「フンフフーン♪」
先日のお仕置きからもう1週間、体も回復したボクだが、今の機嫌の良さは他にもある。
なんとボクの機体「ハウンド・ドッグ」にGAN02-NEW-SUNSHINEのパーツを使える様に成ったのです!!
正直言えば、それより有澤製タンク脚部が欲しかったのだが……生憎とボクには適正が無かった。
アスピナの訓練生時代、タンク脚部でAMSを接続した途端、強烈な車酔いにも似た不快感と浮遊感を感じて気絶したのは今でもよく覚えている。
あぁ、嘗て培った経験とノウハウは生かす事無く消えてしまった…。
閑話休題、ハウンド・ドッグの方だが、今回のパーツ解禁を機に割と大幅にアセンを変更した。
内装系はそのままに、頭部、胴体をNSSのGAN02-NSS-H、GAN02-NSS-Cに、左腕のガトリングガンを拡散バズーカ(GAN02-NSS-WBS)、右腕のライフルを強化型ガトリングガン(GAN01-SS-WGP)、肩部兵装の連動ミサイルも最多装弾数のもの(MUSKINGUM02)に換装、更に格納火器に強化型ハンドガン(GAEN01-SL-WH)を装備し、メモリーは200まで増えたので(マダムからご褒美として与えられた)、ロック速度とミサイルロック速度を最大まで強化し、残りは腕部運動性能と照準精度に残りを振っている。
残りの右肩はミッション毎に変更するとして、これで漸く対ネクスト戦もある程度は戦える準備が出来た。
何故、こんな大幅な変更を行ったかと言うと、今度の依頼が関係していた。
『敵ネクスト迎撃』
珍しい内容でも無いと考えそうになるが、そんな事は無い。
やや話は反れるが、GAの期待の新規標準機GAN02-NEW-SUNSHINEであるが、実は未だ目立った戦績は上げていない。
そのため、現在は売り上げが今一つであり、GA上層部も頭を悩ませていたのだが、ここに諜報部からある情報が入ってきた。
『今度の作戦でインテリオル・ユニオンがワンダフルボディの撃破を狙っている、しかもそれを担当するのはレイテルパラッシュ、ウィン・D・ファンション。』
この情報にGA上層部は大いに慌てた。
幸いにも、インテリオル側は両機を雇う予定は無いそうだが、それを差し引いても粗製リンクスであるドン・カーネルでは『GAの災厄』に勝てる筈が無い。
そして、もしワンダフルボディが撃破されれば、唯でさえ低いNSSの売り上げが更に低下し、GAのネクスト技術に対する信用問題にすら発展しかねない。
このままでは、唯でさえ貴重なネクスト戦力を失い、今後の経済戦争に支障をきたす事にもなる。
GA上層部は無い知恵(自社傘下のBFFやオーメル側によく出し抜かれる)を振り絞って考えた。
そして至った結論が『戦力の増強』である。
単純であり、それしか有効な策がなかったとも言える。
しかし、新たに粗製リンクスを育成するにも時間が無いし、まかり間違っても貴重なネクスト戦力を失いたくない。
そこで白羽の矢が立ったのが、新入りのボクだった。
まだ戦力化して時間の短いボクなら失った所で影響は(伝説となったローディー氏やそれなりに高い戦績を持つメイさんと比べれば)低く済む。
かと言って2機もネクストを失いたくはないので、それぞれに可能な限り強化を行う。
これがボクの機体にのパーツが装備可能になった理由だった。
ここで、単に戦力の増強なら独立傭兵を雇えば済む話なのだが、ここで上層部がもしも『NSSでインテリオル・ユニオンの新規標準機であり最上位ランカーでもあるレイテルパラッシュことウィン・D・ファンションを退ければ、今後のNSSの売り上げが向上するかもしれない』という目先の欲に釣られたがために、依頼はボクとドンさんの2人で達成しなければならなくなったのだ。
…そんな単純思考だからBFFのロリコン爺ぃやオーメルの連中に出し抜かれるんだよ!!!と言ってやりたいが、決まってしまったからには達成しなければならないのが企業専属リンクスの辛い所だ。
で、機体が整備中のボク達は何をしているかと言うと……
『そっちに行ったぞ!』
「ちっ、このぉッ!!」
現在、ドンさんと一緒にシュミレーターで訓練中。
ボクとドンさんは対ネクスト戦の経験が無いので、今までにGAが採取したレイテルパラッシュの戦闘データ(という名のGAの惨敗記録)を基にして作った戦闘プログラムを相手に連携しての戦闘訓練をしています。
既に開始から1時間以上経過していますが、2対1のくせに未だに勝てていません。
こっちは重2脚と重2脚寄りの中2脚で、ミサイルやガトリング、拡散バズーカなど火力も豊富ときているのに全然駄目です、早すぎます。
ここまでの絶望感は、かつてAC2AAのセラフを相手にして以来です……これ絶対レギュレーション1.20だろ!!
