ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~   作:リィンP

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男神の寵愛

 

 

 その後、テキパキとベルの身体を測定していくリエル。

 アイズ達三人はその様子を眺めながら、ベルに聞こえない声量で会話していた。

 

「…危なかったね、レフィーヤ」

 

「うぅ、本当にごめんなさい」

 

「まぁ、バレずに済んだのだからよかったじゃない。ただ、もう少し上手く誤魔化してほしかったけれどね」

 

 そう言って苦笑いするティオネ。

 自分の迂闊な言葉のせいで先輩達に迷惑をかけてしまったレフィーヤは、勢いよく頭を下げて謝った。

 

「本当に申し訳ありませんでした!」

 

「…レフィーヤ、声を抑えて」

 

「あっ…すみません、アイズさん」

 

「まったく、リヴェリアも厄介なお願いをしてきたわね」

 

 アイズに注意点されたレフィーヤは、よりいっそう落ち込んでしまう。

 そんなレフィーヤを見て、ティオネは困ったようにそう呟くのであった。

 

 ベルは知らないことであったが、実は貰った金額の大半はフィンではなく、リヴェリアが自分の財布から出している。

 どうしてアイズ達はそのことをベルに秘密にしようとしているのか?

 それはリヴェリア自身から、自分の存在をベルには伝えないでほしいとアイズ達に頼んだからだ。

 そして頼まれたアイズ達はというと、どうしてそんなことを頼むのか不思議に思い、レフィーヤなどは戸惑いの表情を浮かべていた。

 だがリヴェリアの真剣な表情と、フィンの後押しもあってアイズ達はベルには黙っていくことを承諾したのであった。

 

「ですが、リヴェリア様はどうして自分の名前を出さないでほしいなんて言ったのでしょうか?」

 

「リヴェリア自身詳しい理由は話してくれなかったし、まったく見当が付かないわね。アイズならわかる?」

 

「…ううん、私にもわからない」

 

 アイズ達がその理由を尋ねても、リヴェリアは苦い顔で『勘弁してくれ』と言うだけであった。

 

「そういえば団長、凄く微笑ましそうな表情でリヴェリアを見ていたわね。何か関係あるのかしら?」

 

 リヴェリアの謎めいた行動に首を捻るアイズ達。

 現時点でリヴェリアの行動の真意を知る者は、フィンとガレス、そしてロキしかいない。

 どうしてリヴェリアは自分の存在をベルに隠したのか、その理由が明らかになるのはもう少し先の話であった。

 

「採寸終わったから、もう楽にしていい」

 

「ありがとうございます、リエルさん」

 

 そして約五分後、ベルの採寸が問題なく完了した。

 

「最後に一つ確認したいことがあるから、私に付いて来て」

 

「えっと、どこかに移動するんですか?」

 

「付いて来ればわかる」

 

「あの、私達は…」

 

「五分くらいで終わるから、貴方達はここで待ってて」

 

「わかりました」

 

「それじゃあ、付いて来て」

 

「は、はい」

 

 レフィーヤの質問に答えたリエルは、踵を返して部屋から出て行く。

 そんなリエルの背を追って、ベルも部屋から出て行くのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 リエルに連れられて別室へと移動したベル。

 その部屋は無人であり、モンスターの素材や鉱物などが積み上げられて置いてあることから、倉庫のような役割をしていることが伺えた。

 

(どうしてこんな所にリエルさんは連れて来たんだろう…?)

 

「あの、最後に確認したいことって何ですか?」

 

「………」

 

「リエルさん?」

 

 ベルの問い掛けに反応せずに、何かをじっと考えている様子のリエル。

 少しして考えが纏まったのか、リエルはベルを真っ正面から見据えると、静かに口を開いた。 

 

「──貴方は英雄になりたいの?」

 

「っ!」

 

 その言葉は、ベルにとって予想外で意表を突く質問であった。

 目を見開いて驚くベルを見据えながら、リエルは言葉を続ける。

 

「その反応…やっぱり」

 

「ど、どうしてわかったんですか!?」

 

 確かにベルは英雄になりたいという夢を持っているが、そのことをリエルに話した覚えはない。

 それなのにリエルは、ある程度の確信を持ってベルに尋ねたように感じた。

 

「貴方みたいに英雄に憧れ、英雄になろうとした人を今までずっと見て来たから」

 

(英雄に憧れ、英雄になろうとした……僕と同じだ)

 

 ベルとリエルが言うその人で異なる点は、ベルは英雄になろうとしているが、リエルが言うその人は英雄になろうとした──つまり過去の話だということだ。

 

