ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~   作:リィンP

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欲望渦巻くオラリオ

 

 リューとの対話を通じ、ヒュアキントスと闘うことを決意したベル。

 冒険者として自分より遥かに格上であるリューの助言を深く胸に刻み込んだベルは、門前で彼女と別れ、ようやく【ロキ・ファミリア】のホームへと帰還したのであった。

 

 

 

 

 

 

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 バベルの塔の最上階にて、その女神は最上級の笑みを浮かべていた。なぜなら、自分の思惑通りにことが進み、大変満足していたからだ。

 

「ごめんなさいね、ベル。私だって本当は貴方が傷付く姿は見たくないの」

 

「でも、これは貴方の魂がより輝く上で必要ないことなのよ。だから私は、アポロンを焚き付け、彼に手を貸し、貴方に試練を与えることにした」

 

「貴方がアポロンの謀略を打ち破り、この試練を乗り越えてくれることを心から願っているわ。ふふ、私がここまで願うなんて久しぶりなのよ」

 

「叶うのなら、また私を魅了されるくらいの魂の輝きを見せてほしいわ。ねぇ、ベル?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、少し心配ね。忠告はしたけれど思ったよりもアポロンの子は小物だし、これであの子の相手が務まるのかしら?…そうね、オッタル」

 

「はっ」

 

「───貴方にやってほしいことがあるの」

 

 

 

 

 

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 派閥のホームである屋敷の一室にて、その男神は豪奢な金細工の椅子に腰かけ、優雅にワインを味わっていた。

 

「愛しきベル・クラネル……ついにこの私の手で愛でられる日が来るのか」

 

フフフと愉悦の笑みを漏らす男神は、自分のモノとなった少年との明るい未来を想像して、歓喜に打ち震えていた。

 

「あぁ、ベル君!いや、ベルきゅん!二人で真実の愛を育んでいこうじゃないか!!」

 

 

 

 

 

 

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 その日の深夜。【アポロン・ファミリア】ホームのとある私室にて、二人の青年が高そうなワインを飲みながら、計画の首尾について話し合っていた。

 

「フン、思わぬ妨害があったが、奴らの手助けもあって計画は順調だ。アポロン様もお喜びになっていたぞ」

 

 ホームに帰還した当初は荒れていたヒューマンの青年だが、敬愛する主神から直接お褒めの言葉を頂いたこともあり、すっかりご機嫌になっていた。対して、青年の対面に座る小人族の男は、不安げに彼の表情を伺っていた。

 

「でもよぉ、ヒュアキントス。やっぱりあの【ロキ・ファミリア】に手を出すのは不味いんじゃ…」

 

「今更臆病風に吹かれたのか、ルアン」 

 

 ヒュアキントスは怯えた表情をみせる小人族の青年をギロリと睨む。

 

「だって、もし【ロキ・ファミリア】が攻めて来たらウチは…」

 

「その心配は無用だ、ルアン───その可能性は絶対にありえん」

 

 ヒュアキントスは歪んだ笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「あの女神からもたらされた情報には、奴は愚かな程お人好しで、自分のせいで【ファミリア】の評判が傷つくことは絶対に避けるはずだと書かれていた。当初はその情報の信憑性を疑っていたが、ベル・クラネルを実際に見てあの情報が正しいことを確信したよ」

 

「ど、どうしてその情報が【ロキ・ファミリア】が攻めて来ない理由になるんだぁ…?」

 

 ヒュアキントスが何を言いたいのか、イマイチわからず困惑するルアン。そんな彼の様子を見て、ため息を吐きながらもヒュアキントスは答える。

 

「ハァ…少しは頭を働かせろ、ルアン。【ロキ・ファミリア】には俺達を攻める大義名分は存在しないのだ。そんな状況で俺達を滅ぼしたら、民衆達はどう思うだろうな?ククク…」

 

「ど、どう思うんだ…?」

 

「確実に民衆からの【ファミリア】の名声は堕ちる。奴らが俺達に非があると民衆に訴えても、証拠はないんだ。そんな状況で強硬策に出れば、【ロキ・ファミリア】に不信感を抱く者も出てくるだろう。それがわかっているベル・クラネルは、仲間が攻め込むことを必死で止めるだろう」

 

「な、なるほど。…んん、でもよぉヒュアキントス。ベル・クラネルの制止を無視して攻め込む可能性もあるんじゃないのかぁ?」

 