特に実弾防御重視のNSS(と言うよりGA系列)では、少佐砲ことデュアルレーザーキャノンのHLC09-ACRUXやレーザーブレードのLB-ELTANINの一撃でコクピットごと破壊されることも多い。
また、ネクスト同士の連携が初めてなのもいけなかった。
ドンさんも通常戦力の相手ばかりだったそうで、適正の問題もあり、上手く行ってない。
目視だけでなく、今回からちゃんとロックオンして撃つ事も学んでくれたが、それでも動きがメイさんやローディー氏、ボクに比べるとどうしても鈍い。
今はボクが前衛、ドンさんが後衛と役割分担しているが、この役割に慣れるのもかなり掛かったし、まだ互いの呼吸を読むなどの高等技術は遥か彼方だ。
幸いにも、今回の依頼が開始されるまでまだ1週間近くあるため、こうして詰め込み式で訓練できているのだが、問題もある。
『やべぇ、もう…。』
『ワンダフルボディ、AMS負荷がイエローにまで悪化。今日はここまでだ、これ以上は危ねぇ。』
粗製リンクスの限界とでも言うべきか、ボクは最長3時間近くネクストに搭乗できるが、ドンさんは精々1時間といった所で、戦闘可能時間は更に短く、休憩も少なくとも1時間は入れなければならないので、訓練時間の短縮にも繋がっている。
なんとか連携らしきものが形になり始めて、全滅までの時間が1分以内の秒殺から3分以上まで向上しているが、このままでは想定通りの2対1でも負けてしまうだろう。
どうするべきかと頭を悩ませるが、然したる良案も浮かばない。
一先ずは休憩することにして、シュミレーターから降りよう。
GAのネクスト関連部署には当然の事ながら訓練用のシュミレーター室もあり、ボクはそこの備え付けのベンチに座りながら、青い顔でベンチに寝転がるドンさんの様子を見ていた。
「大丈夫ですか、ドンさん。」
「…かなりきつい……すまねぇな、オレが足引っ張ってちゃ世話無ぇ…。」
ボクより年長者のドンさんとしては、まだ世間一般では子供のボクにこうやって心配されるのは忸怩たるものがあるのだろう。
「…何か欲しいものとかありますか?」
「水…。」
今日はもう休ませないと危ないなと思いつつ、室内の休憩スペースにある自販機からミネラルウォーターのボトルを買ってくる。
「どうぞ。」
「あんがとよ…。」
起き上がるのに手を貸し、ボトルの蓋を開けて渡す。
「フゥゥゥ…。」
水を飲んで多少は落ち着いたのか、顔色が少し戻ってきた様だ。
「今日はもう休みましょう、これ以上は体に毒です。」
元々、その致死量に至る負荷から医療技術としての利用が諦められたのがAMSだ。
無理をすれば続けられるが、それをすれば間違いなく廃人か死人が出来上がるだろう。
「今日は寝る、すまねぇが手ぇ貸してくれ…。」
こうしてその日の訓練は終了した。
side Don Colonel
「情け無ぇなぁ…。」
オレは自室のベッドで本音を漏らした。
上層部からオペレーターを通じて事の次第は聞いた。
別にそれに関しては嘆く事があっても、情け無さを感じることは無い。
問題は、オレの事情に関係無いガキを巻き込んだことだ。
上層部の命令なら仕方ないとも思ったが、あの位のガキに頼らなけりゃ生き残れない自分を思うと、どうしてもそう考えちまう。
仮にもいい歳したオッサンがよ……。
その日は考え事は鬱になるだけだと、思考を止めて毛布を被った。
で、翌朝
「あっ、おはようございます。」
昨日の悩み事の原因がいた。
「ちょっと待ってくださいね、今終わらせてきますんで。」
と言って、部屋に備え付けのキッチン(殆ど使った事は無い)に向かって行く。
臭いからすると、料理を作っていたらしい……多芸な奴だな。
因みに、その姿はやや薄手のTシャツに裾が殆ど無い程に短いジーンズにエプロンと、本人の年齢と細い手足、色白な肌と子供の様な容姿もあって、まるで子供のおままごとの様に見える。
「何やってんだ、オメェ…。」
ネクストに乗ってもいないのに痛くなってくる頭を抱えつつ、目の前で楽しげに食事の準備をするペットに尋ねる。
曰く、これから作戦まで2人で共同生活をするとの事。
「マダムに尋ねてみたんですけど、連携の呼吸を合わせるならこういう風に寝食を一緒に過ごすのが良いのだそうです。」
「…ちょっと待て、オメェん所のマダムは許可したのか?」
ローディーの旦那が言ってたが、こいつの言うマダムは相当のやり手で、BFFの連中とも親しいらしく、ウチの上層部も無視できないらしい。
その人格は唯我独尊で知られており、自分の物であるペットをどこぞの馬の骨(自分で言ってて落ち込む)の元に貸し出すとは思えない。
「いえ、事の次第を話すと許可してくださいました。」
いやー良かった、と無邪気に笑うその姿に、その気の無いオレは不覚にもちょっとドキッとした。
「あ、そういえば、マダムからお手紙を預かってます。」
どうぞと渡された封筒を開ければ、流麗な字で書かれた手紙が入っていた。
『 連携の参考にその子の呼吸や性格、性質を掴んでおきなさい。
それと、私の物に手を出したら…。 』
最後の…が怖すぎるぞ。
さて、朝からハプニングがあった訳だが、やる事に変わりは無い。
朝食後(かなり美味かった)、今もシュミレーターに乗って、対レイテルパラッシュ戦を繰り返している………もう20回以上になるか。
『それッ!』
ペットの機体、ハウンド・ドッグが大量のミサイルを発射する。
オレのワンダフルボディも持って行けとばかりに両肩の垂直ミサイルを放つ。
が、当たらない。
ミサイルの軌道の奥へ、奥へと高速で進むその動きにミサイルが付いていけていない。
無論、完全に被弾が無い訳ではないが…。
QBを吹かし、左に回避。
直後、寸前まで機体があった場所を2本のハイレーザーが貫いていく。
これだこれ、GA製の機体には天敵とも言えるEN兵装こそが、その機動性と並ぶ脅威。
絶対にハイレーザーは避ける事、昨日の訓練で真っ先に学んだ事だ。
ハウンド・ドッグがガトリングの雨を降らせる。
流石に雨あられと降り注ぐ弾丸は避け切れないのか、レイテルパラッシュは素早く距離を置いた。
ここまでは昨日通りだ……そして、ここからが本番だ。
「ペット!!!」
無言実行とばかりに距離を置こうとするレイテルパラッシュにハウンド・ドッグが突撃する。
オレはそれをミサイルと拡散バズーカで支援しながら少し遅めに接近していく。
そして、レイテルパラッシュがレーザーブレードを構え、ハウンド・ドッグに切り掛かり……発射される大量のミサイルの波に飲まれた。
訓練開始当初、対レイテルパラッシュ戦の策として遠距離からの飽和攻撃と近距離の避けようもない距離での攻撃が挙げられた。
昨日は装備の関係上、中距離以近のミサイル攻撃が主力となったため、仕留め切る前に接近戦に持ち込まれた。
そして今回、今の所はうまく行っている。
レイテルパラッシュがミサイルを何とか超えて出てくるが、先程に比べればボロボロだ。
そして隙無くブレードでコアを斬り裂く所は流石としか言い様が無い……っておい、そこで隙を晒すなアホ!!!
