刀の代わりに長槍を二本手に取り、ベートはナイフを数本手に取った。

 

「それとティオナ、この予備の湾短刀をティオネに渡してくれ」

 

「了解っ!それじゃあ、行っくよおおぉぉ―――ッ!!」

 

「虫退治と行こうぜええぇぇ―――ッ!!」

 

 回復を終え、予備の武器を装備したティオナとベートは、雄叫びを上げながら再びモンスターの群れへと突っ込んで行く。

 

「よっと!」

 

 ティオナは獰猛に笑いながら、一体の個体に向かって掬い上げるように槍を突き出し、その身体をひっくり返した。

 

「それっ!」

『!?』

 

 宙に浮いたモンスターの片側半分の足を薙ぎ払うように切断する。

 飛散する腐食液も、間合いが長い槍で攻撃したティオナには届かない。

 

「次行くよー!」

 

 流れるような動作で敵を無力化したティオナは、別の標的に狙いを定めるのであった。

 

「喰らえッ!」

 

 ベートはモンスターとモンスターの間を縫うように高速で移動しながら、ナイフで足を斬っていく。

 

『『『!?!?!?』』』

 

 一瞬の間に三体ものモンスターを無力化したベート。

 そんなベートに危機感を感じたのか数体のモンスター達が、彼に向かって一斉に口から腐食液を放出する。

 

「―――同じミスは二度もしねぇと言っただろうが」

 

 だが、飛びぬけた敏捷(あし)を持つベートには通用しない。

 易々とその攻撃を回避したベートは、一瞬で敵との間合いを埋め、足を全て切断する。

 

『!?』

「芋虫は芋虫らしく、地べたに這いつくばっていやがれ」

 

 地面へと倒れ込む芋虫型のモンスターを見下しながら、ベートは戦場を駆け抜けるのであった。

 

「やれやれ、どうやら先程の攻撃でスイッチが入ったようだね。今の彼らなら、敵の攻撃を受けることは絶対にない」

 

 そんなベート達の奮戦する光景を眼下に、フィンは戦況を分析する。

 

(魔導士達の詠唱が終わるのも後少し―――これは決まったかな)

 

 フィンが自分達の勝利を確信する中、魔導士達は詠唱を紡いでいく。

 

「【間もなく、焔は放たれる】」

 

 広大な一枚岩、その中で戦場を一望できる場所に集まり、一斉砲撃の準備をしていた。

 

「【忍び寄る戦火、免れ得ぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる騒乱が全てを包み込む】」

 

 魔導士達の足元に魔法円(マジックサークル)が展開する。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

 詠唱が進むごとに展開された魔法円(マジックサークル)の輝きは増していく。

 

「【汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる幕引きを】」

 

 詠唱中である全ての魔導士達の魔力は莫大に高まり、魔法が完成へと至ろうとする。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣―――我が名はアールヴ】」

 

 ―――そしてついに、長大な詠唱は完了した。

 一番前に立つリヴェリアの詠唱完成を皮切りに、他の魔導士達も詠唱を終える。

 複数の魔法円が重なるように大きく展開し、後は魔法名を唱えるだけとなった。

 

「五秒後に魔法の一斉砲撃を開始する!アイズ達は一旦下がれッ!!」

 

 魔導士達の準備が完了したことをすぐに悟ったフィンは、モンスターの群れと戦っているアイズ達に下がるよう指示を出す。

 きっちりと足止めの役割を果たしたアイズ達は、敵との戦闘を切り上げ離脱し、一枚岩の上へと下がるのであった。

 

「―――今だ、放てッ!!」

 

 フィンの号令を皮切りに、魔導士達は必殺の『魔法』を発動させた。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 炎、雷、水、土、風。

 様々な攻撃魔法がモンスターの群れと襲い掛かった。

 

『『『オオオオオオォォォォォ!!?』』』

 

 炎の柱が多くのモンスターを丸呑みにし、雷の槍が胴体を貫き黒こげにし、風の矢がその身体を切り裂き、火の雨が敵に突き刺さって炎上し、モンスター達を殲滅させた。

 そして数瞬後には、無残な姿となったモンスターの群れが確認できるのであった。

 

「やったっ!やったよ、アイズっ!」

 

「…うん、ほとんど倒せたね」

 

「安心するのは早いわ、二人とも。まだ残ったモンスターがいるわよ」

 

「さっさと倒して終わらせるぞ、お前ら」

 

 アイズ達四人は残りのモンスターを殲滅しようと一枚岩から飛び出す。

 そんな彼女らを尻目に、リヴェリアはフィンの下へと駆け寄って来た。

 

「どうやら勝負はついたようだな、フィン」

 

「そのようだね、リヴェリア。一級品の武器すら溶かす腐食液を見たときはどうなるかと思ったけれど、流石はアイズ達だ」

 

「あの『新種』の恐るべき点はそこだけだからな。腐食液があるということさえ判っていれば、どうということはない」

 

「そう考えると、あの『新種』は初見殺しに特化したモンスターだね。しかし、安全階層である五十層に大量の『新種』が出現、か…」

 

「私が知る限りこのようなことは初めてだし、聞いたことすらない。…異常事態としか言えないだろう」

 

「―――異常事態、か…」

 

(本当に、どうしてあれほどの数の『新種』が安全階層である五十層に出現したんだ?一体どんな異変がダンジョンに起こっているというんだ…?)

 

 フィンはこの異常事態について考察しようとした瞬間、親指の疼きが消えていないことに気が付く。

 

(―――親指の疼きが消えていない…?いや、むしろ先程よりも強くなっているッ!?)

 

 その事実に気が付いたフィンは臨戦態勢を纏い直し、辺りを警戒し出した。

 

「フィン…?」

 

「―――まだだ、リヴェリア」

 

「なに?」

 

「まだ、戦闘は終わっていない」

 

 そうフィンが呟いた瞬間、

 

『――――――』

 

 不吉な音が五十階層全体に響き渡った。

 

 ―――フィンの言う通り、モンスターとの戦いは終わってなどいなかった。

 こうして五十階層の激闘は、第二ラウンドを迎えるのであった。

 

 

 




しばらくは週1で更新していく予定です。

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