『約60秒後に作戦領域に突入する。リンクス、準備は良いか?』
ピッタリとしたスーツとコクピット内を満たすGジェルの感触に、何でボクはこんなとこにいるんだろう、と今までの事を思い出していた。
半年前までは金持ちのマダムの下で愛玩動物、その前はラインアークで他の孤児と共にストリートチルドレン、その前は自宅でACFAをプレイしていた。
それが一体どうやってこんな事態になったんだか…。
思えば、アレが原因だったのか、流星群が飛来すると聞いて、その日の夜に流れ星に「ネクストに乗りたいネクストに乗りたいネクストに乗りたい!」と叫んだからか?
この際、どんなことが原因かは些細だ。
気付けば、ボクはラインアーク内の廃棄区画にいた……なぜか12歳程度まで若返って。
何とかそこを牛耳っているチンピラ達の更に下の、下の、下の、下の……比べるべくも無い程ちっぽけな、ただの孤児が集まった程度の集団に拾ってもらう事でその日の糧を得ていた。
幸いにも一般的大学生程度の学力を保持していたお蔭で、彼らの仕事(スリや空き巣、引ったくり等)では頭が回るとしてそれなりに重宝されていた。
そんなチンピラ達の下で働き続ける生活が7ヶ月程続いたある日、ボクはお金持ちのマダムの下に売られていった。
チンピラ達がそこそこ頭の良い、それでいて幼い子供を誘拐しては売り飛ばしていたのは知っていたが、まさか自分が売られるとは思っていなかった。
売られた先は地上では比較的汚染の少ない地域で、ボクを買ったマダムはそこに建てた屋敷に住む、GA所属の、それなりの地位を持つ人物だった。
待っていたのは、それなりに衣食住が保障されるペットとしての生活だった。
世紀末的なこの世界の定石通り、ボクが辿った道も悲惨なものだった。
どこのエロゲーだと言う程に徹底的に開発された。
泣こうが喚こうが、相手は知ったこっちゃ無い。
どこをどうとは言わないが、全身をあのマダムが知らない場所が無いと言える程には開発された。
今のこの妙な一人称もそのマダムに仕込まれたものだった。
ボクはこのマダムに余程気に入られたらしく、買われてからこの1年間に大抵のプレイ(SMからスカトロまで)は体験させられた。
そして、この事態を招いた原因は、マダムに買われて1年と数ヶ月、今から半年前に行った、街中でのあるプレイが原因だった。
童顔(と言うか幼い)のボクはその時、女装+後ろにバ○ブ+ノーパンという格好でマダムと共に散歩中だったのだが、その時、ボクが偶然放送されていたニュース映像の中の戦闘中のネクストに目を奪われていたのをマダムが気付いたのだ。
帰宅後、徹底的な焦らしプレイを交え、ボクのネクストに対する憧れを喘ぎ声と白濁液と共に洗いざらいぶちまけられた。
そこからはあっという間で、三日後にはAMS適正検査を受けていた。
その後、アスピナ機関でAMS処理と半年間における訓練を経て、今に至る訳だ。
幸いにも適正がそれなりに高かったボクは、この半年間の訓練で生身よりもやや鈍い程度の動きは出来るようになった。
…我ながら碌なもんじゃないと思う。
『12、11、10……。』
現実逃避もここまで。
後は生きるか、死ぬかの二択だけ。
『作戦領域に到達、行って来い!』
そして、大空に山猫が放たれた。
ミッション内容は極簡単なもので、『ラインアーク襲撃』だ。
WGは不在、通常戦力とノーマル位しかいないが、それとて油断すれば危ない。
ゲームと違い、PAの無い状態で攻撃を受ければ、如何にネクストといえども通常戦力で撃破されかねない。
幸いにも相手は実弾のみで、こちらは旧型とはいえGAN01-SUNSHINEに乗っているので、多少の被弾は耐えられるだろう。
目標が見えてきた。
まだロック距離ではないのか、攻撃してこないが、こちらのFCSはもう捕らえている。
背部兵装を選択、両肩のミサイル(VERMILLION01)を発射する。
速すぎて当たり難いのがこのミサイルの難点だが、動きの鈍いMT相手なら十分だし、この場所なら特に言う事は無い。