結果として20秒後にその一戦は終了した、結果は言うまでも無かった。
「ごめんなさい…。」
まるで小動物の様な反省ぶりに、甘い考えが浮かぶが反省会の方が先だ。
「なんであそこでバズーカを撃たなかったんだ?」
「ミサイルがまだ発射中でしたから、セーフティの関係で撃てなかったんです。ガトリングは撃ってたんですけど…。」
「じゃぁ、アサルトアーマーは?」
「発動しようとしたんですけど、その前に斬られました。」
こっちの反応速度の問題か…。
オレは粗製だから問題外だし、こいつはこいつで肉を切らせて骨を断つ的な火力で圧倒する戦闘を好む中距離型なので、軽量かつ高機動が相手ではどうしても出足が遅れるか。
「次はより近づかれるより早く発動するしかねぇか。」
「GAにもブレードがあれば良いんですけど…。」
あるのは解体屋専用の鉄塊だけだからなぁ…。
弾数制限が無いのは良いんだが、如何せんPA貫通力とリーチが足りない。
好んで使っているのがカラード最下位チャンピオンチャンプスのみなのが、このパーツの価値を物語っている。
…こんなのを使うのは余程酔狂な奴だけだな。
「それはさて置き…接近戦ならまぁ何とかなる目処が立ってきました。」
「マジかそりゃ!?」
「無論、2人係が前提ですし、問題もありますよ。」
説明を聞くと、確かに問題が山積みだったが…。
「…OKだ、そんな奇策でも具体的な目標の無いままよりはマシだな。」
寧ろ、それぐらいしなけりゃ、生き残れんかもしれん。
その後、作戦当日まで6日間をオレ達はその奇策の練習を続けた…………寝食を共にしながら。
…………………………………………………………………
そして、作戦当日が来た。
こちらは既に作戦領域に展開しており、機体の調整も万端で抜かりは無い。
この6日間に死に物狂いで訓練したが、結局、奇策の成功確立は5割以上6割未満という結果しか出せなかった。
やはり、自分にはリンクスとしての才能が無いという事なのだろう。
それでも経験を積めば、ローディー氏の様に成れるかもしれないが、それは置いておく。
問題は目の前の危機にどう対処するかだ。
「ドンさん、チェック終わりましたか?」
『あぁ、問題は無ぇ。整備班が気合入れてやってくれたからな。』
ボクの機体だけでなくドンさんもメモリーが増加し、ロック速度とミサイルロック速度が強化されている
上層部の計らいの一つだが、有難いので素直に感謝しておこう。
唯問題があるとすれば…
『それにしても、オメェの機体は…。』
「言わんといてください。」
ボクの機体の方が問題だった。
別にアセンブリが変更された訳では無い。
唯、機体のカラーリングが変更されただけだ。
全体が白、灰、黒のカラーリングで統一され、頭部の間接とオプション部分のみが赤く塗られている…まるで首輪とリボンの様に。
エンブレムも赤い首輪のブルドッグから赤い首輪とリボンのついた白いチワワになっていた。
そう、マダムの仕業である。
ボクからの注文ではないが、うちの整備班はしっかりこなしてしまったらしい……単に悪乗りしただけかもしれないが。
機体を見た瞬間のボクの絶望した顔を見て、整備班の人達は謝ってくれたが、ボクの羞恥心が消える筈も無い。
せめてボア・ハウンド位なら恥ずかしくないのに…。
そんなアホな事を考えていると、不意にドンさんが話し出した。
『…なぁ、ペット。』
「なんですか?」
『すまなかったな、オレの事情に巻き込んで。』
「…言いっこ無しですよ、今後はボクの方が助けてもらうかもしれませんしね。」
『そうか』
「そうですよ。」
『そうか。』
「そうですよ。」
『そうか…。』
この人なりに今の状況は思う所があるのだろうか、随分今さらな事を言われた。
…まぁ、愚痴を誰かに言っておくのも大切な事だし、良いか。
暫く無言のまま時が過ぎて行くが、遂に時間が来た様だ。
『作戦領域に囮のコンテナトラックを確認した…お出でなすったぞ。』
一瞬で思考が戦闘状態のそれに切り替わる。
機体のチェックは既に完了、自機と両機の配置を確認……作戦通り、以後無線はカットする。
そしてドンさんがトレーラーを破壊したのをレーダーで確認した直後、本命が来た。
『1機か…さっさと終わらせる。』
その宣言通りに、レイテルパラッシュはワンダフルボディに急速に接近していく。
『へっ、来やがったか!』
それに対し、ワンダフルボディは距離を保ちつつ、フィールド内の廃ビルに紛れながら、垂直ミサイルを放つ、が、よく見るとまともにロックオンしていなくともミサイルを発射している様だ。
無論、それでは当たらないし、ロックオンして撃った所で避けられるが、目的は果たしているので問題は無い。
『なるほど、粗製というのは本当らしいな。』
ウィン・D・ファンションが然したる感情も見せずに呟く。
ドンさんとしても事実なので反論しないし、その余裕も無い。
常に距離を取り、ミサイルを放ち続けるワンダフルボディとそれを追うレイテルパラッシュ。
本来、ドンさんには荷が重すぎる相手だが、辛うじてデュアルハイレーザーを受けずに(それ以外のパルスやレールガンはちょくちょく当たっている)済んでいるし、ブレードの間合いには入っていない。
だが、その状況を保っているだけでドンさんには限界だった。
じわじわとダメージが蓄積し、ワンダフルボディの動きが悪くなっていく。
そして、戦闘開始から3分程だろうか、遂にワンダフルボディのミサイルが尽きた。
直後、ワンダフルボディはミサイルをパージして両腕の拡散バズーカに切り替える。
そしてレイテルパラッシュはこれを好機と見て、一気に接近していく。
ワンダフルボディは拡散バズーカで迎撃するものの、高機動を誇るレイテルパラッシュには当たらない。
そして背の低い廃屋を超えて、遂にレイテルパラッシュがレーザーブレードを展開し…
…ようとした所で、廃屋から伸びる腕に足を掴まれた。
『何ッ!!?』
ウィン・D・ファンションがこの戦場で初めて動揺の声をあげた。
ボクはそれを意に介さず、動きを止めたレイテルパラッシュを後ろから羽交い絞めにし、押し倒した。
『く、このッ…!』
レイテルパラッシュがボクのハウンド・ドッグを振り解こうともがき、ブースターを吹かすが、自機の上に乗った重2脚1機分の重量の前には成す術が無かった。
「ドンさん!!」
『任せなぁ!!』
近づいてきたワンダフルボディが、すかさずレイテルパラッシュの両腕に向けて近距離から拡散バズーカを発射する。
『ぐ、ううぅぅ!!』
元々装甲も薄く、実弾には弱いY11-LATONAが原型のレイテルパラッシュではその攻撃に耐え切れず、兵装を破壊され、両腕に損傷が発生する。
更に、拡散バズーカをパージしたワンダフルボディが背中の兵装を引き剥がしにかかった。
『き、貴様らぁ!!』
