ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~ 作:リィンP
ベルが目覚めた次の日の朝、彼は自室にて【ステイタス】を更新している真っ最中であった。
うつ伏せに寝ているベルの上に跨って座りながら【ステイタス】を更新しているのは、もちろん彼の主神であるロキである。
「よし、これでLv.1最後の【ステイタス】更新終了やな!」
「えっ、それってまさか…!」
「むふふ、そうや。ベルのレベルが上がったんやで!」
「ほ、本当ですか!?」
「マジもマジ、大マジや!っと、その前に……よし書き終わった。ほい、これがベルのLv.1最後の【ステイタス】や」
「ありがとうございます、ロキ様!」
更新した【ステイタス】内容を共通語に書き換えたロキは、その羊皮紙をベルに手渡す。
お礼を言ってその紙を受け取ったベルは、視線をその紙に落とす。
そこにはベルの名前と現在の器の位階、そして基本アビリティの上昇値が記載されていた。
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ベル・クラネル
Lv.1
力:SS1053→SSS1183 耐久:S960→SSS1123 器用:SS1085→SSS1215
敏捷:SSS1138→SSS1403 魔力:S982→SSS1108
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「こ、これが僕の【ステイタス】…」
自分の【ステイタス】が書き記された紙を読んで、目を見開くベル。
そんなベルの様子を見つめているロキはの内心は穏やかでなかった。
(以前うちがついた成長期という嘘をベルはすっかり信じ込んでいるようやけど、流石にこれで自分の【ステイタス】の異常さに疑問を抱いたはずや…)
本来、ステイタスの上限はS999であり、その限界を越える者は今まで存在していなかった。
しかし約一週間前、なんとベルはその限界を越えてSSに至った。
このことが他の者にバレたら面倒なことになると考えたロキは、この規格外な成長速度をただの成長期だとベルに信じ込ませたのだ。
純粋無垢なベルが
(全アビリティSSSって何やねん!?そんなの初めて見たわ!!あぁ、これはもうあかん…流石のベルも成長期だという言葉では誤魔化せないはずや)
そしてロキは、一つの決心を下す。
(決めた…『スキル』のことは隠した上で、今の成長速度が他の人とは一線を画している事実を伝えよう。最初はベルも戸惑うとは思うけど、そこは上手く誤魔化すしかない…)
隠し事ができないベルに【
(Lv.3…いや、Lv.4になったらベルに伝えよう。そんくらい力をつければ、
「ベル、今回の【ステイタス】を見てビックリしたやろう?」
「はい、本当に驚きました!」
「うむ、ベルが驚くのも当然や。なぜなら成長期という言葉は…」
「【ステイタス】が驚くほど伸びていますよ、ロキ様!成長期だとこんなに伸びるものなんですねっ!」
「…んっ?」
「こんなに【ステイタス】が上昇したのも以前ロキ様がおっしゃっていたように今が僕の成長期だからなんですよねっ!」
「…んんっ?」
自分の言葉を微塵も疑わないベルの様子を見て、覚悟を決めたはずのロキは急に後ろめたい気持ちになっていった。
(まさか未だにうちの
「………」
「えっと、ロキ様…?僕、何かおかしなことを言いましたか…?」
黙り込んだロキを心配したのか、ベルは不安そうな表情でロキのことを見つめてくる。
思わず庇護欲を掻き立てるような眷族の姿を前にして、ロキはベルのためにも嘘をつき続けることを決心した。
「な、何もおかしなことは言ってないで!そう、今がベルの成長期なんや!」
「やっぱり成長期なんですね!そういえば、この成長期っていつまで続くのかロキ様にはわかりますか?」
「お、おそらく今までの経験則から大体一年くらい続くと思うで!」
「そうなんですか。成長期って結構長く続くんですね」
「そ、そうやな」
(あかん、覚悟を決めても目をキラキラと輝かせたベルに、嘘を吐き続けるのはやっぱり精神的にキツイわ。ここは話を変えへんと…ッ!)