ゲームと同じく、着弾したミサイルとそれに破壊された足場に巻き込まれて多数のMTが沈んでいく。
同じ構造の足場にいたMTも順次同じ末路を辿らせていく。
やや頑丈な橋にいるMTは腕部兵装のライフル(GAN0に-NSS-WR)とバズーカ(GAN01-SS-WB)で撃破していく。
QBを交えた移動でMTの上や背後を取れば被弾のリスクは少なくて済む。
殆ど一方的にMTを撃破した後、ノーマルが出てきた。
同じGA製のGA03-SOLARWINDが6機、二手に分かれている。
ミサイルを放ってくるが、QBを一度吹かしただけで回避できるし、バズーカも近づかなければ脅威にならない。
後はライフルとバズーカを撃ち続けるだけで6機のノーマルはあっけなく沈黙した。
ミッションを終えて、輸送機の中に機体を回収してもらった後、コクピットの中でボクは漸く一息ついた。
あっけない、正直に言えばもっと何かあると思っていた。
ラインアークにいた時、引ったくりやスリの様なこともしていたが、こうして自分の手で人殺しを行ったのは初めてだった。
なのに、『自分』は然したる罪悪感も持たずに、人を殺している。
この2年近くの生活で『自分』が変質したことは確実だが、一般的な現代日本人の自分がこうまで変わるとは予想外だった。
罪悪感自体はまだあるが(マダムとのプレイ中に期待に応えられないとちょっと感じたりする)、それ以上に『死にたくない』との思いが強かった。
他人よりも自分、結局そういうことなのだろう。
初の実戦のせいか、それとも訓練か、どちらでも良いことだが急に眠くなってきた。
基地に戻るまでまだ時間が掛かるし、マダムの屋敷に帰るまでまだまだある。
今はこの眠気に身を任せよう、考えた所で今の立場が変わる訳でも無い。
そう考えた後、ボクは目を閉じて、シートに身を任せた。
起きたら、くそったれな現実じゃない事を祈りながら。
……………………………………
「いたたた…。」
腰と喉、尻に走る痛みに顔を顰めつつ、部屋に備え付きの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、手を腰に当てて飲む。
「ぷわっはー…。」
叫び過ぎてカラカラの喉を通して、清涼な水が汗をかいた体に染み渡るのを感じると、自然と親父くさい息が出た。
何故そんなに消耗しているかというと、昨晩、初ミッションを終えた御褒美と称して、今もベッドに眠るマダムに徹底的に啼かされたからだ。
尻にバ○ブは当然として、緊縛プレイや怪しげな媚薬と利尿剤の混合物を飲ませた後にお漏らしプレイなど、昨夜はかなりハードだった。
…こんなことが毎回あるんじゃ、体が壊れかねない。
水分を摂って多少すっきりしたが、まだ昨夜の疲れが残っている。
半年ぶりとはいえ、体を鍛えてきたのになぁ・・・。
もう少し眠ろうと決めて、マダムのいるベッドに入ろうとする。
途端、鳴り響く枕元の通信端末。
かなり鬱陶しく思いながらも、端末を起動させる。
勿論、マダムの寝姿と自分の格好(裸Yシャツ、寝巻きはこれにするよう言われている)が画面に入る様な愚挙はしない角度で。
「はい、こちらペット。」
なお、ペットはマダムが決めたボクの名前だ。
GA関係者だからかネーミングセンスがあまり宜しくないようで、今ではボクも余りにも安直過ぎることから逆にそれなりに気に入っている……自己紹介が恥ずかしいが。
閑話休題
発信元は昨日会ったGA所属のオペレーター(渋めのオジさん)だった。
『おう、やっと出たか。昨日は全然繋がらなくてよ。』
「それはすみませんね。で、お仕事ですか?」
『いや、GAの他のリンクスとの顔合わせだ。…断っても良いが、今後共同ミッションをやる相手だ、損は無いぞ。』
「解りました。場所は本社ですか?」
『こっちで指定した場所に集合だ。時間があれば何か食い物も出る。データは転送しとくぞ、じゃぁな。』
「えぇ、それではまた。」
端末を切り、ベッドから抜け出す。
