ロキ・ファミリアに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~リメイク版~   作:リィンP

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初めての訓練と新たな姉

「―――いいですかっ!あなたは新人なのでまだ知らないかもしれませんが、この御方は誰もが知っている第一級冒険者の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさんですよ!!そんな御方に、ひ、膝枕させるなんて信じられませんっ!?いいですかっ、そもそもですね…」

  

「…まったく、心配になって来てみればやはりこうなっていたか…。お前は何をしているんだ、レフィーヤ」

「リ、リヴェリア様っ!?どうしてここに…い、いえこれは違うんです!全ての元凶はこの礼儀知らずな新人なんですっ!!」

 ビシッ!とベルの顔を指差し、自分は悪くないとリヴェリアに訴えるレフィーヤ。

 しかし空中回廊から一部始終を見ていたリヴェリアには、ベルに非がないこと、そして全てがレフィーヤの自業自得だということはわかっていた。

「…我々がいるとベルたちの訓練の邪魔になる。行くぞ、レフィーヤ」

「ま、待って下さいリヴェリア様!まだこの不埒者に常識というものを叩き込んでいる途中なんです!今ここで私がいなくなったら…」

「問答無用だ。早く行くぞ、レフィーヤ」

「リヴェリア様、お願いですからこの手を離してください!あの新人をこれ以上、アイズさんと一緒にいさせるわけにはっ…!?」

「お願いアイズさん、早く目を覚まして!」と叫んでいるレフィーヤの首根っこを掴んで持ち上げるリヴェリア。

 彼女はアイズたちに邪魔したなと言い残し、空いている片手でロキを掴んで中庭を後にするのであった。

「…えっ?何で自然な流れでうちも強制退場されとるんや、リヴェリアっ!?」

「たわけ。元はと言えば貴様がアイズに嘘を吹き込んだのが原因だろうが…。二人とも、罰としてこれから私の鍛錬に付き合ってもらうぞ」

「えっ!?レフィーヤは冒険者やから分かるけど、うちは神なんやけど…」

「もちろん知っているさ。しかし【ガネーシャ・ファミリア】の主神は、自分のファミリアの一員と一緒に鍛錬していると聞く。それなら我が【ロキ・ファミリア】の主神が鍛錬していても別におかしくはあるまい」

「か弱い乙女なうちと、あのガネーシャを一緒にせんといてっ!?」

「あんな奴に、アイズさんは絶対に渡さない…」

 その後、興奮状態のエルフの少女と悪戯好きの主神はリヴェリアのキツイ鍛錬でこってりとしぼられるのであった。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

「…それじゃあ、訓練の続き、しようか?」

「は、はい!よろしくお願いします!!」

 アイズは先程の指導の仕方を間違いだったと反省する。

 体術を教えようとしていきなり回し蹴りを見せたのが悪かったのは理解した。

 

 しかし話すことが得意ではない自分では、ベルを言葉で立派な冒険者へと導くことはできない。

 だから実際に体術を見せてベルに技術を覚えてもらおうと思ったが、それはアイズの力加減が間違ったせいで失敗してしまい、ベルのことを気絶させてしまったのだ。

 アイズ・ヴァレンシュタインがもつ戦術全てをベルに叩き込みたいが、不器用な自分の指導では十全に伝えることができずとても歯痒い。

 ベルを膝枕している間、アイズはいい方法がないのかをずっと考え込んでいた。

 そしてアイズは決めた。

 自分の戦術を全てベルに伝えるためにはこれしか方法はない、と――――――。

「…やっぱり、闘おう」

「えっ!?」

「…君の得物はナイフだよね?」

「あっ、はい!ギルドに行ったときに、初めはナイフの方が扱いやすいと助言されまして、ギルドでナイフを貸してもらいました」

「…ナイフは今持って来ている?」

「ええ、持って来ていますが…?」

「そう。…ならそれを構えて」

「ええっ!?」

 アイズは携行していた愛剣のデスペレートを引き抜き、引き抜いた剣を中庭の隅に置いて鞘だけ持ってベルの前まで戻る。

 そして――――静かに鞘を構えた。

 

