ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~   作:リィンP

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眠る兎に剣姫を添えて

 厳かな空気が支配する石造りの広間。

 四隅に設置された松明が燃える音を除けば、この場は静寂に包まれていた。

 そんな広間の中央に置かれた神座に腰かける一柱の男神は、何かを考えるように瞼を閉じているのであった。

 深く懊悩する男神―――そんな彼の目の前に気配無く現れた黒衣の人物が声を掛ける。

 

「ウラノス、ロイマンから新たな報告が来た。どうやら二日前に上層に出現したミノタウロスは『強化種』で間違いないみたいだ」

 

「それは確かな情報なのか?」

 

「【勇者】と【九魔姫】からもたらされた情報だ。件のミノタウロスはもう討伐されてしまったから確認しようがないが、彼等の推測なら信用できるだろう」

 

「ふむ、確かにロキの眷族達なら信用できるだろう。彼等は他に、そのミノタウロスについて何か言っていたか?」

 

「どうやら件のミノタウロスは、通常の個体とは比べ物にならないほどの実力だったらしい。それと戦闘中に理性的な動きを見せたらしく、【勇者】達は『強化種』の中でも異質な存在である可能性が高いと述べていたようだ」

 

「力と理知を備えるモンスター、か…。まさか、そのミノタウロスは―――」

 

「あぁ、件のミノタウロスは『異端児(ゼノス)』であった可能性が高い。だがそうなると、厄介なことになってくる」

 

「ロキの眷族達が『彼等』の存在に気が付くのも時間の問題、か…」

 

「どうする、ウラノス?」

 

「…しばらくは様子を見る」

 

 黒衣の人物に指示を仰がれた老神はゆっくりと瞼を開けるとともにそう答える。

 そんな神の指示に、黒衣の人物は驚いた気配を見せる。

 

「正気かい、ウラノス?【ロキ・ファミリア】は都市最大派閥の一つだ。オラリオだけでなく世界中からも注目されている。そんな彼等が何か問題を起こした場合、ギルドの力を使っても隠しきれないぞ」

 

「その心配はいらない。天界では問題児であった女神(ロキ)だが、眷族を持ったことで以前とは比べ物にならないほど丸くなった。今の彼女なら信用に足りる」

 

「…貴方がそういうなら私は従おう。だが、一つだけ聞かせてくれ―――ロキの眷族達は『彼等』の希望になりえることができるだろうか?」

 

「…それは私にもわからない。だがら、この目で見極めたいのだ。女神(ロキ)の眷族達が『彼等』にとって希望になりえるか、否かを」

 

「貴方の神意はわかった。しかし万が一、『彼等』にとって希望ではなく絶望(、、)になってしまったときはどうするつもりなんだい?」

 

「…そのときは、『彼等』を切り捨てるしかないだろう。だが私はそんな未来が『彼等』に訪れないと考えている」

 

「ほう、それはどうしてだい?」

 

「―――ベル・クラネル」

 

「…?その名は確か、件のミノタウロスを単独で撃破した冒険者の名前だったか。彼がどうかしたのかい?」

 

「あの者が【ロキ・ファミリア】に在籍している限り、『彼等』にとって暗い未来が訪れる可能性は低いと私は考えている」

 

「ふむ、その根拠はどこにあるんだい?」

 

「あの者に異常なほどの執着を見せ、裏で色々と手を引いている男神から全てを聞いた。ベル・クラネルという少年は―――――――――――」

 

 ベル・クラネルについて重要な情報―――アイズやロキでさえも把握していなかった情報をウラノスは告げる。

 

「―――それは本当なのかい、ウラノス!?それが本当ならベル・クラネルは『彼等』だけでなく、オラリオ…いいや、世界にとっても希望の存在になりえるじゃないか…!」

 

「あぁ、だから私は期待しているのだ。ベル・クラネルと彼に影響を受けた者達が創る未来に希望があることを―――」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 黄昏の館のとある一室、その部屋の主は静かな寝息を立てていた。