着替えは部屋の棚にあるが、急がないと起きてきたマダムにまた珍妙なコスプレをさせられかねない。
なにせボクを玩具にする事に生き甲斐を見出している人だ、コスプレ以外にも何かさせる可能性もある。
だがしかし、世界はこんなはずじゃなかったことばかりである。
「あら、飼い主に内緒で随分楽しそうだこと。」
ベッドの上から掛けられた声に冷や汗が吹き出る。
背後からはシーツを纏っているのか、衣擦れの音が近づいている。
根性を出して振り向けば、流れるような茶髪と鋭い美貌、豊満な肢体を持つマダムがその裸体を真っ白なシーツに包んで立っていた……その唇を魔女のように歪ませながら。
「他のリンクスと会うのは構わないけど、飼い主に相談無しは頂けないわね。」
この時点で、ボクの運命は決まった。
今度は何だろう、これから出掛けるんだから少し位は手加減して欲しいと、ありえない事を考える。
「いけない子にはお仕置き、ね。」
ボクは満員電車内の痴漢プレイとか炭酸水の浣腸は堪忍してくださいと、信じてもいない神に祈った。
「で、そんな格好になった、と…。」
「はい……。」
ボクはGAのネクスト関係の部署がある基地で気の毒そうな視線を向けてくるローディー氏に事情を説明していた。
先に喫茶スペースにいたリンクス、メイ・グリンフィールドとドン・カーネルはボクを見た途端、思考がフリーズしていたため、比較的回復が早かったローディー氏が事情を聞くことになった。
ボクについては10代半ばの男子としか知らされておらず、一目見ようと、喫茶スペースにはリンクス3人の他に時間のある整備班や補給班の姿も見えていた。
なお、説明がなされるとドン・カーネルは同情的な視線を向け、メイ・グリンフィールドは腹を抱えて爆笑した。
ローディー氏は疲れた様に眉間を揉んでいるが、そりゃ新人がこんな格好で来るとは普通思わないさ。
こんな格好を具体的に言えば、紺色のミニスカートに白のもこもこセーターと白のニーソックス、肩で切り揃えた髪に藍色のリボン、ボクの年齢(14歳)と容姿(童顔+チビ)と合わせてどことなく小動物的な雰囲気が漂うチョイスだ……自重しようよマダム。
「まぁ、いい。良くはないが、それは脇に置いておこう…。私のことは知っているだろうがローディーという。AMS適正は低いが、GA所属のリンクスでは最古参になる。」
「はい、ペットといいます。こちらこそよろしくお願いします。」
「…あー、本名かね?」
「真に遺憾ながら…。」
既にマダムによってボクが戸籍登録していないことは知られており、その際にこの名前で戸籍登録されてしまっていた。
「オレはドン・カーネルだ、粗製だが、組んだ時はよろしく頼む。…あー…。」
「構いませんよ、ペットで…。」
「お、おう…まぁ気落ちすんなよ。後、オレの事はドンで構わねぇぞ。」
ゲームでは不遇なおっさんだったが、中々良い人の様だ。
「メイ・グリンフィールドよ、初めまして……プププッ。」
「そこまで笑われるといっそ清々しいですよ。」
「ごめんごめん、私の事はメイでいいから。」
お気楽な巨乳金髪美少女とはポイントが高い、多分マダムより大きいぞ。
しかし笑い上戸らしく、時々こっちを見て噴き出している。
悪い人ではない様だが、余程壺に入ったらしく、笑いが収まる気配は無い。
その後、紹介も終わったボク達は、歓迎会と称して、喫茶スペースでちょっとした宴会をする事になった(勿論ボク以外の人の割り勘だ)。
生憎とアルコールは昔から苦手なため、ジュースとつまみの料理しか食べていないが、他の3人は結構飲んでいる。
時間的にはもう夕方と言えるが、3人とも結構な酒好きらしい。
ローディー氏は味わって飲むタイプらしく、それなりに高い酒をチョビチョビ飲んでいる。
凄いのはメイさんの方で、ビールを瓶ごと一気飲みしている(テーブルの下には空になった酒瓶がゴロゴロしている)。
ドンさんはつい先程、メイさんに酔い潰された。
どうやら極普通の酒飲みらしい。
で、気付いたら、周囲も宴会場の様に酒飲みに溢れていた…なぜ?