レイテルパラッシュが先程よりも激しく暴れだし、押さえ込んでいるボクは必死に振り解かれまいとしがみ付く。
「ドンさん、急いでください!!」
『解ってらぁ!!』
そして、ボクらは無事レイテルパラッシュの全兵装を破壊する事に成功した。
策の内容は極単純なものだった。
高速で動く敵に攻撃が当たらないのなら、相手に当たる距離まで近づいてもらえば良い。
作戦そのものはワンダフルボディが標的ならば、多少怪しくとも相手は乗ってくるだろう(ボクがワンダフルボディの僚機だという事はGA上層部が可能な限り秘匿していた)。
しっかりロックオンする重要性を理解したドンさんが前半にミサイルを乱射していたのは、ボクのハウンド・ドッグを隠す為のものだった。
無論、最初から起動状態では感づかれる為、戦闘が開始してワンダフルボディがある程度ミサイルを乱射してレーダーに感知され辛くなってから起動した、それも少しでもレーダーに反応しないようにPAを展開せず、ジェネレーター出力も起動に最低限必要なまで出力を落とした状態で。
そして、ワンダフルボディがボクの隠れた場所に、上手くレイテルパラッシュを誘い込んだ絶妙なタイミングで姿を現す。
無論、ワンダフルボディがそのまま撃破される可能性もあったし、流れ弾に被弾したボクが撃破される可能性もあった。
しかし、対ネクスト戦の経験が薄いボク達がランカー第3位の「真鍮の乙女」に勝つにはどうしても彼女の裏をかく必要があった……それがどんなに危険であっても。
結果的にはボクらはこの危険な賭けに勝った。
二度としたくないし、できないだろうがそれでも勝ったのだ。
『で、これからどうするんだ?』
ドンさんがやや困った様に聞いてくる。
正直、成功した後の事は考えていなかった。
「えぇっと……中の人は殺して、機体だけ貰っちゃいましょうか?インテリオル側の最新鋭ネクストですし、GA側としては宝の山でしょう。」
EN兵器主体とは言え、敵対勢力の最新鋭ネクスト技術はかなり貴重なものだろうし、自社の最新鋭ネクストが(2機がかりとは言え)鹵獲してきたのなら、上層部も文句は無いだろう。
『殺せ…生き恥は晒さん。』
「じゃぁドンさん、コクピットだけ破壊してお持ち帰りしましょう。」
『おう。』
『やめろオメェら、緊急事態だ!!』
突然、焦った様子のオペレーターから通信が入った。
『どうした?そんなに慌てて。』
嫌な予感をバリバリ感じながら、ドンさんがオペレーターに尋ねる。
『作戦領域に敵ネクストが接近中、相手は…!』
「…あー、こっちでも確認しました。」
ハウンド・ドッグの右背中のレーダーがOBを使用して接近してくるネクストを確認した。
『おい、ありゃぁ…。』
「やっぱりと言うべきでしょうかねぇ…。」
現れたネクストは1機だけだったが、その1機が問題だった。
黒灰色に塗装された、希少価値の高いアルドラの旧標準機HILBERTを基準に右背中に標準型近接信管ミサイルのDEARBORN02、左背中に高速ミサイルのVERMILLION01、肩には標準型連動ミサイルのBELTCREEK03、左腕には強化型ガトリングガンのGAN01-SS-WGP、そして右腕には腕武器版のデュアルレーザーのHLR09-BECRUXを装備した機体。
極めつけに「緑の四葉のクローバー」のエンブレムを持つネクストと来たら、この世に1機しかいない。
『マイブリス……カラードランク第7位、ロイ・ザーランドかよ…。』
企業に属さぬ独立傭兵の中でも最強クラスのリンクスだった。
『らしくないな、ウィン・D?』
『すまないロイ、しくじった…。』
こっちの事をそっちのけで会話する2人……別に良いですけど、微妙に甘い雰囲気が感じられます。
『おい、今の内にヤっとくか?』
ドンさんが秘匿回線で話してきますが、やめといた方が良いでしょう。
ハウンド・ドッグもワンダフルボディも兵装は格納している強化型ハンドガンのみの状態では、どんな奇跡が起ころうともどうしようもありません。
「もしそれで本気になられたら、ボク達じゃ太刀打ちできませんよ……それよりボクに考えがありますんで、もし失敗したら二手に分かれてOBで離脱しましょう。」
じゃぁ、分の悪い、賭けにもならない賭けをしますか。
「あのー…お話中すみませんが、ちょっとよろしいでしょうかザーランドさん。」
『おう、なんだ?』
『ぶぶふぅッ!!?おまッ!?』
ドンさんがあたふたとしてますが、今は放っときます。
「あなたへの依頼はレイテルパラッシュの救出で合ってますか?」
『あぁ、インテリオルからはそう聞いてる。』
「でしたら、ボク達はレイテルパラッシュに手を出しませんから、見逃してくれませんか?」
『おいおい、敵を見逃せってか?』
「あなたは独立傭兵です。企業専属のボク達と違って、報酬分だけ働けば良いだけでしょう?楽して依頼を達成できるのならそれにこした事は無いと思いますが。」
これは正直言って賭けにもならない。
向こうが本気を出せばこちらは全滅、ただし依頼を完遂する確立は低くなる(レイテルパラッシュはまだこちらの手の内にある)。
それは自身の信用を落としてしまう事になるし、何より、この独立傭兵はウィン・D・ファンションが傷つく事を良しとしないだろう事が重なって、漸く今の状況を成り立たせていた。
『お前……すげぇ奴だな。』
不意に幾ばくかの間を置いて、ザーランドさんが感心した様にそんな事を言った。
「はい?」
『こっちは命の切り売りをしてるんだ、傭兵って言っても金以上の働きはあんまりしたくない………良いぜ、美人を助けるためだしな。オレはお前らを見逃す、代わりにウィン・Dは置いて行けよ。』
あっさりと了承されました。
『おおい!良いのかよ、そんなんで!』
ドンさんが心配げに言うが、この人ならまぁ問題ないでしょう。
『おいおい、信用無ぇなぁ……じゃぁ、これでどうだ?』
そう言うとマイブリスの腕部兵装がパージされた……そこまでしますか。
『GA製の機体なら実弾には強いし、そっちのお前はチャフも持ってるだろ。これでオレは事実上無効化されたわけだ。』
「ドンさん、もうよろしいでしょう?」
『あ、あぁ……あんたすげぇな、オレには真似できねぇ…。』
ドンさんが呆れとも尊敬とも付かない様に言いますが、その点に関しては同意見です。
『礼を言うなら相方に言うんだなオッサン。その坊主が言い出さなきゃこんな事考え無ぇよ。じゃ、そろそろ頼むぜ坊主。』
「ではレイテルパラッシュを解放します。」
そして、解放されたレイテルパラッシュは即座にハウンド・ドッグの顔面を殴りつけた。
「ぶへむッ!!??」
何故に!?と考えつつ、倒れ込むハウンド・ドッグ。
そしてそこに馬乗りになって拳を振るい始めるレイテルパラッシュ。
「ぶげ、おふ…ッ、ぷろあぁっ!!?」
『この、この、この……ッ!!!』