 ベッドの上で眠る彼―――ベル・クラネルの瞼はずっと閉じられたままである。

 そんなベルの側に椅子を置いて座っているアイズは、心配そうに彼の顔を見つめているのであった。

 

 フィンの指示を聞いた後、ベルを抱きかかえたまま急いで地上へと帰還したアイズ達は【ロキ・ファミリア】のホームである黄昏の館へと移動した。

 遠征から無事に帰還したアイズ達をいつも通り笑顔で出迎えたロキであったが、彼女達のただならぬ様子とアイズの腕の中で気を失っているベルの姿を見た瞬間、浮かんでいた笑みが消える。

 一瞬で大まかな程度の事情を察したロキはアイズ達からベルの容体を詳しく聞き、万能薬(エリクサー)を飲ませたことで傷は治癒したことを確認した。

 折れた骨もきっちり元通りになっていることを確認し終え一安心したロキ達は、万能薬を飲ませた以上はこれ以上の治療はできないと判断し、ひとまず部屋で安静にすることを決めるのであった。

 

 アイズ達はベルを彼の部屋に運び込んでベッドに寝かせた後、詳しい事情を聞いて来たロキに自分が知る限りの情報をロキに伝えることにした。

 五十階層にて異常事態が発生したため遠征を中断したことや、その帰り道に出会った冒険者達から三階層に現れたミノタウロスに襲われている冒険者の命を助けてくれと頼まれたことなど説明するリヴェリア。

 ミノタウロスに襲われている冒険者の特徴からベルである可能性が高いと判断して即座に三階層に向かい、そこでベルとミノタウロスの戦闘を目撃したことを伝えるアイズ。

 ベルはボロボロになりながらも死力を尽くしてミノタウロスを打ち倒し、そのまま気絶したことをロキに話し終えた頃、タイミングよくホームに帰還したフィン達がベルの部屋に訪れるのであった。

 

 こうしてベルの部屋に、ミノタウロスの激闘を目の当たりにしたメンバーが全員集まった。

 意識を失った瞬間は死者のように青白い顔をしていたベルであったが、万能薬を飲ませたことにより傷が癒えたのか、安らかに眠る顔には生気が戻りつつあった。

 その場にいた全員がベルの容態が良くなったことに安堵し、これならすぐに目を覚ますだろうと明るい表情で話し合うのであった。

 

 ―――そして、ベルが眠りについてから丸二日(、、)が経過した。

 質素な部屋に設置されたベッドで、ベルはあれから一回も瞼を開くことなく安らかに眠っている。

 

(まだ目を覚ます様子はない、か…。でも、本当に穏やかな表情をして眠っている)

 

 未だにベルが目を覚まさないことを心配するアイズは、穏やかなベルの寝顔を眺めながら、二日前の激闘を思い出していた。

 瀕死の状態から雄叫びを上げて立ち上がり、自分より格上である怪物との死闘を制したベル。   

 あのときのベルはLv.3の冒険者に匹敵するほどの気迫を纏い、普段の少年からでは想像できないほど凛々しい表情であった。

 

(私との訓練のときにも凛々しい姿を見せていたけど、あのときのベルは別人に見えた…)

 

 アイズの視線の先で安らかな寝顔を見せるベルが、ミノタウロスを打倒したことを未だに信じられずにいた。

 アイズから見たベルの印象は素直、純粋無垢、頑張り屋…こう言っては何だが、あまり冒険者向きの性格ではないのだ。

 そんなベルが冒険者として冒険に挑み、そして『偉業』を成し遂げたのだ。 

 

(ベルは私との模擬戦を通じて、確かな成長を遂げた。それでもミノタウロスを単身で倒せるほどの域には達していなかったはずなのに…)

 

 アイズの知らないところで、ベルは冒険者としてある一線を超えた。自分の力だけで壁を乗り越えたのだ。

 ―――私は知りたい。ベルが急成長を遂げた理由を。

 ―――私は知りたい。己の限界を踏み越えて、その先へと辿り着く方法を。

 ―――私は知りたい。ベルが何を求めてダンジョンに潜るのかを。

 

(―――私はもっと、君を知りたい…)

