ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~   作:リィンP

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太陽と黄昏の怪物祭—試練—

 

『ガアアアアアアァァァァ!!』

 

「が、ガーゴイル!?」

 

 突然、上空から現れたモンスターを見てベルは驚愕しながらその正体を口にする。

 

 石竜(ガーゴイル)。別名、動く竜の石像。

 リヴェリアから教わった外見の特徴と一致していたため、ベルはすぐにモンスターの正体を看破した。

 

 ダンジョンのモンスターについては教育係である彼女から一通り教えられているため、ベルは記憶の中から石竜(ガーゴイル)の知識を引っ張り出す。 

 

 最も特徴的なのは、ガーゴイルの体全てが石で出来ていることだ。

 そのため非常に高い耐久を有しており、通常の武器では文字通り歯が立たない。

 魔法を使えない冒険者にとってガーゴイルというモンスターは天敵とされている。

 しかも防御力が高いだけでなく、その攻撃力も侮れない。

 手足に生える石の鋭爪は、一撃で冒険者を死に追いやる威力を秘めているのだ。

 

(このガーゴイル、一体どこから…!?)

 

 本来ならダンジョンにいるはずのモンスターが地上に現れたことに、ベルの思考は一瞬止まる。

 

 しかし、戦闘の火蓋は既に切られている。

 

『グオオォォ!』

 

 ガーゴイルはベルのことを正面から見据えると、翼を強く羽ばたかせ弾丸のように突撃してきた。

 

「!?」

 

 突き出されたガーゴイルの右爪を、ベルは咄嗟に右手の短刀で防御する。

 しかし、瞬時に防御ではなく回避するべきだったとベルは自分の判断を悔やむことになる。

 

(ま、マズイッ!?このままだと、防御が破られる…っ!!)

 

 自分の腕力より上回るガーゴイルの力を受け止めた瞬間、防御は不可能だと判断したベルは相手の攻撃の勢いを利用してそのままに後ろに跳躍する。

 

(クッ…今の一撃で腕が痺れて…このまま追撃されたら不味いッ!?)

 

 着地後、すぐさま体勢を立て直して敵からの追撃を警戒するベルであったが、予想に反してガーゴイルはその場から動くことはなかった。

 

(こ、攻撃してこない…?まさか今の一撃で僕を倒したと思った…?)

 

 目の前のガーゴイルは恐るべき力を有しているが、知能はそこまで高くないのかもしれないと考察するベル。

 未だに相手はこちらをじっと見ているだけで、攻めて来る気配はない。

 この時間を無駄にしないためにも、ベルは目の前の敵を観察して情報を探る。

 

(あの石の装甲を剣で貫くのは困難だ。それなら魔法を連発すれば…いや、僕の速攻魔法(ウインドボルト)がどこまで通用するか分からないし、今はできるだけマインドを温存すべきだ)

 

 ベルの視線が相手の左腕に移ったとき、異変を発見する。

 

(あれ、左腕の部分の石だけ大きくひび割れている…?)

 

 何故そのような大きなダメージを既に負っているのか分からなかったが、せっかく見つけた弱点を利用しない手はない。

 

(ここから左腕を狙って魔法を発動しても防がれる可能性が高い。それなら、距離を詰めて隙を見て速攻魔法(ウインドボルト)を決めれば勝機があるかもしれない…!)

 

 戦略は決まったベルは、俊敏に動き出す。

 

「…!」

 

『ガッ!』

 

 ベルは前へと疾走してガーゴイルの左腕を狙う。

 もちろん敵が黙って見過ごすわけがなく、右腕を振り下ろしその鋭い右爪でベルを叩き潰そうとする。

 

「ッ!」

 

 その攻撃を紙一重で避けるベルは、無理に前進せずに相手の間合いの外へと逃げる。

 一歩踏み出せば攻撃が届くはずなのに、ガーゴイルはその場から動く気配はなかった。

 

(このガーゴイル、もしかして───)

 

 その後ベルは敵の間合いに何度も侵入し、右腕の攻撃を避け続けることである確信に至った。

 

(───左腕だけでなく、足も痛めているのか)

 

 最初の攻撃以降、その場から相手が動こうとしない理由はそれくらいしかベルには思い付かなかった。

 

(それなら、間合いギリギリの距離で魔法を打ち続ければダメージを与えることがてぎるはずだ…!)