その拳を無防備に受け続けるボク。
如何にGA製だと言ってもAMSだから痛いのなんの、呆然としていたザーランドさんとドンさんが止めてくれた頃にはボクは痛みで意識を失いかけていた。
『おいおい、やめろってウィン・D。』
『恨むのは解るがなぁ…。』
マイブリスがレイテルパラッシュを後ろから羽交い絞めにし、ワンダフルボディがボクを抱えて遠ざけてくれたが、レイテルパラッシュはまだ暴れていた。
『だから落ち着けって。』
『許せるか!!こいつは今までわ、私の…!!』
『何やったんだ、おめぇ?』
「いや、さっぱりです。」
本当に心当たりは無い。
今までレイテルパラッシュを拘束していただけで……………あ。
「ネクストのAMSって、機体の情報がリンクスに感覚(疑似的なものだが)として伝わりますよね?」
『それが?』
「ボクがさっきレイテルパラッシュを捕まえてた時、掴んでた場所はコア中心の辺りでした。」
『…あー、人間なら胸を鷲掴みだな。』
要はそういう事なのだろう、にしてもこのご時世に胸を触られだけでここまで騒ぐかな………あぁ、だから乙女なのか。
案外、的を得た揶揄だったんだなぁ…。
『ロイ、貴様まで何処を触っている!!』
『だから落ち着けって、ぶへッ!?』
あ、マイブリスにレイテルパラッシュの頭突きが決まった……と言うか、実弾防御の低い機体で打撃なんかしたらマニュピレーターが拉げるぞ。
えぇっと……。
『もう大丈夫そうだし、行くか。』
「そうですね。」
何か、最後はグダグダになって終りました。
で、何時もの報告会
「そ、それはまた何とも……。」
偶々マダムの寝室に来ていた侍女長(金髪碧眼の男装が似合いそうな美人)が話を聞いて、実に微妙な顔で相槌を打った。
ちなみに、話を聞いたマダムは現在大爆笑中で喋る所では無い。
「まぁ、何とか依頼は達成出来ましたし、上層部としても先ずは一安心できたんじゃないでしょうか?」
「それはそうでしょうけど…。」
侍女長はまだ何か言いたげだが、もう終った事である。
「…あー、笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだわ。」
漸く落ち着いたマダムが口を開いた……が、まだ微妙に口元がひくついている。
「まぁ、生き残ったのならそれで良しとしましょう……ただし、もし無様な様を見せたら解ってるわね?」
眼が怖いですよマダム!?
侍女長さんも笑ってないでどうにかしてください。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいませマダム。ペット様は過程はどうあれ、最上位のランカーに勝利したのですから、ここは何かご褒美など如何でしょう?」
侍女長さん、ボクには今あなたの姿が天使に見えています。
心の中で拝ませてください。
「そうねぇ………うーん、じゃぁあなたで。」
そう言ってマダムが指差した先には侍女長がいた。
「私、ですか?」
嫌な予感がするので退避します。
どっちみちお仕置きを受ける事になりそうですが、ボクの本能がエマージェンシーを告げています。
そろりそろりと抜き足差し足…。
「あなた、恋人もいないのでしょう?幸い、この子は可愛いし、今夜だけなら貸すわよ。」
「し、しかし…。」
マダム、それはご褒美になっていません。
寧ろボクの方こそご褒美になってませんか?
あ、マダムが侍女長の耳元で何か囁いてる……よし、ドアまで十分に近づいたこれで逃げられる。
そして、ボクは自由に向けて駆け出…
グワシッ!!
…そうとした所で、侍女長に両肩を拘束された。
「ペット様…。」
俯いた顔が前髪に隠れて表情が解らないが、万力の様に締め上げる腕からは逃がすつもりは無い事が解った、と言うかかなり怖いですよ侍女長。
「さぁ、行きましょう…。」
「聞きたくないんですけど、何処へ?」
「決まっています。」
否な予感しかしませんが、逃げるのは無理っぽいなぁ…。
「私の寝室です。」
あぁ、やっぱり。
侍女長、あなたは天使であるのは確かですけれど、上に「堕」が付くんですね?
できれば今日位は一人で寝たかったなぁ…。
そうしてボクは侍女長の寝室へと連れて行かれるのだった。
「いってらっしゃ~い♪」
唯一人、マダムだけは楽しそうだった。
……………………………………………………………………
「ランクマッチですか?」
「そうよ。」
いつもの如く、唐突にマダムに呼び出されるとそんな事を言われた。
先日、侍女長に喰われた体力(侍女長はマダムの護衛の総責任者でもある為、体力は人一倍ならむ人三倍ある)を漸く回復し切ったと思ったら、いきなりこの呼び出しである。
で、呼び出した用件は上記の通り。
「あなたはネクスト戦の経験が足りない。前回の依頼で、それは自分でもよく解っているでしょう?ドン・カーネルも暫くは依頼が無いそうだから、ランクマッチに専念するそうよ。あなたもこの際だから経験を積んでみなさい。」
という訳で、カラードでランクマッチを受ける事になりました。
幸いにも、マダムが手を回してくれたらしく、ランクマッチはその日の内に受けられるそうだ…………ただし、3人連続で。
直談判しましたが、マダムの「もう呼んじゃったし、キャンセルしたら私の顔に泥を塗ることになるのだけれど?」のお言葉に諦めました………所詮、愛玩動物の身ですから。
さてカラードマッチだが、対戦自体はカラードにあるシュミレーターで行うのでそこにしました。
機体のデータは各自で持って行くため、機密が漏れる事は無い。
そして、ランクマッチを行ったのだが……。
以下、結果のみ報告。
No.31チャンピオン・チャンプス戦
豪快な工事現場のおっちゃんでした。
SSベースの機体は実弾防御がかなり高く、全リンクス中、唯一両腕に鉄塊ことドーザーを装備している。
地上での撃ち合いはアルドラのやや軽量なグレネードキャノンと高速ミサイルを持っているのでそこそこいけるが、少しでも近づくとドーザーで殴ろうとしてくるので、一定距離を保ちながらの引き撃ちで決着した。
試合時間57秒。
No.30ミセス・テレジア戦
うちのマダムとは対極にありそうな、お淑やかな茶髪のおさげの主婦でした。
重4脚にハンドミサイル、バズーカ、コジマミサイル、プラズマキャノンとかなりの高火力を持っている。
コジマミサイルは全力で撃墜し、プラズマキャノンは避けるしかない。
動き自体は自分よりも重い位なので、回り込みながら垂直ミサイルと連動ミサイルの飽和攻撃で撃破した。
試合時間2分31秒。
No.29ダン・モロ戦
気の良い新社会人(でも頼り無い)でした。
機体構成自体はバランスが良いが、武装がレーザーブレード、ライフル、ミサイルのみであり、ネクスト戦では火力不足な感は否めない。
なんでこの人がテレジアさんより上なんだ?