「あの、なんでこんな事に?」
「お?おめぇ、例の新人の坊主か?」
「えぇ、多分それです。」
アルコールが入っているものの、まだ正気を保っている年配の整備員に尋ねてみる。
「ここの連中は皆酒好きでな、何かに付けて飲みたがるのさ……そういやぁお前さん、機体のアセン考えてきたか?」
どうやら整備班でも現場責任者か何からしく、機体のアセンブルについて聞かれた。
「アセンですか?そうですね……左背部兵装にOSAGE03、右に047ANR、肩にはBELTICREEK03、右腕はGAN02-NSS-WR、左腕はGAN01-SS-WGをお願いします。ブースターも…メインはGAN01-SS-M.CG、オーバードはGAP-AO.CG、ジェネレーターはGAN01-SS-Gにして…後、メモリーはロックとミサイルロック速度に全部振っちゃってください。」
「あいよ。結構重くなるが良いのか?」
「その内、重二脚か四脚に変えるつもりですんで。」
「ふぅん…そんで機体のカラーリングは?」
「カラーリングは今のままでいいですよ、エンブレムは……首輪に繋がれたブルドックにしてください。名前はハウンド・ドッグで。」
「解った。後で組んどくが最終調整の時は来いよ。」
「解りました。その時はよろしくお願いします。」
その後、天井知らずに盛り上がり続ける宴会場を気付かれないように抜け出した。
帰宅後、マダムに半ば義務として今日何かあったかを報告した。
これをしないと、また何かされかねないので気を抜けない。
「と、まぁそんな感じです。」
「そう、ローディーは相変わらずの苦労性なのね。」
「やっぱりお知り合いなんですね…。」
伊達にマダムと数え切れない程に肌を重ねているわけじゃない。
マダムの体の所々には機械の様な感触があり、それが何なのか今まではいまいち確信が無かったのだが、リンクスになった今では解る。
あれは旧式のAMSプラグだ。
人工皮膚か何かで包んで隠しているが、触ればあると解るし、形状や配置が訓練生の時に資料に乗っていた初期型のそれに良く似ていた。
それにこの人が社会的にそれなりの地位にいて、簡単にアスピナで適性検査や処理、訓練をさせる事が出来たのもリンクス(現役かどうかは知らないが)であるとすれば説明がつく。
「私が誰か知りたい?」
「…いえ、いいです。」
ボク達はお互いの名前を知らない。
お互いを主人とその愛玩動物として認識しているボク達にはお互いの本名はあまり意味が無い。
知った所でこの関係は良くも悪くも変わらないと確信しているからだ。
「今日はもう寝なさい。本社の連中のことだもの、明日には依頼が来るわ。」
「解りました。お休みなさいませ、マダム。」
そうしてボクはマダムの寝室を後にして、普段は滅多に使わない自分の寝室に向かった。
……………………………………………………………
現在、輸送機に揺られて移動中、行き先は『ミミル軍港』。
…マダムの言った通りの事態になりました。
今日の朝、起きると直ぐにオペレーターから依頼の説明を受け、ネクストの置いてある基地に行き、兵装の交換と調整を行って、輸送機で出発……もしかしてこの人使いの荒さがGAのリンクス戦力の低下を招いてるんじゃないだろうか。
依頼内容は勿論『ミミル軍港襲撃』だった。
他のリンクスは現在別の依頼を受けているため、新人で手の空いているボクが行く事になった。
弾薬費は無料とのことなので、両背中兵装をOGOTOに換えて、肩兵装を外している。
メモリーはロック速度に全部振られているので、機動自体は今までと変わらず、最低限の調整も終われば、慣らしも要らない。
『リンクス、間も無く作戦領域だ、準備はいいか?』
「はい、こちらは何時でも構いません。」
『よし、後1分程で着くぞ。敵さんは数は多いが、気を付ければどうって事はねぇが油断はすんなよ。』
「解ってますって。御忠告感謝します。」
そして暫しの間を置いて、ボクは戦場にやってきた。
『作戦領域に到達、行って来い!』
自身の五体となった機体が固定を解かれて空から落ちていく。
軍港入り口のやや手前にブースターを吹かして、着水する。
軍港直上は対空砲火が厳しい上に通常戦力も多いため、今回、ネクストを用いての正面突破が選ばれた。
そのため、輸送機は作戦領域に入ることは無く、荷物をその手前で降ろしたのだ。
軍港の入り口には数隻の小型艦と空母が塞いでいるが、背部兵装のグレネードキャノンを展開し、やや上空から手前の小型艦へと攻撃する。
派手な爆発と共に小型艦が沈み、残りの艦は機関砲で応戦しつつ、密集して火力密度を増そうとするが、それは的を一纏めにするだけの悪手だった。
これ幸いに、纏まった所にグレネードを数発叩き込み、撃沈を確認してから狭い通路を奥へと急ぐ。
そして、やや広がりを持った場所には多くの停泊中の艦船がいた。
先程と同系の空母から小型艦に、大型艦、補給艦もいる。
まだ混乱しているらしく、散発的な攻撃しかしてこない事を良い事に、密集している艦船に次々とグレネードを撃ち込んでいく。
然したる抵抗も無く、停泊中の艦船は派手に沈んでいく。
特に補給艦は着弾と共に派手に爆発したため、漸く対空砲火が効果的に機能し始めていた大型艦が巻き込まれて沈黙した。
途中、2機のノーマルがこちらの気を引こうと攻撃してくるが、その役目を果たす間も無く、2機諸共グレネードで吹き飛ばされた。
次の敵を求めて奥に行けば、道を塞ぐような形で一隻の潜水艦とノーマルがいたので、何もして来ない内にグレネードで吹き飛ばす。
その少し奥のドックにも4隻の潜水艦がいた為、途中でこれもグレネードで吹き飛ばしていく。
その後、2隻の潜水艦と1機のノーマルを吹き飛ばし、また広がりを持った場所に出た途端、多数の砲火がこちらを捉えた。
(……ッ…!!!)