 

 そしてベルは敵の右腕による振り下ろしを避けると、そのまま間合いの外に離脱せずに右手を突き出して魔法を唱える。

 

「【ウインド…】」

 

 速攻魔法を口にした瞬間、ガーゴイルが嗤った気がした。

 悪寒が走ったベルは、急いで速攻魔法を放とうとする。

 しかし、ベルが魔法名を最後まで口にすることは許されなかった。

 

『ガァッ!』

 

 今まで動かなかったガーゴイルが突如少年に向かって突貫し、左脚による蹴りを繰り出し、足先の鋭爪でベルの身体を突き刺そうとする。

 

(なっ!?)

 

 魔法を放とうとしてるベルに今更回避は間に合わない。

 どうにか左手で握る短刀で打ち出された敵の爪撃を受け止めたが、力の拮抗は一瞬であった。

 

「ッ~!?」

 

(まさか誘導された…!?モンスターが駆け引きするなんて…!)

 

 ガーゴイルの一撃はベルの防御をもろともせずにその小さな身体を大きく吹き飛ばす。

 碌に受け身を取れずに地面へと衝突したベルであったが、頭だけは庇ってダメージを最小限に防ぐ。

 

(早く起きなきゃ…!追撃が来る…ッ!)

 

 地面をゴロゴロと転がりながらもすぐに体勢を整えたベルは、ガーゴイルからの急襲に備える。

 しかし、先程と同じように敵がベルに追撃を仕掛けることはなかった。

 

『……』

 

 ガーゴイルがジッとこちらを見据える中、ベルはあがった息を整える。

 

「はぁ…はぁ…」

 

(強い、今まで出会ったどの敵よりも……ッ!)

 

 自分よりも実力は上で、おまけに駆け引きですら上を行かれた。

 少なくとも二回はベルを仕留める機会があったのに、それをわざと見逃したように思える。

 

 相手の底が見えない。敵を倒す未来が見えない。

 今まで出会ったことのない未知の怪物に、ベルの心は折れそうになる。

 

「お、おおおおぉぉぉ!」

  

 だが、それでも少年は立ち上がる。

 一度冒険を乗り越えたベル・クラネルは、また再び冒険をする。

 

『グゥ…』

 

 絶望的な状況でも諦めずに自分に突撃してくる少年の姿を見て、ガーゴイル──異端児(ゼノス)であるグロスは不満げに唸りながら、迎撃体勢に移る。

 ベルを見つめるその視線には、確かな理知が存在しているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『異端児(ゼノス)』。

 それは通常のモンスターとは異なり、高い知性を持った存在だ。中には人の言語を理解し、流暢に話すことができる者さえいる。

 彼らは文字通り異端の存在のため、冒険者だけではなく同じモンスターからも命を狙われ続け、現在生き残っている者は50体を下回る。

 

 異端児(ゼノス)達はダンジョン内で安全な場所を複数拠点として普段は敵から姿を隠している。

 その中でも腕利きの異端児がダンジョンで新たに産まれた同胞を保護するため、冒険者やモンスターを避けながら迷宮を巡回しているのだ。

 

 同胞からグロスと呼ばれる石竜(ガーゴイル)は魔石を喰らった強化種であり、高い知性を有しているためLv.5クラスの第一級冒険者に匹敵するほどの実力を持っている。

 そのため彼は、誕生したばかりの異端児を保護するために単独でダンジョンを飛び回ることが多かった。

 

 そして、いつものように翼を使って同胞を探していたグロスであったが、不幸にも最強(・・)と出会ってしまった。

 

 ───ナンダ、アレハ。

 

 知性ある怪物(グロス)が出会ったのは、人の姿をした怪物(オッタル)

 一目見た瞬間、自分では決して敵わないと悟った石竜は、すぐさま旋回してその場から離れる。

 

 しかし、その怪物(オッタル)はその巨体に似合わないほど速かった。

 

 高速で逃走するグロスの真下まで数秒で辿り着いた大男はその勢いのまま跳躍する。

 

 ───ナンテ速サダ!?ダガ、空中ナラ避ケラレマイ!