「あの、リエルさんがずっと見て来たその人って…」

 

「その人は私の……ううん、そんなことはどうでもいい。私が貴方に言いたいことは一つだけ───そんな愚かな夢は今すぐ諦めて」

 

「っ!?」

 

 一瞬にして冷たい雰囲気を纏ったリエルは、まるでベルの瞳の奥を覗き込むようにして語り出す。

 

「英雄を目指した先にあるのは、身の破滅だけ。英雄譚に憧れ、英雄になろうした者は皆、自身の無力さを痛感する。だって英雄は選ばれた者しかなれないのだから」

 

 リエルは語る、英雄がどのような存在なのかを。

 

「英雄と英雄でない者の間にある越えることのできない高き壁───それは実力であり、知力であり、運であり、勇気。実力があっても勇気がなければ英雄にはなれないし、勇気があっても実力がなければ英雄にはなれない」

 

 英雄とはいかに優れた存在なのかを。

 

「どんなに卓越した能力を持っていても、運がない者は呆気なく死ぬ。どんなに幸運な者でもそれに見合う実力がなければ英雄になれない。だって、英雄とはそういう存在なのだから」

 

 英雄というものがいかに完璧な存在なのかを、リエルは語る。

 

「で、でも諦めなければいつかは…!」

 

「自分では英雄になれないと悟りながらも、それでも英雄になることを諦めないのは愚かの一言に尽きる。貴方には、愚か者の最期が想像できる?」

 

「英雄を目指した者の最期…」

 

「わからないなら教えてあげる。彼らが子供の頃に抱いた夢はいずれ悪夢へと変わり、自分も…そして周りの者達も苦しめ続ける。それが英雄になることを諦め切れなかった者の末路」

 

 まるで実際に見て来たかのように話すリエル。だからだろうか、彼女の言葉にはとても重みがあった。

 そんな彼女の話を聞いていくうちに、ベルは気が付いてしまった。

 今の話はリエルが先程言っていた人物───彼女がずっと側で見て来たという人の物語であることに。

 英雄に憧れ、英雄になろうとした者が実際に辿った哀れな末路であることに。

 

(これは誰にでも語っていい内容じゃない。それなのにリエルはこんなに言葉を尽くして語ってくれた)

 

 決して初対面の人間に話していい内容ではないのに、どうして会ったばかりのベルに話してくれたのか?

 その答えはただ一つ。

 

(リエルさんはもう誰にもあんな辛い思いをさせたくないと思った……だからこうして、僕に話してくれたんだ)

 

「話はこれで終わり。これで貴方も英雄になることを諦める決心が付いたはず」

 

 リエルの心遣いは痛いほどにベルに伝わった。

 そしてリエルの言葉は全て正論。ここで英雄になることを諦めるのがベルにとって正しい選択だ。

 

(大した才能もない自分は、リエルさんの言葉に従って諦めるのが正しい。でも、僕は───)

 

「───ごめんなさい、リエルさん。やっぱり僕、この夢を諦めることはできません」

 

「…貴方、正気?」

 

 ベルの出した答えを聞いて、リエルは信じられない表情を見せる。

 

「確かに今の僕の実力では英雄には全然届きません。それでも僕は、諦めたくないんです」

 

「英雄は努力や鍛錬でなれるような存在ではない。今諦めないと絶対に貴方は後悔する」

 

「そう、かもしれませんね」

 

「それなら…!」

 

「でも、ここで英雄になる夢を諦める方が絶対に後悔する……そう思うんです」

 

「!」

 

 そう呟くベルの紅き瞳には、強い決意が現れていた。

 意志が弱そうな少年だと思っていたリエルは、ベルの強い意志を目の当たりにして軽く目を見張る。

 

「僕が抱く夢がいかに無謀なのかは自分自身が一番わかっています。英雄と呼ばれてもおかしくない実力を持つあの人を守る未来なんて、まったく想像できません」

 

「……」

 

「それでも、例えどんなに愚かな夢だと言われようとも、僕は絶対に諦めたくないんです」

 

(──だって僕はあのとき誓ったんだ)

 

 もう二度と自分が弱いせいでアイズを悲しませたくない、と。

 

 微笑むアイズの隣にいつまでもいるために誰よりも強くなりたい、と。

 

 そして何時の日かアイズを守る英雄になってみせる、と。

 

 だからベル・クラネルは英雄に──彼女だけの英雄になることを決して諦めない。

 例えこの先、どれほど困難な試練が待ち受けていようとも、ベル・クラネルは英雄を目指して前に進み続けていく。

 