喉から声にならない悲鳴が上がり、戦闘に高揚していた頭が冷え上がる。
反射的にQBを吹かし、敵の砲火が比較的薄い場所にグレネードを叩き込み、そこに突進する。
突進した先は数隻の補給艦がおり、周囲の艦船を巻き込んで吹き飛んでいた。
一時的な空白地帯に身を躍らせながら反転、ロックも付けずにグレネードを乱射する。
的の大きい艦船は対空砲火を生かし切る事無く吹き飛び、動きの遅いMTは近くに着弾したグレネードの爆風だけで吹き飛んだ。
直ぐ次の目標、近場にいたノーマルを吹き飛ばし、一応の安全を確保した。
(…ッッッ!!!)
危なかった。
冷や汗を流しながら、残った敵を二度と歯向かおうとは思わせない程に、徹底的に叩いていく。
幾らかの無駄弾があったが、そんな事は気にも留めなかったし、できなかった。
この世界に来てからの初めての命の危機に、冷静さを保つことなど出来なかった。
グレネードを乱射しながら進んでいくと、情報にあったAFの姿が見えてきた。
同時にグレネードの弾薬が切れた。
即座にグレネードをパージし、腕部兵装を構えて途中のMTと潜水艦や艦船を撃破しつつ、AFを目指していく。
AF「スティグロ」はAFの名に恥じない威容を持っていたが、軍港からゆっくりと逃げ出す様にはそれを感じることは無かった。
周辺には護衛も無く、唯の的だったが、ライフルとガトリングガンだけでは削り切れないらしく、その動きは止まらない。
不意に視界の端に3隻の補給艦が見えた。
即座にライフルとガトリングガンを向けて発砲、途端、3隻の補給艦は周辺の構造物を巻き込んで大爆発を起こした。
その余波はスティグロにも届き、後部のブースター周辺を吹き飛ばした。
結果、唯でさえゆっくりだったスティグロはその足をほぼ完全に止めた。
だが、完全に止まったわけで無く、少しずつではあるが、未だに出口に向けて動いていた。
そしてボクは、スティグロの鼻先へと機体を移動させて………機体から発せられた緑色の閃光が狭い軍港内を照らした。
『………ぃ、ぉぃ、おい!!!』
耳元で大音量で流されたオペレーターの声にボクは漸く正気付いた。
「はい、こちらハウンドドッグです。」
『やっと返事しやがったか…ミッション終了、帰還すっぞ。』
周囲を見渡せば、全ての艦船が沈み、スティグロも完全にその動きを止めていた。
誰が何時の間に撃破したのだろうかと一瞬疑問に思ったが、自分以外にこの惨状を引き起こした原因が思い浮かばず、何も言わなかった。
今日、ネクストに乗った状態で初めて命の危機を感じた。
ゲームなんかじゃなく、本物の。
通常戦力でもネクストを撃破し得ることは話解っていたことだし、自分でも気をつけていたつもりだった。
それを偶然にも今日、改めて身を以って教えられただけだ。
(今日のことは一生覚えておこう。)
それがこの世界で生きていくには必要なことであり、『リンクス』としての『ボク』の義務なのだから。
………………………………………………………………
『リッチランド』はGA所有の大規模農業プラントの一つである。
大規模と言うだけあってその生産量はかなりの量であり、GAの重要な収入源でもある。
これの防衛はGAの利益にとって非常に重要なものであり、これを不当に侵す者がいるのなら、何としても防衛を成功させなければならない。
わざわざ本社から通信してきたお偉いさんからのありがたいお言葉である。
「で、今回は『リッチランド農業プラントの防衛』ですか?」
『あぁ、何でもアルゼブラの部隊が向かっているって情報を得たそうだ。以前鹵獲されたうちのAF『ランドクラブ』もいるってよ。』
「…どうやったらAFを鹵獲されるんでしょうね?」
実はそれは建前で、秘密裏に売り払ってたりして。
『知らねぇよ。…後、今回は僚機が付くぞ、初めての共同だからな、気ぃ付けろよ。』
「誰でしょう、ドンさんでしょうか?」
『有澤の大将だそうだ。』
で、時は過ぎ去り、輸送機内部にて
『有澤重工、雷電だ。』
「初めまして、今回両機を務めますハウンド・ドッグ、ペットです。」