ミサイルをチャフで無力化されたのはやり辛かったが、パージしてからはブレードに気を付けながら、一方的に火力と装甲でゴリ押しして撃破した。
試合時間1分47秒。
……ぶっちゃけ、早く終わり過ぎた。
皆さん、負けたのにおめでとーとか言ってきます。
この人達何でリンクスになったんだ?(汗)
時間が余ったので聞いてみたら、全員が自分の意思でなったらしい。
チャンプスさんは家族と仲間を食っていかせるために、テレジアさんは旦那が旧GAE所属でその伝で、モロさんは貧困層の子供達への仕送りのためと、全員が実に反応に困る返答をしてくれた。
…うん、依頼で会ったら可能な限り殺さないでおこう。
そんな事を考えつつ、ボクは帰途に着いた。
Side madam
屋敷にある大浴場、そこで私は湯から上がり、よく冷えたシャンパンを飲んでいた。
傍らにはいつもの様に侍女長が佇んでいる。
「マダム、先日の件ですが…。」
「あら?気に入らなかった?」
先日、ペットを日々の仕事ぶりの褒美として一晩貸してあげたのは、まだ記憶に新しい。
ペットも満更ではなく、この侍女長を気に入っている為、不仲になる事はないと判断した上での事だった。
「いえ、そちらは寧ろ大歓迎だったのですが……そうでなく、ランクマッチの事です。」
「なんだ、詰まらないわね。」
そっちの方が弄り甲斐があるのに、最近はめっきり隙をみせなくなったものだ。
拾ってきた当初は、まだまだ仕事が出来ずに落ち込んでいる所をからかったり、更に落ち込ませていたものだが…。
男っ気が無いのも、生来の不器用と生真面目から来るものだと思っていたのだけれど、まさか極端な年下趣味だったとは……知ってから1年は娯楽に餓えなかったわね。
そんな事を考えている私に気付いたのか、弄られてはたまらないと侍女長が話を進めていく。
「今回対戦した方々はカラードの中ではいてもいなくてもどうでも良い部類です。しかし、次の相手は経験面ではさしたる差はありませんが、既に中堅クラスの実力者です。ペット様にはまだ早いのではないのですか?」
侍女長の言う通りだった。
次の対戦相手、それはあのカスミ・スミカの後継者だった。
まだ若く(ペット程ではないが)、未熟な面もあるとは言え、彼はもう間違いなく新参者と言われない程の実力を持っていた。
正直に言えば、もしペットが彼を相手に勝ちに行くにはもっと経験を積まねば話にならないだろう。
だが、だからこそ、ペットが経験を積む前の今だからこそ、彼と対戦し、「敗北」を得ておくべきなのだ、今後戦場で生き残っていく為には。
「あなたがそう言うからには私の考えは既に理解しているのでしょう?もしペットが勝っても、確実に苦戦以上の結果は無い。あの子が成長するにはここで一度叩いておく必要があるの?」
「…ペット様は落ち込むでしょうか?」
「この程度で潰れるなら、そこまでだったという事よ。」
「少々厳し過ぎはしませんか?」
「あの子は自分でリンクスになる事を選んだ。なら、あの子の未来は、あの子が自身で探し求めてこそ価値があるの。これはそのための一助であり、あの子にとっての最初の壁に過ぎない。」
あの子がリンクスの道を歩まなければ、私ももっと甘やかして別の道を紹介しただろう。
だが、あの子はリンクスに成る事を選んだ。
なら、私はあの子に障害を与える事に躊躇いは無い。
それに私が表立って手を貸し続ければ、あの子の答えを歪ませる事になる。
私にできなかった事、したかった事わあの子に求めてしまう。
であれば、私がするべき事は障害を与え続け、鍛えていく事のみだ。
さて、これからも障害を超えて、私の可愛いあの子は一体どんな未来【答え】を見せてくれるのかしら?
「まぁ、落ち込んだらあなたが体で慰めれば復活するでしょう。」
「えっ!?(顔真っ赤)」
……………………………………………………………………
前回のランクマッチから一日空けた今日、ボクはまたランクマッチをする事になった。
なぜかマダムの指示で相手の情報が伏せられているが……まさか、主人公じゃなかろうな?
アマジークばりの高機動機体だったらどうしよう?