「貴方は…貴方は本当に愚か。私があれだけ忠告したのに諦めないなんて」

 

「本当にすみません。リエルさんの心遣いは十分理解しているつもりです。だけど、僕は…」

 

「もういい。貴方の意思がアダマンタイトより固いのは十分に理解した。だから私はこれ以上何も言うつもりはない」

 

「ア、アダマンタイトよりって…」

 

「事実。貴方は見かけによらず頑固」

 

「うっ」

 

(け、結構心に刺さる…)

 

 辛辣な言葉の槍に心を痛めるベル。

 傷付いた様子のベルをじっと見つめていたリエルは、おもむろに口を開いた。

 

「貴方はどこにでもいるような普通の少年。そのはずなのに、強き意思を心に秘め、憧れの壁を乗り換えて英雄になろうとしている」

 

「リエルさん…?」

 

「しかもミノタウロスを打ち倒した。まるであの英雄譚の『彼』のように」

 

「彼って、『アルゴノゥト』のことですか?」

 

 『アルゴノゥト』。それは英雄になりたいと願うただの青年の物語。

 英雄になりたいという夢を持つ普通の青年が、牛人によって迷宮へと連れ攫われた王女を救いに行く物語。

 それは一般的な英雄譚とは異なり、なし崩し的に王女を救い出してしまうという、どこか滑稽な物語。

 

「そう…決して英雄になれる器ではないのに、英雄になれてしまった青年。貴方はどこか『彼』に似ている気がする」

 

(英雄になれてしまった青年…?)

 

 ベルはリエルの言葉──英雄になれたではなく、なれてしまったという言い方に引っ掛かりを覚えた。

 

「あの、リエルさんも『アルゴノゥト』を読んだことあるんですか?」

 

「うん、父から数え切れないほど聞かされた」

 

「リエルさんのお父さんは英雄譚が好きだったんですね」

 

「父は英雄譚を深く愛していた──『アルゴノゥト』以外の英雄譚を」

 

「えっ、『アルゴノゥト』以外ですか?でも、どうして」

 

「…父は、英雄アルゴノゥトを深く憎んでいたから」

 

「憎んでいたって…」

 

 その理由を尋ねようとしたベルであったが、リエルが苦しそうに表情を歪めているのを見て、それ以上言葉を続けることはできなかった。

 

(リエルさん、何だか苦しそうな…)

 

「…話はもう終わり。さっきの部屋に戻るから私に付いてきて」

 

 表情を歪めたのも一瞬、すぐに元の無表情に戻ったリエルは、扉を開けて廊下へと出て行った。

 

「あ、待ってください、リエルさん!」

 

 そんなリエルの後を、ベルは慌てて追いかけて行くのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「あ、戻ってきました」

 

「…おかえり」

 

 部屋に戻って来たベルとリエルを出迎えるアイズ達。

 彼女達はリエルが告げた時間を過ぎても一向に帰って来ないベルを心配していたのだ。

 

「やっと戻って来たわね。それで、どのくらいで防具は仕上がりそうなの?」

 

「二日あれば十分」

 

「へぇ、思ったよりも早いわね」

 

「その、武器の方もあるのに大丈夫なんですか?」

 

「平気」

 

「でも、他の人の依頼とかもあるんじゃ…」

 

「ない。今請け負っている依頼は貴方だけだから」

 

「そ、そうなんですか」

 

「そう」

 

「えっと、その…あははは」

 

 リエルの言葉を聞いて、ベルはどう反応していいかわからず、困ったように笑って誤魔化す。

 

(依頼が一個もないって…この子、本当に大丈夫なんでしょうね)

 

(ど、どうなんでしょう…)

 

(…大丈夫だと思う。多分…)

 

(多分って、アイズ…)

 

 リエルとベルに聞こえないように、アイズ達は小声で話す。

 新人ならともかく、『鍛冶』の発展アビリティを持っているのに受け持っている依頼が一個もないのは通常あり得ない。

 しかも鍛冶の腕はゴブニュが太鼓判を押しているので余計に不自然なことである。

 考えられる原因としては、リエルが何かしらの問題…それも大きな問題を抱えているということである。

 

 アイズ達の胸の内に一抹の不安が生まれる中、リエルはベルに最後の確認をする。

 

「それで、他に依頼はない?」

 

「は、はい」

 

「そう。なら私はこれで」

 

 リエルはそう言うと、ベルの武器を手に持って部屋から出て行くのであった。

 

「あ、リエルさん!…って、もう行っちゃいましたか」

 