 

 自身に向かって真っすぐ飛んでくるオッタルを叩き落すため、グロスはカウンターで渾身の一撃を放った。

 

「…いい一撃だ」 

 

 しかし、繰り出された彼の攻撃は簡単にオッタルにいなされ、伸ばされた右腕を捕まれる。

 

 ───馬鹿ナ、受ケ止メラレタダト!?

 

「ふん!」

 

『ガァッ!?』

 

 そのまま地面へと思いっきり投げられたグロスは、叩き落とされた衝撃から悲痛の声を上げる。

 しかし、迫りくる身の危険を感じグロスは何とかその場から離れる。

 その一瞬後に、グロスが先程まで転がっていた位置にオッタルの巨体が降ってくる。

 凄まじい砂埃が生まれる中、グロスはその隙に距離を取ろうとしたが、気付いた時には目の前に巨大な影が迫っていた。

 

『ガッ!?』

 

 ガーゴイルの身体に、オッタルの拳が突き刺さる。

 グロスは咄嗟に左腕で防御したが、猛者の一撃はそれすら無視して殴り飛ばす。

 

 ───コノ男ハ危険ダ、何トシテモ同胞達二シラセナケレバ!?

 

 吹き飛ばされたことを利用し、翼を使って上空に逃げようとしたグロス。

 

「強化種の石竜…お前ならあの方の神意に応えられるだろう」

 

『!?』

 

 その言葉は思ったよりも近くから聞こえた。

 グロスがその声に反応して回避行動を取るよりも先に自身の首に凄まじい衝撃が走る。

 

『アガッ!!?』

 

 ───同胞達ヨ、無事デイテクレ。

 

 意識を失う直前に同胞の身を心配しながら、グロスの身体はそのま地面へと叩き落されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長いこと意識を失っていたグロスが目を覚ましたのはダンジョンの中ではなく、地上であった。

 空に浮かぶ太陽を見て地上に連れて来られたことを悟った彼は、目の前にいる二人の人物に意識を向ける。

 一人は自分は容易く倒した武人。

 そしてもう一人…いや、もう一柱はモンスターであるグロスですら思わず見惚れるほどの美貌を持つ女神であった。

 

 目を覚ましたガーゴイルを興味深そうにじっと眺めていた女神は、上品に微笑みながら口を開く。

 

「貴方、理知を持っているわね。私の言葉も理解できるんでしょ?」

 

「……」

 

 ───モウ自分ハダメダ。ダガ、同胞ノコトハ決シテ話サヌ。

 

 モンスターでありながら高い知性を有すグロスは、自身の生殺与奪の権は目の前の女神が握っていることに気付いていた。

 隣に控える大男は彼女の命令で自分を捕らえ、何らかの情報を聞き出そうとしている。

 しかし、同胞想いの彼は仲間の情報を売るくらいなら自身の死を選ぶ。

 

 ───後ハ任セタゾ、リド。

 

 最後に同胞の中で最も強いリザードマンの顔を思い浮かべたグロスは、小さく笑うと身体に力を入れる。

 左腕の石の装甲は大きくひび割れていて痛みもあり、満足に動かすことは叶わない。

 何より一番の問題は最後に猛者からもらった首の後ろにある深い傷だ。少し身体を動かしただけでも鋭い痛みが走る。

 全力を出せる状況ではないが、それでも目の前の敵に一矢報いる分には問題ないことをグロスは確認した。

 