まさか社長と挨拶する日が来ようとは…。
それにしても只管に渋くて重厚だな、流石社長。
『相手は通常戦力とランドクラブの混成部隊と聞いている。雷電の敵ではないな。』
「もし、航空戦力がいた場合はこちらが担当しますので。」
『そちらは任せよう。』
『社長、そろそろ作戦開始時刻ですので…。』
有澤所属のオペレーター(典型的な日本人サラリーマン)が声を掛けてきた。
「…社長、最後に一つよろしいでしょうか?」
『何かね?』
「よろしければ、後でサインください。」
『ブフゥッ!!?』
向こうのオペレーターが何か吹いた様だが、気にしない。
それよりも今は社長の返事の方が大事です。
『良かろう、後で届けさせるとしよう。』
「あ、ありがとうございます!!家宝にしますので!!」
『喜んでもらえるのは嬉しいのだが……しかし、そんなに欲しいものかね?』
「以前から有澤製品のファンでして…。」
主に前の世界でのことだが、ACFAプレイ時は余程の事が無い限り、有澤製のガチタンクをミッション、ランクマッチ問わず使用していた。
カブラカンを除いた全てのAFを社長で撃破した事もあった程だ。
特に『レッドバレー突破支援』では景色を楽しみつつ、密集した敵をOIGAMIで吹き飛ばしたり、旧型巨大兵器と真っ向からの撃ち合い合戦もしていた。
『楽しんでいる所悪いが、もうすぐ作戦領域だ。最終チェックは終わらせとけよ。』
オペレーターの声に気を引き締め、機体の状態に気を配る。
センサー、レーダー、FCS良好。
各フレームパーツ、各ブースター、各兵装共に良好。
今回の兵装は左背中をOSAGE03、肩はBELTCREEK03を選択している。
前回のOGOTOは右背中にそのまま装備している。
社長と組めば、少なくとも火力で押し負ける事は在りえないだろう。
社長も既にチェックを終わらせて気を引き締めている。
それに何より、社長の前という事もあり、無様な真似は出来ない。
『間も無く作戦領域だ、投下するぞ。』
そして2匹の山猫が放たれた。
『敵戦力は既に展開済みか…。』
「僅かながら戦闘ヘリもいます、そちらはお任せを。」
『あぁ、私は正面から行かせてもらう。それしか能が無い。全てを焼き払うだけだ…。』
AFが最奥に配置しながら、周辺にはノーマルが15機、MTに至っては30機はいる様だが、こちらは2機ともグレネード持ちのため、然したる手間は掛からないだろう。
先ずボクがOBで先行して、10機程の戦闘ヘリを何もしてこない内にライフルとガとリングガンで撃ち落としていった。
やや遅れて来た社長は自慢のOIGAMIを展開し、敵密集地帯に向けて轟音と共に砲撃を開始した。
ノーマルは向けられる砲身から避けようとし、MTは飛来する砲弾を撃ち落とそうと弾幕を張るが、彼らにとっては不幸な事にそのどれもが成功する事は無く、OIGAMIは期待された通りの戦果を示して見せた。
着弾した瞬間、ネクストの兵装とは思えない程の爆風と衝撃が広がり、直撃を受けた者は欠片も残さず、周囲にいた者もその余波だけで動きを阻害され、その隙に更なる砲撃を受けてしまう。
普及型AFにも匹敵する火力という歌い文句は、比喩や伊達で無く、全くの事実であると、そう思わせるだけの光景が次々と生み出されていった。
それを見ていたボクも唯眺めているという事は無く、ヘリを撃墜後、直ちにAFに向けてOBで接近、砲撃を掻い潜りながらも懐に入り、グレネードとミサイルで全ての砲台部分を破壊した。
…社長のそれに比べれば遥かに地味な戦績ではあるが、依頼達成には大事な事だと、内心で自己弁護してみるものの、今回は殆ど出番が無かった事を覆すには至らなかった。
視線を戻せば、社長の方は間も無く終りそうだった。
こちらも終わらせようと機体のPAを確認する。
先程のOBやAFのミサイルでやや減衰していた分は既に回復しており、AFに止めを刺す準備は整っていた。
「じゃあね。」
そして、AFランドクラブの上部に緑色の閃光が広がった。
で、その後