「そ、そうやベル!とっても良い報告があるんやで!」
「良い報告、ですか…?」
「何と【ランクアップ】の特典である『発展アビリティ』が発現可能や!」
「えっ!?『発展アビリティ』ってあの『発展アビリティ』ですか!?」
『発展アビリティ』、それは既存の基本アビリティに加えて発現する能力である。
『発展アビリティ』が発現するタイミングはランクアップするときだけであり、Lvが上がる都度【ステイタス】に追加される可能性がある。
『発展アビリティ』が発現するかどうかは、その者が積み重ねてきた経験に左右される。
一定の【経験値】が存在しなければ例えランクアップしても『発展アビリティ』は発現しない場合がある。
逆に言えば、多くの経験を積み重ねてきた者は、候補として複数の『発展アビリティ』が選択可能になる。
ちなみにであるが、一度のランクアップにつき選択できる『発展アビリティ』は一つだけという制約があったりする。
「ベルが知っている『発展アビリティ』で合ってるで!ちなみに選択可能なアビリティは一つだけだから、どれを選択しようか悩む心配もないからな」
「あのロキ様。今回発現可能な『発展アビリティ』って、どんなアビリティですか?」
「フフフ、そのアビリティの名は『天運』や!」
「『天運』ですか…?」
今回のランクアップで取得可能であるベルの『発展アビリティ』はそれ一つだけであった。
しかしその『発展アビリティ』もまた彼のスキル同様特殊であった。
「実はこの『発展アビリティ』は、うちも初めて見るアビリティなんやで」
「えっ、そうなんですか!?」
多くの団員を眷族に持つロキは、様々な『発展アビリティ』を見てきた。
しかし今回ベルに出現した『発展アビリティ』は、ロキでさえも初めて目にするものであった。
つまり今回ベルに発現した『天運』は、間違いなく『レアアビリティ』である。
「あの、ロキ樣…その『天運』というアビリティはどのような効果があるのかわかりますか?」
「それは実際に選んでみないことには何とも言えへん。さっきも言った通り、うちでさえも見たことも聞いたこともないアビリティやからな。ただまぁ、大まかな効果でいいなら予想できるで」
「ほ、本当ですか!?」
「うむ、うちの勘だとこのアビリティは『加護』に近いもんやと思うんや」
「『加護』ですか…?」
「ん~何と言えばわかりやすいやろうか…本人が関与しないところで働く超常的な護りみたいなもんや」
(それにしても『天運』…これもあの精霊の影響やろうな)
どんな『発展アビリティ』が出現するかは、その者が積み重ねられてきたものに反映される。
運命を司る精霊と契約しているという事実が、今回の『発展アビリティ』に反映されたのであろうとロキは当たりをつける。
(まぁベルにとって悪いもんではないようやし、取って損はないやろう)
そう判断したロキは、ベルに『天運』を発現させるか尋ねる。
「そんで、どないする?うちは取っておいた方がいいと思うけど、最終的に決めるのはベル自身や」
「──僕は、この『発展アビリティ』を取りたいと思います。ロキ様が言ったようにこのアビリティは僕のことを守ってくれる…そんな気がするんです」
「よし、わかった。それじゃあ、『天運』を発現させるで」
ロキは再びベルの背に跨り、朱く波打ちながら発光する【神聖文字】に目を落とす。
待機状態にしているベルの【ステイタス】に指を走らせたロキは、器の昇華を執り行った。
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ベル・クラネル
Lv.2
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
天運:I
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「よし、これで無事に【ランクアップ】したで…って、これは…」
「あの、何か問題が起きたんですか?」
「ンー、問題は何もないから心配あらへんで。ムフフ…」
「…?そ、そうですか」
何故かウキウキとしたロキの様子に、不思議そうな顔をするベル。
しかしロキはニヤニヤと笑みを浮かべながらも、その理由を語ろうとしなかった。
その笑みはまるで、サプライズで子供にプレゼントを贈ろうとする親が浮かべる微笑みであったのだ。
「そうそう。よし、もう服を着ていいで!」
「はい、ありがとうございました」
滞りなく【ステイタス】の昇華を終えたベルは、ロキにお礼を言って服を着る。
「そうや、ベル。昨日目覚めた後に、アイズとはどんなことを話したんや?」
「うぇ!?ア、アイズさんとですか…?」
「そうや。昨夜聞き逃したときから、ずっと気になっていたんやで!?」
鼻息を荒くするロキにベルは狼狽えたながらも答える。
「え、えっと…その、アイズさんとはあまり話せませんでした」
「んん、そうだったんか?でも目が覚めたときはアイズと二人きりやったんやろ?」
「は、はい。ですが、その…」
「ン~、何らかのハプニングがあったんやな。とりあえず、昨夜何があったのか聞かせてや」
「その、実は──」
そしてベルは目を覚ましたときの出来事をロキに語るのであった。
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「ん…んんっ、あれ…?ここは…」
丸二日間眠り込んでいたベルの瞼がようやく開く。
まだ覚醒したばかりのためか、ベルの頭は上手く働かず、現在の自分の状況を理解できずにいた。
(そうだ、僕はミノタウロスを倒したんだった。それで、その後は確か…)
意識がはっきりしていく内に、ベルの意識が完全に覚醒する。
そしてそこでようやく、ベルは自分の手から伝わってくる心地良い温もりと、すぐ横に誰かがいることに気が付いた。
(誰かに手を握られている…?それに、誰かが僕の隣で寝ているみたい…)
不思議に思ったベルは穏やかな寝息が聞こえる方に顔を向ける。何とそこにはベルの方に顔を向けて眠るアイズの姿があった。
「えっ?ア、アイズさん…?」
横向きに寝た無防備な体勢を見せるアイズの姿を前にして、ベルは目を白黒される。
ベルが声を出しても、アイズは何も反応を示さなかった。どうやら完全に眠っているみたいである。
(どうしてアイズさんが僕の隣に!?しかも僕の手を握りながら熟睡しているし、もう訳がわからないよ…)
アイズと同じベッドで寝ているという事実に、顔を赤くしてどぎまぎするベル。
顔を真っ赤にしながらも混沌とした状況に狼狽えるベルであったが、とりあえずアイズを起こさないようにしながら身を起こすことにした。
(アイズさんを起こさないように…って、あれ?手が離れないッ!?)