 

 そんな願望が胸の内に浮かんだアイズは、眠るベルの横顔をじっと見つめる。

 そして無意識のうちに自分の手がベルの頭に伸びており、そのまま彼の白い髪を優しく撫で始めていた。

 

(やっぱり、ベルを撫でていると癒されるな…)

 

―――トントントン。

 

 心地よい気持ちにアイズの心が包まれかけたとき、ノックの音が突然響いて来た。

 

「私だアイズ、入室しても大丈夫か?」

 

(この声は、リヴェリア…)

 

「…うん、大丈夫だよ」

 

 アイズはベルの頭を撫でていた手を戻してから返事をすると、ガチャリと部屋の扉が開く。

 そして部屋に入って来たのは心配そうな顔を見せるリヴェリアとレフィーヤの二人であった。

 

「ベルの様子はどうだ、アイズ?」

 

「…あれからずっと眠っている」

 

「そうか……ん?名残惜しそうな顔をしているが、何かあったのか?」

 

「…な、何もないよ」

 

 実はもっとベルの頭を撫でていたかったのだが、リヴェリア達に本当のことを言うわけにはいかず、思わず誤魔化してしまうアイズ。

 目が泳いでいるアイズを訝しそうな目つきで見つめるリヴェリアであったが、深くは追及しないことにした。

 

「そうか、まぁそれならそれでいいのだが…」

 

「あの、アイズさんはずっと起きているのですか?」

 

「…うん、そうだけど」

 

「その、少し休んだらどうでしょう…?私が代わりにベルのことを見ていますから」

 

「…ありがとう、レフィーヤ。でも大丈夫、私は全然疲れてないから」

 

「アイズさん…」

 

 レフィーヤはアイズの言葉を聞いて、より心配そうな表情を見せる。

 レフィーヤにはアイズのその言葉が嘘であるのはわかっていたのだ。

 なぜなら死と隣り合わせの『遠征』から帰還したばかりなのだから、疲れていないはずはない。

 それなのにアイズは一昨日から一睡もしていないのだ。

 

「…あまり根を詰めるな、アイズ。ベルが目を覚ましたときに疲れ切ったお前の顔を見たら悲しむぞ」

 

「…私、そんな酷い表情をしている?」

 

「ああ、顔に疲れが現れている。だから後は私達に任せて、お前は少し眠っていろ」

 

「…ごめんリヴェリア、それはできない」

 

「ア、アイズさん…?」

 

「…我儘なのはわかってる。それでも私は、ベルが目を覚ますまで側にいたいの」

 

「………」

 

「お願い、リヴェリア」

 

「はぁ…仕方がない。条件付きで許してやろう」

 

「…!ありがとう、リヴェリア」

 

「お礼を言うのはまだ早いぞ、アイズ。私の言った条件を守れない場合は、強制でお前のことを休ませるからな」

 

「…うん、わかってる。それで、その条件って一体…?」

 

「なに、簡単なことだ―――ただ笑えばいい」

 

「…笑うだけでいいの?」

 

「笑う『だけ』とは随分な言い草だな、アイズ。お前は笑顔をつくるのが苦手だっただろう?」

 

「…そんなことはない」

 

そうリヴェリアに指摘されたアイズは、頑張って笑顔をつくってみた。

 

「…どう、かな?」

 

「全然駄目だ。そんな堅い表情をしても誰も笑っているとは思わないぞ」

 

 リヴェリアに一刀両断されたアイズは、心なしか潤んだ瞳でレフィーヤのことを見つめる。

 

「…レフィーヤも、リヴェリアと同じように思っているの?」

 

「そ、そのようなことは思っていません!今のアイズさんは素敵な笑顔をしています!」

 

「レフィーヤ、正直に答えないとアイズのためにもならないぞ」

 

「リヴェリア様!?えっと、その…少しだけ、ほんの少しだけ笑顔がぎこちないかと…」

 

「…そう、なんだ」

 

 頼みの綱のレフィーヤからもダメ出しされたアイズは、物凄く落ち込んでしまうのであった。

 