「で、これがそのサイン?」
「えぇ、そうです。」
いつもの報告と共にボクは至福の時を過ごしていた。
ミッション終了後、マダムの屋敷には2日と経たずに送られてきたサインに(見た目の)年相応にはしゃぐボクの姿があった。
額縁に丁寧に飾られたサインには達筆で「有澤隆文」と有澤重工のロゴマークが描かれていた。
「一生涯の家宝にします!」
「あら?じゃぁ、私が贈った首輪はお気に召さなかったのかしら?」
微妙に不機嫌そうに眉を顰めているマダムに気付かないという死亡フラグを作りつつ、ランランルーと鼻歌を歌いながら、ボクは社長のサインを眺め、部屋の何処に飾ろうかなーと考えながらマダムに適当に返事をした…してしまった。
「マダムのあれは手入れも欠かしてませんけど、普段から使用するにはちょっとあれですからねー。」
流石に真っ赤で愛らしいデザインの首輪を常時着用する程、人間を捨ててはいません。
…後で思い返せば、これが死線だったのだろうと容易く気付いたのだが、この時の浮かれきっていたボクには気付く事は出来なかった。
知っていた筈だった、マダムが独占欲旺盛かつ唯我独尊で、自分の物に手を出されるのを何よりも嫌い、それと同じ位に自分の物が勝手な事をする事を嫌うのだという事を………身を以て、知っていた筈なのに。
もしここで「マダムの首輪も大切に保管しています。」と応えていれば、この後の悲劇も幾分か軽減されていただろうに…。
前世からのヒーローに会った事で、この時ばかりはその事が頭から離れていた。
「そう……そうなの。」
ゾクリと、背後からの怒りの気配に全身が総毛だった。
噴き出した冷や汗を気にする事もままならず、ボクはその場でガタガタ震えながら、振り向く事も出来ずに、唯立ち尽くすことしか出来なかった。
足音も立てずに、ゆっくりと近づいてくる気配だけが解る。
あぁ、何でこんな事になったんだろう?と、既にどうしようもない事態だというのに思考を働かせる、あぁ、これが現実逃避か。
信じてもいない神様、最後にボクに素敵なプレゼントを下さってありがとうございます……嬉し過ぎて涙が出そうだよチクショウ。
そして、マダムのたおやかな指がボクの両肩に置かれ、その外見とは裏腹に逆らい難い腕力でボクの体を拘束し、麗しい声がボクの鼓膜を震わせた。
「今日は朝までね…」
外は数時間前に日が昇り、漸く午前中になったばかりの時間であるが、マダムはヤると言ったらこちらにお構いなくヤる人だ。
更に…
「フルコースで。」
「ちょッッ……!!?」
その余りの内容に異論を挟もうとする口を必死に閉じる。
もしここで余計な事を口に出せば、お仕置きは倍になってもおかしくはない、少なくとも悪化しかしない。
フルコースとはスカトロ、SM、バイブ、木馬、緊縛、羞恥、コスプレを始め、その他オモイダセナイ程に多様なプレイ内容を一晩以上掛けて味合わせるという、ボクが最も回避したいお仕置きの一つだ。
正気を保てるかなぁ………父さん母さん、先立つ不幸をお許しください。
ボクは一足先に黄泉路に行きますね。
実に楽しそうに鼻歌を歌うマダムに手を引かれて、ボクはマダム御用達の「お仕置き部屋」に連れて行かれるのだった。
…………………………………………………………………
「腰が抜けた…。」
うおぉぉ…と体中に走る痛みに呻き声を上げながら、ボクは自室のベッドで布団に包まっていた。
結局、あの後、マダムのお仕置きは2日近くまで続いた。
もうお仕置きから1晩も経っているのに未だにダメージが抜けないのはそれが原因でもある(それを抜きにしてもマダムのお仕置きが厳しかったのもある)。
この2日間、やめてくれ、助けてくれと何度叫んだかすら覚えていない。
そんな事をしても無駄と解っていても言わずにはいれないし、言わないとSの極みにいる様なあのマダムは満足しない……絶対に言うまでこちらをいたぶり続けることだろうし、言わせるだろう。
更には、初めは痛がっていても、何時の間にか喜んでいるなんて事はざらで、こっちからオネダリしいている事もあった。