 アイズの纏う空気が変わったのに気付いたのか、ベルは咄嗟に右手でナイフを掴み、そのまま構えた。

「…うん、いい構え。それでいいよ。今ベルが反応した通り、これからの闘いの中で色々なことを感じ取ってほしい。…それじゃあ、いつでも攻撃していいよ」

「で、でもアイズさんにナイフが当たったりしたらっ…!?」

「…大丈夫。それだけは絶対にないから、安心して」

「………ッ!?」

 二人の間に、張り詰めた空気が漂う中、思わずベルは一歩後退った。

  

 アイズがベルの瞳を覗くと、そこには怯えの色があった。

(…大丈夫。君なら立派な冒険者になれるはず。だから、怖がらず前に出て…)

 しばらくの間、金の瞳と深紅の瞳は見つめ合う。

 アイズの思いが伝わったのか、徐々に深紅の瞳から怯えの色が薄れていった。

 そしてベルはアイズに一歩踏み出した!

「う、うおおぉおおおおおぉ!!」

 雄叫びを上げて突っ込んできたベルに対しアイズは心の中で称賛し、安易にナイフを振りかぶったせいでがら空きになったベルの脇腹を狙って鞘で攻撃した。

「ぶはぁ!?」

 アイズの一撃はベルの横っ腹に直撃し、そのままベルはぶっ飛ばされる。

 

 芝生の上に転がったベルは、あまりの痛みに顔を歪めていた。

「…立てる?」

「は、はい…」

「…すごく痛いと思うけど、今のうちに痛みには慣れといた方がいい。…それじゃあ、もう一度攻撃してみて」

 

 その後――――――。

 

「…もっと視野を広く持って、死角を作らないようにして。…立てる?」

「…相手の動きから目を離さず、次の行動を読めるようになって。…それで、立てる?」

「…回避するだけじゃダメ。武器で防げるようになって。…それで、まだ立てる?」

「…ま、まだ立てますっ!!」

 アイズの鞘での攻撃を何度も受けたベル。

 その度に膝をつき痛がってはいたが、一度たりとも立ち上がらないことはなかった。

(…闘うのは初めって聞いてたけど、なかなか筋はいい。それに痛みにも負けず、よく頑張っている。…でもちょうと厳しすぎたかな?こういう時、フィンなら飴と鞭を上手に使い分けると思うけど…)

 まだアイズがLv.1だった頃。

 アイズはフィンやリヴェリア、ガレスたちに頼み込んで指導を受けていた。

 そしてフィンとの模擬戦のとき、今のベルのように自分はボコボコにされたのだ。

 当時、自分の心があまりの訓練の厳しさに挫けそうになったとき「後もう少し堪えたらアイズが欲しがっていた剣を買ってあげるよ」とフィンに言われたことがある。

そのときの自分はその(ことば)のおかげで最後まで訓練を頑張った記憶がある。

(そっか…今の状況はあのときにそっくりなんだ。それならに今のベルに効果的な(ことば)はこれしかない…)

「ん…朝食まで後三十分。ベルが最後まで訓練を頑張れたらご褒美を上げるよ」

「ご、ご褒美ですかっ!?」

 

既にボロボロと化している少年はそのアイズの発言が嬉しかったのか、傷の痛みを忘れて子供のように顔を輝かせた。

 そんなベルの顔を見てアイズは、辛いときには飴を与えるという考えは間違っていなかったと確信したのであった。

 そして残りの三十分間――――――。

 アイズの攻撃を受け続けるベルだったが、今までのように膝をつくことはなく、アイズの攻撃に食らいついていた。

 こうして、ボロボロに傷付いた白兎(ベル)は、かすり傷一つない剣姫(アイズ)からご褒美を得る資格を手に入れたのである。

 もちろん、この事実を後で知った妖精(レフィーヤ)が悔しがったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 ベルとアイズが訓練を無事終えた頃。