そうだったら確実にこっちが負けるし、マダムに何をされるか…。
まぁ、ある程度まで善戦すれば、マダムもそんなに苛烈なお仕置きはしてこないだろう……そうであって欲しい、うん。
シュミレーターに搭乗し、機体のデータは既に登録済みで、後は対戦が始まるのを待つだけだった。
そして、相手側の登録が終了し、ランクマッチがスタートした。
フィールドはキタサキジャンクション、フィールド中央に入り組んだ構造の立体道路があり、これが邪魔をしてミサイルや大型火器は使いにくい場所だ。
そして他のフィールドより一回り狭いこの場所では、直ぐに相手が視認する事ができた。
青系のカラーリングで塗装された旧レイレナード製の03-AALIYAHをベースに左背中に拡散ミサイルのMP-O203、肩にASミサイルのSM01-SCYLLA、右腕にアサルトライフルの063ANAR、そして右腕に旧型の物理ブレードMUDANを装備した、近接戦闘向けの機体だった。
ブースターやジェネレーターも見えはしないが、恐らくは高機動接近戦用にアセンブルされてあるのだろう。
とても、主人公的です…。
どう考えてもFA主人公です本当に(ry
しかし、こうなったからにはやるしかない。
先ずは小手調べと、接近してくる敵機にガトリングを向け迎撃しようとしたが……こちらのロックオンが完了し、腕を動かし照準をつける前に敵機が素早く移動し、こちらに正確な射撃をさせない。
ならば然して照準をつけず、弾がある程度バラけるガトリングの性質を利用して銃弾の雨を降らし、時折拡散バズーカも混ぜていく。
が、やはりと言うべきだろうかQT、QBを小刻みに吹かし、こちらの照準を誤魔化してくる。
そして漸く射程に入ったのか、敵機も拡散ミサイル、アサルトライフル、ASミサイルで反撃を開始した。
無論こちらも黙って当たってやる訳も無く、こちらに迫り来るミサイルは順次ガトリングで迎撃していく。
しかし、その合間を縫い、的確にこちらのPAを削る様に放たれるアサルトライフルに関しては避けるしかない。
こちらも常にブースターで移動し時折QBをする事で被弾を避けようとしているのだが、そんなものは気休めとばかりに敵機は的確に当ててくる。
幸いにもこちらは頑丈なGA製機体なので未だに大事にはいたっていないが、このままではジリ貧である事だけは確かだった。
やはり、綱渡りになるか…。
この状況を維持した所で勝てないのなら、状況を変えてしまえば良い。
そして、次の一手のため、周辺状況を確認する。
敵機、高機動近接型、アサルトライフル、拡散ミサイル、ASミサイル装備、AAに関しては不明。
未だ被弾無し、弾薬はやや消耗済み、接近時は物理ブレードに注意。
自機、重装甲砲撃型、ガトリングガン、拡散バズーカ、垂直ミサイル、連動ミサイル、AA装備。
被弾多数だが戦闘に支障無し、ガトリングガン残弾70%、拡散バズーカ90%、垂直、連動両ミサイル消費無し。
こちらの照準はほぼ不可能、このままの状況を維持すれ勝率低し。
早急に現状の打開が必要と判断する。
…さて、始めますか。
先ずはこちらが一時的にでもリードを取るために、垂直、連動ミサイルの全力斉射を繰り返していく。
腕部の運動性に頼らないミサイルのロックオンは問題無いからこそ可能な行動だったが、勿論これだけで撃墜できるとは思っていないし、相手も甘くは無い。
現にこちらの放ったミサイルは二段QBやQBCによりほとんど避けられ、少数の命中弾は敵機のライフルに的確に迎撃されていく。
だが、あくまで本命は別であり、命中した所で儲けもの程度でしかない。
リードを取られたらそのまま押し込まれてしまうので、ここで相手を回避に終始させ、押し込んでいく。
そうこうする内に、敵機は迫り来るミサイルの弾幕に辟易してか、後退し、立体道路の柱の中に紛れ込んでいった。
無論、こうなっては立体道路が邪魔でミサイルはまともに追尾できずに避けられてしまう。
そして、敵機が立体道路の下に潜った所に、こちらもガトリングと拡散バズーカの全力掃射を降らせながら接近し、柱の中にまぎれこんだ。
先日のレイテルパラッシュ戦以降、高機動の上級ネクスト相手では今の機体ではどうしようもない事は解っていた。
なら、如何にして相手の高機動を殺すか?
結論は、飽和攻撃を行い、相手のEN切れを誘うか、今回の様に地形や構造物を利用して相手の機動性を発揮しづらくする事位だった。
相手を閉所に誘い込む事で少しでも相手との機動性の差を埋め、火力と装甲で勝るこちらがその長所を生かして攻撃する。
極単純であるものの、それだけに有効である事は否定できない。
しかし、相手がこれに気付き、自身に有利な場所に移動しようとする前に決着をつける必要があった。
しかし、その策はこの脅威の『迷い猫』を前にしては、余りに平凡すぎた。
状況を変えようとしたこちらを嘲笑うが如く、先程と同じくアサルトライフルと拡散ミサイルが柱の隙間から、的確にこちらへと飛来する。
あまりに一方的に攻撃されているため、頑強なGA製機体と言えどこのままでは時間の問題だろう。
ミサイルに関しては柱を盾にすれば問題無いが、ライフルにPAを削られ、徐々に損傷が出ている、しかも、こちらが弾幕を張って無いと急速に接近し、物理ブレードの一撃を狙おうとしてくる。
この柱の群れの中で高機動を行いつつ、こちらを的確に攻撃する、よくそんな事を行えるものだと関心すると同時に、やはり技量では適わないと改めて悟る。
まるで初めてレイテルパラッシュのデータを相手にした時に似た状況に焦りが滲んでくる。
しかし、こちらはある程度善戦しなければ、朝日が拝めるか解らない身なので、いい加減に仕掛ける事にする。
垂直、連動ミサイルを起動し、ロックオンでき次第、弾切れも辞さない程にミサイルの全力射撃を行う。
無論、ダメージは期待していない、目暗ましになればそれで良い。
そして、かなりの数の柱がミサイルで粉砕され、支えを失った立体道路の破片が落下を始める。
敵機はまるで全身に目が付いているのかと思う程の機動で、ミサイルと落下する破片から逃れている。
こちらには幸運にもあまり破片が落下してこないので、周りに構わず次々とミサイルを発射し続ける。
そして、視界を覆い隠す程の粉塵が舞うのを確認してから、殆ど撃ち尽くした垂直、連動ミサイルの双方をパージし、OBを起動、僅かながらミサイルが迎撃されていた辺りに向かう。
予想通り敵機がいた、そして向こうも既にこちらに気付いている。
すかさずガトリングと拡散バズーカを見舞うが、あっさりと避けられた。
そして、近づいて来たこちらを見て好期と取ったのか、二段QBを駆使し、巧みに柱の間を縫う様にこちらの右に回り込んだ敵機は、ミサイルとライフルでは削り切れないと悟ったのだろう、一瞬で自身の間合いまで踏み込み、当たり所によってはネクストも一撃で破壊可能な物理ブレードを突き出してきた。
しかし、それがこちらの狙い目でもある。
避けれないのなら、避ける必要は無い。
回り込まれた直後にガトリングと拡散バズーカをパージ、右から迫る鉄杭にこちらの右腕を盾の様に掲げた。
「ぎ、づっぅぅう!!」
直後、右腕に焼け火箸でも突き入れた様な激痛が走り、口から意図しない呻きが漏れ、視界が涙で滲んだ。
痛みに呻きながらも目を向ければ、右腕には2本の鉄杭が突き刺さったまま、あと少しで貫通する所まできている。
そう、こちらの思惑通りに、鉄杭を突き刺したままで。
これで漸く相手の動きが止まった。
相手の物理ブレードを持った左腕を掴んだ所で、漸く相手がこちらの意図に気付き、逃げようとするがもう遅い。
相手が攻撃してくる前にOBを発動する。
無論、敵機は自機に掴まれているので、そのまま引きずられていく。
そして弱めにサイドブースターを発動して敵機の懐に左肩から入る姿勢になると、音速超過のベクトルをそのままに、自機と立体道路の柱で挟み込む様にタックルをお見舞いした。
瞬間、激突した柱が大きくたわみ、今にも崩れそうな皹が入り、不気味な音を立てて軋んだ。
頑丈なGA製の機体も、このあまりの暴挙の前に全身が軋みを上げ、右腕は繋がっているだけの状態になり、AMSを通じて右腕全体が痛みの塊になったかの様に感じた。
痛みでなんとか繋いでいるが、意識の方も衝突時の今の衝撃でふらついている。
だが、一般的な中量二脚である敵機にはこの暴挙は致命的だった。
レイレナード製コアの特徴的な細く突き出た中央部はへし折れて、衝突時に掴まれ、引き伸ばされていた左腕は肘から先は完全にちぎれ、全身が柱にめり込み、装甲の隙間や間接から火花が吹き出て、スクラップ同然の様相を呈していた。
この好機を逃がす訳にはいかないと、ボクはまだ動く左腕で僅かに歪んだコアの左格納庫から強化型ハンドガンを取り出し、敵機のコアに向け引き金を引……
……こうとした所で、敵機のASミサイルが起動し、頭部に命中した。
(ッっッ!!??!?)