 ───フッ、念願ノ地上デ死ネルナラ本望カ。

 

 グロスが動く気配を感じ、オッタルがフレイヤの身を守るように前へと立つ。

 だが、そんな従者の動きを彼女は制した。

 

「誤解しているようだけど、こちらに貴方の命を奪う意思はないわ」

 

「……」

 

「そして、貴方がそうまでして守ろうする存在にも手を出すつもりもない」

 

「信ジラレルワケガナイ!」

 

「あぁ、やっぱり言葉を話せたのね。言葉を話すモンスターなんて初めて見たわ」

 

「っ……」

 

 フレイヤの言葉に、グロスは己の失策を悟り、それ以降口を閉ざす。

 

「それと今の話は本当よ。私の望みはただ一つ…貴方にある少年と戦ってほしいの」

 

「…?」

 

 フレイヤはグロスに自身の目的を話す。

 女神の考えはモンスターである彼にとって理解しがたいものであったが、それでも今は彼女の言葉に従うしかなかった。

 

「──ツマリ白髪ニ紅目ノ人間ト戦エバイイノダナ?」

 

「そうよ。ただし貴方はあくまで保険。今から行われるアポロンとの子の戦いで、ベルの魂が十分に輝くことができた場合は必要ないわ」

 

「ソノトキ自分ハドウナル?」

 

「その場合はダンジョンに戻すから安心して」

 

「…本当カ?」

 

「えぇ、迷宮内に帰還するまで私の眷属を付けるけど、こちらから手を出すことはないわ。まぁ貴方から攻撃しない限りだけどね」

 

 グロスから見て、フレイヤが嘘をついているようには見えなかった。

 だからこそ、モンスターであるグロスを地上まで連れてきておいて、場合によってはそのままダンジョンに戻すという行為は理解不能であった。

 

「…神ノ考エハ理解デキン」

 

「ふふ、神とはそういうものよ」

 

 今ここでグロスが暴れても一瞬でオッタルに制圧されるのは明らかだ。

 そのため、グロスは納得できないが同胞の元に戻るためにも女神の指示に従うことにした。

 

「…従オウ。ソレトソノ人間ト戦ウコトニナッタラ自分ハドウスレバイイ?」

 

「普通に戦ってくれていいわ。ただ、できるたげあの子を追い込んでほしい」

 

「ソレハイタブレトイウコトカ?」

 

 グロスは石像のため表情はないはずだが、女神の言葉に嫌そうに表情を歪めているように感じられた。

 そんなガーゴイルの様子に、フレイヤは「心外ね」と言わんばかりの表情で誤解を解く。

 

「少し違うわ。あの子の魂は逆境でこそ光り輝く。つまり絶望的な状況ほど魂はより激しく輝くの」

 

「…ヤハリ神ノ考エハ理解デキン」

 

 女神の神意を聞いてもその言葉の意味が理解できず、グロスは力なく首を振る。

 そんなモンスターの様子が可笑しいのか、フレイヤは思わず笑みを溢す。

 

「ふふ、簡単に言えばあの子が全ての力を出し切る前に倒さないこと。それだけ守ってくれればいいわ」

 

「ツマリ、ソノ人間ノ底ガ知レタラ倒シテモイイノダナ?」

 

「それでいいわ。ただし、その目でよくあの子を見極めてから行動に移しなさい。くれぐれも慎重にお願いね」

 

 フレイヤは微笑んでいるが、その目は先程と違ってまったく笑っていなかった。

 

 ───コレガ神威…ウ、動ケン。

 

 その身から漏れた女神の神威を浴びたグロスは身体が硬直する。

 少年が全力を出し切る前に殺してしまった場合、今度こそ自身の命が潰えることをグロスは覚悟した。

 

「…ワカッタ」

 

 拒否する選択肢は持っていないため、グロスは不服ながらもフレイヤの指示に従うことを誓うのであった。

 

 

 

 

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