 一方リヴェリアに連行されていったロキやレフィーヤはというと―――。

「い、いつもより杖で叩かれる威力が強かったです…」

「せ、背中の感覚があらへん…」

「何を言う、これでも背中に痕が残らないよう手加減しているぞ。それに、だ…レフィーヤ。今日の瞑想は雑念が多く、いつもより集中できていなかったぞ」

「…う、うちは何で叩かれたんや、リヴェリア…」

「お前はいつも雑念が多いから自然と喝を入れる回数も多くなるというものさ。それに元々この鍛錬方法を私に教えたのはロキだっただろうに」

「あのときのうちは酒に酔ってて、正常な思考じゃなかったんや!」

「私には十分素面に見えたが?それにしてももうこんな時間か…。もうすぐ朝食の時間になるし、鍛錬はここまでにするとしよう。私は用があるので先に失礼させてもらうぞ」

 倒れ込んで休んでいるレフィーヤとロキに背を向け、リヴェリアは離れていくのであった。

 リヴェリアのキツイ鍛練から解放された二人はホッとため息をつく。

「や、やっと解放されたわ…」

「…ッ!それなら早く、アイズさんのところに行かないとっ!?」

「ちょい待ち、レフィーヤ。ベルのことで伝えときたいことがあるからもう少しここに残ってくれへんか?」

 急に真剣な表情になったロキの顔を見て、中庭に急ごうとしていたレフィーヤはその場に止まる。

「ベルって先程の新人ですよね?」

「そうや、レフィーヤはベルのことを誤解しているみたいやからな。出来ればベルがどういう少年なのかを正しく知っていてほしいんや…特にレフィーヤにはな」

「…?(特に私には知ってほしいってどういうことなんだろう?)」

「これはレフィーヤだから言うんやけどな…実はベルってもう家族が居らず、あの歳で天涯孤独の身なんや」

「えっ、そうだったんですか…?」

「自分の子どもの事情を知っとくのは主神として当然やろう?まぁうちも昨夜ベルに聞いたばかりやけどな。何でも物心ついた頃には両親は居らず、祖父が一人でベルを育てたみたいなんや」

 ロキの口から語られるベルの事情にベルを目の敵にしていたレフィーヤもさすがに顔色を暗くする。

「ま、待ってください。今の彼が天涯孤独ということは、もうベルのお祖父様は…」

「…そうや、レフィーヤの予想通りもう亡くなっている。何でも一年前に運悪く現れたモンスターに殺られたらしいんや…。ベルには祖父の他に頼れる身内が居らず、それで祖父が生前よく話していたそのオラリオに来ましたってどこか寂しそうな表情でベルは言うねん…」

「なかなかハードな人生やろ?」っとロキは悲しそうに笑った。

 いつものロキらしくない悲しげな表情を見て、レフィーヤは何も言葉を返すことができなかった。

 ロキは軽く咳払いして話を続ける。

「ベルは入団試験のときにうちやフィン、リヴェリアがいる前で英雄になる(、、、、、)と宣言したんや。しかもあのフィンがベルの覚悟は本物だと認めよった…」

「えっと…冗談ですよね、ロキ様?彼は本気で英雄になるためにこのオラリオに一人で来たのですか…?」

「本気と書いてマジや。まぁベルの英雄になりたいっていう気持ちは間違いなく本物やけど、今のベルはその過程を重視している感じやな…」

「英雄になる過程ですか?それは一体…」

「そんなの単純や、ただ強くなる(、、、、、、)…それだけや」

「えっ?それは冒険者として当たり前のことでは…」

「確かに当たり前のことやな…。でも強くなるというても限界があるもんや。レフィーヤだって強くなる――つまりLv.が上がっていくとステイタスも伸びにくくなるやろ?」

「その通りですが、それは当然のことではないのですか?」

「そうやな…人は己の限界へと近づいて行くにつれて強くなりにくくなる。そしていつかは自分の限界を知り、強さはそこで打ち止めや」

「ただし英雄は違くてな、英雄っていうもんには限界が存在しないんや。ただ強くなるということをいつまでも(、、、、、)当たり前のことのようにやっているんやで」

「た、確かにそんな規格外な存在なら英雄と呼ばれてもおかしくはありませんね。しかしベルはそんな存在を目指しているのですか…」

「まぁベルも子供っぽい夢を抱いてるのを恥ずかしがっているみたいやし、あんまり本人には言わんといてな」

「わ、分かりました…」

 

ロキの話を聞いてレフィーヤはベルに対する負の印象が誤解であったことを悟った。

 

(私は…彼のことを誤解していた)