「まぁその可能性もないとは言い切れないだろう。ククク、喧嘩っ早い凶狼(ヴァナルガンド)などは暴走して攻め込んで来るかもしれないぞ」

 

「そ、そんなぁ!?あんなバケモノ、いくら束になってもに勝てねぇよ、ヒュアキントスッ!?」

 

「落ち着け、ルアン。確かに奴はムカつくことに私よりも強い。だか、こちらには奴ら(、、)がいるだろう?」

 

「や、奴らって、まさか…!」

 

 ヒュアキントスの指す人物に心当たりがついたのか、ルアンは驚愕の表情を見せる。

 

「今回の計画には【フレイヤ・ファミリア】の連中が力を貸してくれている。都市最大派閥の【ロキ・ファミリア】を抑えるには、同じ都市最大派閥が適任だろう」

 

 ヒュアキントスの話を聞き、一先ず【ロキ・ファミリア】に攻め滅ぼされる不安から解消されたルアンであったが、彼には分からないことがあった。

 

「でもよぉ、どうして【フレイヤ・ファミリア】はそこまでしてくれるんだぁ?そのベル・クラネルの情報も【フレイヤ・ファミリア】からなんだろう?」

 

 ルアンの言うことはもっともだ。【アポロン・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の間には親交はない。そして親交がない相手の手助けをするほど【フレイヤ・ファミリア】はお人好しではないのは明らかだ。

 今まで接点がなかったファミリアにここまで力を貸してくれることは本来ならありえないこと。ルアンは今の状況が不気味でならないのだ。

 

「さぁな。あの女神が考えていることが全く理解できんし、理解したくない…といいたいところだが、彼女の考えは読めている」

 

「本当かぁ!?」

 

「あぁ、あの女神はベル・クラネルを手に入れるために、我らを利用するつもりだろう」

 

 ヒュアキントスも馬鹿ではない。【フレイヤ・ファミリア】が無償で力を貸してくれると思っているわけではないのだ。

 

「?そんなの、あのファミリアならオイラ達を利用しなくても簡単だろう?」

 

「相手が普通のファミリアならな。だが、ベル・クラネルが所属するファミリアはどこだ?」

 

「【ロキ・ファミリア】だろう?」 

 

「そうだ。気に入った男が同じ都市最大派閥に所属していたら、いくらあの女神でもおいそれと手は出せないだろう。だからこそ、第三者である私達を利用してベル・クラネルを手に入れようとしているのだ」

 

「ま、まさか、オイラ達がベル・クラネルを取った後、【フレイヤ・ファミリア】は横取りするつもりなのかぁ!?」

 

「ククク、お前の想像通りだろうよ、ルアン」

 

「想像通りって、どうしてヒュアキントスは落ち着いているんだ!?このままじゃ決闘に勝ってもオイラ達は損するだけじゃねえか!」

 

「損だと?馬鹿を言え、我が【ファミリア】には得しかあるまい。私の見立てでは、アポロン様はベル・クラネルにすぐ飽きる。なぜなら奴にはアポロン様を満足させる程の実力も魅力もない。そして用済みになった奴をあの女神に差し出せばいい。そうすれば、アポロン様は私達を…私だけを見てくれる!」

 

「な、なるほど」

 

「あぁ完璧な未来だ…!アポロン様の一番はあんな雑魚ではなく、この私!【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】である私こそが、アポロン様に最も愛されていなければならないのだ!!いいか、私がアポロン様に見初められたときは──」

 

 このままではいつもの長話に付き合わされてしまうと悟ったルアンは、慌てて話を遮った。

 

「と、ところでヒュアキントス!肝心の決闘は大丈夫なのか?」 

 

「太陽が美しく輝くあの…ん?何だ、大丈夫とはどういう意味だ?」

 

「いやよぉ、相手はLv.2到達最短記録を更新した天才なんだろう?いくらお前だって、万が一のことがあるかも…」

 

「ふん、要らん心配をするなルアン。奴とは一戦交えたが全く大したことはなかった。おそらく何かしらのズルでもしたのだろう。まったく、天下の【ロキ・ファミリア】も落ちぶれたものだな、クハハハ!」

 

「なぁんだ。それじゃあ、オイラの心配は杞憂だったんだなぁ!」

 

「あぁ、何も問題ない、ククク…五日後の怪物祭が楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女神の思惑、男神の欲望、冒険者の嫉妬。それぞれの悪意がベル・クラネルを中心に交錯する中、時は流れ、激動の怪物祭(モンスターフィリア)を迎えるのであった。

 

 

 

 


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