まずは繋がれた手を離そうとしたベルであったが、眠っているはずのアイズがあまりにもがっちりと自分の手を握っているためか、ビクともしなかった。
(ど、どうしよう!?あまり強引に振りほどこうとするとアイズさんが起きちゃうし…)
スヤスヤと気持ちよさそうに眠るアイズを起こすのはあまりに忍びない。
しかし手を繋がれたままの状態だと、ベッドから出ることができない。
(それにしても、どうしてアイズさんが僕の隣で眠っているんだろう…?)
ふと、そんなことを疑問に思うベルであったが、彼の疑問に答えるためには時を少しだけ遡る必要がある。
それは、ベルが目覚める一時間前のこと。
ベルの衝撃的な寝言を聞いたアイズは、手を握ったままベルの目覚めを待ち続けた。
しかしベルの心意を知って心地良い気分になったアイズに、丸二日ろくに眠っていなかったツケがきたのか、眠気が襲ってきたのである。
必死に眠気と戦いながらもアイズはこう思った。
──ベルが目を覚ましたときに、眠たげな表情を見せるのは色々マズい、と。
そこでアイズは、ベルが起きる前に少しだけ仮眠を取ろうと考えたのであった。
しかし繋いだ手から伝わるベルの温かさを手離すのは名残惜しいと思ったアイズは、手を握ったまま眠る方法を考えた。
そうして思い付いた方法が「そうだ、一緒のベッドで寝ればいい」であった。
ロキやリヴェリアの誰かがいれば「それは違う」とツッコミを入れたところが、この部屋には眠るベルとアイズの二人だけ。
アイズは音を立てずにベッドに潜り込み、ベルのあどけない寝顔を眺めながらゆっくりと瞼を閉じた。
手のひらから伝わるベルの体温を感じながら、アイズの意識は微睡の中に落ちていくのであった。
そしてアイズがぐっすりと眠り込んで約一時間後、彼女の隣で寝ていたベルが目を覚まし、今の状況に至るのである。
(ま、まずは落ち着こう。冷静になればこの状況もどうにかなるはず…)
バクバクと脈打つ心臓を落ち着かせながら、アイズが起こさないで自分だけ起きる方法を考えるベル。
しかし、いくら考えても妙案が浮かぶことはなかった。
(マ、マズい!?何も浮かばない…)
「……」
未だ瞼を閉じて、すぅすぅと小さな寝息を立てるアイズ。
あどけない寝顔を晒すアイズがずっと視界に映る状況で、冷静に思考を働くはずなかった。
逆の方向に顔を向ければアイズの寝顔を見ずに済むのだが、そんな簡単なことに気が付かないほど今のベルはテンパっていた。
(も、もし今この状況を誰かに見られたら…いや、大丈夫だ!そうタイミングよく誰かが着たりしないはず…!!)