「ふむ、レフィーヤの言葉を聞いて余計にアイズの表情が暗くなってしまったな」

 

「ええぇぇッ!?わ、私のせいですかリヴェリア様!?誤解ですからねアイズさん!」

 

「…でも、ぎこちないって」

 

「ほんの少しだけですから!四捨五入すれば最高の笑顔ですよね、リヴェリア様!?」

 

「お前が何を言っているのか私にはわからないのだが…」

 

「ですからアイズさんの笑顔ならどんな笑顔でも素晴らしいのです!!」

 

「落ち着け、レフィーヤ。その結論はおかしいぞ」

 

 テンパったレフィーヤに冷静に突っ込みを入れるリヴェリア。

 そんな二人のやり取りが面白く、気が付いたらアイズは思わず笑っているのであった。

 

「…ふふふ」

 

「ア、アイズさん…?」

 

「ほう、いい笑顔だな。これならベルのことも任せられそうだ」

 

「…ありがとう、レフィーヤのおかげで自然に笑うことができたよ」

 

「い、いえ!これも全てアイズさんのおかげです!流石はアイズさんですね!」

 

「あ、ありがとう…?」

 

「はぁ…どうやらレフィーヤも疲れているようだな。まぁ仕方がないか、レフィーヤもベルのことが心配であまり眠れていないようだしな」

 

 意地悪な笑みを浮かべたリヴェリアの口から投下された爆弾発言に、レフィーヤは慌てふためき出す。

 

「リ、リヴェリア様!?別に私はベルの心配なんか―――!」

 

「静かにしないか、レフィーヤ。ベルが寝ているんだぞ?」

 

「うぅ…!で、ですが―――!」

 

「さて、それでは私達はこれで失礼するとしよう。行くぞ、レフィーヤ」

 

「ち、違いますからねアイズさん!」と叫ぶレフィーヤを引きずってリヴェリアは部屋を後にするのであった。

 

 

 それから少しして、またベルの部屋のドアがノックされた。

 

(…今度は誰だろう?)

 

「入るよ~アイズっ!」

 

「こらティオナ、ベルが眠っているんだから大きな声を出さないの」

 

 豪快に開かれた扉から入って来たのは、快活な雰囲気を纏うティオナと呆れた表情を見せるティオネの二人であった。

 

「あっ、そうだった!うぅ…ゴメンねベル」

 

「まったくあんたは…それでアイズ、ベルの様子はどうなの?」

 

「…砕けた左腕の骨は完全に元通りになっているし、他の傷も完治しているから問題ないよ。だけどまだ、ベルが目を覚ます気配は……」

 

「そうなの…それは少し心配ね」

 

「うぅぅ、ベルのことが心配で夜も眠れないよ~!」

 

「はぁ…よく言うわよ、あんなに熟睡していたくせに」

 

「うぇっ!?あ、あたしだって本当にベルのことを心配していたんだよ!ただずっと心配している内に眠くなっちゃって…」

 

「それで気が付いたら眠っていたというわけね…」

 

「…ふふ、ティオナらしい」

 

 いつも通りのアマゾネス姉妹のやり取りを見て、アイズの表情が仄かに綻ぶ。

 

「むぅ!笑うとかヒドいよ、アイズっ」

 

「どう見てもあんたが悪いでしょうが。…だけど安心したわ、アイズが元気そうで」

 

「…私?」

 

「そうだよ!だってアイズ、ベルが倒れてからずっと暗い顔をしてたじゃん!ベルのことも心配だったたけど、アイズのことも同じくらい心配だったんだからね!」

 

「…心配かけてごめんね、ティオナ、ティオネ。でも、もう大丈夫だよ」

 

「そう…どうやら今回は本当に大丈夫そうね」

 

「ずっと暗い顔をしてるアイズを元気づけてあげようと色々と面白い話を考えて来たのにな~」

 

「あら、さっきの馬鹿な話でアイズを笑わせることができたのだから良かったじゃない」

 

「よくないよっ!う~ん、でもまぁ、アイズが笑ってくれたのならいいのかな~?」

 