正気付いてから羞恥で悶えるが…。
あの人の一番厄介な所はどんなに嫌がっていても、気付けばそれを快感に感じる様にしてしまう所だと思う(例、尻)。
…忘れよう。
そういえば、2日目の最中、オペレーターから依頼が入っていたそうだが、マダムが断ったそうだ。
一体どう言って断ったのか聞きたいが、怖すぎて聞けない。
何でも、先日撃破したアルゼブラ所属のリッチランド襲撃部隊には別動隊がいたらしく、そいつらにまんまとリッチランドを占拠されてしまったらしい。
しかし、奪還するにはリンクスの人手が足りないらしく(そこでボクに声が掛かったのだが)、今回は独立傭兵を雇う事にしたらしい。
「そういや主人公のミッションだったよね。」
この分だと初顔合わせは当分先になりそうだ。
考え事より、一先ず体を治す事が先決と、ボクは目を閉じて体を休めた。
「お尻が痛いよう……。」
うつ伏せで寝よう……シクシクシク(泣)。
side madam
「よろしかったのですか?」
サンサンと日光が降り注ぐテラスにて、傍らに侍女長を置きながら、私は紅茶の香りを楽しんでいた。
その最中、傍らに佇んでいた侍女長がそんなことを言ってきた。
仕えてから10年を超える彼女は、時々こちらの内心を見透かしたような発言をするため、少し困ることがある……その分こちらの注文に応えてくれる為、優秀なのだけど。
「何をかしら?」
「ペット様を足腰立たなくしたのは、単にマダムの趣味でもありますが、溜まっていた疲労を表出させて、依頼を休ませるためでしょう。それをご本人に告げなくてよろしいのですか?」
やはり侍女長は気付いていたか。
そう、あの妙な所で真面目な子は上手く休む事が苦手らしく、時折こうやって半ば強制的に休ませなければならないのだ。
…ベッドの上でも、こちらの要望に応えようとするため、ついついヤり過ぎてしまう事も多々あるが。
「私が楽しむのが前提だけど、『久しぶり』のお気に入りだもの。この程度の事で壊れてしまってはつまらないわ……それに、賢いペットなら飼い主の心情を読み取ることは当然でしょう?」
とは言っても、まだまだ未熟なあの子の事だから、私の内心を計るには経験が足りなすぎるわね。
しかし、多少の素質位はあるのだから精進して貰いたい。
あの子はこの屋敷に初めて来た時も、特に嘆くでも諦めるでもなく、未熟ながらもこちらの反応を伺い、礼儀正しく挨拶してきた。
恐らく、こちらがどの程度の物か計っているのを、感覚的に理解していたための反応だったのだろう。
こうして買ってきた人間は大抵問題があるものだが、あの子の場合は根っこの部分が全くの『平凡』であり、『善良』なのだ。
気まぐれに人を買って、育てては捨てている私が言うのも何ではあるが(そのため、知り合いや部下にはマダム呼ばわりされるのだが)、どうしてあんな子がラインアークの最下層にいたのか不思議でならない。
没落した貴族や企業関係者ならラインアークのもっと上層で暮らしている筈だし、ラインアークの一般層ならもう少し荒んでいる筈なのだが……まぁ、気にしても無駄よね。
「そう言えば、依頼の方は独立傭兵とダン・モロが達成したとの事です。」
「あの新入りね、カスミ・スミカのお気に入りか…。」
新たな話題に思考を切り換える。
ダン・モロはどうなろうと構わないが、問題は前者の方だ。
一時、行方不明だったレオーネ・メカニカの最高戦力はどうやら後継者を育てていたらしい。
現在、その新入りは何処の企業にも属さずに依頼を遂行している。
目立った失敗も無く、現在は新人ながら中堅クラスのリンクスとして企業に認識されている。
「どこが抱え込めるかしら?」
「現状では不明としか言えませんね。」
まぁ、そうだろう。
別に明確な答えを期待していた訳でもない。
こればかりは時期を待つしかないか。
「おかわり。」
「かしこまりました。」
一先ず、可愛いあの子が起きて来るまでは、この紅茶を楽しむとしましょう。
微修正しながら昔を懐かしむ作業中。
そして艦これ改まだかなー。
JAIL?何の話だい?(白目