「…中々面白い子だったね、ベル」

 

「そ、そうですね」

 

「ゴブニュ様はリエルさんの鍛冶の腕は確かだと言っていましたし、大丈夫…ですよね?」

 

「そこは自信を持って言い切ってほしかったわ。それじゃあ、無事に頼み終えたことだし、そろそろお店を出るとしましょう」

 

 武器の整備と強化、そして防具の製作を依頼したベル達は、ティオナの元に向かうのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「あっ、みんな!もう終わったの~?」

 

「えぇ、こっちの用事は全て終わったわ。そっちは大丈夫なんでしょうね」

 

「うん、もちろんっ!問題なんて一つもなかったよ!」

 

 天真爛漫に答えるティオナ。

 そんな彼女とは対照的に周囲にいる職人達は疲れ果てた表情をしていた。

 「あぁ、何て悪夢だぁ」と呟きながら頭を抱える者もいることから、ティオナが気付かないだけでたくさんの問題があったことが伺える。

 

「その、本当に大丈夫なんですか?」

 

「…大丈夫、いつものことだから」

 

「そ、そうなんですか」

 

 その光景を見て引き攣った顔をするベルに、アイズは特に動じることなくそう言う。

 

「うぅ、せっかく厄介な問題事が解決したと思ったのによぉ…」

 

「厄介な問題事、ですか?」

 

「あぁ、実はつい三日前まで迷惑な奴等がいたんだ」

 

「迷惑な奴等ねぇ。それって、ティオナみたいな客かしら?」

 

「むぅ!あたしは迷惑な客じゃないよっ!そうだよね、みんな?」

 

「「「………」」」

 

 ティオナの言葉に、【ゴブニュ・ファミリア】の団員達は気まずそうに眼を反らした。

 

「ま、まぁそれは置いておいて、話を戻すぞ。別にそいつらは武器や防具を何度も壊したりするわけじゃない」

 

「奴等は【大切断(アマゾン)】より厄介な…いや、あんな奴等と比較するのは流石にお前さんに失礼だな」

 

「…その人達は一体何をしたの?」

 

「奴等は、奴等の主神はうちの団員に激しく言い寄って来た」

 

 【ゴブニュ・ファミリア】の団員達は、ベル達に事情を説明し始めた。

 

「つい三週間前のことだ。どこで知ったのかあの神はリエルに目を付けたんだ」

 

「え、リエルさんですか?」

 

「何だ、もう会ったのか?」

 

「会ったというか、僕の依頼を引き受けてくれた人がリエルさんなんです」

 

「それなら話が早い。リエルは自分が受けている依頼について何か言っていたか?」

 

「確か…今請け負っている依頼は僕以外にないと言っていました」

 

「その理由は聞いたか?」

 

「いえ、そこまでは…」

 

「リエルの名誉のために言っておくが、彼女は多くの依頼を受け持っていた──【アポロン・ファミリア】の連中が現れる前まではな」

 

「【アポロン・ファミリア】…」

 

「確か【ファミリア】としての等級はDで、中規模の【ファミリア】でしたよね?」

 

「えぇ、神アポロンが見初めた者達が数多く所属していて、美男美女が多いと聞いているわ」

 

「あぁ、その通りだ。リエルに一目惚れしたアポロンは、毎日欠かすことなくうちに通いつめ、ムカつくことに彼女を引き抜こうとしたのさ」

 

「もちろん、リエルはまともに取り合わなかった。それでもしつこく言い寄るアポロンに『仕事の邪魔』とバッサリ切ったくらいだ」

 

「そ、それは凄いですね」

 

「だが、アポロンは驚くほど執念深かった」

 

「え?」

 

「奴は自分の眷族をぞろぞろと引き連れて店に訪れ、陰湿な嫌がらせをしてきたんだ」

 

「それは一体どのような…?」

 

「買うつもりがまったくないのに多勢で営業時間中ずっと店内に居座る。しかも店に入って来る冒険者を威嚇して店から追い出す嫌がらせ付きだ」

 

「それって営業妨害じゃあ…」

 

「あぁ、その通りだ。しかも連中は厄介なことに、自分達より実力が上の冒険者が来たときは絶対に何もせず、客の振りをする。まったく、本当に忌々しい連中だぜ」

 

 忌々しそうにそう吐き捨てる職人の言葉に、ティオネは同意を示す。

 

「確かに、それは厄介ね」

 

「むぅ、なにそれっ!?どうしてやり返さなかったの!」

 