「…ありがとう、二人とも」

 

 自分のことを気に掛けてくれるアマゾネス姉妹にアイズはお礼を言う。

 

「へぇ、ティオナにしては良いことを言うじゃない。それにしても―――」

 

 言葉を区切ったティオネは、ベッドの上で穏やかに眠っているベルに視線を移す。

 

「―――素晴らしい戦闘だったわ。思わず、血が滾ってしまうほどに」

 

「…ティオネ?」

 

 そう発言するティオネの表情にはアイズとは違う種類の笑みが浮かべていた。

 それは、戦闘本能を刺激されたときに浮かべる女戦士(アマゾネス)の笑顔であった。

 

「確かにあんな熱い闘いを見せられたらこっちまで興奮しちゃうよね~。ねぇアイズ、ベルの強さの秘密ってホントに心当たりはないの~?」

 

「…うん、私にもわからない。前にも言った通り、私はただ模擬戦闘を行っていただけだから」

 

「指導してきたアイズでもわからないとなると、直接本人に尋ねるしかなさそうね」

 

「早く目を覚まさないかな~。ってそうだ、いいこと思い付いたっ!!」

 

「うるさいティオナ、さっき大きな声を出さないように言ったばかりでしょう」

 

「うっ、ゴメン…」

 

「はぁ…それで何を思い付いたの?まぁ、あんたのことだからくだらないことだと思うけど」

 

 胡散臭そうなものを見るような目でティオナのことを見つめるティオネ。

 

「ふふん、実はね―――」

 

 そんなティオネの視線に気付かないままティオナは自信満々に告げるのであった。

 

「―――あたしもベルとアイズの訓練に参加しようと思うの!」

 

「…えっ?」

 

 ティオナの発言に、思わず素っ頓狂な声を上げるアイズ。

 そんなアイズとは対照的に、ティオネは興味深そうな表情を浮かべる。

 

「ベルの訓練内容って模擬戦闘なんだよね?それならあたしも得意だし、ベルの力になれると思うよ。それに、その中でベルの強さの秘密に気付くかもしれないでしょ?」

 

「ティオナ―――あんたにしてはいいアイデアじゃない」

 

「でしょ!どう、ティオネも混ざる?」

 

「実際にベルと戦える絶好の機会だし、そうさせてもらうわ」

 

「決まりだね!強くなったベルと戦えると思うと、何だか血が騒いできたよ!ねぇティオネ、今から組手しない?」

 

「いいわね、私もちょうど組手をしたい気分だったの。それではこれで失礼させてもらうわよ、アイズ」

 

「ティオネとの組手が終わったらまた来るね、アイズ~!」

 

 朗らかに笑いながらティオナ達は部屋を後にするのであった。

 ティオナ達が立ち去った部屋には、再び静寂が満ちる。

 

(…リヴェリアやレフィーヤの二人は、ベルのことを凄く心配していたな)

 

 レフィーヤ自身は否定していたけれど、ベルのことを気に掛けているのはアイズにもバレバレであった。

 

(…ティオナとティオネもベルのことを心配していたようだけど、早くベルと戦いたそうにしていたな)

 

 ティオナやティオネの種族であるアマゾネスは、熱い戦いを見ると戦闘本能を刺激されて血が滾る者がほとんどだ。

 どうやらベルの死闘は、彼女達のアマゾネスとしての本能を刺激したようである。

 

(…そういえば、今度からティオナ達も訓練に参加するんだっけ?ベルが起きたらこのことも伝えないと)

 

「はぁ…」

 

 無意識のうちに、アイズはため息を吐いていた。

 本来なら訓練するメンバーが増えることは喜ばしいことだが、アイズは素直に喜べずにいたのだ。

 

(…あれ?どうして私、ため息をついて…。ティオナ達が訓練に加わることは、ベルにとってもプラスになる。だからここは、喜ぶことが正しいはずなのに…)

 

 アイズは自身の胸の内に生まれたおかしな感情に戸惑いを見せる。

 その感情の名前を、アイズはまだ知らないのであった。

 

 






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