そんなベルの希望的観測は、次の瞬間無残にも砕け散った
──トントントン。
「えっ、うそ…」
来客を知らせるノックの音を聞いたベルの表情がサァーと青くなっていく。
そしてベルが見つめる先で静かに扉が開き、エルフの少女が入って来た。
「アイズさん、もうすぐ夕食ですからそろそろ…って、えッ!?」
「レ、レフィーヤさん…」
目を真ん丸にして驚くレフィーヤと、凍り付いた顔で彼女の名を呼ぶベル。
レフィーヤはギギギと壊れたロボットのような動きでベルの隣で穏やかに眠るアイズに顔を向ける。
幸せそうに眠るアイズの寝顔をしばらく見つめた後、レフィーヤは再びベルの方へと視線を戻した。
「ひぃっ!?」
感情が全て抜け落ちた表情をするレフィーヤと目が合った瞬間、ベルは情けない悲鳴を上げる。
「…何か言い残したことはありますか?」
「えっと、お、おはようございます…?」
レフィーヤのあまりの恐さに、的外れた言葉を口にするベル。
ベルの言葉を聞いて、ニッコリと微笑むレフィーヤ。
(た、助かった…?)
レフィーヤが微笑んだことで危機は去ったと思ったベルは、ホッと息を吐く。
だが、それは大間違いであった。
「あ、あなたという人はぁあああああああッ!!」
「ご、ごめんなさぁあああああああああいッ!?」
浮かべていた笑顔を仮面のように剥がしたレフィーヤはキッ!!と鋭い剣幕でベルを睨み付け、怒りを爆発させた。
「んっ、ベル…それにレフィーヤ?」
部屋中に響き渡ったレフィーヤとベルの叫び声により、ぐっすりと眠っていたアイズも目を覚ますのであった。
******
「──と、言うことがあったです」
「アハハ、そんなことがあったんかい!それはベルも大変やったな~」
「アイズさんがレフィーヤさんの誤解を解いてくれなかったら、危ないところでした」
「ふむふむ、それでベルが目覚めたのにレフィーヤの機嫌が悪かったんか。しかしこれはとんだ誤算や。せっかく二人きりで語り合う機会を作りたかったのにな~」
「えっと、二人きりですか…?」
「ムフフ、ベルは気にせんでええ。それに、レフィーヤの気持ちもわかるしな」
「は、はぁ…」
ようやくベルが目覚めたと思ったら、そんな彼が
レフィーヤも素直にベルの目覚めを喜びたかったはずなのに、ベルに対する第一声が怒号では本人も複雑な心境であろう。
ロキは、絶賛後悔中であるレフィーヤに心底同情するのであった。
「あのロキ様、そろそろアイズさん達と約束した時間ですので…」
「ん?何や、みんなでどっかに出掛けるんか?」
「はい、アイズさん達と一緒に武具店に行く予定です」
「ふむふむ、このタイミングだとアイズ達の用事は『遠征』で損耗した武器の修理と、ベルの装備の補強やな」
「はい、それで今回はアイズさんだけじゃなくて…」
「ベル!準備できたっ?」
ガチャ!っと勢いよく開かれた扉からベルの部屋に入って来たのは、天真爛漫な笑顔を浮かべたティオナであった。
「テ、ティオナさん…」
「あれ、どうしてベルの部屋にロキがいるのっ?勝手に入って来ちゃったけど、もしかしてマズかった?」
「大丈夫や、今ちょうど話し終わったところやからな」
「そうだったんだ!じゃあ、ベルを借りても大丈夫だね!」
「おう、思う存分連れ回してええで!」
「え、ロキ様!?」
「ありがと、ロキっ!それじゃあ、みんなのところに行こう、ベルっ!」
「は、はい!それではロキ様、いってきます」
「じゃあね、ロキ~」
「おう、気を付けて帰って来るんやで~」
ティオナに腕を引っ張られ、引き摺られるようにして部屋から出て行くベル。
そんな二人の後ろ姿を見送ったロキは、最後に更新したベルの【ステイタス】を思い返して、微笑むのであった。
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ベル・クラネル
Lv.2
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
天運:I
《魔法》【ウインドボルト】
・速攻魔法
【エンハンス・イアー】
・付与魔法
・自身の聴覚を強化
・詠唱式【我が耳に集え、全ての音よ】
《スキル》【
・早熟する
・英雄を目指し続ける限り効果持続
・英雄の憧憬を燃やすことにより効果向上
【
・魔法が発現しやすくなる
・『魔力』のアビリティ強化
・運命に干渉し、加護の保持者に絶対試練を与える
・試練を乗り越えるごとに、加護の効果向上
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(【ランクアップ】と『発展アビリティ』が出現するのはうちの予想通りだったけど、まさか新たに『魔法』まで出現するとはな…)
「きっと新しい『魔法』が発現したことを知ったらベルも喜ぶやろうな~。ムフフ、ホームに帰って来たら教えてあげるとするか!」
鼻歌混じりにそう楽し気に呟くロキであるが、ベルが魔法の存在を知るのは少し後のことになるのであった。