「もちろん、俺達も黙っていなかったさ。だが連中を店から排除しようとしても『俺達は客だぞ』とふんぞり返って、店から立ち去ろうとしなかった」

 

「それならブッ飛ばせばいいじゃん!」

 

「ティオナさん、流石にそれは…」

 

「いや、俺らも我慢の限界が来て力づくで店から追い出すことにしたんだ。だが連中は『この店は客に暴力に振るう野蛮な武具屋だと言い触らすぞ』と逆に脅してきやがった」

 

「そんな!?」

 

「それは流石に酷すぎます!」

 

「それで、【アポロン・ファミリア】の迷惑行為をギルドに報告したの?」

 

「もちろん奴等の行為をギルドに報告したさ。だが【アポロン・ファミリア】への処罰は厳重注意のみ。それがギルドの決定だった…ッ!!」

 

「厳重注意って、具体的には…」

 

「書面で注意文書を送るだけで【アポロン・ファミリア】に対するペナルティーは一切なしだ」

 

「それじゃあ何もお咎めなしと変わらないじゃん!」

 

「その通りだ。クソッ、何が直接的に被害を受けているわけではないから厳重注意が妥当だよッ!」

 

「おそらく【アポロン・ファミリア】もそれがわかっていたから強気だったのでしょうね」

 

「ですがティオネさん、普通ならもっと大きい処罰が下るはずでは…」

 

「えぇ、そうね。私もそう思うわ」

 

「う~ん、つもりどういうことなの?」

 

「【アポロン・ファミリア】がギルドと裏で通じている可能性があるってことよ」

 

「ギルドと裏で通じているって、どういうこと!?」

 

「アポロン達はギルドの上層部に多額のお金を渡し、処罰を軽くするよう手を回していた可能性があるのよ」

 

「それって賄賂じゃないですか!?ギルドがそんなことをするなんて信じられません!」

 

「まだ【アポロン・ファミリア】がギルドと裏で通じていると決まったわけではないわ。何より、証拠がないもの」

 

(だけどもし【アポロン・ファミリア】が賄賂を送っているとしたら……)

 

 【アポロン・ファミリア】は直接的な暴力行動は格下の【ファミリア】が相手の場合を除いて起こさない。

 ただしつこく、粘着質に見初めた相手に付きまとうのみ。

 多少の問題行為も賄賂を受け取ったギルド職員が権力を使ってその情報を握りつぶしてしまい、彼等の問題行動を知っている者は被害者達と一部の限られた者だけとなる。

 

(まったく、私はこういう相手が一番嫌いなのよね)

 

 【アポロン・ファミリア】の薄汚さに、ティオネは心底嫌悪感を抱いた。

 

「しかも団員達に営業妨害をさせながら、アポロンだけはリエルを口説き落とそうと四六時中彼女にまとわりつく。そのせいでリエルは自分の仕事に集中できず、彼女に依頼を頼む人も減っていったんだ」

 

「それが三週間も続いたせいで、最後には誰もリエルに依頼しなくなったのさ。まったく、あのクソ神め!」

 

「それでリエルさん、今受けている依頼が一個もなかったんですね」

 

「あれ、でもおかしくない?毎日来ているのなら、今日も来ているはずだよね?」

 

「最初に言っただろう、つい三日前までいたってな。不思議なことに二日前から連中、姿を見せなくなったのさ」

 

「ようやく完全に脈なしだと理解したんだろう。まったく気付くのが遅すぎるぜ、バカ神め」

 

「それか、他の子に夢中になっているのかもな」

 

 一人の団員がそう呟くと、周りの者もそれはありえると頷く。

 行き過ぎた男神の寵愛が生んだ被害を聞いて、ベル達は心底【ゴブニュ・ファミリア】の団員達に同情した。

 

「何ていうかその、本当に災難でしたね」

 

「あぁ、二度と奴等の顔は見たくねぇな。お前達も【アポロン・ファミリア】には気を付けろよ…って、その心配はいらないか」

 

「そうね。確かに彼らは厄介だけれど、うちに手を出すほど馬鹿ではないでしょうし」

 

「確かにそうだな。まぁ何だ…色々あったがこれからもうちの店を利用してくれると助かる」

 

「もちろんだよっ!」

 

「いや、お前だけはあまり来ないでくれると助かるんだが…」

 

「むぅ、何であたしだけダメなのっ!?」

 

「毎回武器を壊されるからに決まっているだろう!!」

 

 ティオナと職人のやり取りに、全員が苦笑を浮かべる。

 天真爛漫なティオナのおかげで、重くなった空気が和らぐのであった。

 

 

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