 あのときアイズに膝枕されているのを見て、レフィーヤは羨ましく思いベルに嫉妬してしまった。

 転んでしまったときにスカートの中をベルに見られてしまい、彼には非がないのがわかっているのに理不尽な怒りを向けてしまった。

 レフィーヤは改めてベルのことを思い返し、自分が勝手にベルの印象を悪くしていたことにやっと気が付いた。

 そして、同時に思う―――。

 自分の勝手な思い込みにより、数々の暴言を浴びせられ、しかも、思いっ切りビンタをされた少年は何故…。

(何故ベルは何も悪くないのに一言も言い返さず、本当にすまなそうな表情をして謝っていたのだろう…?)

 レフィーヤの脳裏には、下着を見てしまったことを何回も頭を下げて謝る白髪の少年が浮かんでいた。

 相貌は中性的でどこかあどけなく、その純白の髪はレフィーヤの故郷の冬に積もった白雪を思い出させ、ベルに対して親近感を抱かせた。

 それに年齢は自分とそう違わないみたいなので、ファミリア内で同年代があまりいない自分にとってベルはいい友達になれるかもしれない…。

(あれ?アイズさんのことを除いてよく考えてみたらベルに対して好印象しかない…。何で私はあんな暴挙をしてしまったんだっ!後で謝った方がいいよね…?)

「うんうん、どうやらその様子やとベルに対する誤解も解けたようやな。ホンマによかったわ!そんでそんなレフィーヤにうちからお願いがあるんや」

「…ロキ様からのお願いですか?」

「そうや。そのお願いってのはな…ベルの家族になってもらいたんや」

「か、家族ですか…?」

「そうや、ベルの環境と性格を考えると家族という存在はあの子を大きく変えると思ってな。うちの勘ではベルは自分のためよりも誰かのために強くなるタイプやから、家族がいるだけで成長力も段違いに増すと思うんや」

「そうなんですか…。でも家族といっても実際に何をしたらいいか…」

「家族と言うてもそんなに難しいことはせんでいい。長年一緒にいる今のファミリアメンバーだって家族みたいなもんやろ?ただ今のアイズのようにベルのことを気に掛けてくれるだけで十分や。…それで頼まれてくれるか、レフィーヤ?」

「…ロキ様に頼まれてしまったのなら仕方ありません。いいでしょう、今日から私、レフィーヤ・ウィリディスは、ベル・クラネルの家族になることを神ロキに誓います。…ただし!もしベルが不誠実な人だと分かったのなら、即刻この話はなかったことにしますからね!!」

「レフィーヤは本当に素直じゃないな~。しかしこれでベルにも天然な(アイズ)とツンデレな(レフィーヤ)の二人の姉ができたわけやな!」

 レフィーヤの顔を見ながらニヤニヤと笑うロキ。

 レフィーヤはロキの『ツンデレ』という言葉を聞いて思わず顔が歪む。

「もしかしてツンデレな姉って私のことじゃないですよね?」

「別に姉でおかしくはないやろ。レフィーヤは十五でベルは十四のはずや。ベルの方が一つ年下やからレフィーヤは姉で合ってると思うで~」

「あ、ベルって私より一個年下だったんだ…ってそこではありませんっ!ツンデレの部分ですっ!」

「んん?レフィーヤはどこからどう見てもツンデレやろ。何か問題でもあるんか?」

「…以前ロキ様はいつもツンツンしているけど時折デレる人のことをツンデレだと仰っていました」

「ん、確かにそう言ったな」

「どう考えたら私がその定義に当てはまるように見えるんですかっ!?」

 

「せやからまんまレフィーヤのことやろ。ベルの事情を知って優しく接して行こうと思うレフィーヤ。だがしかしアイズのこともあって素直になれず、ベルに対して思わずツンな態度をとってしまうレフィーヤ…そんな光景がありありと思い浮かぶで~。どうや、これこそツンデレやろ?」

「そ、それは全てロキ様の想像です!私は絶対にそんなことしませんっ!私は絶対にツンデレではありませんからねっ!」

「レフィーヤ…それ思いっきりフラグやからな」

 

 

 こうしてレフィーヤはアイズと同じくベルの姉になるのであった。

 

 


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