飛んできたミサイルは右肩の2発のみだったが、唯でさえ視界が正常ではなかった所に不意を突かれたために直撃を許してしまい、カメラが爆炎により潰され、ボクはたたらを踏んで怯んでしまった。
そして、この相手にはそれで十分だった。
瞬時に衝突時に破損した拡散ミサイルと辛うじて無事だったライフルをパージし、柱から抜け出すとコアの右格納庫からレーザーブレード(EB-O700)を取り出し、こちらに向けて突き出してくる。
幸いにも怯んだ事で一歩下がっていたためにコアを穿たれる事は無かったが、その程度では相手のリーチから逃げる事は出来ず、左膝の装甲の一部を持っていかれる。
すかさずレーザーブレードを振りかぶって来る敵機にボクはかろうじて残っていたPAを振り絞ってAAを発動、周囲を眩い緑色の閃光が包む。
しかし、閃光の元は一つでは無かった。
敵機からもほぼ同時にAAが発動し、こちらのAAと相殺し合ったのだ。
やはり無茶な行動だったのか、相殺し切れなかったAAの余波が双方の機体を傷付けるが、相手はそれでも止まらなかった。
しかし、あまりの荒業を前に、こちらの思考には一瞬の空白が生まれてしまっていた。
そして、正気付いたこちらが強化型ハンドガンを向ける前に、振り下ろされたレーザーブレードが自機のコアを袈裟掛けに両断した。
SIDE ???
「随分苦戦したな。」
試合終了後、自身のオペレーターであり師でもある女性がからかう様に声を掛けて来た。
「…否定はしない。」
戦術次第では格下が格上に勝てるのだという事を身を以て教えられた。
こちらに比べ、遥かに鈍重な機体にあそこまで追いつめられたのは今までに無かった事だった。
ミサイルによる敵機の行動の誘導と撹乱、それに伴った突撃、その後、自身に物理ブレードを使わせ機動を制限させた所に、OBを使用してのタックルを行う。
どれもこれもネクスト相手では初めて見る戦術だったが、どれも陽動や撹乱といった戦術の基礎の基礎を踏まえたものばかりだった。
リンクスの多くは、非凡な性能を誇るネクストを駆っているためか、そういった戦術を取る事は少ない。
もし使うとすれば、一部の熟練リンクスやカラードランク一桁クラスの化け物連中位のものだろう。
少なくとも自身とほぼ同時期にリンクスとなった新参者の行動ではない事は確かだった。
たった一度の戦闘であったが、学んだ物は大きい。
最後の交差、もう数瞬遅ければこちらが負けていただろう。
今回、勝ちを拾えたのは運の要素が大きかった感は否めなかった。
「…次はもっと確実に勝つ。」
「だと良いがな…さぁ、今日はもう終わりだ、帰るぞ。」
そうして、オレ達はカラードを後にした。
本人が聞けば、全力で逃げ出そうとする内容を話しているのを、この時のオレ達はまだ知らなかった。
「…そういえば。」
「どうした?」
「相手のリンクスはどんな奴なんだ?」
「…お前、知らなかったのか?」
「興味が無かったから機体データだけ目を通した。」
「お前……まぁ、良い。これに載っている、目を通しておけ。」
「…あぁ。」
後日、自身(18歳)より年下(14歳)だと知った時、酷くうろたえてしまい、オペレーターに大笑いされてしまったのは不覚だった。
で、いつもの報告会
「申し訳ございません。」
マダムの寝室にてボクは渾身の土下座を行っていた。
対するマダムは終始無言、傍らの侍女長も何も言わないので余計にプレッシャーが増している様に感じられる。
「ペット。」
「はっ!!」
「あのカスミ・スミカのお気に入りを相手によく戦ったわ、御苦労さま。」
「ははっ!!」
負けたのにマダムから御褒めの言葉を貰った!!?という内心の動揺は億尾にも出さず、土下座を続ける。
「現時点でのあなたの実力を考えれば、負けたとは言え、十分な戦果よ。誇りなさい。」
「…お、怒らないんですか?」
おずおずと言ってみるが、マダムは怒った様子も無い。
「怒らないわよ、今回は……でも次は無いわよ。」
「マムイエスマム!!!」
奇跡、奇跡だ!!!
マダムがこんな優しさを見せてくれる時が来るなんて!!
明日はクレイドルが、否アサルトセルが全機落ちてきてもおかしくはない!!!
そんな事を思っていたのがいけなかったのかもしれなかった。
「じゃぁ、ご褒美として今夜は私達で可愛がってあげましょうか。」
「へ?」
その発言を脳が理解する前に、両肩を掴まれ侍女長に拘束された。
「さぁペット様、脱ぎ脱ぎしましょうね………ハァハァ、ジュルリ…。」
ああああ、黙っていたのは興奮を隠すためかぁ!
興奮のあまり、顔が赤くなり、舌なめずりの上に涎まで垂らしている侍女長にボクは既に退路が絶たれ、美味しく頂かれるだけなのを悟った。
マダムもマダムで、既にベッドの上で手招きすらしてるし!
ちょっ、多人数プレイは初めてですってば!……………………………アッーーー!!!